「最低賃金1500円」は正しい目標なのか?
新首相の政策方針である「最低賃金1500円」という目標が話題を呼んでいます。前首相が2030年を目標に掲げていたこの方針を、新首相は「20年代に達成する」と加速させました。経済同友会の代表幹事も、「払えぬ経営者は失格」といった企業淘汰を示唆する発言をしており、特に中小企業に向けた強いメッセージとなっています。
しかし、最低賃金の引き上げが果たして一方的に課すべき「ノルマ」として正しいのか、疑問が残ります。賃上げを実施するためには、まずその財源をどこから捻出するのかという課題が浮上します。値上げは避けられないでしょうが、全体の物価が上がれば実質的な賃上げにはつながらない可能性があります。また、経営者や管理職の給与を削って財源を確保しても、企業全体の平均賃金は上がらないことになってしまいます。
中小企業の労働分配率の現状
中小企業は、大企業と比べて労働分配率(人件費÷付加価値額)が高いことが知られています(下図参照)。中小企業が労働集約的なビジネスを展開しているため、特に省力化や生産性向上のための投資が遅れていることが主な要因です。理想的には、大企業のように労働分配率を60%未満に抑え、その資金を新たな事業開発や投資に回し、付加価値を高めたいという考えもありますが、現状では多くの中小企業がその財源を確保できていません。
では、どうすれば付加価値を高められるのでしょうか?答えの一つは、労働生産性(純付加価値÷従業員数)を向上させることです。付加価値を高めるために既存製品やサービスの価格を引き上げるという選択肢もありますが、そこには限界があります。そうなると、従業員数を減らすことで分母を縮小し、自動化などの投資を進めて労働生産性を上げるという道が有効となるでしょう。
職を失うリスクとリスキリングの重要性
労働生産性を向上させるために従業員数を削減すると、職を失う人が出てくるのでは?という懸念が生じます。この点について、経済同友会の代表幹事は「人手不足なのだから仕事はいくらでもある」と述べています。しかし、そのためには雇用のミスマッチを防ぐため、社員のスキル向上、いわゆるリスキリングが必要となります。
つまり、最低賃金1500円という目標を達成するには、既存の製品やサービスの付加価値を向上させ、労働生産性を高める投資を行いながら、一人当たりの給与を上げるという、非常に難易度の高いタスクを同時に実現しなければならないのです。
平均賃金にも目を向ける必要性があるのでは?
最低賃金だけに焦点を当てるのではなく、平均賃金の向上も議論すべきだと思います。平均賃金を上げるには、大企業の労働分配率(現在60%未満)も再考の余地があります。ただし、平均賃金だけを上げる議論では、高給取りの給与がさらに上昇するリスクがあります。そのため、給与のばらつき度合いも含めた指標を導入することが求められるのではないでしょうか。
まとめ
最低賃金1500円という目標は、単純に賃金を上げるだけではなく、企業の競争力や労働生産性を向上させるための包括的なアプローチが求められます。特に中小企業は、労働集約型のビジネスモデルから脱却し、省力化や自動化を進めることが生き残りの鍵となります。リスキリングや新たな事業開発への投資を通じて、企業全体の付加価値を高めることが重要です。最低賃金の引き上げはその一歩に過ぎず、経営の持続可能性と社員の成長を両立させる戦略が必要です。