The Snuts / W.L.
The Snuts。2015年にスコットランドで結成されたUKのインディーロックバンドです。2021年リリースの本作が全英チャート1位に。確かにロックサウンド。ポップさもあり、ヒットする理由もわかります。UKロックの様々なバンド、OASISやArctic Monkeys、The XX、Muse、The Smithなど、レガシーを感じさせる場面もありつつ自分たちの個性も感じます。個人的にはちょっと漂白されすぎというか偏った部分が少なくて、もうちょっとそういういびつな場所があった方が好み。若手だとThe Strutsの方が好みですね。とはいえスケール感がある楽曲が多いので、町で流れていたら耳を惹かれるでしょう。アルバム後半になるにつれてやけくそというか破天荒な感じも出てきて面白い。
1 Top Deck ★★★☆
弾き語り的な、アコースティックギターのアルペジオとボーカルからスタート、途中でアーシーなリズム、足を踏み鳴らすような音。弦楽器が入ってくる。全体として落ち着いた音像ながら、メロディはエモーショナルで煽情的。UKロック。オアシスとかのブリットポップとはまた違うメロディセンス。歌メロが分かりやすい。
2 Always ★★★★
音が変わる、フックのあるメロディ、ややマイナー調を挟みながら展開する。適度に湿り気のあるメロディ。なんだろう、ああ、Arctic Monkeysとかか、2000年代以降のブリティッシュロックの流れは汲んでいるが、リズムはミドルテンポでやや余裕がある。逆に言えば少しの空虚さというか、諦念を含んだ熱狂、The XXとか。ボーカルの声は少し鼻にかかってる。Creeperのようなちょっとゴシック、芝居がかったところがあるというか。乗りやすいいいリズム。
3 Juan Belmonte ★★★☆
シンプルなリフが出てくる、ベースがなければWhite Stripes感もあるかも。ガレージロック感というか。ちょっとサイケで煮え切らない感じもある。飛び回るスペーシーな音。ファズが効いたベース。シンプルで胡散臭いロックンロール。いい空気感。(名前が似てる)The Strutsよりやや控えめで独自性があるけれど、アリーナ感は少ないかも。ああ、このベースが強い感じはMuseも連想させるな。
4 All Your Friends ★★★☆
スパイ映画的というか。抑えめでクールなビートの上に早口にボーカルが乗る。そこからコーラスではいかにもUKロックな展開。ブリットポップの手法。ギターソロは勢いがある、UKの王道ロックをきちんと受け継いでいるな。OASIS~Arctic Monkeys~の流れというか。
5 Somebody Loves You ★★★
さわやかなポップ感、ただ声やメロディには引っかかりがある、夏、水辺を想起させる。アコースティックでさわやかなハーモニー。ただ、US的な明るい陽射しにどこか影がある。真っ白と真っ青、ではない、ちょっと翳り(雲)がある。とはいえ手触りがポップな曲。
6 Glasgow ★★★★
幽玄なアルペジオからスタート、やや音響的。そこから勢いよく飛び出して曲がスタート。いい曲ですね。ちょっとこのギターのカッティング感はThe Smithも思い出す。ギターとボーカルの絡み合いというか。UKロックのさまざまなレガシーへの憧憬と、自分たちなりのセンスを感じます。コーラスは若くてフレッシュな感じ。勢いがありますね。
7 No Place I’d Rather Go ★★★☆
何か懐かしいスタート、そこからアコギとボーカルの弾き語り的な歌に。ワンダーウォールを思い出すのかな。奇を衒わず、ポップで共感しやすいメロディを正しく鳴らしていく。こういう王道ロックが生まれて、1位を取るというのは2021年のトピックかも。
8 Boardwalk ★★☆
スロウテンポでスタート、静かにならされるギターに抑えめなボーカル、酒場の音楽。けっこうアコギの比率が高いな。かなりゆったり展開し、ロックグラスの氷が揺れるようなテンポ。ギターソロが響き、去っていき、再び静けさが戻ってくる。映画的な歌。
9 Maybe California ★★★
多分カリフォルニア、とはなかなかなタイトル。ビーチボーイズっぽいことをやろうとしたのかな? というスタート。エレキの音。サーフサウンド。アコースティックな響き。遊び心がある曲。これはUK的なセンスだな、THUNDERとかにも通じるセンス。
10 Don’t Forget It (Punk) ★★☆
やや荒々しいギターの音、後半になるにつれて遊び心が出てくるな。たぶん「好きなもの」がダイレクトに出ているのだろう。新しいセンスをそこに加えている。ディストーションとコンプレッサーがかかった拡声器のような声。シンプルなパンクソング。
11 Coffee & Cigarettes ★★★☆
あれ、これオアシスのカバーかな、こんな曲じゃなかったような(何度も聞いているけれどどうも覚えていない)。同じ曲名名だけですかね。か、アレンジがかなり変わっているか。オリジナルっぽいな。かっこいいリズム。
12 Elephants ★★★
変な音からスタート、カリカチュア化されたディスコのような、ジャミロクワイのような。なるほど、ポップで王道な前半と実験的な後半、という作りになっているのか。いろいろな音が入ってくる。歌メロのセンスがいい。
13 Sing For Your Supper ★★★★
壮大な感じがするバラード、いかにもUKロック感があって佳い曲。こういう曲をしっかりラストにおけるのは凄いな。この1曲でアルバムの格が一段階上がった。
総合評価 ★★★☆
アクが少ない、ちょっとアレンジが薄味で個人的な嗜好から言えばもっと濃度が高い、アレンジはシンプルであってももっと職人技とか、そういうものが入っている方が好きなのだけれど、フレッシュさとセンスは伝わってきたし、UKロックへの愛というか、憧憬が素直に感じられる出来栄え。ファーストアルバムというのもすごい。これが一瞬のきらめきなのか、これからさらに発展していくのか。UKらしい湿り気や落ち着いた音色、どこか諦念を感じさせる老成した肉体性がありつつ、Maroon5とかジェイソンムラーズとか、世界的ポップスターにも通じる新世代のメロディセンスがある。
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