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Jethro Tull考:22年ぶりのオリジナルアルバムThe Zealot Gene(2022、UK)リリースに寄せて

ジェスロタル度 ★★★★☆

ジェスロタルは18世紀の農業者でUKの農業革命を牽引した偉人。その名前を由来にしたバンドがジェスロタル。日本で言えば上杉鷹山をバンド名にした、みたいなバンド。もともと初期にさまざまなロックパブで演奏するときにバンド名をころころ変えていたらしく(最初の頃は下手だったのかあるいはトラブルメイカーだったのか、とにかくライブハウスからリピートで呼ばれることがなかったようで名前を変えてごまかしていた)、いろいろと適当な名前を名乗っていたようで、そのうちのひとつがジェスロタルだったが様々な偶然が重なってこの名前が定着したらしい。別に本人たちに熱い農業革命への想いがあったわけでもなく、彼らが自分たちで名乗っていたのは「ネイビーブルー」、「イアンヘンダーソンズバッグオネイルズ」、「キャンディーカラーレイン」など。「ジェスロタル」というのは、ブッキングエージェンシー(ライブハウスにバンドをブッキングする代理人)に歴史愛好家がいて、適当な偉人の名前をつけていただけらしい。

このエピソードから分かるように、ジェスロタルというのはいい加減で胡散臭いバンドである。というか、60年代に「ロックで食っていこう」と思う人間、ロックのプロミュージシャンなんてまともな人間ではない。今よりはるかに風当たりも強いし、その中で自分たちの世界を開拓していかなければならないから通常の精神、忍耐力、精神構造の人間ができる仕事ではなかった。だから基本的に60年代のロックミュージシャンは破天荒で規格外である。

ジェスロタルはUKロックの1.5世代と言ってもいい。第一世代がビートルズを筆頭とする第一次ブリティッシュインベンションで、第二世代がレッドツェッペリンを筆頭とするハードロックムーブメントだとしたらちょうどその中間。たとえばローリングストーンズが企画したロック番組「ロックンロールサーカス」にレッドツェッペリンの代わりに呼ばれたりしている。当時は結成間もないツェッペリンは「ギターの音が大きすぎる」という理由でジェスロタルに入れ替わったとか。とはいえジェスロタルも第一世代と第二世代をつなぐミッシングリンクみたいなバンドで、ビートバンド、サイケデリックロックとハードロックの橋渡しをしている。ジミヘンドリックスはUKロックの特異点であるが、ジェスロタルは見失われがちなミッシングリンクと言ってもいい。

というのも、デビューは1968年でツェッペリンより1年先。当初はアコースティックなサウンドも織り交ぜたフォークロック的な音像だったけれど、69年のツェッペリンのデビュー以降はハードロック色も強め、71年リリースのアクアラングでは思いっきりハードロックなサウンドに変わっている。というか70年デビューのブラックサバスの影響も感じさせるというか。もともとこういう嗜好だったのだろう。若手のいけてるバンドってブームで音楽性を変えるじゃないですか。日本だってサザン初期ははっぴぃえんどの影響下に一部あったし。音楽シーンというのは相互に影響を与え合うからその時のトレンドで「この音がかっこいい」となれば「勢いがある若手バンド」はたいていそれを取り入れる。その取り入れ方がセンスがいいから「勢いがいい」と認識される。ジェスロタルは60年代後半から70年代前半にかけてそうした「イケてるUKロックバンド」であり、ビートルズやストーンズの後輩でツェッペリンやサバスの先輩という立ち位置だったわけです。だからちょうどここを繋ぐ立ち位置にいるし、サウンド的にも世代間を繋ぐようなサウンドを出している。「Stand Up(1969)」「Benefit(1970)」「Aqualang(1971)」を聴いてもらえばだんだんと60年代的UKロックからハードロックに転換していく過程が分かる。

で、ジェスロタルは非常に時代の変化に敏感というか、時代共に音像がかなり変化している。それこそデヴィッドボウイやクィーンばりの変容。初期からハードロック的な音像を模索しているけれど70年代初期はハードロックに変化していき、そしてプログレッシブロックへ。プログレとしてはかなり初期にUSで成功を収めたバンド。何しろLPでA面B面それぞれ1曲という「パッションプレイ」が全米1位を取ってしまうわけで、プログレブームに乗ったというよりプログレブームを作り出した原動力の一つと言えるバンド。そこからフォークサウンドに回帰し、そしてシンセサウンドに大胆に変化する80年代。グラミー賞で新設された「ヘヴィメタル部門」の最初の受賞者がジェスロタルだったという番狂わせ(一番人気はメタリカだった)を起こしたのもこのバンドの底力。これ、メタル界の黒歴史みたいに扱われることもあるけれど、実際聞いてみてもらえば理解できなくもない。この当時のUKベテランロックバンドが目指した方向であって、グラミー受賞作「クレストオブアナイフ(1987)」はこの時代ならではの名盤だと思う。ディープパープルのスレイブスアンドマスターズ(1990)に近い空気感がある。なんというかベテランしか出せない味というか。1980年代後半のUSのバンド群やポストパンク・ニューウェーブで出てきたUKのバンド群には出せない成熟したサウンドであり、「大人の(ハード)ロック」というものの元型を提示した初期のアルバムでもあると思う。時代時代でかなり変化してきたバンドなんですよ。

そういう大胆な”変化”にはどこかうさん臭さが付きまとう。今一つ分からないバンドで、大道芸、かくし芸、見世物小屋的な空気感を纏っている。ロックの「はったり」がまだ魔術的な神秘を纏っていた60年代から生き延びていたバンドだから、やはり「どこまで本当でどこまで嘘か分からない」的な神話に彩られているし、音を聞いていてもどこかつかみどころがない。すごく「UKらしい」バンドだと思う。

アイアンメイデンはスティーブハリスもブルースディッキンソンもジェスロタルのファンであることを公言していて、確かにメロディセンスなどは影響を感じる。だいたい「ブリティッシュトラッドっぽいメロディ」とか言うとき、たいていはジェスロタルとかジェネシス(初期)あたり、行ってもフェアポートコンベンションぐらいまでしかロックファンは追っていないのじゃないだろうか。僕もそう。一時期アルバトロス(フィールドレコーディングに強いワールドミュージックのレーベル)でブリティッシュフォークとかも聞いてみたことがあったが、ブリティッシュフォークと一口に言っても幅広くて独特。ヨーデルみたいな裏声を使うようなものもあるし。ロック界における「フォーク」とか「トラッド」みたいなものはツェッペリンの3枚目、4枚目とか、ジェスロタルとか、初期ジェネシスのイメージなんじゃなかろうか。この辺りは同じ感じで固まっている。

ジェスロタルはいつの間にか独自のサウンドスタイルを身につけていて、それはメインソングライターのイアンアンダーソンのメロディセンスなのだろう。ある意味、UKロックにおける「トラッド」とか「フォーク」みたいなもの、メロディ展開をイメージづけた人とも言える。いずれにせよ、「最初のブリティッシュインベンションこそ乗り遅れたものの、その後のハードロック、プログレムーブメントには一歩先に波を生み出す側だったバンド」と言えるだろう。

そんな「流行の先を行くバンド」だった彼らも70年代中盤、プログレブームの終焉とパンクの隆興によって時代遅れのレッテルを貼られるが、そこで潔くフォークに回帰する極端さはイアンアンダーソンのしたたかさなのか反骨精神なのか。たぶん後者だろう。名盤とされる「シックアズアブリック(ジェラルドの汚れなき世界)」にしても、前作「アクアラング」が「これはコンセプトアルバムだ」と評論家に言われたけれど「いや、コンセプトアルバムじゃねーし。そんなこと言うんだったら本当のコンセプトアルバムってものを作ってやんよ!」と怒って作ったコンセプトアルバムであり、そうした本気なんだか嘘なんだか良く分からないが喧嘩を売ったり世論を巻き込む、議論を産むことで注目を集める、今で言えば炎上系みたいなところがある人なんじゃなかったのかな、イアンアンダーソンは。なので、けっこう極端に音像を変化させることが多く、結成50年を超えた今では今一つ全容が掴めないバンドになってしまっている。同時に、今でも活動しているというのが凄いけれどね。ディープパープルもそうだけれど。

ジェスロタルはイアンアンダーソンがメインソングライターでリーダーではあったけれど、マーティン・バレというギタリストがいてこの2人のバンドだった。XTC≒アンディパートリッジだけれどやっぱりコリンモールディングがいなければXTCじゃないね、とか。デイブムステインだけでメガデスと名乗るのはどうなの(やっぱりジュニアがいなきゃ)とか、レイデイヴィスだけでキンクスはどうなの(デイブもいなきゃ)、みたいなのに近い。けれどマーティンとイアンは2000年代に袂を分かち、そこからお互いにソロ活動をしていた。そこでイアンアンダーソンが出したソロアルバムはジェスロタルの代表作「シックアズアブリック」の続編だった(「シックアズアブリック2」と「ホモ・エラクティス(シックアズアブリック3)」)り、ジェスロタルからの連続性を強く感じさせるもの。イアンからしてみたら「俺がジェスロタルだ」と名乗りたかったけれど我慢していた感じなのかなぁ。とにかくジェスロタル名義としては18年ぶりの新作「Zealot Gene」がリリースされました。これ、バンドとしてはそのまんまイアンアンダーソンバンドなんだよね。そのまま引き継いでいる。ただ、ギタリストだけはアルバム録音が終わったら脱退してしまっていて、多分マーティンバレと比較されるのが嫌だったのかもなぁ、と推測。マーティンバレはほとんどジェスロタルの全期間在籍していて、彼が関わっていないジェスロタルのアルバムはデビュー作と最新作のだけ。そりゃ比べられますよね。おそらくスタジオでもプレッシャーはあっただろうし。

新作の感想だけれど、本人のソロよりはかなり「ジェスロタルらしさ」が意識されている印象。そして引っ掛かりのあるドラムパターン、妙に癖のある変拍子などが抑えられ、すっきり聞ける出来になっている。ベテランのプログレバンド、UKロックバンドならではの味わいがあり、アルバム中盤ぐらいからは「ああ、アイアンメイデンっぽいなぁ(というかメイデンがジェスロタルの影響を受けているのだが)」というメロディもたくさん出てくる。地味だけれどジェスロタルの新譜としては納得の出来。

新譜が出たタイミングでジェスロタルの歴史を調べなおして、過去作もある程度聞いてみたのだけれど情報量が多すぎて困ってしまった。そんなわけで連想しながらそのまま書いてきたわけですが今日はこんなところで。ジェスロタルはいいバンドですよ。いろいろネタもあって面白いし。


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