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Thy Catafalque / Vadak

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Thy Catafalque(ザイ・カタファルク:意味は”汝の棺”)は、ハンガリーのマコーで結成された前衛的なメタルバンド。東欧メタルシーンから出てきたバンドですね。東欧やロシアのメタルバンドは独特なメロディセンスや空気感を纏っています。最初はバンドメンバーがいたようですが現在は中心人物タマーシュ・カタイのソロ・プロジェクトになっています。カタイはハンガリーからスコットランドのエディンバラに移住したので現在の活動拠点はUK。

本作はジャケットが妙に印象に残る。クラシカルで美しい音楽を感じさせるし、ブラックメタル的音像かもしれない、中身が想像できないけれどなんとなく不穏な感じがするという良ジャケットです。ジャケットに惹かれて覚えていたので聞いてみることにしました。ところどころTwitterでもタイムラインに流れていたのでそこそこ話題になっていた様子。Disk Unionでは面出しもされていたのかな。

1998年から活動を続けるけっこうなベテランで本作が10作目。もともとはポストブラックメタルだったそうで、東欧ブラックメタルシーン出身。ただ、その後音楽性を拡張してハンガリー伝統音楽を取り入れ、フォークメタル的な音像に変化。2009年にリリースされたRókaHasaRádióはコンセプトアルバムで、Hang Súly Hungarian Metal Awardsという国内のメタルアワードにノミネートされたようです(受賞はDalriada)。

それでは聞いていきましょう。

活動国:ハンガリー、スコットランド(UK)
ジャンル:フォークメタル、Avant-garde Metal、ワールドミュージック(東欧)
活動年:1998-現在
メンバー:
 Tamás Kátai Vocals, Guitars, Bass, Keyboards, Samples, Programming (1998-present)

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総合評価 ★★★★

まさにジャケット通りの音。東欧の森深く、幽玄な響きもあるしメタルの攻撃性もある。各パートのクオリティも高い。ただ、惜しいところはやや冗長というか、間延びした感覚もある。いろいろなパートがあり音世界としては多様なのだけれど、実際に聞いているうちに集中力が途切れるというか、そのあたりはアンビエント的に流して聞いた方が良いのかもしれない。個人プロジェクト故の「個人の美学」が結晶している分、破綻のスリリング、プレイヤー同士がせめぎあうスリルに欠けるのかとも思ったが、考えてみると東欧とかロシアのバンドは押しなべてこういう冗長さがある。それはB級メタルとかで片づけてしまうこともできるのだけれど、そうではなく抒情性とかメロディの好みが少し違うのだろう。心地よいことは心地よく、好きな音像なのだがずっと聞いているとやや飽きる。むしろ、流して聞く、何かをしながら聞くには適しているのかもしれない。

リフはカッコいいものが多かったが、個人的にはメタルの激烈性のあるパートよりも伝統音楽、民族音楽的なパートや、メタルの轟音以外の音(シンセサイザーミュージック)のパートの方により惹かれた。メタルのパートはむしろクリシェ(常套句)というか、そこまで新規性がない。その組み合わせがあるから新しいのかもしれないが、ディストーションギター、ブラックメタル的なパートはもっとギターサウンドの変化や、ほかのパートのような実験精神が入ってくるとより好み。

ただ、なかなかほかにない音像なのは確か。東欧、ロシア的なメロディセンスに、実験的な作曲、そしてメタルの攻撃性を兼ね備えた音楽。

1.Szarvas 05:38 ★★★★☆

電子音の反復、ジャーマンテクノ、シンセサイザーミュージック的なスタート。タンジェリンドリームとかマニュアルゴッチングとか。低音で打ち鳴らされる、インダストリアルなビートが入ってきて、轟音ギターも入ってくる。これは期待が高まるオープニング。そこから激走ブラストへ。ギターの音の壁、その上を切り裂く高音ギターフレーズ、鳴り続けるシンセのアルぺジエイター、その上下移動の激しいフレーズをベースが引継ぎ、バンドサウンドになりながら反復するフレーズをアンサンブルで突進してなぞっていく。ボーカルはブラックメタルスタイル、グロウル。各楽器が歯切れよくフレーズを奏でる。コーラスへ、コーラスはフックがあるハーモニー。メロディも出てくる。英語じゃない響きに聞こえるな。ハンガリー語だろうか。フックのあるコーラスからメロディアスなギターソロへ。おお、これは熱い展開。ちょっとラムシュタインとか、あるいはAccept的なジャーマンメタル風地響きコーラス。ドイツのポップス(ジンギスカンとか)の流れも感じる勇壮でシンガロングな歌メロ。

2.Köszöntsd a hajnalt 04:27 ★★★★

ハーモニー、ブルガリアンヴォイス的な女性のポリフォニーコーラスからスタート。伝統楽器のフレーズが入ってくる。フォークメタル的な音像。女性ボーカルがそのままメインボーカルに。ゲストと思われる。静謐なクリアトーン。スイスのエルヴィエティ(Eluveitie)あたりも連想する、東欧的フォーキーでトラディショナルな音世界にメタルのエッジが加味された豊潤なサウンド。伝統楽器がリード楽器で、エスニックというか伝統的なフレージングと思われるソロを弾く。面白い曲。グロールと女性ボーカルが絡むスタイルがトレンドだがこれは女性ボーカルだけ。そのあたりは硬派というか自分の音像を追求している印象を受ける。個人プロジェクトなので個人の美学の追求、求める音像を具現化する意欲が強い印象。

3.Gömböc 05:05 ★★★★

Judas PriestのPainkillerのようなドラム連打からのスタート。そこにDjent的なリフが絡んでくる、90年代以降のモダンヘヴィネス、ヘヴィなリフとドラムが絡み合い、民族楽器、口琴的な音がビヨンビヨンとした音が入る。これはシンセかな。途中、ドラムパターンが変化し、スペーシーでダンサブルなパートに。浮遊感がある。インスト曲だがかなり雄弁な曲。

4.Az energiamegmaradás törvénye 06:50 ★★★★☆

またシンセサイザーミュージック的なイントロ。女性のナレーション、そして疾走するメタリックなギターとドラムが入ってくる。これはカッコいいオープニング。メロディアスなメロスピ的ギターリフ。そのままプログメタル的な複雑な展開に。ツインリードで展開していく。アーチエネミーやチルボド的なかっこよさ。ただ、2分半を過ぎてもボーカルが入ってこない。これこのままインストで行くのかな。シンセの反復が入ってきて、曲の表情が切り替わる。4分40秒過ぎから、別の曲になったのかと思うぐらい表情が変わる。静謐なコードのかき鳴らし、落ち着いたテンポ。再び最初のシンセサイザーのフレーズが蠢くように戻ってくる。

5.Móló 10:04 ★★★★☆

荘厳さを感じるシンセのビッグなサウンド。宇宙神殿のような音像にメタルギターが乗っている。グロウルボーカルが1曲目以来で入ってくる。歌うというよりアジテーションというか、けっこう言葉と言葉の間の余白が多い。じっくりと語り掛けるようなスタイルで、グロールボーカルながら畳みかける、喚き散らす感じはない。リフが展開していく、リフに差し込まれるハーモニーがカッコいいが、メロディセンスはどこか機械的で反復感が強く、ロシアのバンドにも通じる無機質さ、容赦なさがある。執拗な反復。約6分が経過し、一通り嵐のようなドラマが展開した後でまた荘厳なシンセサウンドが戻ってくる。この電子音楽、ジャーマンテクノ、シンセミュージック感が強いのは特徴的。ここまでのアルバム全体としてやや惜しいのは一人プロジェクトらしさというか、一人の頭の中で完結している、強い美学を感じるので、整合性というか想定外の要素が少なく、展開は次々と起こるものの少し冗長な感じも受けるところ。各パートは練りこまれていて、かっこいい要素が詰まっているのだけれど、各パートの中は整合性が取れすぎていてスリリングさに欠ける面もある。

6.A kupolaváros titka 03:19 ★★★☆

ピアノの和音が循環する。落ち着いたトーンで曲が進む。また女性のナレーションが入ってきた。男女の掛け合い。ピアノ主体ながらトーンにちょっと緊張感のあるラウンジミュージックというところか。男女の話し声がやや熱を帯びてきた。そこで会話が終わり、ピアノが言葉を埋める。

7.Kiscsikó (Irénke dala) 03:46 ★★★★☆

伝統的、ポルカ的なリズム。どこかひょうきんな響きがする。ズンドコズンドコ的なリズム。スタコラと走っていく、コメディの逃走的な。ウェスタン的なリズムでもある。ブラスセクションも入ってきた。面白い。奇妙に耳なじみのよいフレーズ。コサックダンスか。これはメタル色はほぼないが、勢いがいい伝統音楽ロック。

8.Piros-sárga 05:06 ★★★★

後半になって音が自由になってきた。こちらもトライバルなリズム、祝祭的なリズムに伝統音楽、ダンス(踊り)的なメロディが乗る。メタルギターが入ってきた。この人、メタルにこだわらない方がサウンドの幅が広がっていいのかもしれないな。お、朗々と歌うオペラティックなボーカルが入ってきた。これもゲストだろうか。ちょっと予想外の展開。間奏部でギターが消えてトライバルなリズムと伝統楽器だけのパートに。こういうパートは”なんちゃって感”がない。伝統音楽パートの方が完成度が高い気がする。このあたりのちょっと冗長な感じもする反復、抒情性というのは、東欧、ロシアのメタルバンドに多いかもなぁ。その中では完成度がかなり高く、作編曲能力が高い。

9.Vadak (Az átváltozás rítusai) 12:24 ★★★★☆

激走感のあるドラムとブラックメタル的なかき鳴らし、そしてグロール。今までで一番ストレートなブラックメタル感が強いオープニングパート。ただ、メロディはしっかりある。メロディックブラック。暴虐なドラマが一通り続いた後、4分ほど経ったら静謐なピアノパートに切り替わる。民族音楽的。伝統楽器が出てくる。これはバイオリンだろうか。このパートはかなりしっかりとした民族音楽。6分半、女性ボーカルが入ってきた。このパートは良い。ジャケットから想起される通りの音像。体が揺れる、酩酊するリズム。この反復は心地よい。8分ほどからビートが戻ってきて、グロウルボーカルが入ってくる。ツーバス、グロウル、ギターは最後に戻ってくる。再びブラックメタル的音像になるが、バイオリンのフレーズ、民族音楽的な祝祭感はそのまましばらく残り、完全にブラックメタルに切り替わる。そのまま終盤、ヘヴィでスロウなパートへ。

10.Zúzmara 05:33 ★★★☆

静謐なピアノ、ソプラノの女性ボーカルが入ってくる。荘厳な音世界が続く、ゴシック的というか、英国とは違う東欧的な幽玄な響き。優美にゆったりと流れる、どこかダークさもある抒情的な女性ボーカルのバラード。バイオリンも入ってくる。アルバムの最期を看取るような曲。

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