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Sithu Aye / Senpai III

一部界隈で話題だったらしいSithu Ayeの「Senpai」シリーズ第三弾、今までのEPではなくフルサイズのアルバムです。2021年リリース。パブリブから出版された脇田涼平氏の「DJENTガイドブック」でも取り上げられていました。Djentって一定数、日本のアニメやゲーム文化に影響を受けたアーティストがいるそう。イギリスではアニメオタクのことを「weeaboos」や「weebs」と呼ぶそうです。

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Sithu Ayeはミャンマー出身スコットランド/グラスゴー在住のSithu Maung Maung Ayeによるソロプロジェクトで2011年に1stアルバムをリリース。日本語が堪能でTwitterでは「糞引きニート先輩」の名前で活動中。

1.Choices on a Piece of Paper 05:01 ★★★★

音楽室のピアノ。思い出させる音からスタート。Steve Vaiとか好きな人には刺さりそう。あそこまで複雑ではなく、Joe Satrianiにも近いわかりやすさがありつつもっとフレッシュで明るい。

2.Differing Paths 04:49 ★★★★

フュージョン的、プログ、Djent的な音像。さわやかなインスト。イラストやアニメ好きというコンセプトもさることながら、そういうイメージをきちんと想起させる力量がある。これみよがしではない技巧のプレゼンテーション。


3.A Future with No Colour 05:53 ★★★★☆

キーボードから、鼓動。いかにもアニメ的なシンセ音が入ってくる、音選びが面白くて聞き飽きない。曲そのものは王道プログ的な構成。透き通って透明感のある、Flower KingsやMoon Safariあたりにも通じる柔らかさを感じる音像。

4.Hanako's Shoujo Manga Spinoff! 05:01 ★★★★☆

妙な心のツボを押してくるメロディ。Marty FriedmanのTokyo Jukeboxシリーズ(J-POPをエッジがあるインストでカバー)にも通じるものがあるが、こちらはオリジナルのメロディなので「人が歌うメロディ」とは違う。どこか本質的な「J-POPのメロディ(アニソンを主として)」を触れて、フィルタリングして、自分のものとして消化した音像。曲展開や音像がいちいちツボ。スリリング。日本のフュージョンやインストバンドともまた違う。ジャパニーズプログレのバンド(De LoriansやMasheen  Messiah)にも近いものがあるが。

5.Mari's New Day 04:50 ★★★☆

やや雄大な、アジア的な音階、全体として音像はまろやかだがアレンジは凝っている。ただ、ひとつひとつの音は適度にチープ(自主制作に近いだろうし)で、それがかえっていい味を出している。肩ひじ張れずに聞けるというか。心地よい。

6.Reina: A Rival's Reprise 05:26 ★★★★

バンドのリハシーンのような、音出しから。さわやかフュージョンに切り替わる。大人のためのフュージョンではなく、ゲーム、アニメ世代のためのフュージョンだけれど。具体的には各メロディが分かりやすく、間やテンションが親しみやすい、おもてなし精神にあふれている。それなりに複雑なことをしているのだけれど全体としてわかりやすい。ドラマティックに展開していく。

7.Time to Decide! 05:05 ★★★★

Yoasobiにも通じる軽快な曲展開。ボーカルはなくインスト。疾走感を保ったまま駆け抜ける。青春を感じる。「決める時」ということは、青春ドラマだと告白かな。

8.Winter and Entrance Exams 05:08 ★★★☆

やや(このアルバムの中では)大人びたフュージョン。冬か。季節の変わり目、進級や卒業、変化が近い時。ちょっと鬼滅の刃っぽい(紅蓮華)メロディもある。

9.Graduation 06:16 ★★★☆

別れの時。「Senpai」だから、先輩に想いを寄せる少女たちの青春群像劇なわけだ。一貫したこのシリーズのコンセプト。いよいよ卒業、もの悲しさと旅立ち、期待と不安。そうしたシーンを音で描いていく。ジョージ・ウィンストンばりの落ち着いたメロディ。青春が遠ざかっていく。

10.Anime as Leaders II: The Joy of Moe 05:29 ★★★★

ライブ音源のようなミックス、実際ライブなのかな。いや、最初のSEだけか。ああ、Animal As Leadersのカバーかと思ったらAnimeというパロディか。いいタイトル。最初こそそれっぽいがすぐに滑らかな独特の日本的な音作り、アニメ的なギター音が出てくる。音づくりを研究してるなぁ。コードとかメロディ進行がJ-POP感がある。むしろ日本の音楽を活かしたロック、メタルというのをやるとしたらこうなるのか(あ、それがBabymetalか)。

総合評価 ★★★★

音楽的な愛情と憧憬が伝わってきて、作り手の情熱を感じる。音楽的にも突出した曲というより、コンセプトに対する描き切り方、完成度が凄い。こういうアルバムをコミケとかで見つけたらうれしいだろうなぁ。昔、Hyper RichのCD-Rをコミケで手に入れて衝撃を受けたのを思い出した。ふと手に入れた時に宝物になるであろうアルバム。

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