新しい音楽頒布会Vol.17 スピードメタル、インディーロック、アートロック、メロブラ(Melodic Black Metal)
Hellripper / Warlocks Grim & Withered Hags
スコットランドのヘルリッパー、 James McBain(ジェイムスマクベイン)によるワンマンプロジェクトで、2014年から活動開始。本作が3枚目のアルバムです。マクベインは1995年生まれで現在27歳。アルバムではすべての楽器とボーカルを手掛けています。
ブラック/スピードメタルであり、ボーカルスタイルはブラックメタル的ながらそこまでカオティックではなく、そこそこ整理された感じ。ドラムが下手ではないものの超人的ではないのもあるかもしれません。それがいい前のめり感を出していてVenomやMotörhead的なハードコアにも通じる暴走感があります。若いこともあってかアルバムを出すごとに音楽性が広がっており、本作はメイデン的なツインリードであったり、タイトルトラックではドゥームメタル的な荘厳さも醸し出しています。音はDIY感がある音作りでそこもツボですね。チープというよりも親しみやすい、メタル愛を感じるアルバム。Evil Invadersと並んで若手の中ではセンスを感じるアーティストになりました。
こうしたワンマンバンドはレコーディングプロジェクトだけで終わる場合も多いですがツアーメンバーを雇ってライブを行っているのもポイント高し。ブラックメタルってDTMとかベッドルームポップと発生経緯・時期が近い気もしていて「一人で完結する」ことからライブの再現性を度外視したもの(アトモスフェリック~と名がつくものに多い)がありますが、メタルにはライブミュージック(独自の様式を持ったダンスミュージックとも言える)という側面があるので、そこもしっかり追及しているのも好印象です。
カネコアヤノ / タオルケットは穏やかな
日本の女性SSWカネコアヤノの新譜。SSWながらかなりしっかりしたバンドサウンドで、「カネコアヤノ」というバンドというバンドの作品と言われてもしっくりくる内容。なんというか、「ボーカルとバックバンド」という感じではなくしっかりバンドの音なんですよね。羊文学とかにも近い。ただ、個人的には羊文学はくるりとの共通点を感じたのに対して、カネコアヤノははっぴぃえんどから流れる「東京のロックシーン」の音を感じたり。ムーンライダーズやカーネーションとか。でも本人は横浜出身らしい。ゆずとか横浜弾き語りシーンとの連続性は…あまり感じないなぁ。言葉がまっすぐ伝わってくるけれど気恥ずかしくなく、力強さと温かさを感じるアルバム。メロディや編曲などけっこう作りこまれているのに大仰さが少なく自然体な感覚があるのは見事。先が読めない曲展開なのに自然につながっていくんですよね。バンドメンバーはゆうらん船や元踊ってばかりの国のメンバーが参加している様子。散歩しながら聞いたらとても心地よかった。
betcover!! / 卵
2021年の「時間」に次いで2022年にリリースされていた「卵」。betcover!!ことヤナセジロウの4枚目のアルバムで、本作はライブバンド(日高理樹、Romantic、吉田隼人、岩方禄郎)とともにスタジオでの一発録音、いわば疑似ライブ形式で録音されたアルバム。前作「時間」も同様の作りだったので、この録音形式に手ごたえを感じたのでしょう。疑似ライブだけあり即興性も感じられ、ジャズ的であったり、シューゲイズ的な音の渦も感じます。RYMでの分類タグにもJAZZ-ROCKが。
昨年、ライブを観て思ったのですが想像以上にジャズロックというかヘヴィなプログレ的な質感があった。その時のライブの感覚がより色濃く反映されたアルバムという印象です。音が渦を巻いていき音響全体で物語の起伏が生まれていくアルバム。ジャズやプログレ的。音楽のダイナミズムがしっかりとある、聴き込むと頭にこびりつくタイプの良作。
Inherits The Void / The Impending Fall Of The Stars
フランスのAntoine Scholtèsによる一人メロディックブラックメタルプロジェクト、インヘリッツザヴォイドの2ndアルバム。フランスのアーティストながら歌詞は英語(多分)です。曲名が英語なので。2020年から活動を開始しており、年齢は分かりませんでしたがおそらく20代。このプロジェクト以前の活動はありません。こちらもヘルリッパーと同じく一人プロジェクトです。
弦楽器とボーカルは演奏していると思われますがドラムは多分打ち込み(人力だとしたらハイパードラマーすぎる)。ライブも僕が調べた範囲だと行った形跡がなく、宅録プロジェクトと思われます。本人の美意識が感じられる作りこまれた音世界。耽美な感じはフランスならではか。ギターメロディが常に鳴り響いており、ノルウェジアンブラックメタルからの影響も強く見られますが、ところどこに出てくるアコースティックな小曲やパート、そして静かに終わるエンディングなどは優美さがあります。アトモスフェリックな作品であり、激烈でありながら音圧が一定なのでアンビエントミュージックとしても聴けます。こういう作品って小音量で流しているとビートだけ浮き上がって、あとは吹雪のようなノイズに聞こえるんですよね。ドラムが打ち込みだから正確だし。
以上、今回は4枚紹介しました。それでは良いミュージックライフを。