ザキールフセイン師を悼む
インドが産んだ天才タブラ奏者、ザキールフセインが2024/12/15に亡くなりました。父はラヴィシャンカールと共演していたタブラ奏者のアララカで、弟はこちらもタブラ奏者のトーフィック。インドの音楽一家はカーストで決まっており、日本で言えば代々雅楽の名門、みたいな一家。その中でも西洋音楽ファンにもよく名を知られた存在だったのがザキールフセインです。
僕が彼のことを知ったのはビルラズウェルと組んだタブラビートサイエンス。ジャズ、テクノ、ヒンドゥスターニー音楽が混ざり合ったとてもスリリングな音楽で、当時は世界最高のライブバンドとも呼ばれました。2004年(ちょうど20年前か!)、埼玉は秩父で行われたTrue People’s Celebrationというイベントにタブラビートサイエンスが来日。友人がこのイベントの運営に関わっており、幸運なことに僕もライブを観に行くことが出来ました。当時のことを記録されたブログがありました。
秩父の山の中ということもあって開放感も凄かった。初めて観た生ザキールフセインのタブラはまるで光のパルスのようで、タブラが加速していくにつれて自分の時間感覚も加速していく感覚。時間がゆっくり進むような、あるいはゆっくり進むような、一小節が16に、32に、64に、128音符に…とどんどん細かく分解され、音楽による時間操作を体感した記憶があります。聴くドラッグ。
タブラビートサイエンスのライブはとにかく凄まじいので、未見の方はぜひ観てください。ジャズ、プログレ好きにも刺さると思います。
聴くならライブアルバムが圧巻。
ここで衝撃を受け、しばらくザキールフセイン関連を追っていた記憶があります。ザキール単体でも多数ソロアルバムを出しており、インド音楽はリリースが複雑なので(コンピ盤とか多いし)なかなかディスコグラフィーが追いづらいですが、1987年、ジャズギタリストのジョンマクラフリンらが参加したソロアルバム「Making Music」は名盤とされています。
ザキールフセインがタブラ、ジョンマクラフリンがギターで、サックスにノルウェー出身のヤン・ガルバレグ。そして竹笛(インドのフルートみたいな楽器)がハリプラサード・チャウラシア。このチャウラシアもバーンスリ(竹笛のこと)奏者としてインドを代表する名手で、後にUKで活躍するインド系イギリス人のタブラ奏者、タルヴィンシン(1998年のマーキュリープライズ受賞)と組んでアルバムをリリースしたりしています。このアルバムの日本盤リリースも友人が関わっていて、当時よく聞いた記憶があります。
タブラビートサイエンスの余韻も醒めやらぬ2005年1月、今度はジョンマクラフリンとのユニット、リメンバーシャクティで再びザキールフセインが来日。幸運にもこちらも観ることが出来ました。リメンバーシャクティはもともと、1975年から1978年にかけてフセインとマクラフリンが組んだシャクティというユニットが元。ジャズとインド古典音楽を融合させた画期的なユニットで、リメンバーシャクティは1997年にこのユニットが再始動した時の呼称。フセインが亡くなる最近まで活動を行っており、2023年にはtiny desk concertにも出演しています。
インド古典音楽を代表する家系に生まれ、タブラ奏者として確かな実力を持ち、多くの尊敬を集めながら積極的に西洋音楽とコラボレーションして行った。ラヴィシャンカール、そしてその娘のアナーシュカシャンカールが西洋音楽とのコラボを続けているように、アララカの息子のザキールフセインはインド音楽を世界に対して広めました。Sitar MetalだってBloodywoodだって、こうしたインド古典音楽と西洋音楽の融合の上に彼ら特有のユニークな音像を築いています。タブラの天才児、インド古典音楽の伝導者、偉大なるザキールフセインに敬意と追悼を。
それでは良いミュージックライフを。