Metallica / Reload(1997)
1997年リリース、前作「Load」と同時期に作られた曲集ということで、当初は2枚組にするアイデアもあったとか。確かにLoadに通じるところもありますが、大きな差はプロダクションがこなれているというか、明らかに「こうした曲調」に合う音像になっています。全作は「新しいサウンド」を模索する印象がありましたが、今作は「こうした曲調に合うサウンド」をしっかり標準を合わせてきた印象。改めて聴くと、Metallicaの全キャリアの中でもけっこう完成度の高いアルバムだなと感じました。特にストーナーやスラッジメタルに近い、極端な変拍子やテクニカルなものはないものの、Mastodonや、一部最近のOpethにも通じる長尺曲の酩酊感、楽曲のメロディのクオリティの高さを感じます。ジェイソン・ニューステッドの脱退前の最後のオリジナルアルバムなわけですが、この編成での一つのバンドサウンドの到達点。もちろん、この後「Garage Inc.」「S&M」とジェイソン在籍時にアルバムが出るわけですが、オリジナルアルバムとしてはこれがラストアルバム。メタルジャスティスで「聞こえない」とされたベースもしっかり聞こえるようになり、自己主張しています。後半は特に酩酊感が強い。Pride&Gloryの後、いわゆるアメリカの伝統音楽、ルーツミュージックを本格的に取り入れた「フォークメタル」というのはどこに行ったのだろうと思ったら、実はこのアルバムはかなりその音像に近いですね。「11.Low Man's Lyric」なんか本気のカントリーだし。リアルタイムの印象は「Loadよりいいアルバムだな」でしたが、今も変わらず。それは楽曲のクオリティより、「こういう曲に対するサウンドアプローチ」を身に着けたことも大きい気がします。あと、Loadがけっこう欧州HR/HMや60~70年代UKロックの影響が出ていたアルバムとすれば、こちらはUS音楽、USメタルの影響が強く出たアルバムと言えるかもしれません。
改めて聞き直したら「おお! かっこいい!と思った「Prince Charming」をどうぞ。ベースもブリブリ鳴っています。「Load」「Reload」があったからMetallicaって「イケてるバンド」になった気もします。非メタラーにも訴求しやすい「ロック王道のカッコよさ」みたいな。それはビジュアル面も含めてそうですし。それまでのメタラー然としたややアングラ、いかにもメタル小僧的な目たるTシャツ+ダメージジーンズ+革ジャンから、U2などで名をはせた写真家を起用してのビジュアルの刷新も一般層への訴求には役立ったでしょう。「メタルの名盤」ではないでしょうが、今聴くとかえって新鮮でカッコいい「90年代USロックの名盤」感があります。
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1997リリース
★ つまらない
★★ 可もなく不可もなく
★★★ 悪くない
★★★★ 好き
★★★★★ 年間ベスト候補
1.Fuel 4:29
ボーカルのフレーズからスタート
飛び込んでくるような曲、前作同様ややゆるんだ弦の響き
リフが展開する、さらにコーラスが展開する、60年代ロック的な響きもある
この曲もドラムがイキイキしているが、やや後ろノリ、冷静さがある
ボーカルは前に食い気味、リフとドラムは同じリズムが多い
同じタイミングで切り替わって早くなったりする、一般的なユニゾン
ボーカルハーモニーが多用される、ボーカルにスポットが当たっている
メタリカのもともと持っていた「いろいろな楽器隊のポリリズム」が骨格では残っている
音が生々しいというか、サザンロック、サザンメタル的
もしかしたらLoad、Reloadってその時にメタルシーンで萌芽していた、あるいは歴史も含め、それを総括しようとしたのかな
オールドロックの手触りがある曲
★★★★
2.The Memory Remains 4:39
これも2曲目で音が小さくなるパターン、これは踏襲されている
ヘヴィなリフ、ギターの音がすこしたわんでいる、塊感があって歯切れが悪いが、ブラックアルバム的な楽曲
ボーカルがメロディアス、上下の音程移動が激しいのはやや新機軸か
ドラムは一定、ギターリフのリズムが変わり、ボーカルと絡み合う、ボーカルのメロディにかなり頼っている
しわがれた声、ああ、マリアンヌフェイスフルか
なぜこれを使ったんだろう、魔女的な声が欲しかったのか
ああ、これもホラーソング、Ghostあたりに繋がる、Until It Sleepsと同じ、ホラーロック、ショックロックの流れか
ゴシックというほど耽美じゃないんだよな
アメリカの人たちはホラー映画で爆笑するらしい、バタリアンとか怖いというより笑える映画だと
そういう「ホラー」な感じがちょっとある、どこかユーモラスというか
Ghostにもそういうエンタメ感がある、似た感じ
魔女声だけが残る、問題はこの人の声の説得力がありすぎて心が動くことだな
★★★★
3.Devil's Dance 5:18
単音のギターの刻み、そこに絡んでくるギターメロディ
ドラムとベースがグルーヴを作る、メタリカの王道パターンだがテンポが遅く、コードかき鳴らしが出てくる
リズムがかなりタメている、ボーカルメロディも低音であまりはっきしりしない
リフの刻みとかそのあたりは心地よいはずなんだけれどなぁ、テンポとギターサウンドに覇気がない
ボーカルも溶けて落ちるようなエフェクト、ストーナー的と言えばそうなんだが
リフとボーカルのリズムが絡み合う、この曲はボーカルが埋もれ気味、コーラスでは前に出てくるが
ワウを多用したソロ、音の空間を埋め尽くす
ソロの後のボーカルライン、ちょっと呪術的でいいな
なんだか逆回転したような曲、リフのタイミングとか
ドゥーム、ストーナー系
★★★☆
4.The Unforgiven II 6:36
イントロはUnforgivenと同じ、フェードイン、そこからバンドサウンドに
コード進行は彷彿させる、同じ展開か、メロディは少し変わっているが、曲構成そのものは同じ
ボーカルの歯切れが良い、サビに行くにつれて少し展開していく
コーラスはかなり変わっている、こちらのほうがメロディは凝っている
こういう風に付け加えたかったんだな、これ、Unforgiven1と2を続けて聴くと組曲的になっているのだろうか
1に比べるとボーカルメロディはさらに展開する、いわば「大サビ」みたいなつくりにはなっているが
背景が動くようなギターソロ、音作りが今のストーナー
ほとんどUnforgivenと同じメロディ、ということを除けばよい曲
新しいサウンドを試したときにこの曲をジャムっていたのかも
そうしたらメロディが展開していって、アルバムに入れるか、となったのだろう
サウンドの変化、模索の過程の記録、といった趣のアルバムだな
総括は目論んだのかもしれないが、結果として実験の記録になっている
総括しきれるほどもうロックシーンも狭くなかったしなぁ
悪い曲だとは思わないが、あまりにUnforgivenに近いので、うーんという
★★★☆
5.Better Than You 5:21
同音階の刻み、リズム楽器としてのリフ
ちょっとアメリカンハードロック、MrBigのDaddyBrotherみたいなリズムのリフ
これはLAメタル的な、ヘアメタル的なノリもあるな
サビで急にヘヴィな感じになる
ヴァースは軽快に展開していく、グランジでもこういうバンドいたはずだな
いいリフ、勢いがある
ただ、あまり重さがない、ちょっと軽め
音の密度は前作よりは濃い、ボーカルとギターの絡み合いはスリリング
2本のギターもリフのリズムがずれて互いに刻む、分かりやすいポリリズム
ギターフレーズ、表と裏のリズム、メロディループを変える
けっこうリズムに対しては小節全体で執拗に変化させている
この曲はメタリカらしい、ギターサウンドはやや気だるいが刻み感も強い
最後「もう一度曲が始まるか」と思わせて終わるパターンも出てくる
★★★★
6.Slither 5:13
下から上がっていくリフ、ヘヴィブルースというか
ボーカルが展開してハーモニーで広がる、コード進行も変わる
これもサザンメタル感だな、アメリカンハードロック
この流れってエアロのゲットアグリップ(1993)あたりがメインストリームでは発端なのかな
けっこうソロは乗っている、こういうソロも合うな
ジェイムスのリフとカークのソロ、ニューステッドのベース、ラーズのドラム、それらが絡み合う間奏
ボーカルも絡み合う、これはメタリカらしさをうまく取り入れつつサザンメタル感がしっかりある
自分のものにした感じ
★★★★
7.Carpe Diem Baby 6:12
カルペディエム?(日本の柔術道場の名前) こんな曲あったっけな
ヘヴィでストーナーな感じ、けだるいリズムで進むが、じわじわとボーカルが攻めてくる
おお、コードも展開する、これ、前作よりかなりいいな
聴いた当時もReloadの方がしっくり来たんだが、実際に聞き直しても「新しいサウンド」を手に入れてはいる
確か、これ2枚組にする予定だったとか言っていたし、同じ時期のマテリアルのはずなんだが
曲の骨子は同じタイミングで作ったんだろうが、1年の差はあるから編曲とかマスタリングはしなおしたんだろうな
曲のクオリティとか骨格はそんなに変わらない気もするが、こちらの方が「メタリカらしい快楽」が盛り込まれている
リフ同士、リズムのせめぎ合い感とか、各パートの音の迫力とか
これは前作にもあったストーナー系の曲、こういう路線は心地よいな
間奏の酩酊感はさすが、ギター、ベースが絡み合ったりユニゾンしたり別れたり、自在に変化していく
ボーカルは呻くようなところからだんだんと上がっていく
アイヤイヤイヤイヤイ。。。と揺らぐところは呪術的、70年代HR的
リズムの執拗なこだわりにアメリカンなサザンメタル的フレーズ、良い
★★★★
8.Bad Seed 4:05
この曲は聞き覚えがあるな、メタリカの曲という印象はなかったが
ああ、けっこう耳に残るリフとメロディ
リフはちょっとトーキングモジュレーター使ってるのかな、ボンジョビのリヴィンオンアプレイヤー的な
(あれに比べたらかなりエフェクトはおとなしいけれど)
これはハードロック的な音像、グランジな音像だが、曲としてはいい曲
リズムもいろいろ展開する、おお、このアルバムは音楽的クオリティは高いなぁ
モトリークルーのジョンコラビを迎えて作ったセルフタイトルアルバムのようだ
5曲目からの流れはいい、だいたいメタリカのアルバムは中盤~後半にかけて曲も聴いている側のテンションが上がっていくが、その感じが戻ってきた(前作にはなかった)
この曲はやや歯切れが良い
★★★★
9.Where The Wild Things Are 6:52
Steve Vaiのライブアルバムもこのタイトルだったな
2本のギターが微かに鳴っている、ボーカルが入ってくる
マーチングバンド的リズム、ジェフベックのような生々しいカッティング
刻みリフ、左右ツインギター、ベース、それぞれユニゾンというか、少しずれるポリリズム
このアルバムはニューステッドの存在感もあるな、少なくとも「退屈なプレイ」とか「聞こえない」ことは感じない
ちゃんとグルーヴを生み出してバンドサウンドの一部になっている
宙を浮くような、サイケなボーカルライン、No No Tearsとか言っている? オジーのNo More Tearsへのオマージュか
全体的にオジー、ザックワイルドからの影響をけっこう感じるな
おお、この曲はメモリーズリメインをさらに展開させたような、長尺化してストーナーにしたような曲だな
むしろ時代を先取りしていたのかも、2015年以降の曲と言われたらそんな感じがする
ベースが出てくる、ドラムと絡み合う、ニューステッドの存在感が高い
グルグルと回るような感覚、ベースの圧、ドラムの圧、それがうまく使われている
ボーカルがかなりサイケ、ブリッジのフランジャーで回るようなギターサウンドも拍車をかける
★★★★
10.Prince Charming 6:04
リフ、勢いがある、最初からドラムが裏打ちにずらす
そして同じタイミングで入る、これも8と同じ、けっこうエネルギッシュな曲
おお、本当に5以降の流れがいいな、4も悪くないが「以前の曲と同じメロディ」なのでちょっとなぁと思ったが
そこからどんどん畳みかけてくる、馴染みのメロディで一度耳を惹いてから新しいパートへ行くのはいい構成
この曲はカッコいいな、単純に、イキイキしているし
ギターの音もボーカルも、ドラムもオンタイムというか冷静さや重量は感じるが前のめりで叩いている
ベースも絡み合っている、バンドサウンドが戻ってきた
途中、テンポが遅くなるがロック的なリズムは保たれている
この曲は良い曲だな、埋もれているのが惜しい
ギターサウンドはだいぶ違うもののジェイムスの独特の語尾、歌い方、リズムの絡み合いがメタリカ印
明るめでブルージーなアメリカンハードロックをしっかりメタリカの語法でやっている
ベースもガンガン前面に出てくる、ニューステッドが開花している
Loadの後、Reloadまでの間になんらかの反省というか、パワーバランスか心境の変化がバンド内部に起こった気がする
全体的なバンドサウンドが再生している
★★★★☆
11.Low Man's Lyric 7:36
カントリー的なサウンド、歌い方もそういう、牧歌的な歌い方
バラード、かなりカントリー、ウェスタン色が強い
楽器もそういう、バグパイプというか、フィドルか、フィドルが入っている
ギターサウンドもウェスタン、ローハイドに使われそうなちょっと太目の音
完璧なウェスタンサウンド、この流れだと聴けるなぁ
ああ、Pride&Gloryだ、カントリーメタル、サザンメタルはこういう受け継がれ方をしたのか
BlackCrowsとかBluesTravelerとかも90年代に活躍したよな
途中から展開していく、ただ、展開は緩やかだが
間奏、アルペジオ、少しトライバルなリズム、拍が変わったボーカル
なんだこの開放感がある歌メロは、フィドルも入ってくるし
アメリカの大地の素晴らしさでも歌っているのだろうか
カントリーバラード、ここまで完全に自分のものにするとは
前作のちぐはぐさがかなり解消されている
まぁ、これは完全に路線変更だが、「思えば遠く来たもんだ」的な音像
従来のメタリカ像とは違うし、この後にも出てこないような気がする(この後聞いて行くわけだが)
出てくるのかな? これ聞かされたらメタリカということが分かっても「誰かのカバー?」と思うな
ああ、ガレージインクではカントリー的な音が残ってるか
良い曲だがさすがにメタリカ的にはどうなのだろう
★★★☆
12.Attitude 5:16
また勢いのある曲
ああ、11が挟まれることによってこの曲が引き立つんだな
確かに、11で一度リセットされる
これもアメリカンハードロック的な曲、少しリフの和音がよどむ、歪んだ感じがある
そのあたりはグランジ感か
ただ、基本的にはヘアメタル、LAメタル、華やかなリフ
リフのブレイク、タメ、リズムが絡み合う感じはメタリカらしさが出ている
Fuelもこの路線の曲か
なんだこの勢いは、リフのコード和音が明るいしかっこいいが
メタリカの音像からはかなり離れてるな、10、11ともに凄く距離はある
ギターソロ、ギターソロはあまり変わらないが、いや、尺が長いな
こういうのやってみたかったのかな、「歌」にスポットを当てたかったのか
各種楽器隊と歌メロの絡み合い、リズムの多層化の上にフックのあるメロディが乗ればカッコよくはある
★★★☆
13.Fixxxer 8:15
左右チャンネルから得体のしれない音が鳴り響く
1分ほどしてかなりヘヴィなリフがスタートする、バッジー的
ヘヴィな単音リフでツインリードのハーモニー
これは70年代的というか、むしろ00年代以降のストーナー
音が瑞々しい、大御所のアルバムというより若手のチャレンジングな勢いを感じる
Candlemassとかにも通じる、ダウナーなヘヴィさとメロディアスさの融合がなされている
そこにメタリカらしいリズムの絡み合い、リフのリズムが変化し、ドラムがアクセントを変えていく
ベースは低音を埋める、ボーカルもだんだんと体温を上げる
リフとベースはユニゾンしているが、音がしっかり蠢いている、低音が太い
サバス感、ギーザーバトラー感
オジーがニューステッドを指して「若きギーザーバトラーだ」と言ったそうだが(一時期一緒にツアーした)
「さすがに言い過ぎやろ」と今までの音源からは思っていたがこのアルバム後半では存在感があるな
ワウペダルを使ってのリフ、ジェイムスもワウペダル踏んでいるのかな、リフ自体がワウ
リフとソロ(というか修飾メロディ)、両方カークだろうな
これは新機軸、新しいものを生み出そうという感覚がある
今まで手に入れた手法を使って「メタリカ独自の音楽」になっている
適度に勢いがある、ストーナーという感じよりは覇気がある
とはいえサイケで酩酊感はある、酩酊する熱狂
つまりそれが一貫したメタリカらしさか
★★★★
全体評価
★★★★
思った以上に良いアルバムで驚いた、Loadで音像が変化したといってもLoadは手探り感がが強かった
Reloadは完全に、違うスタイルのサウンドを自分たちのものにしている
特に5曲目以降、ストーナー、サザンロック、ヘアメタル(というかグランジの歌モノなんだろう)の要素を取り込みつつ自分たちならではの音像にしている
これは発明だし、ニューステッドのベースがここで前面に出てきている、バンドに溶け込み、4分の1として支えている
ブラックアルバムもベースはしっかり構成の一部だったが、まだ硬かった
これはバンドとしてのメタリカの再生がなされたアルバムだったのかもしれない
11は完成度が高いカントリーバラード、ここまで従来の音像を離れたのか
11、12はメタリカ像からはかなり遠いが、完成度は高い
むしろそうした「完成度の高さ」が、「別の音楽性を自分のものにした」証左だろう
この辺りのサウンドはガレージインクにも引き継がれるんだな、拡散した音楽性
前作はDeep Purpleというかリッチーブラックモアからの影響を感じたし、ヨーロッパの香りもしたが
今作は凄くアメリカンな感じがする、そういう意味ではそもそもそういう対になったアルバムなのかもしれない
前作はラーズの影響で、今作はジェイムスの影響なのだろうか? そういうシンプルなものでもなく、全員が重なった部分なんだろうな
もちろん他の2人も、カークはもちろん、ニューステッドもこの音楽を作るのに存在感があったのだろう
ベースの前に出てくる感じが今までと違う
これは面白い、新たな発見が多くあった
さて、これがこの後のアルバムでどう出てくるのだろう、また、ニューステッドからのメンバーチェンジはどのような影響を与えるのだろう
ヒアリング環境
朝・家・ヘッドホン