Carcass / Torn Arteries
「リヴァプールの残虐王」ことカーカスの8年ぶり、7作目のアルバム。ギタリストのビル・ステアとベーシストでボーカリストのジェフ・ウォーカーが中心メンバーで、かつてはアーチエネミーのマイケルアモットも在籍していました。ゴアグラインド(グラインドコアとデスメタルの融合)ジャンルの創始者として名高く、初期はそのおどろおどろしいジャケットと音のイメージから「スプラッタデスメタル」「ハードゴア」と呼ばれたことも。ただ、1993年の「Heartwork」以降、流麗なギターメロディを取り入れるようになり、日本の美メロファンに人気爆発。その後マイケルアモットのアーチエネミーがしょっちゅう来日する(ラウドパークの常連)こともあり、カーカスも復活後はラウドパークの常連に。日本での存在感が高いレジェンドバンドです。レーベルからのリリース文は下記。
英国リヴァプール出身のカーカスは、当時ナパーム・デスのビル・スティアー(G, Vo)と、ジェフ・ウォーカー(B, Vo)、ケン・オーウェン(Dr)により1985年に結成され、1988年デビュー・アルバム「REEK OF PUTREFACTION」(邦題:腐乱屍臭)をリリースした。その破壊的なサウンドと残虐な歌詩により、一部のマニアの間でセンセーションを起こし、1989年、2ndアルバム「SYMPHONIES OF SICKNESS」(邦題:真・疫魔交響曲)をリリース、1991年には現アーチ・エネミーのギタリスト、マイケル・アモットを加えて4人編成となり、3rdアルバム「NECROTICISM-DESCANTING THE INSALUBRIOUS」(邦題:屍体愛好癖)をリリースした。1993年、正統派へヴィ・メタルへの歩み寄りを見せた4thアルバム「HEARTWORK」(邦題:ハートワーク)をリリースし、翌年初の来日公演を行った。メンバー・チェンジが行われる中、1995年に5thアルバムの制作に入るが、レーベル移籍に関して問題が発生し、それにともないビルが脱退、カーカスはその歴史に終止符を打った。 その後1996年に、バンド分裂前に制作されたその5thアルバム「SWANSONG」(邦題:スワンソング)がリリースされた....
2007年、ジェフ、ビル、マイケルを中心に、病気のケンに代わりアーチ・エネミーのドラマー、ダニエル・アーランドソンを加えた4人編成で、ライヴ活動のみで復活。その後オリジナル・メンバーであるジェフとビルにより、17年ぶりのスタジオ・アルバム「サージカル・スティール」が制作され、2013年に発表した。同年ラウドパーク13に出演、新メンバーにて来日を果たし、翌年2014年には単独公演を行った。2015年には、ラウドパーク15に出演、それに合わせ「サージカル・スティール」のコンプリート盤をリリースした。その後2018年には、ベン・アッシュ(G)が脱退し、パウンダー、元エンジェル・ウィッチのトム・ドレイパー(G)が新たに加入した。そして、2021年、復活第2弾となる通算7枚目のアルバムを発表する。出典
全曲に邦題がついているという力の入れっぷり。担当者がノリノリなのが分かります。では聞いてきましょう。
活動国:UK
ジャンル:デスメタル、メロディックデスメタル、グラインドゴア
活動年:1986–1996、2007年〜現在
リリース:2021年9月17日
メンバー:
ジェフ・ウォーカー – ベース、リードボーカル
ビル・スティアー – ギター、バックボーカル
ダニエル・ワイルディング – ドラム
トム・ドレイパー – ギター
総合評価 ★★★★☆
メタルの王道。新しい何かの提示というより、スタイルを突き詰めていく。掘り下げていく。サウンドプロダクションも良好でサウンドにスケール感がある。全体的にメガデスに近づいた気もする。ハードコア感もやや残っていて、ボーカルはストロングスタイルを貫いている。このあたりの切れ味の鋭さ、冗長さを排すような姿勢が残っているのが魅力なのだろう。このスタイルのまま10分近い大曲を作り上げてしまうのは見事。ものすごく突出した曲はないが、どの曲もクオリティが高くメタル耳には心地よい。ベストトラックは10かな。ただ、非メタルまで広がる魅力はない。かなり洗練された音像になっているが、アンダーグラウンドさを保っている。
1. ド・ク・ド・ク動脈(TORN ARTERIES) 04:00 ★★★★☆
軽快なドラムのフィルインからザクザクしたギターリフが入ってくる。音は低音重視というより中高音域中心、スラッシーな感じ。音はクリアで分離している。オールドスタイルデスメタルながらギターはスラッシュ的。カッコいいリフがある。最近のアーチエネミーにも近いね。正統派メロディックメタル、スラッシュ、パワーメタル的なトラックにデスヴォイスが乗る。
いわゆる「正統派メタル」というか、日本で一番リスナーが多いメタルのジャンルは2つあると思っていて、一つはメロディアスというかむしろポップ、ハードポップとでも言える「きちんとメロディが合って、覚えやすいコーラスがある曲」。たとえばボンジョビとか、モトリーとか。欧州ポップの影響が強くなるとジャーマンメタルになる。メロハーとかもここ。細かく言えばUSハードロックとジャーマンメタルではファン層が違うが、基本的にボーカルラインがメロディアスでギターにはハードなエッジがある。80年代の主流で、90年代になるとジャーマンとか北欧に展開し、音が激化していく。
もう一つがスラッシュ、ギターリフがありギターがメロディアスでコード展開するもの。メロデスもこの流れ。こちらはボーカルはアジテーションかグロウル。このスラッシュ~メロデスの流れが90年代の日本のメタルシーンの主流派だったような気もする。メタリカ、メガデスからすたーとして北欧メロデスに流れていく。その王道の一つがカーカス。メロデスの入り口がカーカスのハートワークだった人も多いだろう。そうした期待通りのオープニング。
2. イシュタムの舞(DANCE OF IXTAB(PSYCHOPOMP & CIRCUMSTANCE MARCH NO.1 IN B)) 04:29 ★★★★
ミドルテンポで攻めてくる。メロディアスなギターリフ。ややブルージーなフィーリングもある。あくまで「フィーリング」だが。音像はハキハキしていて酩酊感はないが、曲構成そのものはややストーナー的でもある。あとは最近のデスメタル、ちょっとスペーシーだったりサイケやプログレを取り入れたデスメタルに近いものもあるな。あ、ちょっとメガデスっぽさもある。ボーカルも大佐(ムステイン)っぽいし。しかしいつのまにか大佐、凄く声嗄れたよね。
3. エレノア死後硬直(ELEANOR RIGOR MORTIS) 04:14 ★★★★
疾走曲、このテンポはいいね。高速エイトビートでスラッシー。曲が入ってきたらミドルテンポになる。メガデスっぽいな。アナイアレイターにも近い。そういえばジェフウォーカーズとジェフウォーターズ(アナイアレーターのギターボーカル)って名前も紛らわしい。まぁ、そういうスラッシーでメロディアスな感じ。ボーカルメロディはそれほど起伏がない、唸るような声なもののコードがしっかり展開していき、ギターメロディもふんだんにはいっていて曲全体としてはメロディアス。
4. 鬼メスの刃(やいば)(UNDER THE SCALPEL BLADE) 03:55 ★★★★
刻むようなリフ、しかしこの企画ものAVのようなタイトルはどうなのよ。当然ながら勝手につけた邦題なので某漫画とは無関係。まぁ、鬼のBGMには合っているけれど。すりつぶすようなミドルテンポでゴリゴリした曲。こういうゴリゴリしたパートはこのバンドの特性だな。高速ギターリフになるとメガデス感が強まるが。ホーリーウォーズ的なリフが一部出てきた。
5. 悪魔よ、去れ!(THE DEVIL RIDES OUT) 05:22 ★★★★☆
エスニックなフレーズからスタート。そこからミドルテンポで勇ましいリズムに。どの曲も気合が入っていて心地よい。こういうミドルテンポの曲は楽曲の構築力の高さをじっくり味わうことができる。途中でテンポチェンジし、メロディが展開していく。
6. 人肉引き裂き音速拷問、制限あり(FLESH RIPPING SONIC TORMENT LIMITED) 09:42 ★★★★
アコギの美しい音像から、一瞬の美しさ。それを押しのけるようにリフが飛び込んでくる。ザクザクしたリフが切り裂いた上に暴虐なボーカルが乗る。テンポアップしてなぎ倒しながら進んでいく。これは迫力がある。迷いがない。90年代、00年代の王道というか理想のメタルサウンドをしっかりと鳴らしている。サウンドプロダクションは良好だし、アンダーグラウンドのレジェンドバンドの名に恥じない、高純度のメタル。どんどん展開していくのはUK的、ワイルドハーツなどにも近いめまぐるしい曲展開。やっぱりプログレの影響なのだろうか。
7. ケリー生肉屋(KELLY’S MEAT EMPORIUM) 03:23 ★★★★☆
前曲の長大さを振り払うように疾走する曲。前曲との対比ですごく速く感じる。緩急は大切。そういえばスティアーもウォーカーズも菜食主義者で、動物愛護の歌とかもあるんだよな。ストレートエッジとか、ハードコアシーンのDIYの精神、流れも汲んでいるんだろうな。ハードコア的な潔さ、冗長さを排した説得力のようなものがある。曲そのものはかなりメタル的で間奏も多いのだけれど、ひとつひとつのパートはハードコア的な潔さが残っている。メロディと疾走のバランスが良い。
8. 神を信じる(IN GOD WE TRUST) 03:57 ★★★★
前の曲よりはややスローなリズムに、それでも早め。ザクザクしたギターが切り刻んでいく。機械的、熟練した料理人の千切りのような。そういえば手の動きも似てるかもね、包丁を振り下ろすのとギターを弾くのは。「神を信じる」という邦題はスコーピオンズの「KAMI WO SINJIRU」を思い出す。”カミヲシニュール”で衝撃を与えたあの曲だ。確信犯だろうか偶然だろうか。お、途中でツインリードの後ろでハンドクラップが。変わったノリだな。
9. めざましカーカス(WAKE UP AND SMELL THE CARCASS/CAVEAT EMPTOR) 04:36 ★★★★
Wake Upとくるとメガデス的だな。全体的にメガデスの近作にも近いシーンが多い。たぶん、似たようなルートをたどり似たような音像にたどり着いたのだろう。実際に聞いてみるとカーカスの方がザクザクしているし、メガデスの方がスケール感があるが。途中からリフが変わる。題名の通り、組曲なのだろう。邦題は前半しか訳していないが。CAVEAT EMPTORとは定型句で、ラテン語で'let the buyer beware−買い手が危険を背負う売買'の意味。買うときは注意しなさいよ、的な注意喚起。
10. 揺れる死神の鎌(THE SCYTHE’S REMORSELESS SWING) 05:20 ★★★★☆
ミドルテンポで落ち着きとスケール感があるスタート。ボーカルが入ってくるとともにテンポアップする。途中からエスニックなスケールも出てくる。このバンド、このアルバムの”うまみ”を凝縮したような曲。