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王者の帰還:Linkin Park / from zero

メインストリームにロックが帰ってきた。いや、ロックに「王道」が戻ってきたといった方がいいかもしれない。

Linkin Park。2000年代のUSロックシーンの覇者であり、いわゆる(日本で言うところの)「ラウドロック」というジャンルの先駆者と言えます(ちなみにUSではNu Metalと言われることが多かった)。音楽的特徴を言語化するならば「ハードコア由来のスクリームを持ち、メタル的な整合性を持ったディストーションサウンドを持ちつつ、ハードロック的なわかりやすい歌メロを持っていてヒップホップのパートもある」といった音像。メタルとの違いはギターソロが基本的にないことですね。ギターヒーローがいない。その代わりにラップパートがある。このフォーマットでメインストリームで売れまくったのは革新的だった。

ロックシーンを振り返ってみると、現在までの最後の大きなムーブメントは2000年代のNu Metalだったように思います。その後はもっとインディーズロックというか、地味な方向に行った。シンガーソングライターとか女性ロックボーカリストは出てきたけれど、いわゆる「ロックバンド」ではあまりいなかったし、新しいスタイルも出てこなかった。マネスキンは久しぶりに新鮮さを感じたけれど音楽的には懐古的だし、BMTH(Bring Me The Horizon)もメインストリームとしては極端だし(UKでは売れているけれどUSの覇者とは言えない)。ロック的な激しさを持ったバンドサウンドとして新機軸を打ち出し、メインストリーム=ロックの王道を書き換えたのは00年代初頭のLinkin Parkが最後だったんじゃないかと思っています。

カリスマ的ボーカリストであったチェスターベニントンの衝撃的な自死が2017年。Nirvanaのように伝説のバンドとなるかと思われた彼らが新女性ボーカリストを加えてバンドとして帰ってきました。そしてリリースされた7年ぶりのニューアルバムが本作。

音を聞いて、00年代初頭に回帰しつつも、しっかりと進化した、新機軸を産み出した作品だと感じました。Linkin Parkってもともとzeroというバンド名だったんですよ。1996年、現在も残るラップ/ボーカリストのマイク・シノダとギタリストのブラッド・デルソン。そして今回の再結成には参加していませんが、2017年までドラマーだったロブ・ボードンの3名が高校時代に組んだバンドが母体。その当時のバンド名はZero。その後バンド名を「Hybrid Theory」に変え、1999年にチェスターベニントンが加入してLinkin Parkに名を変えデビューしています。デビュー作のタイトルが「Hybrid Theory」。それまでのバンド名をデビューアルバムのタイトルにしていたのですね。

今回のアルバムは「from zero」。zeroというのはシンプルに原点回帰という意味もあるのでしょうが、彼らの歴史から言えば「バンド初期に戻る」「もう一度バンドを組みなおす」という決意なのかもしれません。考えてみればチェスターが入ったときは「Hybrid Theory」というバンド名だった。それを原点としてデビューしたのがLinkin Parkなら、今回はさらなる原点に回帰し、チェスター時代とは異なるバンドとして生まれ変わったと言えるかもしれません。

音楽的にも初期のテイスト、2017年のかなりエレクトロポップによった「One More Light」に比べるとかなりロック的なエッジが戻っていますが、女性ボーカルということで音の抜け感、華やかさが増すとともに、音像的にもOne More Lightにも見られたシンセ的な装飾音がよく効いていて明るさ、希望が感じられます。こういう「新しさを感じさせる王道ど真ん中のロック」を久しぶりに聞いた気がする。MetallicaIron Maidenも現役ですが、「新しい音像」を生み出すにはすでにベテランすぎるし(Metallicaは挑戦し続けていると思いますが)、KornLimpといったNu Metal勢はセールス的にはやや減速気味。その後出てきたBMTHにせよSleep Tokenにせよやっぱりちょっとコアすぎるというか、断絶していた。なんというか「そんなにロックが好きじゃない人にも聞けるロック」「”今はやっている音楽”としてのロック」の感覚は久しぶり。まさに今回のLinkin Parkの新譜は「不在だったロックの王者の帰還」という感覚を受けます(日本だとけっこうLinkin Park以降のロックバンド、たとえばRadwinpsとかKing Gnuとかが元気なのでロックが盛り下がっている印象がないですが、洋楽、USだと本当に新しい大物バンドがいないんですよ)。

アルバムは31分と短め。イントロ含めて11曲なので実質10曲ですが、どの曲も芯がある。重圧、期待に応える見事なアルバムだと思います。これを機に他にも新しいバンド、そしてロック、いや「ハードロックの進化」を感じられるムーブメントが出てくるんじゃないかなと期待しています。嬉しい!

それでは良いミュージックライフを。

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