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Dream Theater / Parasomnia (と最高のライブ盤)

USプログメタルシーンを代表するバンド、Dream Theaterの16作目。創設メンバーで脱退まではリーダー的存在でもあったドラマーのマイク・ポートノイが2010年の脱退後、2024年に復帰してから初のアルバム。

ポートノイの復帰は驚きました。というのも、前作A View From the Top of the World(2021)は近作の中では最も出来の良い作品だと感じたし、2022年のグラミー賞(メタルベストパフォーマンス)も獲得。バンドが波に乗っていて良い状態だと感じていたからです。当時のドラマーであったマイクマンジーニも引退やスキャンダルがあったわけでもないし。普通、昔のメンバーを呼び戻す時ってうまく行っていない時ですからね。ただ、US内でのチャートアクションなどを見ていると少しづつ低下していたので、何かしらのマンネリなり、バンドの経営指標が悪い方向へ向かっていたのかもしれない。あとは、単純にキャリアの後半に差し掛かり、「やっぱり昔からの仲間ともう一度やりたい」と思ったのかもしれません。インタビュー等ではメンバーが「さまざまなタイミングがあり、それらがかみ合ってこういうことになったんだ、マンジーニに問題があったわけじゃない」と言っていましたが、まさのその通りなのでしょう。

現在のラインナップ

正直、マンジーニとポートノイはテクニックというかバリエーションだけならマンジーニの方が引き出しが多いと思います。マンジーニってドラムがパワフルだけどしなやかなんですよね。ポートノイはそれに比べると硬め。ちょっとわかりやすい。だけれど、今回のアルバムを聞いて「やっぱりポートノイのドラムがドリームシアターだよな」とは思いました。ここ数作のDream Theaterって作曲クレジットがバンド全員なんですよね。おそらく、曲のメインモチーフは誰かが持ってくるのでしょうけれど、レコーディングは全員でアイデアを出し合いながら作っている。マンジーニからポートノイに変わったことでドラムだけでなく曲構造にも影響があったし、もともとポートノイはバンドのリーダー的存在であった上に脱退後もさまざまなバンドに積極的にかかわってきているから、クリエイティブ面でのアウトプットも多いでしょう。結果として、かなり変わった。個人的には「前作とタイプが違う名盤」ですね。先述した通り、前作も近作の中では良い出来だったので。

スタジオにて

ただ、本作の特徴はわかりやすい盛り上がりが増えたと思います。ポートノイはやっぱりメタルやプログレッシブロックが好きなんですよね。且つ、さまざまなバンドをこなしてきたから引き出しも増えている。Avenged Sevenfold的なモダンなメタルの感覚や、Flying Colorsでのブルージーなハードロック的なメロディセンスも体にしみこませている。Dream Theaterの方もマンジーニ時代はなんというか(ポートノイが脱退する直前の数作に比べると)軽やかで風通しが良い曲作りを目指していた感じがあり、その路線も引き継がれています。ポートノイの特徴である重めで迫力のあるドラミングと、風通しが良くなったサウンドが融合した「聞きやすさと密度が両立したアルバム」に仕上がった。あと、メロディもわかりやすいというかベタな展開が増えています。久しぶりにアルバムを何回もリピートしました。「なんだか最近のDream Theaterはちょっとなぁ」と思っていた方にオススメ(そいった方はすでに聞いていると思いますが)。最近の変化を否定するのではなく、その延長線上にさらにポートノイの変化が加わっている良作。

今回のテーマは睡眠時随伴症(代表的なものは夢遊病)。なので、「眠れない夜」とか「不安を感じさせる音階」「目覚ましの音(起きなければならない)」的なモチーフが出てきますが、イントロとアウトロ以外はそこまで緊迫感、圧迫感はありません。通底するものとしてダークさやシリアスさ、緊迫感がありますが、そこはいつものDream Theater味といった形。けっこうアルバム全体の印象としては聞き疲れない、何度も聞きたくなる絶妙なバランスです。


…さて、ここまでがタイトル通りの新譜への感想。このアルバムを機にDream Theaterの旧譜というか、ポートノイ時代をちょっと聞いてみたくなったんですよ。いろいろ探っていたらたどり着いたのがこちら。

1993年、Images And Wordsをリリースした後のライブ(Awake前)。NYCなので地元ですね。メンバーはラブリエ、ペトルーシ、マイアングに加えてドラムはポートノイ、そしてキーボードはケヴィン・ムーアです。これが素晴らしい出来なんですよ。2007年に出ていた下記の作品の2022年再発、リマスター盤です。

特筆すべき点はいくつかありますが、ひとつはラブリエのボーカル。ライブではけっこう荒れるという定評がある彼ですが、本作はそれが荒々しさ、勢いに繋がっています。多分、純粋に曲の難易度が高すぎる気もする。高音の連続とか、やはりボーカリストとしても技巧や身体の限界に挑戦するようなパートが多く、この日もすべての声ができっているわけではないものの、若き日のラブリエはフェイクすることなく真正面からぶつかっているんですよね。時々声は割れるし、高音で決めるべきところでちょっとフラットしたりする。だけれど、それがライブ盤特有の熱量となり、だんだん気にならなくなる。バンドのフロントマンとしてしっかりと前に出ています。決して下手な人ではないし、十分超人的なシャウトもできる人なんだと再認識しました。スタジオ盤ではあれだけ歌えますしね。このライブでもだんだん調子が出てくるんですよ。最後まで歌いきるし。

1993のDream Theater

もう一つはやはり演奏の上手さですね。わかりきったことですが、93年のライブなので勢いが凄い。全員20代です。ほぼテクニック的には完成されていてアンサンブルはタイト、且つ勢いがある。大道芸、あるいはアスリート的な「人間はこんなことまでできるんだ」という驚きを感じます。これ、オフィシャルブートレグシリーズと題されているので基本的にオーバーダビングとかないと思われます。確かに、ところどころミスタッチらしきものはある。それを超える熱量と勢いがあります。圧倒されました。この間のラウドパークでもこんなパフォーマンスだったら足の疲れなんか感じなかったのに!

あまり知られていないライブアルバムだと思いますが、DTの真骨頂が味わえる名作だと思います。DTファンで未聴の方はぜひ。

それでは良いミュージックライフを。

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