特撮 / エレクトリック ジェリーフィッシュ -DEEP Tracks(初回限定盤)-
昨日に引き続き特撮の新譜、初回限定盤は未発表曲、アルバム未収録曲集がDisc2としてついてきます。今日はそちらのレビューを。
1.パナギアの恩恵 ★★★★
特撮モノの主題歌的な、アニソン的なオープニング、勇壮なテーマ。ホーンセクションが鳴る。テンポ的にはガスタンクのカバー「ジェロニモ」的。というかリズムパートは意識している気がする。かなりポップな曲。狙って作るアンセム的な曲。そういえば「パナギアの恩恵」の時にこの曲はあったが、結局入れなかったのか。時期が違うのか。結局入れなかった、としたらなぜなのだろう。確かにアルバムの流れから浮くような曲ではあるが。ライナーノーツとかに書いてあるかも(初回は歌詞カードなどを見ずに聞いている)。ライブでは定番曲になってもおかしくないような曲ではある。ただ、いい曲ではあるが目新しさはあまりないかも。「新しさ」をあのアルバムでは出したかったのかもしれない。アルバム全体を通しての空気感。
2.夏のデビル ★★★★
夏の感じ。夏盤のころの曲? 歌謡曲的。ちょっとラテンなノリ。パーカッションやリズムパターンがそういう系。ノッてますね。いいメロディ。キーボードも含め「それっぽい」曲。そういえば特撮というバンドの特徴として「○○っぽい」というのがあるな。ラテンっぽい、とか、そういうパロディ的なものを使うのが多い。これは筋少にも言えるけれど。特撮の方がよりその傾向が強い。オーケン自体がさまざまな知識、断片の引用を行って物語を拡げる、そういう引用を含めて物語るタイプの思考だからだろう。庵野監督(エヴァ)もそうだよね。80年代、90年代サブカル、引用と再構築。それは90年代的なものなのかもしれないなぁ。裏を返せば、その一見「○○っぽい」の奥にオリジナリティを感じられるか。一歩間違うと陳腐だし、「聞いたことがあるような曲」になってしまう。引用された文脈に依存する。本編の「ミステリーナイト」だって、ブラックメタル、ロードオブケイオスで描かれた教会放火のパロディで、それに音像も合っているし。そのあたりの元ネタとか引用が分かるか、それを面白がれるかどうか。単純に楽曲だけで娯楽が完結しない。
3.殺神(2020) ★★★★
これアジテイターに入ってた曲だな。ゴリゴリとしたベース、もっと幽玄な感じ。日本の文脈だと今どきのラウドロック的というか。メタルコア的というか。2020ということはこのアルバムに向けたセッションで再録していたのかな。結果本編には入れなかったけれど。前のバージョンよりいいかも。サビの雄大さが感じられる。ライブでこのアレンジでやりそう。女声ボーカルも入ってきてゴシック要素もあるな。もともとのバージョンよりアレンジがよりダイナミクス、緩急のつけかたがドラマティックになっている。
4.アングラピープル サマー ホリディ~2011版~ ★★★★
美しいピアノソロから、三柴さん弾きまくり。もともとこんなイントロあったっけな? そこからバキバキしたベース音に。音がクリアになってる。ハチャメチャ感が増している。ロシアンハードコアみたいな音だな、ベースは。コーラスの拍が前のめっていく感覚がある、8小節でなく6小節でループして繰り返す。
5.メグマレ ★★★★☆
サスペンス的なスタート、BGM的にシンセが流れていく。スーパーで流れていそうなキーボード音。ボーカルが入ってくる。流れるようなメロディ。アイドルポップな曲。歌詞はなんかひどそうな内容。面影ラッキーホールみたいだな、あんなに癖が強い歌い方はしていないが。曲調はありそう。キャリアを考えるとこちらの方が本家というべきか。ゴーゴー蟲娘とか昔からやってるから。昔のヒット曲にありそうなメロディに違和感のあるドロッとした歌詞。シティポップ。「ドロッ」という感覚はオーケンを表す一言かもなぁ。最近は短編小説みたいなものが増えたが、そもそも初期(80年代)は「ドロッ」とした感触、手触りがあった。コミカルな一面も昔からあったけれど。
6.鬼墓村の手毬歌(Long Ver.) ★★★★☆
ネコの真似をした声。ダンディなサックスフォン。ジャジーなスタート。ささやくような物語が続いていく。童謡のような、花いちもんめのメロディ。ジャズと手毬歌。オケミスの原型か。電話の音、場面転換。演劇的。ピアノからバンドがループする、マイク・オールドフィールド、チューブラーベルズ的(エクソシスト)。蝉の声。手毬歌が児童合唱で戻ってくる。怪奇ホラーの音像化。謎解きパートへ。探偵が犯行手口と動機を説明する。事件の後、大団円的な、奇妙なスキャット、パノラマ島奇譚の人間花火のような。美しく畸形。そして事件が終わった後に描かれる人間模様。続いていく日常のドラマを思わせて終曲。
7.戦え!改造!!ん、違う? ★★★☆
アニメ、アニソン向けというかこれ改造シリーズなのかな。もともとこういう曲を作っていたがボツになって作り直した、という曲なのだろうか。そういえば最終バージョンの戦え!改造の主題歌ってどんな曲だったかな。聞いたことはあるはずなのだけれど思い出せない。いかにもアニソン、2000年代アニソンだろうか。80年代、90年代テイストがありつつちょっとそれらが定型化した後の曲調、2010年代以降の極端な進化もしていない。00年代のアニソンというべきか。最後までこの曲調で終わり。
8.ピルグリム(放浪者) ★★★☆
バラード。特撮のバラードは何か独特なものがあるな、NARASAKIさんのメロディセンスというか。こういうバラードに一番特異性を感じる。パロディやメタファーではないというか。まぁ、あまり個人的にこういう曲を聞かないだけかもしれないけれど。「○○らしさ」はあまり思い浮かばない。耽美なピアノ。冴えている。
9.一点もの ★★★
これも訥々としたバラード。「人間のバラード」みたいな、言葉を紡いでいく。バックはウクレレだろうか。フォーク的なメロディ。音が増えていく。オルゴール。どこかファンタジックな音像。
10.テレパシー(2020) ★★★★
これも新録か、爆誕に入っていた曲。初期のころはライブのエンディングでも演奏されていた記憶がある。今もそうかも。アベルカインかテレパシーか。そういえば最初からかたくなに釈迦はやらなかったなぁ、特撮。やってないよね確か。サンフランシスコはやっていた気がするけれど。そこは「別バンド」として最初からコンセプトを考えていたんだなぁ。アレンジが結構違う、ヴァースからブリッジへのつながりの印象が変わった。サビに入ると近いがギターが刻むようになってスピード感が出た。どっしりしたリズム、やや重さというかわずかに後ろノリ。最後のコーラスはスペーシーな雰囲気が増した。もともとは最初からこんな空気になっていた気がする。メロディや雰囲気は変わっていないがリニューアルされた。
総合評価 ★★★★
これはこれでニューベストアルバムというか、1枚のアルバムとしての完成度がきちんとある。寄せ集め感はもちろんあるのだけれど、一曲一曲がけっこう粒がそろっている。これはわざわざ入手する価値がある1枚。いくつかは先に出ていたEP(スリーストーリーズ、ブルースリー)に収録されていた曲。