Damian Hamada's Creatures / 魔界美術館
聖飢魔Ⅱの創始者にして地獄の皇太子、現在は地獄の大魔王たるダミアン浜田陛下の新プロジェクト、DHC(Damian Hamada’sCreatures)。昨年リリースされたミニアルバム2作から1年を待たず、フルアルバムの登場です。本作は陛下がソロアルバムなどで発表した過去曲をDHCでリレコーディングしたもの。DHCはもともとプログレッシブロックバンドとして活動していた(元人間椅子のDr、後藤マスヒロ氏などが在籍)金属恵比須が基本的なバンドであり、そこにオーディションで選ばれた沖縄出身の女性シンガー、さくら"シエル"伊舎堂がボーカルとして参加する形で結成されています。結成時、陛下によって「改臓人間」化されているとのこと。
陛下のイメージに違わない見事な悪魔讃歌、正統派ヘヴィメタルを奏でてくれた前作。本作も過去曲のリレコーディングということもあり、より濃厚な悪魔の世界が展開されていることは間違いありません。早速聞いていきましょう。
活動国:日本
ジャンル:ヘヴィメタル
活動年:2020
リリース:2021年11月10日
メンバー:
Vocal さくら“シエル”伊舎堂
Guitar 大地“ラスプーチン”髙木※
Bass,Keyboards ケン“アレイスター”宮嶋※
Drums マスヒロ“バトラー”後藤※
Guitar 秀貴“ジル”栗谷※
Chorus 宏美“ローズ”稲益※
※金属恵比須のメンバー
総合評価 ★★★★★
最高。期待通り、いや、期待を超える出来。前作から素晴らしい出来栄えだったが前作ではまだバンドとして未完成な部分、もともと陛下自身のボーカルで作られたため、タイプが違う女声シンガーには合わない部分もあったが、今回も曲という点では過去曲のリメイクなので条件は同じなもののバンドのタイトさが増し、ボーカルの表現力も増している。チームワークが向上し、より一層ダミアン節とも言える独自の世界観を具現化している。他に類がない、唯一無二の世界観。悪魔城ドラキュラのサントラにアニソンと初期聖飢魔Ⅱ(初期Loudnessでもいい)を組み合わせ、2021年のサウンドプロダクションで録音したようなアルバム。個人的嗜好に大ハマり。
実は聖飢魔Ⅱはそんなに聞きこんでいない。筋肉少女帯は好きだったけれど、聖飢魔Ⅱはそんなにピンとこなかったんだよね。最初の2枚、つまりダミアン浜田陛下(当時は殿下)の曲は好きだったけれど。だから、筋金入りの聖飢魔Ⅱファンというわけではなく、ダミアン浜田ファンというか、DHCを通じて初めてリアルタイムでファンになった、という人間です。なので、聖飢魔Ⅱファンから見てどうなのかは分からないけれど、今のJ-Metalとか、グローバルメタルシーンの中でもしっかり独創性がある、日本ならでは、ダミアン浜田陛下ならではのユニークな作品だと思う。
1 謝肉祭 ★★★★★
荘厳なピアノ、悪魔上ドラキュラのサントラ的な。そこからなだれ込んでくるギターリフ。おお、宗篤、じゃない、胸熱。「むねあつ」だと宗篤が出てくるのか。柳生の人だっけ。
閑話休題。イントロに導かれてギターリフ、こういう構築美は陛下のお家芸。なんだろうなぁ、独特の「ダミアン節」がある。J-Metal的というか。橘高文彦(筋肉少女帯)にも通じるものを感じることがある。「お城を作るようなソロ」とか、そういう感じ。様式美系の日本のギタリストは独特の質感があるような気がする。コンチェルトムーンの人とかガルネリウスの人にも。なんだろう、Rainbow、リッチーとかインギー直系というよりそこにゲームとかアニメ的な要素が加わったというか、やはり日本で独自にドメスティック化するんだろう。日本音楽のサイクルで言えば外国音楽の日本化 → 日本民族音楽の隆興の、後半に入っているのだろうなぁ。やはり日本には日本の独自性がある。北欧に「北欧っぽいメロディ」があるように。アップテンポで理想的なオープニングナンバー。
2 嵐が丘 ★★★★☆
先行MVも作られた曲。確かにキャッチーなリフとメロディ。前曲に比べるとややテンポダウンし、その分メロディアス。アニソン的ジャパメタなのだけれど、なんだろうなぁ、欧州メタル好きにもきちんと響く、欧州的な響きがある。単純に邦楽化した、J-POP的なメロディだとどこか過剰に感じることもあるんだけれど、メロディの選び方が絶妙。個人的に別にアニソンも嫌いではないけれど(カラオケでは盛り上がる)、好んでアルバム一枚聞きとおすほど好きではない。だけれど陛下の曲はきちんと気持ちが盛り上がるし純音楽(鑑賞のみ)として楽しめる。これは金属恵比須とシエルの演奏力、歌唱力もあるな。ボーカルは閣下(デーモン小暮)のような演技力、キャラクター性まではまだないが、確かな歌唱力があって世界観を壊していない。こういう楽曲を世界観を壊さず歌える歌手は希少。サビは特にアニソン的歌メロだが、ギターソロやアレンジでメタル的音圧、「城を築く」感覚がある。
3 天使と悪魔の間に ★★★★★
マーチング的な、進軍的なリズム。ギターメロディが入ってきて、ボーカルが入ってくる。メイデンのThe Trooperのように、ヴァースではボーカルだけになる。キーボード、プログ的キーボード音が入ってくる。プログレ感覚は金属恵比須が持ち込んだものだな。ブリッジ~コーラスはダミアン節が全開。なんだろうなぁ、ちょっとマーシフルフェイト感があるんだよな。まぁ、キングダイアモンドとデーモン小暮のメイクというかキャラがかぶるということもあるのだけれど。とはいえマーシフルフェイトと実際に聞き比べてみると全然違うのだけれど。日本的なものと組み合わせるとこうなるのだろう。特に、聖飢魔Ⅱデビューの頃に比べると、メタルやハードロックの音像は主にアニメやゲームサントラの分野で日本では多く使われたから、そうした遺産、共有意識みたいなものが曲にも顕れるのだろう。おお、後半、ベースのユニゾンなどはかなりプログレ感がある。ベース音がちょっとジョンスクワイヤ(イエス)的だからか。メイデン的ギターメロディ。日頃、海外のバンドを聞くことが多いが、この作品はそうしたところでは満たせない、なんというか日本民族としての琴線みたいなものを自覚するなぁ。
4 Tears in the Rainbow ★★★★☆
ゴスペル的なハーモニー、歌詞も讃美歌的。悪魔への讃美歌だが。クワイアに続いてバンドが入ってくる。ドラマティックなオープニング。前作(ミニアルバム2枚に分けていたが実質的にはフルアルバム1枚)よりもバンドサウンドがこなれているというか、曲も昔からあるものだし、解釈や編曲、世界観の理解度が深化している。より没入感がある。ボーカルがほとんどビブラートがなく、まっすぐ伸びる感覚なのは面白いな。歌謡曲っぽさを消すためなのだろうな。こぶしを聴かせてしまうと聞こえ方がまた変わるだろう。この曲とか演歌調のメロディでもあるからね。最後、ピアノソロで終曲。
5 失楽園はふたたび ★★★★★
ミドルテンポ、パワーコードのリフ。ギターの音が分厚いというか、いかにもメタリック、往年の欧州メタル感がある。ちょっとリバーブがかっていて、霞がかっている、ファンタジックな音像。ボーカルが突き抜けるような、剣のような質感を持っているのが面白い。このボーカルで「いける!」と思った陛下のイメージが前作より具現化している感じがする。この曲はボーカルパフォーマンスがいい、というか、声に合っているな。イキイキしている。長尺のメロディを短く区切る、断片化してみせることで緩急をつけるのがダミアン節の特徴な気がする(ボーカルに対して)。それが出てくると「来たなぁ」と盛り上がる。ブリッジ部分、けっこうハイトーンなんだな。このあたりの音域まで上げるとボーカルの魅力が一番出る気がする。前作といい本作といい、もともと陛下自らが歌ってデモを作っていたわけで、シエルの声、音域に合わせて1から曲を作るともっとフィットするのだろうか。それは次作のお楽しみであろう。
6 Lamia ★★★★★
お、ちょっと80sアリーナロック的なリフ。ただ、ちょっと不穏な鐘の音がなっており、そこで中世感、ダークファンタジー感、いや「悪魔感」が保たれている。ギターリフが本格的に始まる。なんだろうなぁ、ダミアン節、独自性がある。類似で言えばランディローズというかオジーのソロなんだろうか。あとはLazyとか初~中期Loudnessか。タイトルの「ラミア」は蛇女だろうか。そういえばコーラス、ハーモニーもすべて女声だな。これは金属恵比須のボーカルの人かな。少し野太い、男声コーラスと絡み合ってもいい気もするがそのあたりは作家性、ボーカルパートに対する嗜好性なんだろうな。途中のリフがちょっと”愛を取り戻せ”(YouはShock!)っぽい。そこからドラマティックで構築された間奏部へ。そしてリフが戻ってくる。リフが戻ってくるとき一瞬ゾクッとする。
7 魔城の翼 ★★★★★
弦楽器の優雅な響き。ただ、わかりやすくメロディアス。そこからバンドが入ってくる、アップテンポな曲でメロディアスなギターフレーズから曲がスタート、疾走曲の部類。飛翔感がある。ボーカルとギターが絡み合う。ドラムも落ち着きがあり、心持ち後ろノリなのだけれど軽快感もある。さすがマスヒロさん。安定感がありつつ単調になりすぎない。金属恵比須のバンドアンサンブルも味わえる。やはり前作より陛下曲に対する理解度、再現度が上がっている気がするし、金属恵比須的な要素(キーボードの音色とかプログレ感)も増している気がする。メロディの奔流。ボーカルだけ、ではなく、すべての楽器がメロディアス。それらが悪魔的緻密さで組み合わされている。
8 月光 ★★★★★
悪魔城ドラキュラ的な、悪魔感があるイントロ。悪魔城ドラキュラ的と言わなくても聖飢魔Ⅱと言ってもいいか。どちらが一般に伝わりやすいんだろう。日本市場において「悪魔的な音楽」といいたいのだけれど。初期Loudnessでもいい。考えてみると陛下もその源流の一つなんだよな。初期聖飢魔Ⅱの代表曲、というか「悪魔的イメージ(特に楽曲は)」のオリジネイターだから。トライトーン(増4度、減5度)、つまりブラックサバスのセルフタイトル曲のあの不穏な響きだが、トライトーンを使うわけでもなく、なんというか構築された、中世の古城のような趣がある音階。Rainbowというかリッチー由来なのだろうけれど、それを日本的に、より精巧に、ミニチュア化して細密化したような音像。そこにランディローズというか、80年代オジーが悪魔+アリーナロックを発明した感覚も加わり、それに日本的メロディ、歌謡曲とでもJ-POPとでも呼べばいいが、アニソンやゲームミュージックにも通じる日本人が好むメロディ展開が組み合わされてこの世界観になっているのだろう。クラシカルなフレーズ。ここでいうクラシカル、というのはどのあたりだろうなぁ、バッハかな。バッハのオルガン曲の片手部分だけ、みたいな感じか(バッハのオルガン曲は両手のハーモニーが独特だが、その感覚は薄い)。
9 魔界美術館 ★★★★★
おお、またイントロから盛り上がる。メタルコンサートのオープニングで使われそうなハーモニー、クワイアとオーケストレーション。アイアンメイデンがライブのオープニングで使っていたJerry GoldsmithのFirst Knightのようなオープニング。そのまま曲にスタートしていく。壮大な世界観。ダミアン節が全開。リズムというか、言葉やフレーズを切る、ボーカルメロディが断片化され、それぞれが小さな言葉でかつ悪魔的な残虐なイメージ(殺せ、とか首切り、とか)の言葉が乗る(考えてみたらManowar的な歌詞世界だな)、ボーカルの流れ方と違う切り方でドラム、バンドがリズムを区切り、ギターメロディと絡み合う。こうした「多重なリズム感」がダミアン節の真骨頂。マスロック(数学ロック)的とも言えるかもしれない。変拍子は使わないのだけれど一つ一つの楽器が違う拍で小節を区切ったり、メロディを違うタイミングで組み合わせたりする。この辺りは世を忍ぶ仮の職業たる数学教師の面目躍如というか、そもそも職業にする前からこうした思考があったのだろう。聖飢魔Ⅱの初期曲は世を忍ぶ仮の職業に就く前に作ったわけだし。理系的、数学的思考に基づいて作曲する手法を編み出して、それが独自性になったのだろう。
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