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Takatak / Acrophase

Takatakはパキスタンのプログ・メタル・バンド。中東的、パキスタン的な要素も感じさせつつ現代のプログ・メタルとしても高品質。こういう伝統音楽の影響がにじみ出る、西洋音楽とは違うルーツを持ったロック(の進化系としてのメタル)が大好きです。先日、特集記事でも取り上げたバンド。

いわゆるジェントとかマス(数学的)ロック、メタルコア(スクリームなどの激烈パートがありつつクリーンでメロディアスなパートもある)などと呼ばれる音楽です。聴いて思ったのは、西洋的な洗練、現代的な激烈音楽の手法に加えてスーフィー宗教音楽(カッワーリー)の要素も感じるなと。具体的にはポリリズム(複合リズム)や声のポリフォニーの組み方がカッワーリーを想起させる部分があるし、メインのボーカルとコーラスが絡み合うコールアンドレスポンスのパートがところどころに出てくるのもカッワーリーを想起させる。あとは発声法や節回し、やはり高音の節回し(や声の出し方)も西洋とは違う、ハードコア的なスクリームというよりは中央アジア的絶唱を感じます。発声法についてはだいたい西洋のエクストリームボーカリストも似てきていますが、そもそも今のエクストリームなボーカル、デスボイスはモンゴル~トゥバの喉笛的な使い方だったり、チベットのモンクの歌唱法(声帯を反響させて同時に二音出す=声を割る)などの影響を受けている、ルーツの一部もあるのでむしろこちらが本場な気がします。
あとは、今のプログメタルやドゥームのトレンドであるサイケ色も感じますが、サイケというのももともとインド音楽です。ジョージ・ハリスンやジョン・マクラフリンがインド古典音楽に傾倒していき、ドローン(単一のコードで和音が続く)の上で展開するメロディ、細かく分割されたリズム、シタールのすこし緩んだ響きなどが西洋ロックに取り入れられ、サイケデリックロックが芽吹きます。フラワームーブメントの最中、1967年のモントルーポップにラヴィ・シャンカールが呼ばれて衝撃を与えサイケは最高潮に。北インドの「瞑想のための音楽」が西洋的に解釈されたのがサイケなので、本場もインド。最近、ドゥームやプログメタルを中心にサイケの影響が再度出てきていますが、それらのルーツのひとつはインド・パキスタンあたりにもあるはずです。

まずは聴く前に、Takatakを聴いて感じた「カッワーリーらしさ」を言語化してみましょう。

1.節回しに特長がある

ちょっと泳ぐような、コード進行の中でボーカルラインがインプロビゼーションするような節回しがある。アラビアン・ポップス、中央アジア、南アジアポップスの独特なメロディ、まぁこれは説明しなくても「ああ、なんか西欧のバンドとは節回しが違うな」と感じていただけるかと。

2.リズムが細かい。

ポリリズムの作り方がタブラに近いというか、数学的に分解されて細かい。1小節を8分割、16分割、32分割、64分割みたいな細かく分類していって、そこにリズムをはめていく感じ、まさにマス(数学)ロックだがそもそもそういう発想がこの辺りの音楽にはある気がする。テンポアップではなく、時間を細かく区切る。「速い」というより「細かい」。テンポが変わらず一定時間の中の音数が増えていくからむしろ体感としては遅くなる(同じ1秒を長く感じる)。

3.主唱者と合唱者が掛け合うコーラスがある。

カッワーリーは主唱者と合唱者がいて、主唱者が歌った後、合唱者がそれをなぞる、あるいは対となるコーラスを入れることが多い。これはアメリカのゴスペル合唱などにもみられるが、そうした掛け合いによってテンションが高まっていく。紹介するPhantomだと3分17秒以降のパート。

音楽理論的にどうこうは分かりませんが(タブラの打楽器としてのリズムパターンの特色とか、なかなか説明しづらい)、リスナーとして聴感上感じる主観的な「らしさ」です。

スマホで聴きながら読みたい方はこちら(noteに戻ってくればYouTubeでバックグラウンド再生されます)。

2020リリース

★ つまらない
★★ 可もなく不可もなく
★★★ 悪くない
★★★★ 好き
★★★★★ 年間ベスト候補

1.Far Away 02:33
荘厳なSE、神殿というか、大きな磁場、何らかの力の場を思わせる
微かに機械の駆動音のようなものが混じってくる
風の音かノイズが混じる
だんだんと機械音が増してくる、機械文明の記憶、記録のメタファーだろうか
キーボードでメロディが静かに入ってくる
ボコーダー加工された声、ピアノの和音のアルペジオ
雰囲気のあるオープニング
★★★

2.Volition 06:38
生々しいというか、生物的な音
少しオーガニックな骨がぶつかるような音というか
そこから音質がクリアにありジェント的な構成、ギターの引っ掛かる音、きしむような音が入る
小刻みなカッティングミュートとピッキングハーモニクスをリフに混ぜるのがジェント感、だろうか
ベースもかなりうねっている
ドラムはゆらめくような、安定しているが変拍子感を出している
ボーカルはグロールとクリーントーンの絡み合い
極端にゆがんでいたり、不快感や恐怖感を煽るグロールではない
アグレッションの振れ幅程度のグロール
音程移動がなめらかなギター、小刻みなミュートカッティングが間に入る
スタッカート、跳ねるようなリズム感がギターにもあり、ドラムと混じってポリリズム感を出す
展開して別のシーンへ、ボーカルが同じフレーズを繰り返し合いの手が入る
音像がかなり違うが、コールアンドレスポンス、北インドや中央アジアで見られるモチーフだろうか(カッワーリーとか)
ただ、そこまで極端に長くなく展開
これパキスタンのバンドなんだよな、インドとイランの間
普通に聴いている分にはかなり洗練されているが、パキスタンと聴くとやや土の薫りもする
乾燥した空気
歌い方の高音の出し方がBloodywoodにも通じる、ちょっとインド古典音楽の高音部に近いというか
声の伸び方が欧州の人たちとは違う気もする
クオリティが高い
★★★★☆

3.Fault Lines (feat. Keshav Dhar and Shamsher Rana) 05:52
反復する、引きずるようなギターリフ、ミクスチャー的
ハードコアなボーカルが入ってくる、グロールだが声は細め
日本のハードコアにも独特の空気感があるが、中央アジアにもやはり独特な音像がある気はする
主に発声法、曲作りについては今のところ西欧ジェントにかなり近い
少なくとも曲構成についてはあまりパキスタンの特色というか、そうした構造の差異は感じない
声が多重に絡み合うのは独特かもしれない、アジア音楽、先ほどカッワーリーを例として描いたがリズムとボーカルの多重な組み合わせによるポリリズム、ポリフッニーが多い気がする
そうした多重感はある、特にボーカル
声の重ね方は上手い、ごちゃごちゃするところがきちんと整理されている
主メロも意識して作られてはいるが
あと、歌メロがけっこうシンプルで力強いメロディパートが出てくる、この辺りは何か中央アジア、インドのメロディには特色があるような気もするなぁ
ただ、前評判なくこれを聴いて「中央アジアっぽい」と感じられるか、メロディからはどうだろうなぁ
発声法は特徴があるような気がする
リズムはそうして聴いてみるとタブラとか民族的なパーカッションによるポリリズムを再現しているといえばしている
これ、ゲストがいるんだな、ゲストはグロールをしているボーカル? だろうか

featuring two of the most cutting edge guitarists from India & Pakistan - Keshav Dhar (Skyharbor, White Moth Black Butterfly) and Shamsher Rana (Roots, Wisdom Salad).
https://takatak.bandcamp.com/track/fault-lines-feat-keshav-dhar-shamsher-rana

とあるので、ギタリストがゲストか
インド、パキスタンシーンは面白そうだ
★★★★

4.Voyager 04:50
次の曲へ、小刻みなリズム、ボーカルが多重に絡み合う
リズムが細かい気がする、速いというより「細かい」
タブラのビートのよう、あれもめちゃくちゃ「速い」が疾走感はそれほどない
ひとつの小節がどんどん分解されていく、音楽が加速するというより時間が遅くなっていくような感覚がある
BPMは変わらないのに分割数だけが増えていくからそう感じる
似たような感じかも
声が多重に入ってくる、これは面白い音像
Unprocessedとかを思い出したが、聞き比べてみるとこんなに声はないかもなぁ
ハーモニーが強い、し、主となる歌メロもしっかりある
一つ一つの音が強い、ただ、ボーカルはいわゆるアジア的な強い節回りではなくけっこうサラッとしている
グロールもしているがやや軽やか、高音でスクリームするのだけれど、ハードコア的というより
カッワーリーとかでもヌスラットファテアリカーンの高音のスクリームとか、発声法が違う
(このボーカルはヌスラットのような超絶感、天に突き抜けていく感じはないけれど)
叫びというより祈りというか、あまり聞き苦しくなく迫力が増していく
喉の使い方がやはり少し違うのだと思う
★★★★

5.The Whale 06:06
ややポップとも言えるメロディがある、主メロが強い
それに対してかなり小刻み、ジェント的なバッキング
ドラムは変拍子、ベースはうねり、ギターはカッティングリフを適宜混ぜてリズムを散らす
刻みの間にしなやかにうねるチョーキングというか、跳ねる音が入る
ブライトな、フランジャーがやや効いたギターサウンドというか
弦が新しい感じ、、、というのも変か、ギター音は煌びやか
ベースが反復し始める、これはプログレっぽいな
ベースが延々と反復して、その上で展開していくのはもともとはサイケなんだろうか、ジャズロックかな
ジャズあ、ジャズのソロのバッキングでベースがやっていたのかも
それをかなりハキハキ、カッチリやるとプログレっぽくなる、クリススクワイア辺りがよくやるのかな
サイケは反復フレーズだな、なんとなくそういう雰囲気も感じる
「スペースロック/サイケ」というのがヘヴィメタル、ヘヴィロック界隈でここ最近のトレンドという話があったが
その流れも感じる
これは良い曲
★★★★☆

6.Acrophase 01:52
ギターの反復、ディレイが空間を埋める
マニュエル・ゴッチング的
と思ったらドラムが入ってきた、ドラムが入ったらアンビエント感
ドラムは打ち込みかな、電子音感が強い
いや、生か、ちょっと揺らぎがある
空気を換える、アルバムを組曲として考えた時の場面転換
でもこれもサイケ・スペースの流れかもなぁ、Blood IncantationのB面やDMLのアメリアも思わせる
★★★☆

7.Phantom 04:36
雰囲気が変わりバラード的、歌メロの印象が強い
ボーカルが歌い上げる、バッキングはジェント的だがインド的、パキスタン的バラード
BloodywoodのYaadでも感じたが、なんというか山岳地帯っぽいメロディ、雄大さと登っていくようなメロディがある
途中から場面展開して言葉が小刻みになっていく、雰囲気が変わる、浮遊する様な
ドラムの手数は多い、これ一人でやってるのか、パーカッションはないよな
手数が多い、先ほど書いた通り「速い」というより「細かい」
ポリリズム感が強い、タブラ的(あそこまで高速、どこまでも時間を分割していく感覚まではないが)
ギターが刻む、カッティングとリズムがポリリズム
この辺りの緊迫感の作り方は中央アジアの伝統音楽にも通じるな、HaSsaKとか
やはり曲構成というか、発想の原点が西欧とは少し違う気がする
当然、国が違えば音楽シーンも違い流行も違う、自然と耳に入ってくる音楽が異なるから影響が出る
★★★★★

8.Flash Your Bones 05:54
これも歌メロが強い、前の曲に近い雰囲気
洗練されている、面白いな
HakenのVirusは前半が洗練で後半どんどん長尺というか濃くなっていったが
こちらは逆のようだ、前半が濃くて後半は洗練に進んでいる
素晴らしいクオリティだけれどややB級感というか、普遍性に難を感じていたが後半はけっこう普遍性があるかも
和音の感覚がやはり独特、パキスタンの音楽、宗教音楽・古典音楽からのルーツの差を感じる
多重に重なるリズムや声、同じ和音で反復する展開などがうまい、というか、自然
むしろ西洋的なメロディに拙さがあるかと思ったが、後半になるにつれて不自然ではないメロディできちんと洗練されていく
個人的にツボ、中央アジア+プログレメタルということで期待される音像にきちんと答えている
ただ、フォークメタル感はない、パキスタンと知っているから「なるほど」と思う音像
そもそもサイケってインド音楽の影響もあるからね、同じ展開を延々と繰り返して盛り上げていく
そういうことをさせたら中央アジアの方が本場
フェードアウト、余韻を残して去っていく
★★★★

全体評価
★★★★★
ややプロダクションが悪くごちゃごちゃしている。パキスタンのバンドと考えるとかなり音は良いけれど。
聴いていて心地よいしメロディも良い
何度も聴きたくなる、で、聴いているうちに好きになるタイプの音楽
グロールも出てくるけれど、何気に音像が丸みを帯びているというか激烈性は強烈ではない
そのあたりがやや純朴というか、プロダクションの甘さを感じる部分もあるのだけれど
演奏はハキハキしているけれどどこかサイケというか酩酊感がある
最初は刻みとグロールとかが出てきたから暴虐性、アグレッションの視点で聴いていたのだけれど、音楽によって想起される音像がだいぶ違う
インド音楽はサイケのルーツのひとつであり、考えてみたら自然なルーツとしてそういう要素があるのだろう
ドローン的な反復、同一コードでの展開、リズムが細かくなっていく感じなど、骨子が活きている
一聴してぶっ飛ばされるというより、聴いているうちに完成度の高さがジワジワ効いてくる
理性的な現代的な構造と、酩酊するルーツミュージックがミックスされた面白い音楽

ヒアリング環境
朝・家・ヘッドホン

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