Silk Sonic / An Evening With Silk Sonic
総合評価 ★★★★☆
「完成された消費財」であることを目指したような音楽。最近のBLMだとか少しさかのぼればトランプ政権への批判だとか、メッセージ性が強まりつつあったR&Bやヒップホップのサウンドを純粋な音楽性、サウンドのゴージャスさに引き戻す作品であり、2000年代に戻ったぐらいの音像。ブルーノマーズはハワイアンであり、アンダーソンパークは韓国とのハーフ。そうした「注目されないマイノリティ」である彼らが「完全なるポップスで注目を惹こう」というのはまさにUSの音楽、「擬態の歴史」の系譜に連なる完璧な作品。ユダヤ系やアイルランド系は移民の中では社会階層が低く、だから実力主義のエンタメ業界の中で力を発揮した。黒人もそう。今はそれがアジアやオセアニアン(ハワイアン)になるのだろう。フレディマーキュリーが開いたLGTB+への道もだいぶ大きくなったが、K-POPと並んでアジアンの道を切り開くムーブメントも静かに起こっているのかもしれない。とても音楽的に完成されていて、外向きのエンターテイメントとして完成されているがゆえに「そこまで武装しなければならない内面」と「完璧な音像で攻めて出ようとする強い意志」を感じる名盤。アルバムそのものはあっさりと終わるというか、「何度もリピートしたくなる」ところで終わっている。これも戦略だろう。
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1.Silk Sonic Intro 1:03 ★★★★
オープニング、とにかく陽性で良質なエンターテイメント感がある音作り。
2.Leave The Door Open 4:02 ★★★★☆
ムーディーでメロウなオープニング、ゴージャス。だけれど安っぽさはあまり感じない。音にオーガニックな感触がある。夏のアイスのようにさらっと溶けていく。
3.Fly As Me 3:39 ★★★★
ファンキーなベース、ビート。ヒップホップ的な展開に。メロディではなく言葉を紡いでいく。健全なパーティー、18禁なエロティシズムは感じない。マルーンみたいなファンクなポップロック感もある。ただ、シャウトはけっこうソウルフル。
4.After Last Night 4:09 ★★★★☆
メロウなナンバー、女性の声が入ってくる。ちょっとピロウトーク感。ただ、吐息は薄目。最近のラテン系みたいな濃密な絡み感はない。セルジュゲンズブールとかに比べれば超健全。Rケリーみたいな、メロディアスでメロウなR&Bだけれど、ちょっと2000年代とか、少しレトロな、2020年、BLMで尖りすぎたR&Bを揺り戻すような音像になっている。ブルーノマーズはハワイの人だし、アンダーソンパークは韓国とのハーフだからちょっと客観視できてるというか、むしろメタ的な視点があるのかも。
5.Smokin Out The Window 3:17 ★★★★☆
メロディアス、ちょっとかすかに入るシンセが80年代的だが、歯切れの良さ、リバーブの少なさは00年代的。BLMいや、トランプ批判で先鋭化する前の時代に戻った音像というか、あるいはこれがバイデンになった今の空気感なのか。ちょっと懐かしい感じの、ねっとりとしたメロディアスな音像だがどこかポップであっさりした音像。カーティスメイフィールドとか、70年代ソウル的な感じも当然地続きだからあるが、音像的にはそこまでレトロではない。とはいえ2021年的ではないというか、ちょっと昔に敢えて針を戻している、意思を持って戻している感じ。
6.Put On A Smile 4:15 ★★★★
スロウテンポなトラック。さわやかなメロウトラック。セクシャルアピールや物語性、「文科系のためのヒップホップ入門」という本があって、そこでは「ヒップホップというのは人間関係が重要」ということが書いてあった。それを読んでなるほどと思ったのだけれど、要はYoutuberみたいな感じなんだよね。その世界の中で誰がどうした、とか。純粋に一つのコンテンツとして完結するのではなく流れ、全体の物語の中で消化されていく。それを批判するつもりなく、それはそれで面白いのは分かるけれど、1曲で勝負する感じではない。その本の中で例示されていたのは、著者は大学の教員なのだが生徒にヒップホップに詳しい生徒がいるのでヒップホップを教えてもらうことになった、と、すると「○○と○○がビーフ(けんか)しました、ヤバいっす」みたいなことばかりが来る、と。「○○という曲の○○の部分が○○のオマージュでかっこいい」みたいな世界観じゃない、と。それは確かになぁ。でも、そういうところから引き離して純粋に音楽に戻している、音楽的なうまみを見出してメインストリームで成功しているのがブルーノマーズやジャスティンビーバー、テイラースウィフトだと思っていて、それとアンダーソンパークが組んだ本作に期待されていた通りの音楽的にハイクオリティな作品。
7.777 2:45 ★★★★
ビートが強め、90年代のヒップホップみたいな。C+CミュージックファクトリーとかMCハマーとか、能天気なヒップホップ。まだ誰と誰が、とか、主義主張より音としての面白さを追求していた感じ。ブルーノマーズもアンダーソンパークも辺境というか、「イケてるグループ」とは違う属性を持っているから、音楽的な楽しさでのし上がっていったわけだ。
8.Skate 3:23 ★★★★★
ソウル、ゴージャスな響き。王道感があり、さらっと流れていくけれど自然いなじむ、フィットする感覚がある。ある時期からクレイジーケンバンドが目指しているのはこういう音像なんだろうなぁ。そういえば777はクレイジーケンバンドのアルバム名だけれど。マイノリティ、注目すらされないマイノリティのための祝祭。
9.Blast Off 4:44 ★★★★☆
テンポよく進む。それほど大仰なアルバムではない。さっくり終わる。何か考えさせるとか、聞いた後に重さが残るとかそういうことはない。あっさりしていて何度もリピートできる、妙な中毒性がある。そういう「消費材としての完成度」を追求した作品なのだろう。さわやかでスロウなナンバー。フリーソウル的な。