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Mister Misery / A Brighter Side of Death
Mister Miseryは2018年結成、2019年デビューのスウェーデンのメタルバンドで、ホラーロック、日本で言えばV系、メタルコアやラウドロックに分類されそうな音楽性です。本作は2021年リリースの2ndアルバム。前半はUSというか世界市場を意識したようなメロディで、UKメタルコア的だが、後半、スウェーデン感・北欧感が増してきて良い感じです。
1.Ballad of the Headless Horseman 04:36 ★★★☆
夜道を歩くような音、荘厳なオーケストラ、馬のいななくような音から高速でたたきつけるようなメロディアスなリフがスタートする、猛烈な勢いでスタート。ボーカルが入ってくる。ボーカルはかなりシアトリカル。ホラー・ロック、ショック・ロック。グロウル気味だがデスボイスではない。ブリッジからはメロディ展開しメタルコア的に。Amaranthの女性ボーカルがないバージョンというか(Dynaztyよりはアグレッション高め)、北欧的なメロディ展開。リフにオーケストレーションのキーボードが絡み合う、Cradle Of Filth的なホラー、ゴシック風味の伴奏、ギターソロも優美でメロディアス。コーラスはメタルコアというよりメロコア的か。
2.Buried 04:25 ★★★☆
グルーヴィーなスタート、うめくような声が入ってくる。そのまま彷徨へ変わり曲がスタート。グルーヴは重めだが実際の音像は低音はそこまで強調されておらず、伴奏は歪みも少ない、ディストーションギターのエッジはあるがキーボードの幽玄さ、華美な印象が中和している。ドラムはそこまで激烈、エクストリームではない。コーラスになると日本のV系、ラウドロック系にも近いメロディ展開。ボーカルが多層に重なる。北欧的なメロディだがフィンランドのような「転調感」は少ない、スウェーデンのバンドらしい。途中、デジタルっぽい四つ打ちのリズムも少し出てくる。モダンな手法を取り入れている印象。曲が終わったと思ったらリフレイン。
3.Mister Hyde 05:41 ★★★
哀切でやや不穏なピアノのイントロ。穏やかかつ荘厳に展開していく。1分ほどイントロが続き、音の塊が飛び込んでくる。彷徨とギターリフ。このギターリフの塊感はAmaranthっぽい、最近のスウェーデンのメタルのプロダクションというか音作りという感じ。低音は控えめで中音に寄っている音像だが勢いは感じる。コーラスがなんというかちょっと一昔前感がある、出始めのころのエヴァネッセンスとか。高品質で安定はしているが、少しメロディセンスが古めというか、新規さにかける。ギターソロの切り込み方とかはセンスが良いのだけれど。あと、曲の展開の作り方、ドラマティックな緩急はうまい。
4.Burn 04:02 ★★★
「Burn」の一言からスタート、魔女の呪いか。デジタル加工されたスクリーム気味のボーカル。マリリンマンソン感。たたきつけるようなサウンド。ブリッジからはメロディアスになる。歌メロに光るものは少ないが曲全体の構成で聞かせ切る力がある。
5.Devil in Me 03:56 ★★★★
SEの使い方が雰囲気を盛り上げる。比較的スロウというか引きずるようなリフ、じわじわと迫ってくるテンポでスタート。ボーカルは冒頭やヴァースではグロウル気味の曲が多いがこの曲もそのスタート、だんだん曲が進むにつれてメロディアスに。ややシアトリカル、演劇的、オペラティックなブリッジを経て再びヴァースへ。いや、これブリッジじゃなくてコーラスか。毎ケミカルロマンスのブラックパレードも彷彿させる。あれよりは暗黒性というか耽美感が高い。メロディアスでキャッチ―さはあるが溌剌としたUSメロコア感は少なく、やはり北欧メタルの冷たさ、暗さは感じる。
6.I'll Never Be Yours 03:27 ★★★★☆
切り込んでくるツインリード、これはいいスタート。やや中東的なフレーズ。テンポも速め。あくまでこのアルバムの中で相対的に、だが。歌メロも良い感じ。これはアルバムの中のキラーチューン。この曲はMVないのか。ここまでの曲の中では一番個人的には好みなのだけれど。ここまでアルバム聞いてきて良かった。
7.Under the Moonlight 04:06 ★★★★
これも歯切れ良いテンポで曲が進む、後半になるにつれて盛り上がってきたな。中盤からメロディが充実してきた。ボーカルのパフォーマンスとギターリフ、メロディがかみ合っている。暗黒感とシアトリカルな感じ、演劇的な感じがよくかみ合っている。歌メロも多層的で耳に残る。前半はアメリカ市場、グローバル市場を意識してわざとメロを抑えていたのだろうか? あるいは何人かソングライターがいるのかもしれない。今まで一本調子というか、グロール→メロディアスみたいなパターンをなぞっていたボーカルが表現力が増している。
8.In Forever 03:20 ★★★★
メロディアスなイントロ、北欧ブラックメタル的な暗黒の中に潜む美麗さ、煌めきのあるリフ。この曲のヴァースは音響的にブラックメタル的だな、ボーカルが少し遠くの方で響いている感じ。コーラスからメロディアスになるパターンは同じだが、メロディに北欧感が増している。その後の怒号パートも迫力が出た。土着性を感じるというか、北欧の雪と氷、樹氷を想起させる。モノクロの世界を彷徨う旅人。ギターソロも情感がこもっている。一つ一つのパートが自然に流れていく。
9.Clown Prince of Hell 03:38 ★★★★
トレモロリフも混じるグルーヴィーなスタート、ブラックメタルの語法を織り交ぜたメタルコアというか、これはかなり暴虐性が増してきたがボーカルはシアトリカル、さまざまな声色を使い分け、スタイルもハードコア的に言葉を吐き捨てる。突然場面が変わり跳ねるリズムで曲名をコール。後半すごいな、音の坩堝になってくる。編曲能力が高い。これは歌メロにメロディアスさは無いが、その分邪悪さが増している。どちらかといえば「メロディアスなコーラスを持ったブラックメタル」的な音像に。冒頭の数曲からはここまでふり幅があるバンドとは思わなかった。すごいな。
10.We Don't Belong 04:13 ★★★☆
切り込むリフ、ツインリード、メロディがなだれ込んでくる。アップテンポ。中盤から熱量が下がらない。いいアルバム。この曲はややブリッジ~コーラスは中途半端メタルコア感が出てきてしまったなぁ。ただ、リフからヴァースの流れはかっこいい。チルドレンオブザボドム的でもあるな、王道なリフとグロールが絡み合う。メロディアスなギターソロが入ってくる。コーラスでちょっとテンションが下がるところが惜しい。
11.Home 03:32 ★★★☆
メロディアスなフレーズでスタート、北欧的で煌めきがあるメロディ。そこから氷雪が舞うような、やや幻想的な音像、エンヤのような。シンセの音をバックにボーカルが展開する。これはポップというかバラード的なのか。テンポはそれほどスロウではないが聞きやすい。歪みが少ない。とはいえメロディの質は高い。この今日はBeyond the Blackとか、ポップ感強め。ゴシックなストーリーを感じさせる。やっぱりスウェーデンはUKのシーンにセンスが近いのかな、グローバル市場を狙うと言ってもUSとは違う感じはする。オープニングのリフのメロディが個人的には好み。
12.Through Hell 06:27 ★★★☆
アルペジオというか、クラシカルなフレーズを上下になぞる。ただ、和音が少しずれている、北欧的。北欧ブラックメタルの音階。調性和音ではなく違うメロディが入ってくる。そのテンションのままヴァースへ。ヴァースはグロールとメロディアスの中間のような歌い方。音程移動が激しいブリッジのバックのリフ。そこからコーラスへ。コーラスはUKメタルコア的。うーん、最後の曲もこの路線か。とはいえリフのセンスはいい、ところどころ馬のいななきのようなピッキングハーモニクスも入る。この辺りはマーシフルフェイトやキングダイアモンドのような邪悪さがある。ブリッジまでとコーラスの世界観が違うなぁ、コーラスだけ売れ筋というか、ややありがちなメタルコアの語法。この組み合わせ自体は斬新なのだけれど、もうちょっとコーラスも北欧感があってくれると嬉しい。展開がキレイすぎるというか予想の範疇通りなんだよなぁ。コーラス以外はかなり展開がスリリングなのに、コーラスでまったりしてしまう曲が多い。ギターリフ、ギターソロの音色の選び方、フレーズはセンスがいい。あ、この間奏を聞いて思ったが、もしかしてアイアンメイデン的なイメージなのだろうか。
13.Ballad of the Headless Horseman (Orchestral Version) 04:22 ★★★
1曲目の別バージョン、らしいが、ピアノからスタートしてオーケストラが入る。これは言われないと初聴では同じ曲とは気付かないな。ボーカルの演劇度が増している。やや裏声も交えながら歌う。この歌い方が日本のV系やUKのメタルコアバンドっぽいんだよなぁ。とはいえ声色をいろいろ使える器用なボーカリストなんだろう。しっかり歌い上げる。バラードで締めてアルバム終了。
総合評価 ★★★★
最初数曲聞いた時点では同じスウェーデンのAvatarのような感じかと思った。中途半端なUKメタルコアへの接近というか、北欧らしさが薄く、メロディセンスがやや凡庸かなぁと。とはいえリフの作り方や音色の選び方、編曲のセンスがかっこいいので聞き続けていたら6曲目からテンションが上がる。かなり北欧感が増してきてブラックメタルの手法も多く出てくる。激烈性というか、しっかり自分たちのオリジナリティ、ルーツに根差した音の芯が出てきて熱量が増す。その視点で聞いていくと他の曲も魅力的に見えてくる。「ああ、こういうことができたうえでこのメロディや手法を選択したんだな」ということが分かるから。まだ2作目のようだが今後どうなるか、願わくば北欧色をこれ以上失わず、コーラスのメロディセンスをもっと磨いてほしい、そうなると化けると思う。