HUM / Inlet
衝撃盤10選でも選んだ1枚。前情報なく聞いた時は新人、若手バンドかと思いました。なんとなく青春感のあるインディーポップス的なメロディを、ドゥーム的な重量級の暗鬱なサウンドで煌めかせるという不思議な音像。その後調べてみたらずっと活動休止していたグランジオルタナのベテランバンドとのこと。なるほど。道理でオリジナリティがありつつ完成度も高かったわけだ。
メロディセンスも素晴らしいです。大げさになりすぎず、かといってシンプルすぎず。繰り返しのパートが多くて、「3分、4分の曲を倍に延ばすような」感じもありますが、退屈かというとそうでもなく、繰り返すことによる酩酊感と、単なる繰り返しではないちょっとした変化みたいなものが上手い。
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2020リリース
★ つまらない
★★ 可もなく不可もなく
★★★ 悪くない
★★★★ 好き
★★★★★ 年間ベスト候補
1 Waves 5:30
明るめの音、光が差すような
そこからミドルテンポのリズムが入ってくる、テンポは遅めだがキーボードの音が明るい
ベースも陽性、ボーカルが入ってくるが穏やかな声
うねりは強いが暗黒感はあまりない、浮遊するような、大きな質量の生物、あるいは宇宙船が水中花空間を漂う
ジャケットからもっと暗黒的かと思ったらそうでもない、少し牧歌的な雰囲気さえする
ただ、テンポはヘヴィで音のエッジは立っている、ドゥーム感はあるが、音が全体的に人懐っこい
声はずっと穏やか、ドリーミーとさえ言えるかも、穏やかで落ち着いている
ミルクのような、牛のような、のんびりした牛、ただ、さすがに昼間ではないか、やや暗い
粘着質な音ではある、コード進行がどこかカントリー調、だから牧歌的なのか
ゆったりと展開していく、ほぼ同じ風景、同じ進行、同じ速度で進んでいくのが心地よい
★★★★
2 In The Den 6:45
ふたたび明るめのノイズ、シューゲイザー的な音から
グルーヴが入ってくる、ベースとドラム、ミドルテンポだがノリが良い
どこか明るく沸き立つような雰囲気、祝祭的な雰囲気がある
ただ、大っぴらに祝うというよりはささやかな喜びというか、秘めた喜びというか
くすっとした笑いのような、内面的な喜びを感じる
コードが展開してポップな表情を見せる、ボーカルが入ってくる
音作りはドゥームメタルだが、歌メロ的にはインディーポップみたいだ
この組み合わせは発明かもしれないな、あまり聞いたことがない
ダウナーなのにちょっとキラキラしているというか、けだるい希望みたいな
その感覚が妙なリアリティがある、そういう感情ってあるよなぁと
青春ポップとしても聴ける感じの曲調、ただ、繰り返しになるが音はドゥーム
こういう音だったのか、これはジャケットから予想したのと違う
Discogの分類は「Space Rock」になっている、うーん、なるほど、、、まぁ言われてみれば
ちょっと浮遊感があるが、サイケデリックまではいかない
酩酊感はあるもののマリファナとかドラッグ的な酩酊感はあまり感じない、コードが明るいからね
(酒で)酩酊して聴くと心地よいだろうけれど
これはパーティーソングかも
反復するリフ、リフそのものはロックンロール的なコード、その上に明るいキーボードの高音が和音を鳴り響かせる
★★★★☆
3 Desert Rambler 9:01
シンセの和音が入ってくる、しばらく和音が続いた後グルーブが入ってくる
リフが続く、リフの上で先ほどの和音が続く、明るめだが能天気さはなく、少し陰鬱な感じもある
暗黒までいかず、やはりけだるさというか、平熱な感じ
喜怒哀楽が含まれた平熱、ボーカルが入ってくる
ボーカルはけっこう高音、音の塊の上の方に入ってきた
ゆっくりしたリズムだがけっこう体に入ってくる、体が揺れる
ゆったりとしたリズム、音が弾いてベースとかすかなアルペジオが残る
ボーカルが入ってくる、今度は落ち着いた中音域に降りてきた
つぶやき、とまではいかないが静かな声
BPMは変わらないがややリズムが後ろノリになる、減速していくような感覚がある、沈み込んでいくような
実際に少しづつ遅くなっているのだろうか、、、いや、ノリは一定だな。体を揺らしてみると分かる
つぶやくような、夢見るような、まどろむ音世界
音数が少しづつ減っていく
シンセの和音だけが残る
そこにリフが入ってくる、少しリフは展開したかな、リフの上で夢見るようなシンセが続く
ふたたびやや高音のボーカル、音の塊の上の方に声が入ってくる、叫ぶ感じや声を張り上げる感じはない
淡々としているが、高音なので多少声は張っている
ゆっくりと進むような、時の流れがゆるやかになるがそう退屈ではない
音自体は明るくて爽やかな感じさえする
延々とリフを繰り返して、少しギター音が加えられる
おお、これは酩酊・催眠的だなぁ、ほとんど展開しない、繰り返し
うねりきって終曲
★★★★
4 Step Into You 4:04
コード展開が進行する、これは歌モノ的なコード感
最初からコードが結構進行している、コードカッティングがそのままリフになっている
ボーカルが入ってくる、ちょっとブルーオイスターカルトっぽいメロディライン
歌い方が穏やか、ああ、「冷たい狂気」か
このバンドからはあまり狂気は感じない、喜怒哀楽を含んだ平常、日常、といった感じがする、等身大というか
その描き方が「なるほど」と思う
何気ないメロディ、だが轟音というか、音の塊でかき鳴らされる
音の塊はヘヴィ、いろいろな音が飛び回る、ボーカルは淡々と歌っているが存在感はある
ギターリフも入ってくる
★★★★★
5 The Summoning 8:31
ヘヴィなリフ、サバス直系というかドゥームな感じ
後半はけっこう大曲が続くんだな
これは平常、日常というよりドラマティックな感じがする
リフの上にギターフレーズが入ってくる
そのままボーカルが入ってくる、ボーカルもややシリアスな表情に聞こえる
何かドラマを感じさせる
リフがメロディアス、コード的なリフが多かったがこの曲はリフもフレーズとして独立している
リフの上にハーモニクス的な響きのギターフレーズ、出てきては消えていく
ボーカルへ、音が増えている、うねりが多重化する、べーすのうねり、ギターのうねり、ボーカルのうねり
いくつかの波が起きて渦になる
ふたたびリフが出てくる、これは正しいドゥーム
ただ、メロディがしっかりとある、メロディにはどこか瑞々しさがある
ヘヴィネスなまま終曲
★★★★
6 Cloud City 5:17
ギターによるつま弾くようなフレーズ、それがそのままリフになる
引っ掛かりがある、やや音響的なリフ、変わったセンスだな、UKのバンドだろうか
でもなんとなくカラッとしている、USな気がする
こないだGama Bombで北欧かと思ったら北アイルランドだったからなぁ、国あては難しい
それぞれシーンの違いというか、そういうものはあるからなんとなく分かる気はするのだけれど
ちょっとこの曲は音響的な響きがある
シガーロスとか、ヘヴィネスだけでなくギターがちょっとキラキラするというかオーロラのようにゆらめく
反復するリフとかはドゥームなのだけれど、高音にややキラキラとした残響音がある
寂寥感、荒涼感、暗さよりは煌めきや陽光を感じる
これはボーカルの平穏な感じと、ちょっとドリーミーな、どこか浮遊感のある音響効果があるだろう
そういえばタイトルもクラウドシティ、雲の都市、か
確かにゆらゆらと、陽炎のような感じの曲
爽やかさがある
★★★★
7 Folding 8:19
ここから8分台の大曲2連発か
ミドルテンポで比較的明るい始まり方、どこか青春ポップス的なコード
だが、不協和音が一部入ってくる、ノイズ的な
そういえば音のノイズ成分も多いな、穏やかな世界観、メロディが主だがノイズや不協和音がちょっと混じって不穏な感じ
昔の写真にある傷のような、セピア色の思い出、青春なのだけれど折れ目とか汚れとか
うん、曲自体は青春ポップス的な作りだ、青春ポップスというのもあいまいだな、インディーポップというか
はじけるほどの明るさはないが、淡々と、だけれどポップなメロディ
ギターポップ、と言った方がいいのかな
同じコード進行がループし始める、少しベースがずれた音が入る
全体として穏やかな中にやや不穏な響きが混じる
反復が続く、この同じパートを繰り返す、というのが面白い効果を生んでいる
音が減っていく、U2のようなパートに、もしかしてこれも北アイルランドのバンドかな
エッジのような、反響が多く音数は少ないギターが空間を埋めていく
シンプルなドラムとベース、その上に舞うギターの音
ボーカルが入ってくる、これはギターポップ、ロックの音像、ドゥーム感は全くない
4分の曲を2倍に伸ばしているような、うーん、単に間延びさせるのではなくその情感をもっと掘り下げるというか
残響音のような音がループし始める、グルグルと音が回る
ところどころ音が飛び交う、それほど音数は増えてこない、少しづつ、少しづつ
レコードの音飛びのような、回転する、繰り返す音
ここは前衛的だなぁ、思い切ったパート
ここだけだと「なんじゃこりゃ」なのだけれど、アルバムの流れとしてみるといいアクセントになっている
よくこういうことを思いつくな
そのまま終曲
★★★★☆
8 Shapeshifter 8:01
像の鳴き声のような、遠くで響くディストーションとリバーブが効いたギター
その上にボーカルが乗ってくる、ニューウェーブ的
メロディアスなリフ、ボーカルもメロディアス、曲はスローテンポ、だんだん遅くなるような錯覚がある、後ろノリだな
拍に合うギリギリぐらいのテンポでドラムが叩いている、ので、後ろに引っ張られる(遅くなる)感覚がある
メロディが入ってくる、シューゲイザー的な、空間を埋めるメロディアスだがノイジーなギターサウンド
チリチリとしたホワイトノイズ
抒情的なメロディ
これは明るさがあまりない、が、そこまでヘヴィでダークでもない
やや落ち着いた、シリアスな感じ
音の響きは空間的、デヴィンタウンゼントのオーシャンマシーンにも近いな
ああ、デヴィンに近い音作り、というのはあるかも、メロディセンスはだいぶ違うが
お、ドラムがテンポアップした、それほど早くなるわけではないが、小走りぐらいの感じにはなる
加速感がある、青春的
ボーカルが戻ってくる、生々しい声、あまり残響がない
バッキングは残響しまくりの夢見るようなギターだが、ボーカルはつぶやくような、生身に近い声
完全にギターポップの音世界、コーラスも入ってくる
だけれどベースはちょっと不穏に蠢く
少しさびしさ、寂寥感が出てくる
かける、先に進む、散歩しながら聞いたらいいだろうな
★★★★★
全体評価
★★★★★
AOTYランキングでメタルのジャンルに入っていたし、ジャケットも暗めだったのでもっと暗黒的な音像を想像していた
なんとまさかの青春ポップというかギターポップ+ドゥームメタルという
これは面白い効果を生んでいる、ちょっと沈む感じ、鬱々とした感じがありつつ浮き立つ感じ、明るい感じもある
全体として平常というか、日常的、平温の中に喜怒哀楽はしっかり感じるという奇跡的なバランスに
先日聞いたEmma Ruth Rundle & Thouもなんというか、普通の声とスクリームを混ぜて喜怒哀楽、さまざまな感情が混ざり合った状態を表現しているように感じて面白いなと思ったが、こちらはバンドサウンド全体でうまくそれを表している
あと、メロディセンスがいい、諄くなりすぎず、かといってシンプルで退屈すぎず
けっこう繰り返しのパートが多くて、途中でも書いたが「3分、4分の曲を倍に延ばすような」感じもあるが、それはいくつかのパート、サラッと流れる間奏を何度も反復するようなところがある
ただ、それが退屈かというとそうでもなく、繰り返すことによる酩酊感と、単なる繰り返しではないちょっとした変化みたいなものが上手い
こういう方法で長尺曲を作れるんだなぁ
アルバム全体として聞いて行くと斬新なアイデアがたくさん詰まっている
ヒアリング環境
家・昼・ヘッドホン