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betcover!! / 時間

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今週は邦楽強化週間、邦楽を聴いていこうと思います。たまたま「今後聴きたいリスト(集中して聴けるのは1日1枚なので、いいなと思ったアルバムはとりあえずリストに入れています)」を見たら邦楽が溜まっていたので、今週は続けて邦楽を聴いてみることにしました。第一弾はbetcover!!の時間。

betcover!!は1999年生まれ、東京都・多摩地区出身のヤナセジロウのプロジェクトです。本作は3枚目のアルバム。ライブメンバーである日高理樹、Romantic、吉田隼人、岩方禄郎と共にほぼ一発録りで制作されたアルバムです。

このアルバムを知ったのはnoteですね。たまたま複数の方がレコメンドしていたので知りました。最初に覚えているのは沢田太陽さんの7月-9月ベスト。

この中で唯一ノーチェックだったのがbetcover!!で興味を持ちました。他のアルバムは基本的に好きなアルバムだったので、このラインナップに入ってくるなら凄いんだろうな、と。

と思ってとりあえずリストに入れていたらうまさんのリストにも入っていたので、さらに興味が湧きました。

マーケティングで、「人間は3回見せられると買う(有効フリークエンシー3回)」という話がありますが、何度か情報に触れると印象に残るのは事実。そんなわけで期待値が高まったので聞いてみたいと思います。

活動国:日本
ジャンル:インディー・ロック、アート・ロック、オルタナティヴ・ロック
ジャズ・ロック、エクスペリメンタル・ロック、ノイズポップ、ポスト・パンク、アート・パンク

活動年:2016年-
リリース:2021年9月26日

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総合評価 ★★★★☆

面白かった。どの曲もキャラクターが立っているし、音のバリエーションもある。1曲の中に豊富なアイデアが詰め込まれていて、アルバム全体としても流れが作られている。歌メロもよく歌モノとしても楽しめる。オルタナティブロックの文脈でとらえても2021年、今の音だし、同時に今の邦楽、J-POP(日本語で歌われる、歌を中心としたメロディアスなもの、カラオケで歌える曲)を拡張している。ここしばらく邦楽をあまり熱心に聞いていないので、こちらの受容体が一回では完全に反応はしなかったが、熱量の込められた素晴らしいアルバムなのは分かる。何度か聞いて耳と脳を開発したい。

前半、けっこうプログレ的な音像が出てくる。70年代プログレ的な音。そこからポストパンク的な音を経て、シブヤ系/90年代邦楽的な音が前面に出てくる。最初は重かった感覚がだんだんと軽やかになっていく、酩酊していく感覚がある。ダークでアートな感じと、ポップで歌える感じが同居していてすごい才能を感じるアルバム。どの曲もクオリティが高い。最近のオーケンが特撮やオケミス(大槻ケンヂミステリー劇場)で目指しているのはこういう音像なのかもしれないなぁ、と、ふと。

ほぼほぼフルセットであろうライブ映像が上がっていた。曲順は違うがアルバム全体を演奏している。

1.幽霊 05:06 ★★★★☆

かなりダウナーな、スローブルース。けだるい歌、こういう感じなのか。ゆらゆら帝国みたいな。でもちょっとリズムに跳ねる感覚があるな。初期(暗黒大陸時代)じゃがたらにも近いかも。タンゴの独特の暗さ。突然「ごめんね」と割れた叫び声が入ってくる。ただ、音圧的には飛び出てくるほどではない。音で吃驚はしない。いいバランスだ。ちょっと音的には「魂のゆくえ」や「アンテナ」のころのくるり感もあるな。”ほぼライブ録音”とあったが、確かに生々しい勢いがある。後半、ピンクフロイドの”狂気”的な空間的音響。女声のあどけない声が入ってくる。なかなかサイケなロック。雰囲気があって歌メロもいいし、面白い曲。

2.狐 04:24 ★★★★☆

左右で少しずれたボーカル。実験的。そこからややアップテンポなビートに変わる。日本語だから意味が直接入ってくるが、「しっぽが見えてるよ」となかなか断片でイメージを強く想起させる言葉が使われている。言葉が音として意味が解体されるか、意味として言語頭に入ってくるか。そのはざまを行ったり来たりする音。途中、ややプログレ的な変拍子が入ってくる、フルートも入ってきた。割れたベース? ギターの音か。EL&PやVDGG的、間奏は70年代プログレ的だな。

3.あいどる 03:37 ★★★★☆

歌謡曲的なフレーズ、ちょっと不協和音感がありバルカンブラス的、いや、チンドン屋のお囃子的というべきか。鳴り物はほとんどないが。ブリブリいうベース、ジャジーなドラム、ギターポップ(相対性理論とか)なギター、それらの上に歌謡曲、ポップなボーカルメロディが乗る。得体のしれない曲。J-POPを解体して再構築しているような感じだな。

4.回転・天使 05:40 ★★★★☆

ポンポンとなるベース、オルゴールのようなギター。夢見るようなおぼろげな音像。ビートが入ってきて、夢見心地のままボーカルが入ってくる。じわじわとしたバラード。これは日本的。全体的に日本的な楽曲を海外オルタナティブロックの音像で演奏している感じがするが、この曲は日本感が強いな。なぜだろう、言葉がはっきり聞こえるからだろうか。うん、たぶんそうかもなぁ。ボーカルを抜いたらそれほど国籍、日本感は強くないかもしれない。拍の取り方が表なのでそこは日本的といえば日本的だが、こういう曲は洋楽にもあるしな。地味な曲だなぁと思ったが1曲通してみるとキャラクターが立っている。

5.島 03:36 ★★★★☆

インダストリアル、電車が通過するようなノイズ。音がクリアになりボーカルが入ってくる。軽快な曲。4曲目から「邦楽」感が強まったがこの曲も同じ流れ。日本語が意味として入ってくる。音像的にはポストパンク的な音響。ピアノも入っている。ガレージロック、ロックンロール的といえばそうか。ペンタトニックな音階。

6.二限の窓 04:13 ★★★★☆

チャルメラのような、郷愁を誘う管楽器の音。少し色あせた、セピアの追憶のような音像。学生時代の話だろうか。エフェクトがかかったつぶやくようなボーカルが右チャンネルに寄っている。シブヤ系な音でもある。ギターポップ。夢見るような音像から、後半急にエレクトリック、ハウス的な四つ打ち。ただ、上に乗る音はシューゲイズ的で、全体としては酩酊感があるトランスになっている。

7.遠い遠い親戚 03:48 ★★★★☆

ピアノの音が置かれる。ピアノ弾き語り的なスタート。ピアノの音はリバーブが少なく生々しい。ボーカルも生々しいな。窓を開けた音楽室のような。音の隙間が大きい。ライブ空間的な音作り、緊迫感があるが、音圧は揺れるから外界の音が気になる。ほぼボーカルとピアノだけの曲だが、途中からえらくノイジーなギターが入ってくる。なんというか、音の選び方がやけくそ感がありつつきちんと計算されている、「やったれ!」的な勢いと共に冷静な耳、計算された音響も感じる。そのあたりの匙加減、音としての心地よさをつかみ取るバランス感覚が高い。

8.piano 04:34 ★★★★★

水の中のような、残響音多め、すこしくぐもった音。潜る潜る。初期コーネリアス的、ドラムがサンプリングループのように反復する。前の曲がピアノ弾き語りだったのに、こちらが曲名としては”ピアノ”というのもズレていて面白い。こちらはバンドサウンドの曲。ドラムとボーカルだけになる。だいぶ無骨で、音の塊感があるダンスロック寄りのポストパンクな音。そこからボッサな音に変わった。なんだろう、この曲は奇妙な感覚がある。90年代的なのだろうか、どこか郷愁を誘う。6曲目以降でまた音像が変わった感じがする。

9.棘を抜いて歩く 03:01 ★★★★☆

ピアノ、ブラシでたたくシンバル、金物の音が空間を埋めている。少し漂うようなキーボード。嘯くようなボーカルメロディが泳ぐ。重めの前半からだんだん軽やか、浮き上がるような後半にアルバム全体で音響が変化していく。この曲は完全にJ-POPのメロディだが、途中から叫び始める、音が割れる。バラードからパンクバラードへ。エモというべきか。

10.ポポ 05:06 ★★★★

前の曲から繋がっているような印象を受ける。キーが同じなのかな。夢見るような、ドリームポップな音像。ボーカルはくぐもって酩酊している。遠くから響いてくる。日本のバンドで言えばMONOにも近い、ドリーミーな音像。ただ、ギターの単音は生々しくてバランスをやや崩して前に出てきている、いびつな感覚がある。BOaTのROROの方が近いな。ギターの音にはあえて粗さがあるのだろう。途中から性急なビートに変わる。高速スカパンク的な。やけくそなVampire Weekend的な。レコードの回転間違えてかけたような狂騒的な高速ビートになりアルバムは幕を閉じる。

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