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Leprous / APHELION

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レプラス(ハンセン病、という意味)は2001年にノルウェーで結成されたポスト・プログメタルバンドです。ボーカル兼キーボード奏者のエイナー・ソルベルグとギタリストのトール・シュルケによって結成され、いくつかのラインナップの変更がありつつ2009年にデビューアルバムを発表。その後、元エンペラーのイーサーン(ソルベルグの義理の兄弟:イーサーンの妻、スタロフェッシュはソルベルグの姉妹)のバックバンドとして実績を積んでいきます。

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アルバムごとに音像が変わるのが特徴ともいえるバンドで、ソルベルグは、ポーキュパインツリーディリンジャーエスケーププランなど同ジャンルとされるプログレッシブバンドに加えて、レディオヘッド、マッシブアタック、アルヴォペルト、スザンヌサンドフォー、ベヒーモス、プロディジーからのインスピレーションを公言しています。シュルケは、マーズ・ヴォルタのオマー・ロドリゲス・ロペス、オーペスのミカエル・オーカーフェルト、ポーキュパイン・ツリーのスティーブン・ウィルソン、ディリンジャー・エスケープ・プランのベン・ワインマンが自分のギタースタイルに影響を与えている4人としています。

本作は2021年発表の7作目で、プラシーボとの仕事で知られるプロデューサーのDavid CastilloとミックスエンジニアのAdam Nobleと共にスウェーデンとノルウェーのスタジオで録音。もともとは前作(ピットフォール)制作時に余った曲を録音してEPを作る計画だったそうですが、コロナ禍の中で完全新作のアルバム制作にシフト。ソルベルグは次のように語っています。

「パンデミックが起きたことによって、それ以前のことに感謝する気持ちが芽生えた。戻りたいと思うけれど新しい生活にも適応していかなければならない。(アルバムタイトルの)アフェリオンというのは太陽から最も遠い天体の軌道上の点であり、光から一番遠い場所。光に近づきたいと思う場所であり、そこから何ができるかを考える場所でもある。」

また、ジャケットはノルウェー中部にあるピラミッドを撮影した写真を加工したものだそうで、象徴する意味は次の通り。

「君はどこにも行けない小さな建物に閉じ込められているが、同時に、そこに行けない、どこにも行けなくとも、君を取り巻く素晴らしい世界をすべて見ることができることを表しているんだ。君はそこに閉じ込められている。

この全体的なアイデアは、僕らが過去1年半に生きてきた多くの制限の一部を物語っているけれど、同時に、僕たちは受けている制限にもかかわらず行動できたいくつもの新しいことについても触れている。」

それでは聞いていきましょう。

活動国:ノルウェー
ジャンル:プログレッシブロック、プログレッシブメタル、アートロック、ハードロック、シンセポップ
活動年:2001-現在
リリース日:2021年8月27日
メンバー:
 Einar Solberg – vocals, keyboards
 Tor Oddmund Suhrke – guitars
 Robin Ognedal – guitars
 Simen Daniel Lindstad Børven – bass
 Baard Kolstad – drums

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総合評価 ★★★★★

完成度の高さに驚いた。ノルウェーらしさ、メロディーの特異性や暗黒感、(厳しくも美しい)大自然といった良質な点はもちろんあるのだが、やはりノルウェーやフィンランドのバンドにどこか感じてしまう「田舎感、どこか手作り感、洗練しきれない感(いわゆる”北欧臭”)」もしっかり残しながらその上で洗練され、より高い普遍性を獲得している、ように思う(なお、スウェーデンやデンマークは北欧の中でも洗練されている)。このクサさを残しつつ洗練というのは酒に例えると芋焼酎だけれど高級な伊佐美とか森伊蔵みたいな。独特の風味を残しつつ洗練されている感じ(酒に例えることで伝わりやすくなるのだろうか)。

後は今回耳を惹くのが歌の強さ。ボーカルパフォーマンスも最高だし、何より歌メロが良い。ピアノ弾き語りでも成り立つようなしっかりと軸になるメロディがあり、そこに様々な音が加えられて一大叙事詩を作り上げている。いわゆるオルタナティブロックやモダンロックとは別(一緒に聞くと音が浮く)で、メタルから来たかっちりしたビートやエッジの立ったギターなのだけれど、ある特定のコミュニティ、サブジャンルに閉じるのでなくもっと普遍的な音楽的強度を持っている気がする(とはいえ先に書いた「北欧臭」はあるので聞く人は選ぶと思うけれど)。個人的名盤。

1. "Running Low" 6:36 ★★★★☆

打ち鳴らされるリズム、いきなりボルテージが高いボーカルが入ってくる、チャンバーポップというか室内楽的なスタート。ゲストでチェロやバイオリン、ブラスセクションがアルバムに参加している様子。バンドサウンドも入ってくるが弦楽器隊の音も絡み合う、浮遊感がある音像に。シガーロスとレディオヘッド(Kid Aの頃)が混ざったような。コーラスになるとロックのダイナミズムというか、エッジの効いたギターが強くなり、フックの効いたボーカルラインが出てくる。さまざまなジャンルを横断するような優美なプログレ。どこかレトロというか、王道感がありつつモダンな感じも受ける音。

2. "Out of Here" 4:14 ★★★★★

孤独、冷たさ。アンビエントで細かく鳴り響くシンセフレーズの上でボーカルが展開していく。コードはマイナーともメジャーともつかない浮遊感がある。だんだんと音数が増えてくる。今作は歌メロがわかりやすいというか魅力を増している。流れるような雄大なボーカルメロディの後ろで細かく痙攣するようなリフが空間を刻んでいく。ザ・キュアーなどのニューウェーブ、ゴシックな雰囲気もありつつ、00年代以降のオルタナティブロック、Radioheadが切り開いた空間系ポストロックとでもいうべきものと北欧メタルの暗黒の抒情性にオルタナティブロックの内省が融合している。

3. "Silhouette" 3:45 ★★★★☆

細かく刻まれるリズム、プログ的なスタートだが歌が入ると浮遊感が強まる。余白、放り出されたようにビートが消え、パルスのようなシンバルの音と断続的にならされる信号のようなベースの音。コーラスでリズムが戻ってきて推進力が増える。GojiraのAnother Worldにも近い、どこか宇宙的なサウンド。さまざまな音が入り組みながら出てくる。インダストリアル的なシンセの使い方。機械音、巨大な装置が動き出すような感覚。ただ、ビートはあくまで生ドラム、肉体の疾走感と生命力がある。

4. "All the Moments" 6:52 ★★★★★

ネオプログ的、ポンプロック的なオープニング、キーボードソロに導かれて変拍子でスタートする。本作は前作よりオーガニックなバンドサウンドに戻ったような気もするが、最近(オルタナティブロック史の振り返りで)バンドサウンド以外のものを多く聞いているから僕の耳の感覚が変わっただけかもしれないな。2010年代、2021年の様々な音響系、実験系のアルバムに比べるとかなり肉体的で、明確なバンドサウンド。各人が演奏している姿が見える。美しいハーモニーが入ってくる、ボーカルのハーモニーや雄大さを感じる、北欧的ゴスペルというか、うーん、そういえば北欧にゴスペルってあるのかな、北欧神話の神々の歌。まあ、あるのだろうけれど、そうした何かしら神聖さを感じさせる美しいハーモニー。ブルガリアンヴォイスのポリフォニーとかにも近いかな。メロディセンスはノルウェー的なので少し違うけれど、何かしら神聖なものを感じる。同時に、ノルウェーならではの寒さ、暗黒さ、特異性も感じる。アイスランドのシガーロスとの共通項を感じるのはそういう孤高の冷たさというか、自然の美しさと厳しさのようなものが通底するからだろう。ただ、コーラス部分のメロディは不思議な解放感がある。どこか大陸的というか。USとは違う解放感、あえて言えばカナダやオーストラリアに近い。英語圏のロック音楽のメインストリームからは少し離れた開放感のある音像。壮大に盛り上がる。

5. "Have You Ever?" 4:42 ★★★★

低音のソニックブームが断続的に鳴り響く、何かの工事のように。バラバラに立ち上がってくるビート、不定期に入ってくるシンセのフレーズ。ダウナーでスラッカーなボーカルが入ってくる。だんだんと音像が熱を帯びていき、祈りのような敬虔さを感じさせる透き通る裏声に。スウェーデンのSoenなどにも近い質感があるが、より特異性を感じるのはノルウェーならではか。ノルウェーによくいく知人いわく「スウェーデンは都会、ノルウェー(とフィンランド)は田舎」だそう。その分、地域性、独自性が強い。

6. "The Silent Revelation" 5:42 ★★★★☆

ややファンキーというか、ハキハキとしたカッティング。変拍子でドラムも入ってくる。超絶技巧だとか音の壁という感覚まではいかず、ちょっと複雑なリズム、マスロックという程度。ヴァースでは音が引き、ボーカルが前面に出てくる。ソウルフル、とは違う(黒人音楽の影響はほとんど感じない)がスピリチュアルな歌い方、グレゴリオ聖歌というか、やはりブルガリアンヴォイスかな。コーラスに入り盛り上がる。本作はコーラスのメロディの煽情力が高い曲が多いな。ベタとも言えるわかりやすい盛り上がりなのだが、そこにあるのはやはり北欧的、ノルウェー的なメロディ。Bjorkのポップな側面というか。弦楽器隊はスティーブ・ライヒのようなけっこうミニマルなフレーズの反復も出てくる。

7. "The Shadow Side" 4:29 ★★★★

シンセのバックの上でボーカルが乗る。弦楽器も鳴り響き、荘厳さもありつつビートは軽快で早め。反復される、民謡のようなフレーズ。これは英語詩だけれどコーラス部分はノルウェー語でも聞いてみたいな。むしろ英語の方がこのメロディには合わない。

8. "On Hold" 7:48 ★★★★☆

静謐なサウンド、もののけ姫のコダマの登場シーンのような少し丸みを帯びた音が単音で和音をなぞっていく。その空間の中をボーカルが進んでいく。3分過ぎからメロディが盛り上がる。ボーカルが天高くまで上昇し、熱を帯びる。静ー静ー動ー静的な、グランジフォーマットとも言える。弦楽器やアンビエント的なサウンドが前面に出ているのでPortisheadも思い出す優美で暗黒的な音世界。クラシカルな、構築されたハーモニー。ヴァースというか、浮遊する場面でのボーカルラインがBjork的。反復するシンセのアルペジエーター、GojiraのAnother world的。というか、ルーツをたどればクラウトロックに行きつくのだろう。シンセフレーズのミニマルな反復の上でドラマが展開する手法はクラウトロックで最初に聞いた気がする。後半につれて大仰に盛り上がる。

9. "Castaway Angels" 4:56 ★★★★★

ボーカルパフォーマンスに焦点があてられた曲。後半になるにつれてかなり独唱的というか、バンドサウンドはしっかり入ってくるのだが、オペラのアリアのようにボーカルの独唱にすべてのスポットが当たり、バックの演奏がそれを盛り上げる。迫ってくるような歌の力がある。

10. "Nighttime Disguise" 7:04 ★★★★☆

緊迫感がある、それぞれの楽器隊が絡み合うスタート。この曲だけアルバムの中で作曲がバンド名義なのでジャムセッションの中から生まれたか、各人がアイデアを持ち寄って出来上がった曲なのだろう。曲の場面がいろいろと移り変わっていくが、ボーカルメロディが引っ張るというより、バンド全体のアンサンブルが引っ張っていく、場面転換で曲が展開していくイメージ。このアルバムの他の曲はけっこう歌メロがしっかりしているというか、きちんと作曲された構築美のようなものを感じたがこの曲は各パーツからくみ上げていった、拡張の結果出来上がった建築物という感じがする(悪いわけではなく、設計の性質の差)。他の曲はたとえばピアノ弾き語りでも成り立つ感じのものが多かったが、この曲はバンド向き。バンドサウンドのダイナミズムの中で成り立っている。最終盤、グロールが出てくる。最後の最後で激情性が出てくるというは最近だとデフヘヴンのアルバムにも近い構成。


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