見出し画像

Mastodon / Hushed and Grim

画像1

マストドンは2000年にUSのジョージア州アトランタで結成されたメタルバンドです。グラミー賞のベストメタルパフォーマンスに4回ノミネートされ、2018年には受賞。過去2作もビルボードトップ10に入るなど一定の商業的成功も収め、USメタルの中堅バンドとして確固たる地位を築いています。フェスだとセカンドステージのヘッドライナーとかそういう立ち位置。専任リードシンガーはおらず、楽器隊4人のうち2人(ドラムとベース)がリードボーカルを分け合うスタイル。時々リズムギターもメインボーカルを取るので、全員が歌えるバンド。ストレートなヘヴィメタルというよりはスラッジメタル(ハードコアパンクとドゥームメタルの音像を合わせた、暗くてやや複雑な曲構成とアグレッションを持ち合わせた音楽)、ストーナーロック的な要素を持っており、いわゆる80年代メタル、商業的に成功を収めたポップメタル群とは異なる音像を持ったバンドです。本作は4年ぶり、8作目のアルバム。バンド史上初の2枚組で、総86分30秒に及ぶ大作。Metacriticでは83点とメディアからの批評も上々です。それでは聞いてみましょう。

活動国:US
ジャンル:プログレッシブメタル、ストーナードゥーム、サイケデリックメタル、オルタナティブロック
活動年:2000-
リリース:2021年10月29日
メンバー:
 ブラン・デイラー –ドラム(2000–現在)、リードボーカル(2008–現在)
 ブレント・ハインズ –リードギター(2000年〜現在)、リードボーカル(2001年〜現在)
 ビル・ケリハー –リズムギター(2000年–現在)
 トロイ・サンダース –ベース、キーボード(2000年〜現在)、リードボーカル(2001年〜現在)

画像2

総合評価 ★★★★☆

良作。1回聞いて感動まではいかなかったけれど、これはスルメ盤な気がする。ただ、長尺なので聴くのはなかなか体力がいるが。2枚組のアルバムだがけっこうくっきりと分かれていて、それぞれ個別に聞いてもいいのかもしれない。

1枚目はどの曲もフックがあり、メインストリームへの勝負作というか、「進化したマストドン」という感じ。Gojiraなどの抒情性と攻撃性を持ち合わせたモダンなメタルの流れを汲み、このバンドならではの音像を進化させつつシングルヒット、より広い層に聞かれるためのアイデアが盛り込まれている。研ぎ澄まされた作品。

2枚目はよりパーソナルというか、それぞれの曲のキャラクターが経っていて、曲構造も複雑でプログレ的。テンポもよりスローなところはスローに、アップテンポなところはアップテンポになり、パーソナルな感情がある。とはいえ、Disc-1がベストトラックでDisc-2がアウトトラック、ボートラ的な立ち位置化というとそんなことはなく、Disc-2の方が旧来のマストドン的というか、よりコアでマニアックな層の訴求しそうな、何度か聞いているうちに好きになりそうな曲が多い。

Disc-2だけだと地味な作品と言われるだろうし、Disc-1だけだとメインストリームに寄りすぎた、と不評だろう。2枚まとめて一つのドラマを作る、という作りではなく、コンセプトが違う2枚のアルバムをまとめて出すことでこのバンドの音楽性をより深く伝えることができるし、求める音楽的快楽への扉を開こうという意欲作に感じた。

2枚目を聴いて思ったが、スロウコアやサッドコアと呼ばれるバンド群からの影響も受けているのかもしれない。そもそもそれらはグランジへの対抗で生まれたので、グランジの流れを汲むオルタナティブメタルの音像を持ったバンドだから結び付けてこなかったのだけれど、その両方を持っているのがこのバンドの特性かも。特に2枚目はサッドコア、スロウコア的なメロディ、雰囲気を持った曲が多い。00年に結成されたバンド、ということで、90年代USロックのさまざまな手法を取り入れ、組み合わせて昇華し、独自の音楽性を築き上げている。

1. "Pain with an Anchor" 5:02 ★★★★☆

ドラムの連打から、だんだん近づいてきてそのまま波のような、渦のようなバンドサウンドが始まる。ただ、音はけっこう整理されている。渦巻くようなシューゲイズ的なギターサウンドだが一つ一つの音はクリアで分離している。合唱的なボーカル。メロディアス。たとえばGojiraなどとも似た音像だが、よりクリアで見通しがいい音像。ドラムの手数が多い。抒情的なバッキング、繰り返されるギターメロディにやや哀切なボーカルが絡み合う。コード進行がズレるような、オルタナティブメタルなメロディだが抒情性は高め。全体としてアグレッションはありつつ流れるような悲哀がある。音として、耳に刺さってくる感じよりは包む、酩酊する感覚がある。

ソロの後、ギターサウンドが変わり、とげとげしくなる。音の芯が入り打ち付けるような打撃感が強まる。さすがの世界観、音の世界観がしっかり確立している。そこそこ長尺だが長さを感じさせず終曲。

2. "The Crux" 5:00 ★★★★★

ややアグレッションが増す、少しアップテンポというか勢いがある。ドラムの手数が多く、ボーカルが迫ってくる。途中から抒情的なギターソロへ。この抒情性と激情のバランスが持ち味。Neurosisとかポストパンク的なところもあるが、歌メロがもっとわかりやすく、メロディアスなのが商業的成功も収めている理由だろう。アート的な完成度を持ちつつ、とっつきづらくない。ToolやRushのような感覚がある。このソロからの流れはいいな。

3. "Sickle and Peace" 6:18 ★★★★☆

浮遊するようなリフ。シンプルだが変拍子、組み合わせたマスロック感がある反復。ボーカルが心地よい。スクリームしすぎず、かといって荒々しさはあるボーカル。リフの反復はプログ的。ところどころにさしはさまれるギターメロディもセンスがいい。聴きやすさもありつつスリリングで、かつ抒情性がずっと流れている。滅びゆくマンモスとか、怪物の悲哀のような。怪物をテーマにしたジャケットが多いが、北欧的な哀切とアメリカ的なカラッとした感じの両方を持ち合わせた不思議なバンド。ウェットな抒情性があるのだけれど、どこか雄大なスケール感もあり、そこまでベタベタしていない。途中、ブルージーなギターソロ。ヨーロピアンプログレ的な、いや、欧州ロック的な湿り気、UKのパラダイスロストや、フランスのアルセストやゴジラといったバンドに近いどこか洗練された抒情性を持ちつつ、アメリカンロックの要素も持ち合わせている、というか、USのバンドだからブルース、カントリーが血肉になっている感じはする。

4. "More Than I Could Chew" 6:52 ★★★★☆

ミドルテンポのリフ、プログ的。スウェーデンのSoenとか最近のOpethにも近い雰囲気。ただ、Opethよりはもう少し歯切れが良いかも。あと、ちょっとオルタナティブロック、グランジ的なコード進行やメロディが見られる。最初のリフやそこからアルペジオで音が細かく展開していく感覚はOpethに通じるけれど、ブリッジ~コーラスの歌メロそのものにちょっとグランジ感あり。ちょっと最近のキングクリムゾン、”ヌーヴォメタル”感もあり。ソロに入ってくる、抒情的なソロが入ってくるところで曲の世界観が深まる感じがあるな。ボーカルもいいのだけれど、インスト、楽器隊がより雄弁なバンドなのだろう。

5. "The Beast" 6:04 ★★★★☆

もっとブルージーになってきた。この曲はブルースだな。展開していき、途中からテンションが上がる、プログレ的な進行に。アメリカン・プログレ。アメリカンプログレをサイケ、ストーナー的な音像でハードロックに仕立てている。70年代的な風格があるけれど、演奏技術や録音はモダン。盛り上がったパートから抒情的なソロに行き、クライマックスを迎えてからまたブルージーなパートへ戻る。大曲と小曲の組み合わせではなく、ここまでほぼ5分、6分の同じぐらいの曲、それぞれキャラが立った曲が並んでいるのが面白い。「いい曲」を並べている、短編集のような感じ。

6. "Skeleton of Splendor" 5:05 ★★★★

アルペジオから、ファンタジックというか、焚火のそばで物語るような雰囲気に変わる。ブラインドガーディアンのサムホェアフォービヨンドのジャケットのような風景を想起する。幽玄な、森の深くへ探索していくような音像。流れるようなメロディ。音響は欧州的、ゴシック的だがメロディそのものはカントリー的。マイナー調で空気感が統一されている。途中のソロ、キーボードが切り込んでくる。メタリカのアンフォーギブンとかにも近い雰囲気かも。メタルバンドがやるカントリーバラード、的な。

7. "Teardrinker" 5:21 ★★★★☆

前の曲の雰囲気を引き継ぎつつ、もう少しポップというかアップテンポになり、歌メロに焦点が当たる。コーラスはゴシックでアッパーな感じ。Ghostとかにも近い。もっと歌い方はハキハキしているというか、おおらかなボーカルスタイルだが。コーラスの歌メロが印象に残る。しっかり、このバンドならではの音像を保ちつつ「シングルヒットのポテンシャルがある曲」を作り上げている。ソロはシンセソロ。70年代プログレ的というか、ちょっとT-Square的なフレーズだな。意識していないだろうけれど。

8. "Pushing the Tides" 3:29 ★★★★☆

Disc-1最後の曲。前の曲、前々曲の雰囲気を断ち切るような、荒々しさがある曲。ややパンキッシュでハードコア的。このアルバムの中ではアップテンポで勢いがある。たたきつけるようなリフ。ちょっとホラー的なシンセ音が浮かび上がってくる。メタリカ的なボーカル。ああ、この曲はメタリカっぽいかも。Hardwiredに入っていても不思議ではない曲。音響はこちらの方がウェットだけれど。欧州メタルとUSメタルの融合感がありつつ、コーラスではしっかりメインストリーム的なメロディアスさ、フックがある。

+++

9. "Peace and Tranquility" 5:56 ★★★★☆

ここからDisc-2へ。プログ色が強い。LPも2枚組なのでここからC面か。やや音が明るめに。変拍子感が強くなった。よりレトロな音作り、ともいえるかも。歌メロは複雑だが、グランジ感はなくプログレ感が強い。そういえば、USを代表するプログレバンドって誰なんだろう。うーん、ボストンとか…? ちょっと違うなぁ。いわゆるプログレハードならいくつか思い浮かぶ。案外カナダだけれどRushなのだろうか。USってそういえば代表的なバンドが思い浮かばない。とはいえこの曲もプログレハード感があるな。あと、6分ぐらいなのだがかなり展開が多く、曲が長く(情報量が多く)感じる。今までとそれほど曲の長さは変わっていないのだけれど。Disc-1から雰囲気が変わり、プログレ的になった。

10. "Dagger" 5:13 ★★★★

迫ってくるようなオープニング、ドラムがトライバルに鳴り響き、儀式的な響きを持つ。だんだんと迫ってくるボーカル。コーラスで歌い上げる。全体として何かを捧げる儀式のような音像。Disc-1は比較的「単曲が並んだ」という感覚だったが(それぞれのキャラクターは立っていたが、雰囲気としてはそれほど変わらない)、Disc-2になると各曲でかなり場面が変わる。バラエティーが出てきた。ゴシックでダークな雰囲気。

11. "Had It All" 5:26 ★★★★

ピッキングハーモニクス、アルペジオと遠くから響いてくるようなドラム、かなり抒情性が高いというか、暗黒プログレ的な音像。Disc-1の「各曲しっかりフックや見せ場を作る」感じではなく、もっと曲の雰囲気を掘り下げている、世界観を徹底して作り上げていく感じ。スローでドゥーミーな音世界。メインストリーム向けの1枚目、よりアングラでコアなファン向けな2枚目、とでも言おうか。メロディ展開もあわただしさがなく、どっしりと無理なく展開していく。ややテンションは下がったが、決して悪くない。リラックスして聴けるというか、浸れる音像。落ち着かせるパートなのだろう。

12. "Savage Lands" 4:25 ★★★★★

テンポが上がった、中盤を経てもう一度盛り上がっていく、というところか。やはりライブ的な構造だな。90分近くなるとまさにライブだからな。ライブもある程度長くなると中だるみというか、一休みのパート、たとえばアコースティックコーナーとか、そういうものを入れることが多い。緩急をつけてより後半のテンションを上げる、という効果もある。この曲も前2曲、ダウナーでドゥーミーだったから勢いが増して聞こえる。たぶん、アルバム前半に置かれていたらまた印象が違うだろう。勢いが上がる感じがある。アップテンポで邪悪。「待ってました」感がある。Slayerと初期Metallicaを混ぜ合わせたような音像。ちょっとサタニックでスラッシー、だけれど曲展開はしっかり練られていてプログレ的な要素もある。緩急によって早く感じるので、決して疾走曲というわけではないが。

13. "Gobblers of Dregs" 8:35 ★★★★☆

前の曲からSEでつながり、次の曲へ。ここまで繋がっている曲はなかったので初めて。最後は組曲的になるのだろうか。ここで初めて8分台の曲、大曲。他はだいたい5分~6分ぐらいが多い。かなりスローなテンポ、ドゥーミーな雰囲気。遅さ、は感じるが、重さはそこまで強調されていない。音も解放感は残っている。とはいえ、コード進行、や音の響きに不穏なもの、どこかサタニックな雰囲気も入ってきた。音がクリアで、ボーカルも基本的にはクリーントーンなので、極度なローファイによる暗黒感や混沌感はないが。暗黒な世界観で前半4分を経過したところで、テンポアップというか、明るめのギターが入ってきて、浮遊するような音像、プログ的な音像に変わる。先ほどまでは這いずるスピードだったのがやや速足ぐらいのスピードに。だんだんドラムの手数が増えてくる。少しZappa的なギターソロ。マーズヴォルタのカオス感にも近づいた。

14. "Eyes of Serpents" 6:50 ★★★★☆

またドゥーミーな雰囲気に戻った。じっくりしたメロディで展開していく。スロウテンポで歌メロが展開していく。酩酊する、ドローン的なギター。スローコア、サッドコア的でもある。だんだんとドラムの手数が増えてきた。音像がハキハキしてきて、グランジ的になってきた。グランジとサッドコアは対極に位置する(とされていた)ので、両方の特徴がある曲というのはなかなか面白い。まぁ、括ってしまえば「90年代USロック」だから、かつてメタルとパンクが反目していたけれどサウンドスタイルだけなら近いものもあるよね、ということでメタルコアが生まれたようなものかもしれない。そうした音楽シーン、サブジャンル同士が融合して新しい音像になったりする。しかしDisc-2は1曲の中で展開する、静から動に、曲パートそのものも複合したような曲が多い。こういう曲はライブで聴いたら盛り上がるだろうな。「気が付くと違う場所にいる」的な驚きがある。

15. "Gigantium" 6:54 ★★★★☆

ハーモニーからスタート。だいぶゆっくりとしたテンポで曲が進んでいく。物悲しい、悲哀を感じるスクリーム。とはいえ激情まで高まらず、そこか醒めた熱量で止まる。じわじわとしたバラード。ダークな感情、質感がありつつどこか開かれた、洗練された感覚がある。ロックとしての曲のこなれ方というか、自家撞着に陥らず、ロックの王道的なパターンをしっかり踏んでいる。盛り上がるギターソロ、ドラマティックな展開。ただ、同時にどこかパーソナルで哀切な感情も残っている。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?