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2023年間ロックベストアルバム20枚

12月になりました、年間ベストアルバムの時期ですね。今年も耳と心に残ったアルバムを世界中から選んでみました。基本的にロックでいわゆるバンドサウンドです。あと、似たような音像からは1枚しか選んでいないので20枚それぞれ個性があります。順番は順位ではなくデビュー年※1が新しい順に並んでいます。若手からだんだんベテランになっていく、という並び。年代別に分けると

2020年代デビュー 3組
2010年代デビュー 7組
2000年代デビュー 5組
1990年代デビュー 2組
1980年代デビュー 1組
1970年代デビュー 1組
1960年代デビュー 1組
計 20組

ということで2010年代以降で半数(10組)。2000年代以降だと15組。昨年は1980年代、1990年代デビューのベテランを多く選んだ気がしますが今年は急に若返りました。理由は二つあって、一つは僕がよく聞くHR/HM系の大物バンドが昨年一気に新譜を出したこと。コロナ禍のためにリリースが伸びたりツアーが中止になり、各アーティストがコロナ明けに一気に新譜をリリースした印象。そのため今年は大物のリリースが「昨年リリースしなかったアーティスト」ということで数が限られます。この傾向は来年はもっと顕著になりそう。ベテランアーティストはリリース間隔が長いですからね。

もう一つは個人的な理由で、今年は旧譜を結構聞いた年でした。プレイリストを作るのにはまっていたためいろいろなコンセプトで旧譜を聞いていたのでベテランは旧譜と比べてしまうことが多かったかも。「80年代的」「90年代的」なものの評価が相対的に低くなったかもしれません。当時の音源を掘るだけでも聞ききれないので、あえて2023年の新譜からそうしたものを追おうと思わなかった。この2つの原因から、今年は若手アーティストが多く印象に残りました。

国別にはこんな感じ。

US 7枚
UK(イングランド+スコットランド) 5枚
日本 2枚
オーストラリア 1枚
メキシコ 1枚
イスラエル 1枚
チリ 1枚
多国籍国籍不明 各1枚
計 20枚

今年はUSが多めですね。個人的にもともとUK派だったんですがここ数年アメリカ音楽やUSメタルを掘り下げていたからかな。気がついたら結構USのアーティストを聞いていました。ようやくUS音楽の良さが少し分かるようになってきたようです。

それではどうぞ!

CandelaBRO / Ahora o Nunca(2023年デビュー、チリ)

チリから現れた新人バンド、カンデラブロ。CandelaBROというのは「枝付き燭台」のことでスペイン語の一般名詞。一般名詞なので検索しても燭台の写真ばかり出てきてあまりバンドの情報がありませんが、スペイン語のインタビュー記事(→リンク)によれば中心人物(ボーカル兼ギター)のMatías Ávilaは2020年からアルバムをリリースしていて、それがバンドに発展したようです。タイトルの「Ahora o Nunca」は「Now Or Never」で日本語で言うならば「いつやるの? 今でしょ!」。いわゆる「インディーズロック」で想起されるバンドサウンドを奏でています。なんとなく東京のインディーズシーンにも通じる空気感があるのが不思議。

後ろでひも付き眼鏡をかけているのがMatías Ávila

チリ、南米のバンドですがあまり南米的な複雑なリズムはなし。和音の感覚とメロディセンスに少しエキゾチックなものはありますが、ボサノヴァやMPB的な複雑な和声は感じません。この男女混在の青春群像劇っぽいアー写も含めて昨年1位に選んだUKのBC,NRにも少し近い感じがしますが、BC,NRにあるジャムバンドっぽさは希薄。基本的に現時点ではメインソングライターであるMatías Ávilaの楽曲を具現化していくというバンドなのでしょう。メロディが素晴らしいんですよ。流れるように続いていく。今年は全体的にメロディが流麗なもの、音響やリズムの面白さより、アルバム全体を通してメロディやハーモニーが流れ続けていくものを選んだ気がします。

本当に駆け出しのバンドのようで、きちんとしたMVもなくライブ映像を自分たちで撮ったと思われるものしかありません。だけれどこの雰囲気がいいんですよ。なんの加工もされていないからはっきりボーカルの上手さが伝わってきます。アルバムはけっこう音もいいし、(南米の)インディーズシーンというそれなりに制約が多いであろう環境の中でこれだけのアルバムを作り上げてしまうセンスと努力に脱帽。粗削りながらライブ映像をどうぞ。


The Shredderz / The Shredderz (2023年デビュー、国籍不明)

2023年に唐突に現れたシュレッダーズ。メタバース上で活動するバーチャルバンドでNFTを用いた活動をする。。。そうなんですが、ほとんど話題にならず。なぜなんだろう。各曲のクオリティも高いし、ゲストがめちゃくちゃ豪華。1曲目のちょっとしたナレーションみたいのはセパルトゥラのデリックグリーンだし(というかこれ彼にやらせる必要あったのか)。2曲目でソロ弾いてるのはテスタメントのアレックススコルニックだし、その次はエクソダスのゲイリーホルトやジョージリンチや、、、とにかく大物がゲスト参加。多分覆面のスーパーバンドなのかと思いましたがその後ほとんど情報が出てこないんですよね。謎。何かのイベント用のバンドだったのだろうか。実写のMVがありますがメンバーは出ず。

youtubeチャンネルもあって、バーチャルバンドらしくアニメーションでキャラクターの寸劇とかをやっていますが驚くほど視聴回数が少ない。下記のビデオ、現時点で公開3日で再生回数25回(!)。

これ、それなりにきちんと制作されているし、サイトを見てもかなり手が込んでいるし、インディーズで活動しているアマチュアバンドではない規模なんですが、大きなお世話ながら製作費をどう回収しようとしているのか心配になります。

音楽的にはいわゆる正統派HMというか、NWOTHM的な中でもかなりクオリティが高い。Steel Pantherからお下品さを取り除いてパワーメタル感を足したような感じ。欧州メロスピと違ってちょっとグラムメタル的な感じがあるんですよね。これ誰がやっているんだろう。いろいろ凝りすぎてマーケティング的に大失敗した事案なのだろうか。裏事情はともかく、2023年に素晴らしいマスターピースを生み出してくれたことに感謝。

THE SHREDDERZは、メタバース(コンピュータの中に存在する3次元の仮想空間)においてラズ、ヴィンセント、ウィーゼル、ドニー、ナイジェルという5人の音楽的不適合者によって結成されたニュー・バンド。8月にリリース予定のデビュー・アルバムには、アレックス・スコルニックの他にも、ジョージ・リンチ(LYNCH MOB)、ゲイリー・ホルト(EXODUS, SLAYER)、デリック・グリーン(SEPULTURA)、ブランドン・エリス(BLACK DAHLIA MURDER)、ダン・リルカー(NUCLEAR ASSAULT)など錚々たるゲスト陣が参加しているという。

Burrn!より

DRAGONCORPSE / The Drakketh Saga (2022年デビュー、オーストラリア+カナダ+US)

名前を見るとDragonForce + Cannibal Corpseみたいじゃないですか。そのまんまの音楽性です。より正確に言えばカニバルコープスみたいなオールドスクールデスメタルではなくデスコア。メロスピ+デスコアというありそうでなかった組み合わせ。欧州パワーメタルでもグロウルボイスを取り入れてダブルボーカルにしているバンドはいくつもありますが、このバンドはそのミックスを突き詰めて実験しているようなバンド。メンバーは5人でボーカル、ギター、ベース、ドラム、オーケストレーション(キーボード)。「オーケストレーション」の名に恥じず、シンフォニックなデスコアでもあります。

全員コスプレ感でノリノリ

基本的に活動拠点がバラバラなのでネット上でデータのやり取りで成り立っているバーチャルバンド。それぞれが別のバンドに所属しているミュージシャンですがそれほど知名度のあるメンバーはおらず。メタルのインディーズシーンの中で若手が意気投合して新しいプロジェクトを立ち上げた、といったところでしょうか。そうした「楽しんでやっている」感が最高。さまざまなアイデアが盛り込まれていて一発ネタを超えたクリエイティブな閃きを感じます。出オチかと思ったらアルバム(といっても30分弱ですが)をしっかり聞かせきるだけのアイデアが詰め込まれていて感嘆。メタルマニアなら話のネタに聞いておいて損はありません。あと、MVが全部日本のアニメがらみ。好きなんでしょう。最近こうしたバンドが増えてきました(ほかにはフィンランドのBeast In BlackとかオランダのEpicaとか)。昔からSF(たとえばブレイドランナー)やファンタジー(たとえばコナンや指輪物語)がメタル音楽の題材として取り上げられてきましたが今は日本のMANGA、ANIMEも題材に入っているようです。


Jeff Rosenstock / HELLMODE(2015年デビュー、US)

USのシンガーソングライター、ジェフ・ローゼンストック。基本的にパンクの人です。もともと1998年にThe Arrogant Sons of Bitchesというバンドでデビュー。その後Bomb the Music Industry!というバンド名に変更。このバンドはパンクロック界隈では知名度を持っています。2012年にソロ名義をデモテープをリリース。正式なアルバムデビューが2015年です。パンクってDIY(Do It Yourself)の精神があるし、(よほど商業的に成功しているアーティスト以外は)様々なプロジェクトに関わる人が多い印象。レーベルの制約をあまり受けず好きに活動しているのでしょう。

毛が多い方がジェフ(偽)

本作はとにかくメロディがいい。泣きメロ過ぎず、陽性すぎず、適度なところを攻めてきます。明るさの中に哀愁があるというか。基本的にソロなので歌モノとして成立しているのも本作はプラス。ハードな音像で攻めてくるだけでなくちょっと情けなさというか人間臭さがあるのが魅力です。


Hellripper / Warlocks Grim & Withered Hags (2015年デビュー、スコットランド)

大化けしたバンド、ヘルリッパー。バンドというか一人プロジェクトですが、ライブバンドを持っていてライブも行っています。

中の人、James McBain

本作は3作目のアルバムですがすべてにおいてスケールアップしました。もともとスラッシュメタルの要素があるブラックメタルでしたが本作では疾走感を増し、かつリフの切れ味が素晴らしい。そことMotörheadのようなシンプルな疾走曲も混ざっているのが面白いところ。ボーカルがブラックメタル由来というかかなり叫び声なのでそこをどう感じるかですが、音楽的には単音リフではなくスラッシュメタル。素晴らしいギターミュージック。「影響を受けたアーティスト」として VenomDarkthroneMegadethMetallicaSabbatMotörheadAnti-Cimexが挙げられており、まさにプリミティブブラックメタルと80sスラッシュメタルおよびパンクに影響を受けた音。それらが混然とミックスされ、かつ「新しいギターリフを生み出そう」という気概を感じます。ギターリフってほとんど80年代でやりつくされた感があり「80年代っぽさ」として利用されることが多くなった中できちんと「新しいギターリフ」を生み出そうとする姿勢が素晴らしい。


The Struts / Pretty Vicious (2014年デビュー、イングランド)

UKのザ・ストラッツ、3年ぶり4作目のアルバム。作を重ねるごとにスケール感が増しており、歌メロの魅力も増しています。凄くオーソドックスなUKロックで、最近のDef LepperdとかThunderとかThe Darknessあたりが好きな層に刺さりそう。伊藤正則氏お気に入りのバンドでもありますが納得できる良作。もっと知名度があってもいいのに。けっこう華もあると思うんですけれどね。今年の1位はこういうメインストリームロックから1枚選ぶならマネスキンだと思っていたんですが、あくまで個人的感想としてかなり期待外れ(外部ライターの起用が裏目に出たと思う、バンドだけで作曲した6曲は素晴らしい)で、そこで空いてしまった心の穴をすっぽり埋めた素晴らしいロックアルバム。

仕上がっているビジュアル

ロックアルバムってシングル曲の寄せ集めじゃなく、ライブのような流れがあるものが好みです。1曲目と2曲目でテンションが上がり、途中ちょっと中だるみ(というかリラックス)もありつつ後半に向けて熱量が高まり聞き終えてみると何らかの思い出が残っているもの。本作は流れも見事。


GEZAN with Million Wish Collective / あのち (2012年デビュー、日本)

日本のバンド、GEZAN。もともとパンク/ハードコアからスタートし、その後合唱隊を入れて本作はコーラス隊(Million Wish Collective)を含めた名義としては初のフルアルバム。より多くの人が関わるようになったからか、より多くの共感を得ることを目指して作られたアルバム。説教臭さというか思想の強さは相変わらずパンクですが、音楽的な豊饒さが祝祭感を増加させエンターテイメントとして成り立たせている。むしろ言葉が分からない方が異形の音楽としてシンプルに伝わってくるかもしれません。

コーラス隊含めたメンバー
もはや一つのコミュニティ

ヒッピーカルチャーって日本でも根付いていて、たとえばNo-Nukes活動で議事堂前のデモに行くと安保闘争にも参加したような筋金入りの人がいたりするわけですが、そういう人たちって地方で農業やってたりする人が多いイメージ。じゃがたらのOttoさんも確か農業やってたし。僕はそのコミュニティに所属していない(メタラーは基本ノンポリ)ので詳しく語れませんが、そうしたムーブメントを継ぐものとしてGEZANは自覚的であるんだろうなぁと。坂本龍一が一般社会でも知名度がありますが、もっと底流(アンダーグラウンド)に流れる頭脳警察スターリンじゃがたらソウルフラワーユニオンといった流れが継がれていくのでしょう。「メッセージとしての音楽」と「娯楽としての音楽」を両立させた稀有な1作。


Wytch Hazel / IV: Sacrament (2012年デビュー、イングランド)

イングランドのウィッチヘイゼルの4作目。70年代UKハードロック(Thin LizzyとかUFOとか)の抒情性と2000年代以降のNWOTHMの洗練を組み合わせた良作。もちろん80年代のNWOBHMの影響も感じるのですが、それよりもっとルーツにさかのぼった音像を生み出しています。この絶妙なバランス感、不思議なビンテージ感はなかなか出せない。ビンテージ感があるとはいっても2012年デビューで若手なのでフレッシュなんですよね。そのギャップが新鮮なアルバム。

どこから来たんや、と聞きたくなるビジュアル

メタル界には80年代リバイバルの流れがありますがそれを更にさかのぼってしまったアルバム。特筆すべきは流れるようなメロディ。借り物感がなく自然に聞こえてしまうのは卓越したメロディセンスがあってのこと。奇妙な例えだけれど、2020年代に生み出された70年代ハードロックの名盤と呼びたい。


King Gizzard & The Lizard Wizard / PetroDragonic Apocalypse (2011年デビュー、オーストラリア)

フランクザッパみたいな多作ぶりで知られるオーストラリアのキングギザードアンドザリザードウィザード(これなんて略すんだろう、日本のファンサイトは”キンギザ”としていたが、海外だとKGLWとか?)の2023年作。デビュー12年で24枚のアルバム、年平均2枚をコンスタントにリリースしており、2023年も本作以外にもう1枚出していて相変わらず。音楽的には基本的にサイケデリックロックでジャムバンドっぽさがあり、アルバムによってロックだったりエレクトリックっぽかったりします。

6人組

基本的にメンバーチェンジがないバンドで、一時期7名編成でしたが1名抜けて現在6名。最初期はギターボーカルのストゥ・マッケンジーがメインソングライターでしたが今ではアルバムによってほかのメンバーもかなり参加。

本作ではメタル、スラッシュメタルに接近しており、けっこう凝ったギターリフが生み出されていて驚愕。本作は全曲が4人以上の共作となっており、ほぼ全員参加で練り上げられた作品です。バンド色が強く、各楽器パートが凝っている作り。ただ、スラッシュメタルに接近と言ってもギターサウンドがメタルバンドではなくあくまでサイケデリックロック的なそれなので不思議な酩酊感と高揚感が同居しています。


BABYMETAL / THE OTHER ONE (2011年デビュー、日本)

沈黙から目覚めたBabymetal。本作が正式な4作目ですが、「もう一つのBabymetal」とかそういう煽り方をしたせいでどこか3.5作目みたいな印象もあったり。メタルバンドは設定があるバンドも多く、その最たる例が先日フィニッシュを迎えたKISSですね。日本だと聖飢魔Ⅱ。Babymetalもその系譜で、各自がキャラクターでありバンドの物語がある。その中で本作は個人的にはなんだか本編の新作というより外伝的な位置づけな気がします。リリース後に新メンバーが正式に加入したので、新章前の断章という理解でいいのかもしれない。

音楽的にもけっこう実験的で、単独記事も書きましたが現在のメタル界のさまざまなトレンドを取り入れた音作りに感じました。「ジャパニーズヘヴィメタル」の系譜からは脱却しているかも。けっこう海外でのチャートアクションは苦戦していたようですが(前作でチャートインしたオーストラリア、オーストリア、USではチャートインせず→海外Wiki)、あまりプロモーションしなかったのだろうか。海外ツアーに出かけるようなのでまたそこで話題になってくれることを期待しています。先日Nex_fest Extraで数年ぶりに観ました(→関連記事)がメタルバンド、メタルボーカリストとして一流になっていました。今のBabymetalならライブは大好評を博するはず。90年代までのメタルと、00年代からのNuMetalの両方をきちんとつなげているんですよね。こういうバンドって稀有な気がします。一定規模以上で活躍しているバンドだとA7XTriviumもそうですけど、Babymetalはやっぱりジャンルを突き抜ける力、特異性があるのでこのまま突き進んでいってほしいところ。

でも、メタルというジャンル(特に大物になると)の特性として、「長期間活動する」というのがあるんですが、果たして40代、50代、60代になっても続けるのだろうか。女性でもドロペッシュとかアンウィルソンとか現役だし、日本でも浜田麻里は健在。Babymetalはどう成熟していくのだろうか気になります。すでにSu-metalはメタルボーカリストとしての実力があるから、いわゆる「アイドル」ではない、メタルアーティストだと思うんですよね。だんだん客層がアイドルファンからメタラーに入れ替わっていくのだろうか。20代、30代のうちにレジェンドと呼ばれるバンド達、フェスのヘッドライナークラスになれるか。Babymetalという物語がどこまで現実世界に波及していくか楽しみです。


Panopticon / The Rime of Memory (2008年デビュー、US)

US産ブラックメタルバンド、パノプティコンの10作目。以前このバンドを取り上げた時にも書きましたがパノプティコンというのは刑務所の監視装置(監視塔)のこと。一人ブラックメタルバンドで"A. Lundr"ことAustin L. Lunnがすべての楽器を演奏しています(打ち込み等もあり)。アメリカーナ音楽を取り入れたブラックメタルというのが特徴で、似たバンドとしてはWayfairがいます(Wayfairも今年「American Gothic」という新譜をだし、こちらはアメリカーナ音楽を前面に出した出来)。

ただ、本作のパノプティコンは朴訥としたアメリカンカントリー的な手触りも多少は残っているものの(冒頭のアコースティックパートとか)、北欧というか寒冷地ブラックメタル感との共通項が強くなっている。それもそのはずで、もともとアメリカ中東部のケンタッキー州(ナッシュビルがあるテネシー州のとなり)で活動していたのですが、いつからかミネソタ州のエリーに転居。エリーってカナダとの国境というかアメリカの中でも(アラスカを除けば)かなり最北に近いところにある街で、普通に冬は氷の世界。そういうところに引っ越せばそりゃ寒冷地を描き出すわ。

寒冷地!

一人ブラックって、その人の心象風景が出やすい。というか、「作り手の心象風景が描き出されたもの」が名作になるジャンルだと勝手に思っています。本作はそういう作り手の心象風景や生活が垣間見える素晴らしい作品。別に荒涼としているわけではなく、どこか牧歌的な感じもあるんですよ。シンフォブラックのように大仰なドラマティックさはなく、ゆったりと曲が進んでいく(どの曲も長大でかつ展開はそこまで激しくない)。だけれど心地よいし熱量がある。音楽としての純度が高いアルバム。USのSSW的なブラックメタルとでも呼ぶべきか。音像は極端(叫び声とか)だけれど、妙な静謐感と清涼感があります。

特にMVなどはないのでライブ映像をどうぞ(アルバム自体は上のbandcampのリンクから全曲聴けます)。


Paramore / This Is Why (2005年デビュー、US)

00年代以降のUSロックシーンにおいて数少ない存在感を放っていたパラモアの新作。オリヴィアロドリゴがパラモアからの影響を公言して(パクリ騒動→クレジット追加、などもあり)話題になったりしましたが、本人たちも見事なニューアルバムをリリースしました。

パラモアはけっこうメンバーチェンジがあるバンドで、ボーカルのヘイリーウィリアムズとその時のギタリストが組んで作曲するスタイルのバンド。デビューから3作は当時のギタリストのジョシュ・ファロと組んでいましたが4作目からは現在のギタリストであるテイラー・ヨークとコンビを組んで作曲しています。これ、ドリカムで言えばベース(中村雅人)が変わるみたいなものでけっこうな変化だと思います。本作はドラマーのザック・ファロも全曲で作曲に参加。なお、脱退したジョシュとザックは兄弟で、一度はザックも脱退しています。ただ、その後ザックは復帰。現在は3人組。テイラーとヘイリーは付き合っているそう。バンド内でいろいろ男女間であると大変そうですね。ABBAとかフリートウッドマックとかも結局分解したし、、、でもまぁ、バンドの平均継続年数で言えばむしろ家族でやった方が長いのかも。カントリーとかはファミリーバンド多いですし。

本作はけっこうポストパンク的な音像からスタート。ひねくれた感じも受けます。タイトル曲の「This Is Why」からXTCの「This Is Pop」を僕が連想しているからかもしれませんが。なんだか変な角度から差し込んでくるギターリフ。本作は作られた感じがあまりせず、自分たちの表現を掘り下げたような、どこかパーソナルな響きがあります。きちんとロックバンドとして機能しているアーティストがメインストリームで勝負している、新しい表現を切り開いているのは嬉しい。


Baroness / Stone (2004年デビュー、US)

USのバロネス、気が付くと来年デビュー20周年なんですね。最近のバンドだと思っていたけれどけっこうベテランなんだなぁ。Mastodonとほぼ同期ですね。メンバーの一人がビジュアルも手掛け(絵描き)、とにかく独自の世界観というか美意識を感じさせるバンド。けっこうメンバーチェンジが多いバンドで、残っている創立メンバーはボーカル兼リズムギターのジョン・ペイズリー(絵描きでもある)のみ。2017年にリードギターがジーナ・グリーンソン(シルクドゥソレイユでギターを弾いていたこともある女性ギタリスト)に変更。男女混合バンドになっています。

右後ろの髭がペイズリー

ちょっと音が遠いというか、霞がかったような音像が特徴。少し音自体が煙っているんですよね。煙の向こうに見える景色みたいな。不思議な質感を持ったバンド。音像もけっこう力強いロックサウンドなんですがどこか耽美さがある。そんなにゴシックな要素はないのに美意識を感じさせるバンドです。だいたい3-4年おきにコンスタントにアルバムをリリースしており、本作も4年ぶり6作目。歌メロがかなり人懐っこい感じがします。アルバム全体で陶酔感があるアルバム。


Rodrigo y Gabriela / In Between Thoughts… A New World (2002年デビュー、メキシコ)

南米からギター二人組で衝撃のデビューを飾ったロドリゴとガブリエラもデビュー20周年を超え21年目に突入。ずっとカップルだった二人は数年前に破局したそうですが音楽パートナーとしては継続を選んだようでこうして新譜が届けられました。破局の前後はちょっと暗めの作風だった気もしますが、本作は吹っ切れたのか往年のキャッチーなメロディが戻ってきた印象。というか久しぶりにアーティスト写真を見たらだいぶサイバーパンクになっていて驚きました。

貫禄
攻殻機動隊にこんな人たちがいたような

このユニットの特徴はもともとメタルギタリストだったリードギターがつま弾くメロディアスでベタなギター(マイケルシェンカーとかランディローズに近い)にラテンギターのパーカッシブなバッキングが絡み合うところ。この組み合わせは発明と言ってよく、ギターという楽器好きにはたまらないユニットでした。昔、マイケルシェンカーが「Thank you」というファンクラブ限定(のはずなのになぜか普通に売っていた)のアンプラグドアルバムを出して、それが日本の輸入盤市場でベストセラーになったことがあるんですが、あの感じでバッキングがフラメンコギターになった感じ。あのアルバム好きだったんですよ。リードギターが難しすぎず、ちょっとつま弾ける感じなのもよかった。彼らのフレーズを弾いてみたギタリストも多いのでは。

ギター2本だけだとマンネリというかネタ切れの恐れもありましたが、アルバムを重ねるごとにさまざまな工夫をしており、本作もあくまで主役は二人のギターながらオーケストラなどが適宜曲を盛り上げます。邪魔しない程度に壮大になっていて好印象。アコースティックとエレキも自在に使い分け。本作は久しぶりに彼ら本来のメロディの魅力、ユニットの魅力が出た好盤だと思いました。


Sufjan Stevens / Javelin (2000年デビュー、US)

USのSSW、スフィアン・スティーヴンスの新譜。スフィアンって珍しい名前ですよね。アラビックというか。両親がスブドというイスラム系信仰団体の信徒で、その教祖につけてもらった名前(意味は「剣を持つ人」)だとか。USのインディーズロックやオルタナティブロックを掘っていくとけっこう新興宗教がらみの人が出てきます。両親が小さな宗教団体に所属していて人と違う幼少時代を送った、、、的な。スフィアンの母親はかなり不安定な人だったらしく、彼が1歳の時に母親と別れて暮らすことに。その後、2番目の夫である義父に育てられたようで、義父とは一緒にレーベルをやっているなど今でも良好な関係の様子。その母親は2012年に亡くなり、その時に作ったアルバムが2015年の「Carrie & Lowell」。パーソナルかつ真摯な音楽で音楽好きや批評家から好評を得ました。

スフィアンの僕のイメージってトッドラングレンに近いんですよ。メイン楽器がギターとキーボードの違いはあれ、けっこういろいろな音遊びをするというか、音楽を「楽しんで作る」という印象。けっこうネタ的なアルバムも多く出していて、ポップ職人、音の玉手箱、実験者みたいな側面もあるアーティストです。そんな彼が赤裸々につま弾いた「Carrie & Lowell」はそれゆえの切実さ、リアリティがあった。

そして本作ジャベリンは「Carrie & Lowell」以来のパーソナルな作品と評されています。それは彼が本作を失ったパートナーに捧げたから。彼はこの作品の中で初めてゲイであることも公表しています(捧げられたパートナーが男性だった)。また、本人もギラン・バレー症候群であることを公表しており、人生的にはかなり多難の時期。その中で作られたアルバムなので内省的な響きはありますが、響きとして決して暗くない、むしろ明るさ、希望を感じさせる内容なんですよね。個人的にはFleet Foxのデビューアルバムに近いものも感じたり。アコースティックな手触りはあるのだけれど適度にさまざまな音が入っていて「音遊び」の感覚もしっかりあるし、素直に紡がれたと感じるメロディラインが美しい。


Queens of the Stone Age / In Times New Roman... (1997年デビュー、US)

ここから90年代組に。元KYUSS(よりこっちの方がはるかに有名だけれど)のジョシュ・オムを中心とするクィーンズオブザストーンエイジ(QOTSA)の新譜です。ストーナーロックというジャンルを生み出した伝説の一人であり、QOTSA名義ではストーナーロックの系譜にありつつももっと根源的な「ロック」を追及してきたアーティスト。ジョシュ・オムはパリでライブ中にテロにあったことで不本意な知名度を得てしまったイーグルスオブデスメタルのドラマーでもあります。これ、両方のバンドを90年代からやっていてたまたまQOTSAが売れたんですよね。売れた後もイーグルスオブデスメタルも続けている。

真ん中がジョシュオム

中心人物はジョシュオムですが、昔から作曲はバンド全員がクレジットされており(作詞はジョシュ)、「バンド」としてアルバムを作り上げています。バンドメンバーの変更も多かったですが今のラインナップになったのは2013年なのでもう10年か。その間に3作アルバムを出しているし、バンドとして安定しているのでしょう。

そうした「ベテランのロックバンド」が実力を遺憾なく発揮したアルバム。このバンドってどこか道化じみているというか、キャラクター性があるんですよね。あえてロックスターを演じているような。そもそもストーナーロックって「マリファナを決めながら聞く」みたいな世界観で、幻想だとかジョークだとかと親和性が高いんですよね。サイケデリックでアメリカンジョーク的な非日常性を含んだエンターテイメント、聴くドラッグ。だから「そんな真剣にとらえるなよ」的な掴みどころのなさがあります。バンド名もなんだか人を食っているし。ジョシュが参加している「イーグルスオブデスメタル」もなんじゃそりゃっていうバンド名ですよね。そういうセンス。ちなみにイーグルスオブデスメタルはイーグルスっぽくもデスメタルでもありません。人を舐めてる。


Orphaned Land / A Heaven You May Create (1994年デビュー、イスラエル)

本作は新譜ではなくライブアルバムです。オリエンタルメタルのパイオニアの一柱、イスラエルのオーファンドランドが2021年、イスラエルのテルアビブでオーケストラと共に開催したライブのライブ盤。2500人の観客の前で行われたライブだそうで、イスラエルってこういう音楽への風当たりが強いんですよ。近隣のイスラム圏の国に比べたら緩やかな印象はありますが、法的に弾圧されるところまではいかないだけでロック音楽やメタル音楽に好意的なわけではない(→関連記事)。その中でこれだけ大規模なライブと高レベルの音楽を生み出していることは感嘆です。やはり障害があると芸術は高みに向かうのでしょう。存在を賭ける必要があるわけだから純度が高まる。

左のダンサーは演出で非メンバー

本作はワールドミュージック感というか、「やはり英語圏(もちろん日本の音楽とも)の音楽とは違う」感触。メロディだったり節回しだったり、曲の展開の中のベタなメロディだったりが違います。ちょっと古臭いバンドサウンドもあったりして、けっこうベタ。でもそれがレベルが高くて洗練されているんですよね。土着性、ローカルシーンの無垢さがありつつ、その枠を超えてこうして日本のリスナーにも刺さるものがある。オーケストレーションも加えて壮大さを増したオリエンタルメタルの名曲たちはクサメロもあいまって胸を熱く打ちます。メタルは基本的に政治的にノンポリ(NSBMなど少数のかなり特殊な例を除く)ですが、それ故に「音楽の強度」「メタラー同士の連帯」というテーマは多く扱われる気がする。政治的な主義主張より、連帯すること、団結することを主眼に置いているアーティストが多く、イスラエルがおかれている対立の中においては意図せず切実な響きを持ってしまっています。


Metallica / 72 Seasons (1983年デビュー、US)

メタル界を代表するバンド、メタリカの新譜。本作の詳細は単独記事をどうぞ。単独記事の最後に「Metallica史の中での位置づけなどまた改めて書きたいと思う」と残していたので、それをここに書こうと思います。

ロバート・トゥルージロが加入してからのメタリカは過去を再構築するようなモードに入っていたと思います。それはジェイソンニューステッド加入時を振り返ってみても同じで、メタルジャスティスは改めて考えると1stに回帰しバンドサウンドを再構築したようなアルバムだった。メンバーチェンジが起きたことで過去の自分たちを見つめなおし、もう一度「Metallicaとはどうあるべきか」という確認意識が芽生えるのかもしれません。そして、ルーリードとのコラボ作(これって結構凄いことで、日本だとX Japanが谷村新司とアルバム作るみたいなものなんじゃないかな、それぐらい世代が離れている直接的な音楽的共通項がほとんどない)「Lulu」を作ったことにより「アルバムの作り方」の意識が変わった彼らが作り上げたスタジオ盤としての前作「Hardwired...To Self-Destruct(2016)」は、そうした「総括モード」を見事に成し遂げた2枚組の大作でした。そして99年、オーケストラと90年代メタルを見事に融合した「S&M」をリバイバルした「S&M2」をリリースし、メタリカの「90年代(あるいはジェイソンニューステッド時代)の総括」が終わります。ロバート・トゥルージロを迎えてからのメタリカが真にクリエイティブな共同体としてのバンドとしてのアイデンティティを確立した作品と言ってもいいかもしれない。その次の作品となる本作は何を打ち出してくるのか。

全員ほぼ同年代(1962-1964生まれ)
こうして並ぶとカークって若く見えますね、実は一番年上なのに

結果として彼らが選んだ題材は「Metallica以前」でした。Metallicaとして世に出る前、自分たちのルーツにまで立ち返ろう。生まれてからの72の季節(=18年間)、72 Seosonsを振り返ったのが本作。つまり、原体験にまで戻って「今のMetallica」を作り直したアルバムだと言えます。だから、今までありそうでなかった80年代懐古(ちょっとグラムメタル的、初期モトリー的でもある)な「Lux Æterna」からして「今までのMetallica」と「今までにないMetallica」、そして「どこかで聞いたような懐かしさ(そもそもテーマがメンバーの青少年時代だから60年代後半から80年代にフォーカスされる)」と「2023年の現代性」が共存していた。他の曲も、たとえばMisfitsみたいな「Too Far Gone?」、70年代ハードロック的な「You Must Burn!」、Luluで共にしたルーリードのストーリーテリングなソングライティングを継ぐような「Inamorata」など、今までありそうでなかった質感のアルバムに仕上がっています。

なお、1stトラックとなった「Lux Æterna」はラテン語で「永遠の光」という意味。なぜ唐突にラテン語なのか? これ、「2001年宇宙の旅(1968)」でモノリスとの邂逅のシーンに使われた曲名なんですよね。他にも映画音楽で有名な曲がありますが、Metllicaメンバーの72 Seasonsの時期を考えるとこの曲でしょう。曲の始まる前の少し不穏なSEもこのイメージからかと。

音楽だけでなく、映画やそのほかのコンテンツを含めた「自分たちの少年時代」を描いたアルバム。歌詞もこれまでになく内省的、パーソナルな内容。暗い内容も含むが、どこか明るい響きがあるのはその暗さは彼らの人生において過去のものであり、すでに昇華されたものであるからかもしれません。多くの人が知っている「Metallicaという物語」の新章として最高のアルバムでした。


Peter Gabriel / I/O (1977年デビュー、イングランド)

UK、プログレッシブロックバンドGenesisの初代ボーカリスト(2代目がフィルコリンズ)にしてソロでもヒットを飛ばしてきたピーターガブリエル、通称ピーガブの21年ぶりの新譜。もともと寡作な人ですが前作Upが2002年だったので、今回は長いですね。間にカバーアルバム(人の曲1枚、自分の曲1枚、それぞれオーケストラアレンジ)2枚を挟んだり、過去に提供した映画曲をリリースしたり、ツアーに出たりはしていたので引退感はありませんでしたが、音源としては実に久々。前々作Us(1992)とUp(2002)の間が10年、今回は約20年なので次は30年後か(ピーガブは103歳)。

さて、21年ぶりというのにブランクを感じさせない作品になっています。というかこの人化け物か。なんというかすごく自然につながっているんですよ。前作Upみたいな曲もあったり、その前のUs的な曲もあったり。ブランクの感じさせなさがむしろ怖いぐらい。後、前々作まではフサフサの甘いマスクだったのが前作で亀仙人みたいなルックスに変わったのが衝撃でしたが、前作と今作だとそんなにルックスの変化がないのも考えてみると凄い。52歳から73歳に変化してるわけですから。この20年はタイムトラベルでもしていたのか。

彼の代表曲「Sledgehammer」での変化を見てみましょう。最新2023年のライブがこちら。

こちらが2003年。

ステージアクションこそさすがに地味になっていますが(逆に70代であそこまで動き回ると怖い)、声がほとんど衰えていないしルックスはそんなに変化していません。その10年前(1993年)はこんな感じでしたから、この10年の変化の方が極端。

もともとジェネシス時代は被り物をして奇抜なパフォーマンスをする人でしたし、美男子なんだけれど自分のルックスを奇妙にいじくりまわすのが好きな人だったので彼からしてみたら2003年までの10年の変化が「様々なキャラクターに変化するピーガブ」のクライマックスだったのかも。その後はずっと同じキャラクターで通しているというか、デヴィッドボウイみたいに死ぬまでキャラクターを演じるのではなく、生身のピーガブとしてそれから生きているのかもしれません。

上述のライブビデオの通り、驚くべきは声がほとんど老けていない。もちろん多少の衰えはあり、高音域がでなくなったりファルセットがかすれたりしていますが本作はそれを補って余りあるパワーがある。アレンジにキレとエネルギーがある。また、本作はBright-SideとDark-Sideという2つのミックスがあり、「なんのこっちゃ」と思っていたんですがアルバムを通して聴くと実にいい出来。ストリーミングだと2つのミックスが続けて流れるんですよね。Bright-Darkの順で、いわばアルバムが2周する。すると、より深くに誘われるというか、「ああ、これはこうして2つのミックスを連続で聞くことを意図していたんだな」と思いました。Bright-SideはUsっぽくてDark-SideはUpっぽい音作り、とも言えるかも。Us、UPだけでなくキャリア全体との連続性がしっかりと現れていて、たとえば表題曲のi/oのサビのリズムははデビュー曲「Solsbury Hill」を彷彿させます。時空を超えて届けられたような素晴らしい作品。

MVも映像作品として凝った作品を多くリリースしてきた人ですが、今作は生成AIを用いたMV。生成AIを使った作品自体はいくつか見かけるようになりましたがPanopticon(監視装置)という歌詞に対して生成AIを使う(生成AI自体がネット上に残された人類知に対する巨大なPanopticonとも言える)というコンセプト一貫性が流石。


The Rolling Stones / Hackney Diamonds (1963年デビュー、イングランド)

現代ロックの礎とも言える第一次ブリティッシュインベンション、ビートルズと並んでそのムーブメントを牽引し、「ロック」の代名詞の一つと言えるローリングストーンズの新譜。チャーリーワッツが去り、それでも彼らは転がり続けています。

サボテンみたいになった3人

もともと「ローリングストーン」は「路傍の石」とか「転がる石」という意味で根無し草とか侮蔑する意味合いもあった。たとえばボブディランの「Like A Rolling Stone」は自分を捨てた女性(ほかの男の元へいった)に対して「お前もやがて裏切られ、路上の石のように誰にも見向きもされなくなるさ」と恨み節をぶつける曲ですが、同時に「自由人」という魅惑的な響きも含まれています。侮蔑と羨望の混じった言葉。本作で最後に収められた「ローリングストーンブルース」はマディ・ウォーターズが1950年に吹き込んだ曲であり、ローリングストーンズの名前の由来となった曲でもあります。いわば、「最後」を感じさせる曲でもある。

ただ、ミックジャガーが「すぐ次のアルバムを出すぜ」と嘯いていることもあり、本当に出るかもしれません。オジーオズボーンも自分の人生を総括するような「オーディナリーマン」をリリースした後、「通常運転」と呼べる「ペイシェントナンバーナイン」をリリースしましたからね。同じように再活性化する可能性もあります。多分、本当に終わりを意識すると裏切りたくなるのが英国人気質なんじゃなかろうか。ディープパープルも「最終アルバム」を出したあと、素知らぬ顔でカバーアルバムをリリースしたり。このあたりの年代の英国人のセンスが似通っているとすればストーンズもまだまだやらかしてくれそうです(→関連記事)。


以上! 2023年の私的ベストアルバム20枚でした。それでは良いミュージックライフを。

※1 そのアーティスト名義で最初に公式な音源(CD‐Rやデモテープを除く)をリリースした年

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