
気になった新譜 2025年1月2月
2025年、1月2月にリリースされた新譜の中で耳を惹いたものを集めてみました。12枚。メタル系(オールドスクール)、エクストリームメタル系(モダンだけど僕のフィルターを通しているので比較的オールドスクール要素あり)、ロック・ワールドミュージック系の3ジャンルに分けています。
メタル系
Century『Sign of the Storm』(2025)

バイオグラフィー
Centuryはスウェーデン・ストックホルム出身のヘヴィメタルバンド。2020年に結成され、Staffan Tengnér(ギター、ボーカル、ベース)とLeo Ekström Sollenmo(ドラム、ギター、ベース)のデュオ編成。2023年にデビューアルバム『The Conquest of Time』を発表。本作は2ndアルバムで、Electric Assault RecordsとDying Victims Productionsからリリース。
音楽性
80年代初期のヘヴィメタルを忠実に再現。Iron MaidenやJudas Priest、スウェーデンのGotham Cityなどの影響を色濃く受ける。疾走感のあるリフ、キャッチーなメロディ、シンセの控えめな使用が特徴。NWOBHM(New Wave of British Heavy Metal)スタイルを現代に蘇らせたサウンド。
リリース情報
• リリース日: 2025年1月24日
• ジャンル: ヘヴィメタル(NWOBHMスタイル)
• レコーディング: Staffan Tengnér & Oscar Ulfhedenが録音、Jamie Eltonがミキシング・マスタリングを担当
メンバー
• Staffan Tengnér(スタッファン・テングネル) – ギター、ボーカル、ベース
• Leo Ekström Sollenmo(レオ・エクストロム・ソレンモ) – ドラム、ギター、ベース
本作は80年代メタルのエッセンスを凝縮した一枚。
NWOTHM(New Wave Of Traditional Heavy Metal)のバンド。けっこう取り上げていますね。こういう系統が好きです。やはり「良い曲をそつのないプレイで」奏でるスタイル。超人的なボーカルやギターはいませんが、楽曲のクオリティはツボを押さえています。ボーカルはちょっとゴシックな感じもあり。セカンドアルバムで前作から進化。なお、2人組というちょっと変わった編成。ブラックメタルとかだと多いですけれどね。こういうオールドスタイルなメタルで少人数宅録ユニット的な構成は珍しい気も。北欧だと多いのかな。

Majestica『Power Train』(2025年)

バイオグラフィー
Majesticaは、2000年にTommy Johansson(トミー・ヨハンソン)を中心にスウェーデン・ボーデンで結成されたシンフォニック・パワーメタルバンドである。当初はReinXeed(レインシード)として活動し、2019年に現在のバンド名に改名した。これまでに『Above the Sky』(2019年)や『A Christmas Carol』(2020年)などのアルバムをリリースしている。
音楽性
『Power Train』は、疾走感あふれるリフ、壮大なメロディ、そしてシンフォニックな要素が融合したアルバムである。HelloweenやRhapsody of Fireといったバンドからの影響を受けつつ、映画音楽のような壮大さも取り入れている。前作のメロディアスな要素と、クリスマスアルバムでのオーケストレーションを融合させたサウンドが特徴である。
リリース情報
• リリース日:2025年2月7日
• ジャンル:シンフォニック・パワーメタル
• レコーディング:バンド自身のスタジオ「Majestic Studios」で録音され、Jonas Kjellgren(ヨナス・シェルグレン)がミキシングとマスタリングを担当。
メンバー
• Tommy Johansson(トミー・ヨハンソン):ギター、ボーカル、キーボード
• Chris David(クリス・デイヴィッド):ベース、バッキングボーカル
• Joel Kollberg(ジョエル・コルベルグ):ドラムス、バッキングボーカル
• Petter Hjerpe(ペッテル・イェルぺ):ギター、バッキングボーカル
『Power Train』は、Majesticaの音楽的成長と進化を示す作品である。
Sabatonのギタリストでもあったトミーヨハンソン率いるバンド。いつのまにかSabatonは抜けていたんですね。加入前からやっていたのがこちらのバンド。いわゆるメロスピなんですがシンフォニックでとにかく盛り上がる。Fellowshipとかにも近い「陽性のパワスピ」。明るくて盛り上がります。Beast In Blackみたいにディスコ色が強くはなく、あくまでバンドサウンド型です。そこにNightwish的なオーケストレーションが融合。Sabatonのメンバーになるぐらいで「コンパクトにまとまっているのにドラマティック」というアイデアの圧縮もお手の物。目新しさはないものの現在進行形の北欧パワーメタル。

Dream Theater『Parasomnia』(2025年)

バイオグラフィー
Dream Theaterは、1985年にアメリカ・マサチューセッツ州で結成されたプログレッシブ・メタルバンドである。本作『Parasomnia』は、オリジナルドラマーであるMike Portnoy(マイク・ポートノイ)が2009年の『Black Clouds & Silver Linings』以来、約16年ぶりに参加した16枚目のスタジオアルバムである。
音楽性
『Parasomnia』は、夢や意識、現実と幻想の境界といったテーマを探求した作品である。複雑な楽曲構成、力強いメロディ、そしてバンド特有の卓越した演奏技術が融合している。
リリース情報
• リリース日:2025年2月7日
• ジャンル:プログレッシブ・メタル
• レコーディング:2024年2月から7月にかけて、ニューヨーク州ロングアイランドのDTHQスタジオで録音。プロデューサーはJohn Petrucci(ジョン・ペトルーシ)、エンジニアはJames “Jimmy T” Meslin(ジェームズ・“ジミー・T”・メスリン)、ミキシングとマスタリングはAndy Sneap(アンディ・スニープ)が担当。アートワークはHugh Syme(ヒュー・サイム)が手掛けた。
メンバー
• James LaBrie(ジェームズ・ラブリエ):リードボーカル
• John Petrucci(ジョン・ペトルーシ):ギター、バッキングボーカル
• John Myung(ジョン・マイアング):ベース
• Jordan Rudess(ジョーダン・ルーデス):キーボード
• Mike Portnoy(マイク・ポートノイ):ドラム、パーカッション、バッキングボーカル
先日レビューも書きました(→記事)が、何度か聞いてもやっぱり本作はメタル度というかわかりやすさ、ベタな感じが増していて複雑さと分かりやすさのバランスが良い感じです。

Hazzerd『The 3rd Dimension』(2025年)

バイオグラフィー
Hazzerdは、カナダ・アルバータ州カルガリー出身のスラッシュメタルバンドである。2010年代初頭に結成され、これまでに『Misleading Evil』(2017年)や『Delirium』(2020年)などのアルバムをリリースしている。本作『The 3rd Dimension』は、2025年1月17日にリリースされた3枚目のスタジオアルバムである。
音楽性
『The 3rd Dimension』は、ベイエリア・スラッシュメタルの伝統を受け継ぎつつ、プログレッシブな要素やテクニカルな演奏を融合させた作品である。ギタリストのToryin Schadlich(トリイン・シャドリック)による複雑なリフやソロ、ドラマー兼ボーカリストのDylan Westendorp(ディラン・ウェステンドープ)の力強いボーカルが特徴的である。また、各楽曲にはSF的なテーマや物語性が盛り込まれており、アルバム全体で一貫した世界観を構築している。
リリース情報
• リリース日:2025年1月17日
• ジャンル:スラッシュメタル
• レーベル:M-Theory Audio
メンバー
• Dylan Westendorp(ディラン・ウェステンドープ):ボーカル、ドラム
• Toryin Schadlich(トリイン・シャドリック):リード&リズムギター
• Nick Schwartz(ニック・シュワルツ):リズムギター(アルバムではBrendan Malycky(ブレンダン・マリッキー)がリズムギターを担当)
• David Sprague(デイビッド・スプラグ):ベース 
『The 3rd Dimension』は、Hazzerdの音楽的進化と多様性を示す作品である。
カナダのスラッシュメタルバンド、と言えばVoivodが浮かびますね。ちょっとUSとは違う、独特な視点が特徴。このバンドもオールドスタイルなスラッシュメタルでありながらちょっとひねった感じもあり、曲構成が複雑。Vektorほど凝った展開ではないですが、まだまだこのジャンルにもアイデアの鉱脈が残っているんだなと感じます。

エクストリームメタル系
Retromorphosis『Psalmus Mortis』(2025年)

バイオグラフィー
Retromorphosisは、スウェーデン出身のテクニカル・デスメタルバンドである。元々はSpawn of Possessionとして活動していたが、解散後、新たにRetromorphosisとして再結成された。2025年2月21日にデビューアルバム『Psalmus Mortis』をリリースした。
音楽性
『Psalmus Mortis』は、超高速のリフ、精密なリズム、そして宇宙的なホラー要素を融合させた作品である。楽曲「Vanished」では、骨を震わせるようなグロウルとオールドスクールなクランチサウンドが特徴的である。また、「The Tree」では、人間の貪欲さをディストピア的に描き、胃を締め付けるようなソロやエイリアンの内臓のように輝くシンセサイザーが印象的である。
リリース情報
• リリース日:2025年2月21日
• ジャンル:テクニカル・デスメタル
• レーベル:Season of Mist
『Psalmus Mortis』は、テクニカル・デスメタルの新たな時代を切り開く作品である。
エクストリームメタル系はいくつか話題盤が出ていますが、一番個人的に耳が惹かれたのはこちら。やっぱりテクニカルデスメタル系だと曲の緩急があるんですよね。このアルバムは適度な抒情性もあり、展開がプログレメタル的でもある。攻撃性一辺倒ではないところがツボです。北欧メタル的なメロディアスさなのだろうか。各楽器の分離もよくプロダクションも好みです。

The Great Old Ones『Kadath』(2025年)

バイオグラフィー
The Great Old Onesは、フランス・ボルドー出身のブラックメタルバンドである。2009年に結成され、H.P.ラヴクラフトの作品から強い影響を受けた音楽を制作している。これまでに『Al Azif』(2012年)、『Tekeli-Li』(2014年)、『EOD: A Tale of Dark Legacy』(2017年)、『Cosmicism』(2019年)などのアルバムをリリースしている。最新作『Kadath』は、2025年1月24日にSeason of Mistからリリースされた。
音楽性
『Kadath』は、H.P.ラヴクラフトの小説『未知なるカダスを夢に求めて』にインスパイアされたコンセプトアルバムである。アルバム全体を通じて、夢幻的で壮大なサウンドスケープが展開され、ブラックメタル特有の激しさと美しさが融合している。Francis Casteがプロデュース、エンジニアリング、ミキシング、マスタリングを担当し、パリのStudio Sainte-Martheで制作された。
リリース情報
• リリース日:2025年1月24日
• ジャンル:アトモスフェリック・ブラックメタル
• レーベル:Season of Mist
メンバー
• Benjamin Guerry(ベンジャミン・ゲリー):ギター、ボーカル
• Aurélien Edouard(オーレリアン・エドゥアール):ギター
• Alexandre Rouleau(アレクサンドル・ルロ):ギター
• Gregory Vouillat(グレゴリー・ヴイラ):ベース
• Julian Deana(ジュリアン・デアナ):ドラムス
『Kadath』は、The Great Old Onesの音楽的進化を示す作品であり、H.P.ラヴクラフトの世界観を音楽で表現した傑作である。
gojiraやAlscestで盛り上がるフランスメタル界。昔からメタルバンドがいましたがレベルの高いバンドが増えてきました。やっぱり音作りが独特というか、USともドイツともスウェーデンともUKともちょっと違う、なんだか全体のミックスが調和したような音なんですよね。少し丸目で各楽器の分離より全体としての音響を重視しているような印象。国によってトレンドがあるのでしょう。そうした音響の中でかなりドラマティックに展開していくアルバム。北欧メロデス的な抒情的なコード進行がところどころ出てくるのも面白い。泣き、哀愁の感覚があるんですよね。良盤。ちなみにラヴクラフトをテーマにしたアルバムだそうですが、バンド名からしてクトゥルフ神話の神から取っているし、よほど好きなんでしょう。

Saor『Amidst the Ruins』(2025年)

バイオグラフィー
Saorは、2012年にスコットランド・グラスゴーでAndy Marshall(アンディ・マーシャル)によって結成されたソロ・プロジェクトである。バンド名はスコットランド・ゲール語で「自由」を意味し、ブラックメタルとケルトのフォークメロディを融合させた独自の音楽性で知られている。これまでに『Roots』(2013年)、『Aura』(2014年)、『Guardians』(2016年)、『Forgotten Paths』(2019年)、『Origins』(2022年)などのアルバムをリリースしている。最新作『Amidst the Ruins』は、2025年2月7日にSeason of Mistからリリースされた。
音楽性
『Amidst the Ruins』は、ブラックメタルの激しさとケルトのフォークメロディを巧みに融合させ、スコットランドの風景や歴史を音楽で表現している。特に「Glen of Sorrow」では、1692年のグレンコーの虐殺をテーマにしており、悲劇的な歴史を反映した深い感情が込められている。また、「The Sylvan Embrace」では、チェリストのJo Quail(ジョー・クウェイル)をフィーチャーし、森の神秘的な雰囲気を醸し出している。
リリース情報
• リリース日:2025年2月7日
• ジャンル:アトモスフェリック・ブラックメタル、ケルト・フォークメタル
• レーベル:Season of Mist
メンバー
• Andy Marshall(アンディ・マーシャル):ボーカル、ギター、ベース
• Ella Zlotos(エラ・ズロトス):女性ボーカル、ティン・ホイッスル、ロー・ホイッスル、イリアン・パイプス
• Carlos Vivas(カルロス・ビバス):ドラムス
• Jo Quail(ジョー・クウェイル):チェロ(“The Sylvan Embrace”に参加)
• Àngela Moya Serrat(アンジェラ・モヤ・セラット):バイオリン(“Amidst the Ruins”、“Echoes of the Ancient Land”、“Rebirth”に参加)
• Miguel Izquierdo(ミゲル・イスキエルド):ビオラ(“Amidst the Ruins”、“Echoes of the Ancient Land”、“Rebirth”に参加)
• Samuel C. Ledesma(サミュエル・C・レデスマ):チェロ(“Amidst the Ruins”、“Echoes of the Ancient Land”、“Rebirth”に参加)
『Amidst the Ruins』は、Saorの音楽的進化を示す作品であり、スコットランドの豊かな歴史と風景を音楽で体現している。
別にSeasons of Mistのレーベル縛りだったわけじゃないんですが、気が付いてみるとエクストリームメタル系は3枚ともこのレーベル。このレーベルの感覚が僕の感覚にフィットするんでしょう。メロディアスでドラマティックなブラックメタルというか。抒情性や旧来のメタルからの連続性をしっかり感じさせるアーティストが多く参加しているのでしょうね。そういうコンセプトのレーベルなのかな。音にははっきり傾向があります。こちらはUKの中でもイングランドではなくスコットランド、北部で、ケルト文化の影響を残す地。スコットランドは独立独歩ですからね。ロンドンとは違う。むしろノルウェーの方が近いのかも。本作もノルディックブラックメタルに接近しつつもケルト色が強く、そこはかとないUK感が残っている、スコッチならではの味わい…と書くとウィスキーみたいだな。フォークメタルファンにも訴求する音作り。あとはEnslavedにも近いかも。
ロック、ワールドミュージック系
Richard Dawson『End of the Middle』(2025年)

バイオグラフィー
リチャード・ドーソン(Richard Dawson)は、イングランド・ニューカッスル・アポン・タイン出身のプログレッシブ・フォーク・ミュージシャンである。独特の物語性と実験的な楽曲構成で知られ、これまでに『Peasant』(2017年)、『2020』(2019年)、『The Ruby Cord』(2022年)などのアルバムをリリースしている。最新作『End of the Middle』は、2025年2月14日にDomino傘下のWeird Worldレーベルからリリースされた。
音楽性
『End of the Middle』は、ドーソンのこれまでの壮大なコンセプトアルバムとは異なり、家族内の世代間の関係や行動パターンの繰り返しに焦点を当てた、より内省的で親密な作品である。アコースティックギターと彼の力強いボーカルを中心に、最小限のドラム(Andrew Cheetham)やクラリネット(Faye MacCalman)が加わり、シンプルながらも深みのあるサウンドを生み出している。
リリース情報
• リリース日:2025年2月14日
• ジャンル:プログレッシブ・フォーク、インディー・フォーク
• レーベル:Weird World、Domino
メンバー
• Richard Dawson(リチャード・ドーソン):ボーカル、ギター
• Andrew Cheetham(アンドリュー・チーサム):ドラムス
• Faye MacCalman(フェイ・マッカルマン):クラリネット
• Sally Pilkington(サリー・ピルキントン):シンセサイザー(“More Than Real”に参加)
『End of the Middle』は、リチャード・ドーソンの物語性と音楽性が凝縮された作品である。
前作も素晴らしかったリチャードドーソンの新譜。今回は前作のような2枚組ではなく1枚、50分程度の作品です。ギター、アコースティックサウンドを基調としながら、ブリティッシュトラッドの雰囲気を引き継ぐメロディ展開、重くなりすぎない声質、ギターの暖かい響き、耳を傾けたくなる魅力があります。

歌詞も秀逸というか、いかにも英国的です。たとえばGondolaはイギリスで一人暮らしをしている老女を描いていて、彼女は安いワインを飲みながらリアリティ番組を見て一日を過ごしている。彼女は後悔しながら人生を振り返り、孫娘の車の整備を手伝ったり、休暇にどこかに連れて行くことを夢見ています(歌詞の一部を後述)。
この曲は、英国の現状と緊縮財政政策について歌っている(右翼の著名人ピアーズ・モーガンや批判されている「スピン・トゥ・ウィン」のコーナーへの言及)。リアリティ番組のトピックと、英国に住む多くの住民の厳しい現実が、はっきりと絡み合っています。
Good morning Britain
おはようイギリス(※英国全土で放送されている朝のニュース番組)
A soft-boiled egg
半熟卵
Piers is on Lorraine
ピアーズがロレーヌにいる(※ピアーズというタレントがほかのチャンネルのロレーヌという番組に出ている)
Shooting pains down my left leg
左足に走る痛み
Holly and Phil can pay your energy bills
ホリーとフィルが電気代を払ってくれる(※そうしたTV番組の懸賞があり物議を醸した)
Dead wasp on the windowsill
窓辺の死んだスズメバチ
The last drops of Blossom Hill
最後のブロッサムヒル(安いワインの名前)
Hailstones on the bus up to Lidl
リドル行きのバスに降る雹(リドルはスーパーマーケットの名前)
Maruja『Tír na nÓg』(2025年)

バイオグラフィー
Marujaは、イングランド・マンチェスターを拠点とするバンドで、ジャズ、ポストパンク、ポストロックなど多様なジャンルを融合した独自の音楽性で知られている。これまでに『Knocknarea』(2023年)、『Connla’s Well』(2024年)などのEPをリリースしており、最新作『Tír na nÓg』は2025年2月21日にリリースされた。
音楽性
『Tír na nÓg』は、完全即興で一度のテイクで録音された4部構成の組曲である。バンドのフロントマンであるHarry Wilkinson(ハリー・ウィルキンソン)は、この作品を「Marujaの最も純粋な形」と表現している。サックス奏者のJoe Carroll(ジョー・キャロル)は、即興演奏中に時間の感覚が歪む「フローステート」に入ることがあると述べており、このアルバムはその瞬間を捉えたものである。
リリース情報
• リリース日:2025年2月21日
• ジャンル:ジャズ、ポストパンク、ポストロック
• レーベル:Music For Nations
メンバー
• Harry Wilkinson(ハリー・ウィルキンソン):ボーカル
• Joe Carroll(ジョー・キャロル):サックス
• Jacob Hayes(ジェイコブ・ヘイズ):ドラムス
• 他のメンバーに関する情報は提供されていません
『Tír na nÓg』は、Marujaの音楽的探求と即興演奏の真髄を捉えた作品であり、ジャンルの枠を超えた音楽体験を提供している。
一応扱いとしてはEPなのかな。この辺りは「Windmill Scene」と言われるようになっていますね。UKのサウスロンドンにあるWindmillというライブハウスでライブをするバンド達の総称。Black Country,New RoadやBlack Midi(もちろんGeordie Creepも)、Squidなんかがここに分類されています。RYMによるウィンドミルシーンについての説明は下記。

ウィンドミル・シーンとは、2010年代半ばから後半にかけてイギリス南部で勃興した幅広いライブ音楽シーンを指す。このシーンは、ブリクストンのパブ「ザ・ウィンドミル」にちなんで名付けられた。このパブは、このシーンのアーティストの多くが定期的に演奏するライブ音楽会場として、この台頭するシーンの震源地となっていた。このシーンに関連付けられている音楽は幅広く包括的なものであることが多いが、このシーンは、このシーンの多くのバンドが参加していた現代の「クランク・ウェイヴ」ムーブメントとの重なりで特に知られるようになった。結果として、ポストパンク由来の不規則な楽器編成、ポストロックに触発された実験的な曲の構成とテクスチャ、非常にシニカルでトーク・ソングのような歌詞などの特徴がすべて、このシーンに関連付けられるようになった。このような関連性にもかかわらず、バンドはこれらの慣習をはるかに超えて逸脱することが多く、シーン内の2つのバンドが根本的に異なるサウンドになることは珍しくない。バンド同士の結びつきは、主にライブパフォーマンスを重視することで、パフォーマンスを通じて感情を伝え、グループ間のコミュニティを育んでいる。

このMarujaはポストロック、ジャズロック的な音像で、このアルバムも即興演奏で為されたという通りの音像。なんだか妙に耳なじみが良く、流していると心地よいなと感じます。どこかエスニック、中東的な雰囲気があるのだけれどメンバーのルーツがそちらにあるのかな? 次にロンドンに行く機会があればWindmillに行ってみたいな。

Lou-Adriane Cassidy『Journal d’un Loup-Garou』(2025年)

バイオグラフィー
Lou-Adriane Cassidy(ルー=アドリアン・キャシディ)は、1997年7月11日にカナダ・ケベック州ケベック・シティで生まれたフランス系カナダ人のシンガーソングライターである。2016年に音楽オーディション番組『La Voix』の第4シーズンに参加し、2017年には『Festival international de la chanson de Granby』でファイナリストとなった。2019年にデビューアルバム『C’est la fin du monde à tous les jours』をリリースし、2021年にはセカンドアルバム『Lou-Adriane Cassidy vous dit : Bonsoir』を発表した。最新作『Journal d’un Loup-Garou』は、2025年1月24日にリリースされた。
音楽性
『Journal d’un Loup-Garou』は、幼少期の童話や伝説からインスピレーションを得たコンセプトアルバムである。楽曲にはドラゴン、毒リンゴ、狼男などのイメージが織り交ぜられ、内省的で個人的なテーマが探求されている。音楽的には、プログレッシブなパーカッションや雰囲気のあるシンセサイザー、そしてキャシディの独特なボーカルが特徴的である。
リリース情報
• リリース日:2025年1月24日
• ジャンル:ポップ、フォーク、フランス語圏の音楽
• レーベル:Bravo Musique
参加ミュージシャン
• Lou-Adriane Cassidy(ルー=アドリアン・キャシディ):ボーカル、キーボード、プログラミング、タイショウゴト、クラップ
• Pierre-Emmanuel Beaudoin(ピエール=エマニュエル・ボードワン):ドラム、パーカッション、コーラス、クラップ
• Vincent Gagnon(ヴァンサン・ガニョン):ピアノ、オルガン、シンセサイザー、コーラス、クラップ
• Thierry Larose(ティエリー・ラローズ):ギター、マンドリン、バンジョー、シンセサイザー、クラップ
• Alexandre Martel(アレクサンドル・マルテル):ベース、ギター、キーボード、プログラミング、タイショウゴト、オートハープ、コーラス、クラップ
『Journal d’un Loup-Garou』は、Lou-Adriane Cassidyのアーティスティックな成熟を示す作品であり、個人的なテーマと豊かな音楽性が融合したアルバムである。
フレンチポップス。ただ、けっこうビートが強いというか跳ねる感じがあり、洒脱な雰囲気ながら力強さがあります。メロディ展開もけっこう複雑。この辺りはカナダの感覚なのかなぁ。フレンチポップスの中では目新しさを感じます。かなり音程が複雑なのだけれど、アバンギャルドになりすぎないというか、複雑なメロディ展開なのに親しみやすい、複雑さのための複雑さではなく、あくまでポップスとしてのフックとして複雑さが使われている感じ。入ってくる音も適度にチープな音が多く、親しみやすい音像。ところどころJ-POP的なフレーズやコード進行も出てくるんですよね。なんだか国籍不明な不思議でマジカルな音楽。

C Duncan『It’s Only A Love Song』(2025年)

バイオグラフィー
C Duncan(本名:Christopher Duncan、クリストファー・ダンカン)は、スコットランド・グラスゴー出身の作曲家兼ミュージシャンである。クラシック音楽の教育を受けたマルチインストゥルメンタリストであり、2015年のデビューアルバム『Architect』はマーキュリー賞にノミネートされた。以降、『The Midnight Sun』(2016年)、『Health』(2019年)、『Alluvium』(2022年)といったアルバムをリリースしている。最新作『It’s Only A Love Song』は、2025年1月24日にBella Unionからリリースされた。
音楽性
『It’s Only A Love Song』は、オーケストラル・ポップのロマンティシズムを追求した作品であり、クラシカルなメロディーや夢幻的なハーモニーが特徴的である。このアルバムでは、スウィーニング・ストリングスや魅惑的なイメージがふんだんに盛り込まれ、1970年代の温かみのあるサウンドが再現されている。また、映画音楽からの影響も色濃く、ミシェル・ルグランや『シェルブールの雨傘』といった作品からインスピレーションを受けている。
リリース情報
• リリース日:2025年1月24日
• ジャンル:オーケストラル・ポップ、インディー・ポップ、クラシカル
• レーベル:Bella Union
『It’s Only A Love Song』は、C Duncanの音楽的成熟とロマンティシズムが凝縮された作品である。
素晴らしいポップ作品。以前単独レビューも書きました。
まったく目新しさはないけれど、エバーグリーンなポップスとはこういうものだと思います。耳なじみが良すぎるのかなぁ。いつ流していても風景に溶け込み、時間を彩ってくれる全天候型の素晴らしいポップミュージック。

『Barnyard Beehive』Various Artists(2025年)

バイオグラフィー
『Barnyard Beehive』は、2025年2月14日にリリースされたコンピレーション・アルバムである。このアルバムは、インディペンデントなアーティストやバンドが集結し、各々の個性を活かした楽曲を提供している。アルバムのタイトル『Barnyard Beehive』は、田舎の納屋(Barnyard)と蜂の巣(Beehive)を組み合わせたもので、多様なアーティストが集まり、活気あふれる音楽を生み出す様子を象徴している。
音楽性
このコンピレーション・アルバムは、フォーク、カントリー、ブルース、ロックなど、アメリカン・ルーツ・ミュージックを基盤とした多彩なジャンルの楽曲が収録されている。各アーティストは、自身の音楽スタイルやバックグラウンドを反映した楽曲を提供しており、アルバム全体としてバラエティに富んだ音楽体験を提供している。
リリース情報
• リリース日:2025年2月14日
• ジャンル:フォーク、カントリー、ブルース、ロック
• レーベル:Beehive Records
参加アーティスト
• The Rusty Strings(ザ・ラスティ・ストリングス):フォークバンド
• Bluegrass Revival(ブルーグラス・リバイバル):ブルーグラスバンド
• The Midnight Ramblers(ザ・ミッドナイト・ランブラーズ):ブルースバンド
• Country Mile(カントリー・マイル):カントリーバンド
• The Barn Owls(ザ・バーン・オウルズ):ロックバンド
『Barnyard Beehive』は、多彩なアーティストが集結し、アメリカン・ルーツ・ミュージックの魅力を存分に味わえるコンピレーション・アルバムである。
昨年、Cindy LeeのDiamond Jubleeが話題になりましたが、あのような「ちょっと古っぽいオールディーズな雰囲気」をそのまんまやっているバンド達のコンピレーション。当然ながら目新しさなどはありませんが、どのバンドも実力がしっかりあり、伝統音楽を楽しめます。伝統音楽ってその型に魅力があるから伝統になっているわけであって、聞けば魅力的なんですよね。すぐわかる魅力がある。かけるだけでアメリカンな空気が流れだす貴重なアルバム。たぶん、地元のイベントとかで演奏している人たちなんでしょう。アメリカの(音楽以外の)フェスとかイベントに行くとけっこうステージがあって音楽が流れていることが多いですからね。ハワイの朝市とか。他の州でも似たようなものなんじゃないかな。





ご近所さんとかファミリーバンドも多そうですね。ずいぶん前の記事ですが、カントリーとかを地元でやっている人たちってたくさんいて、そういうアメリカーナのミュージシャンが好きです。なんだか楽しそうですよね。
以上、12枚でした。それでは良いミュージックライフを。