インフォグラフで見るメタルのトレンド
メタルのジャンル別のリリース年をまとめたインフォグラフです、素晴らしいですね。この方(偽メタルさん)、凄い。凄まじい労力に感服します。
このデータはRate Your Musicからのデータ。音楽リスナーが投票するポータルサイトで、世界中のあらゆる音楽が投票の対象となっています。アルバムに対してユーザーがどんな音楽ジャンルかタグ付をできるので、いわば「人の耳で分類したジャンル」のリスト。メタルジャンルはこちら。一つのアルバムには複数のジャンルが設定できます。たとえばBlack Sabbathの「Paranoid」だと「Heavy Metal, Hard Rock, Traditional Doom Metal, Blues Rock」という五つのジャンルに属しています。こちらのインフォグラフはサブジャンルまで含めて統計しているようですね。リリース数が多すぎるので、1枚のアルバムでたとえば5つのジャンルが設定されていたらそれぞれのジャンルに+1されていると推測されます。
メタル、に限らず、音楽のジャンルというのは音像であり、音楽から感じる雰囲気です。同じジャンル名がついていればどこかしら似ている要素がある、ということ。なので、このジャンル名の変遷を見ていくと「その年のメタルで多くのアーティストが出していた音像」が分かります。たとえばブラックメタルが増えたら「いろいろなアーティストがブラックメタル的な表現を選んだんだな」ということ。ゴリゴリのブラックメタルだけでなく、「ブラックメタルの要素」を持っているバンドもここにカテゴライズされます。なので、メタルという音楽ジャンルのトレンドを一覧できる、とも言えます。なお、いろいろなジャンル名が出てきますが、それぞれ「どんな音なんだろう?」という紹介はグラフを見終わった後に載せておきます。
この素晴らしいデータを1年ずつ見ていきましょう。1983-2019。
1983年、まだまだメタルの黎明期ですね。一番多いリリースはシンプルに「Heavy Metal」。他はLAメタル的なグラムメタルとか、Ravenなどひたすら疾走する「速さ」を追求したスピードメタルが出てきています。ちなみに1983年のメタル(全64のサブジャンルを含む)ジャンルの投票1位はMercyful Fateの「Melissa」、2位以下はこちらをどうぞ。なかなか垂涎のリスト。メタリカのデビュー作もこの年ですね。なお、このランキングはRate Your Musicのユーザー投票なので、いわゆる「マニア」たちの投票。商業的に成功している作品は票が割れる(高評価も低評価も存在する)傾向があり、ランキングが低く出る傾向もあります。90年代以降は顕著ですが、一般知名度や商業的成功とランキングが必ずしも一致しない、むしろ全然違ったりするので、「未知の名盤」を見つけやすいランキングだと思います(※なお、ランキングはリアルタイムで変化しているので、順位や感想については2021年2月13日の執筆時点)。
1984年はスラッシュメタルが躍進していますね。いきなり2位。ジャンルとしての影響度一位は不動の「Heavy Metal」ですが、スラッシュメタルの隆盛もあって1984年の1位はスラッシュメタルの名盤、Metallicaの「Ride the Lightning」です。2位以下はこちら。スラッシュメタル、スピードメタルが隆盛で「速さ」や「激烈さ」がトレンドになりつつある様子です。
1985年も傾向は変わらず。まだあまりサブジャンルが確立していないためシンプルに「ヘヴィメタル」と呼ばれるものが主流で、速さを追求したスラッシュメタル、スピードメタルが続き、グラマラスでビジュアル重視のグラムメタルが続く、という流れ。この年の1位はIron Maidenのライブ盤「Live After Death」。これは順当な気がしますが、2位のCeltic Frost「To Mega Therion」がマニアックで目を引きます。このサイトで投票してるのはコアなファンが多いのですね。ランキング。
1986年、スラッシュメタルがぐぐっと伸びてきました。1位もMetallicaの「Master Of Puppets」。2位もSlayerの「Reign in Blood」で、スラッシュメタルの当たり年ですね。4位にドゥームメタルCandlemassの「Epicus Doomicus Metallicus」がランクイン。速さ重視のスラッシュ全盛時代にあって重さで勝負しています。8位にManilla Road「The Deluge」がランクイン。カルト的な人気があるバンドですね。ランキング。
1987年、スラッシュメタルが伸びてきました。ただ、ランキングでは正統派メタルというか「Heavy Metal」が上位に。1位はOzzy Osbourne / Randy Rhoadsの「Tribute」。6位に昨年に引き続きManilla Roadの「Mystification」が入っていますが、この分類でサブジャンルに「スラッシュメタル」が設定されていますね。何枚かアルバムを聴いたことがあって好きなバンドですが、あまりスラッシュメタル要素は感じていませんでした。確かに言われてみたら80年代のスラッシュの空気感もあるかも。ランキング。
1988年、ついにスラッシュメタルがHeavy Metalを追い抜きます。メタル音楽のトレンドは「スラッシュメタル」に染まった年。とはいえ2位Metallica「...And Justice for All」、3位Slayer「South of Heaven」を抑えて人気投票一位はIron Maidenの「Seventh Son of a Seventh Son」。Bathory、Deathといったブラックメタル、デスメタル勢に加え、日本でも大人気だったHelloween「Keeper of the Seven Keys Part II(守護神伝二章)」やQueensrÿcheの「Operation: Mindcrime」もランクインしていますね。ランキング。
1989年も大きなトレンドは変わらないながら、だんだん「Death Metal」が伸びてきています。スラッシュメタル以上に激烈な方向へ深化、1位もデスメタルのMorbid Angel「Altars of Madness」、2位以降も激烈さを追求するバンドが多く続きます。やや意外だったのはRunning Wildの「Death or Glory」が8位。いいバンドだと思うし個人的にも好きなアルバムですが、ここまで評価が高いとは。ランキング。
1990年はデスメタルが躍進、また、オルタナティブメタルが増えてきています。そんな中での1位はMegadeth「Rust in Peace」、2位はJudas Priest「Painkiller」。激烈さはありますが1989年に比べると少しHeavy Metalに回帰したかな、という印象。オルタナティブメタルだと13位にPrimusの「Frizzle Fry」が顔を出しています。ランキング。
1991年はなんとデスメタルがスラッシュメタルを追い抜きます。ブラックメタルも地味に増えてきている。メタル音楽シーン全体のトレンドが暴虐性、激烈性の方向に向いた印象です。ランキングも1位がSlayerの「Decade of Aggression: Live」、2位がDeathの「Human」と激烈、アングラな方向に。ランキングから商業的な成功も収めた作品が減ってきています。メインストリームでも成功したのは24位のSkid Row「Slave to the Grind」あたりでしょうか。この年はMetallica「Metallica」のリリース年なのですが56位。賛否両論あるアルバムは票が割れるのでランキングは低くなりがちです。ランキング。
1992年、グラフ上だとデスメタルがさらなるトレンドとなり、スラッシュ/デスがトレンドの中心にいるように見えますが、ランキングを見るとはっきり地殻変動しています。グランジ・オルタナの波。1位がRage Against the Machine「Rage Against the Machine」、2位がAlice in Chains「Dirt」です。他にもストーナーメタルのKyuss「Blues for the Red Sun」やスラッジメタルのNeurosis「Souls at Zero」もランクイン、「速さ」から「重さ」へ、激情表現のトレンドに手法の変化が起きた年と言えそうです。ランキング。
1993年は揺り戻しが来たのか「速さ」がランキング上位、全体のトレンドも変わらずスラッシュ/デスが強い。ブラックメタル、プログレッシブメタルも増えています。高度な演奏技術や高速な演奏が受けた年だったといえるかも。ランキング1位はMetallicaの「Live Shit: Binge & Purge」、2位がDeath「Individual Thought Patterns」、3位がDemilich「Nespithe」です。5位に北欧メロデスのDissection「The Somberlain」がランクインしていますね。8位のCarcass「Heartwork」と合わせてメロデスというスタイルが確立した年でもありそうです。ランキング。
1994年はデス/スラッシュ/ブラックが強いですが、他はグルーブメタルが増えてきていますね。あとはインダストリアルメタル。ランキングは意外な結果で、1位がKyussの「Welcome to Sky Valley」、この年のトレンドからは外れていますがストーナーロックの名盤です。2位以降はトレンドに比例してブラックメタルが強い。BurzumやMayhem、Darkthroneなどノルウェジアン・ブラック勢が上位にランキングしています。変わったところは8位のKukeiha Club(コナミ矩形波倶楽部)「Dracula Battle Perfect Selection」。NintendoCoreの走りでしょうか。レビューの総数は少ないので熱狂的なファンがいるのでしょう、調べてみたらアンセムの柴田直人さんがかかわっている、ゲームミュージックのHM/HR編曲盤だそう。ランキング。
1995年はついにブラックメタルが一位に。ブラックメタル的な音像がトレンドというのは確実にあるでしょうが、一人ブラックメタルといわれる宅録的なアーティストも多いのも原因かも。昨年からノルウェジアンブラックも盛り上がっているし、そうした「宅録バンド」が大量に音源を出し始めた時期なのかもしれません。この後、2019年にいたるまでずっとブラックメタルが一位。この時期から「メタルを演ろう!」と思ったらブラックメタルを作るアーテイストが増えたのでしょう。いずれにせよデス/ブラック/スラッシュ的な音像がトレンド。あとはゴシックメタルがジワジワ増えています。1位はDeathの「Symbolic」、ブラックメタルで言うとメロデスのDissection「Storm of the Light's Bane」が3位、ペイガン/アトモスフィアブラックに分類されているUlverの「Bergtatt: Et eeventyr i 5 capitler」が4位にランクイン。パワーメタルや正統派メタルも2位Savatageや5位ブラガをはじめとして健在。ランキング。
1996年は上位4つは変わらないもののややスラッシュが減り、プログレメタルが増えています。あとはグルーヴメタル、オルタナメタルも存在感あり。1位はToolのÆnima。オルタナメタルとプログレッシブメタルに分類されています。これは商業面でも存在感がありました。2位以降はぐっとアングラ的になりBurzum「Filosofem」、3位以降はデス・ブラックが多め。4位にスラッジメタルのNeurosis「Through Silver in Blood」がランクイン。パワーメタルやHeavy Metalはランキングにほとんど出てきません(24位のガンマレイ以降)。新しく出てくるアーティストが「速い」か「重い」か「超絶技巧」な音像がほとんどなので、Heavy Metalやパワーメタルはすでに大物になっているバンドがほとんど、それらのリリースがないとランキングには出てこなくなっています。ランキング。
1997年はトップの順位は変わらないもののスラッシュが退潮しプログメタルとほぼ横並びに、ゴシックメタル、メタルコアが伸びてきています。そんな中で1位はExodusの「Another Lesson in Violence」。スラッシュメタル源流バンドのひとつが名作を送り出しています。3位、4位にDevin Townsent関連がランクイン、個人的にも名盤だと思う2枚ですがこんなに人気があったとは。まぁ、このサイトで投票しているのはマニア中心なのでしょう。6位Gamma Ray、7位Bruce Dickensonとパワーメタル、Heavy Metal勢も息を吹き返しています。全体的にもHeavy Metal(=伝統的メタル)が2位に。90年代はIron Maiden、Judas Priestという2大bandのがそれぞれ看板ボーカリストを失った冬の時代、正統派メタルとパワーメタルはトップランナーを失った時期でもありましたが、ここで(Iron Maidenのボーカルである)Bruceが復活の兆しを見せます。ランキング。
1998年はスラッシュメタルがさらに退潮し、プログ・メタルが逆転します。パワーメタルも元気。ランキング1位はDeathの「The Sound of Perseverance」。このサイトの人たちはDeath大好きですね。2位はGorgutsの「Obscura」。3位がOpethの「My Arms, Your Hearse」。全体的にはデス的な音像がトレンドだし、マニアの評価も高い様子。とはいえパワーメタル、ヘヴィメタルもBruce5位、ブラガ7位とランクイン。7位から10位はパワーメタル勢が占めています。ゴシック、ストーナー、スラッジ、ドゥームなどの重さ追求型はあまりこの年は目立つ作品なし。メインストリームへの影響度で言うとSystem of a Down「System of a Down」がリリースされていますね、ここのランキングだと18位。ランキング。
1999年はHeavy Metal、旧来の正統派メタルの影響が感じられるアルバムが多かったようです。ブラックメタルが一位ながら2位が追い上げ、デスメタルもそれに続きプログメタルが続く。速さ、テクニカル以外の激情表現がチャートアクションでは主流になっていましたが、「メタル界」の中でのトレンドは「速さ」「テクニカル」だったことが伺えます。とはいえ、Gothic MetalやNu Metalもだいぶ上位に来ています。20世紀最後の年、1位はやや意外なIced Earth「Alive in Athens」。ライブ盤ですね。2位がプログレ/デスのOpeth「Still Life」、3位がスラッジメタルのNeurosis「Times of Grace」です。ランキングは速さより重さを追求したメタルや、重厚感・旧来型のメタルが上位に来ていますね。珍しいのは7位にマスコア/ポストハードコアのBotch「We Are the Romans」がランクイン。新時代の予兆を感じます。プログ・メタルの雄Dream Theaterが「Metropolis Pt. 2: Scenes From a Memory」で8位にランクイン。92年の「Images And Words」は19位だったのですがこちらの方が評価が高いのか。あとはフォークメタルに分類されるAgalloch「Pale Folklore」が10位にランクイン。ランキング。
2000年。いよいよ00年代に突入。メタルのトレンドで言えば再びブラックメタルが他を引き離しつつあります。上位4つの顔ぶれは変わりませんがパワーメタルが増加し、スラッシュメタルが減少、Nu Metalが躍進、あと、ストーナーメタル、オルタナティブメタル、ゴシックメタルが増えています。「疾走系」「技巧系」「暗黒系」「酩酊系」と揃ってきました。あとはより極端な激走系のグラインドコアが伸びていますね。フォークメタルも地味に増えて初めてこの表に登場。そんな中、ランキング1位はストーナーのElectric Wizard「Dopethrone」。レビュー数も1万越えでおしなべて高評価、堂々の一位。レビュー数が少ない高評価、は、組織票というか「一部の熱狂的なファン」の影響が強く出ている可能性がありますが、これだけの票数で1位というのは名実ともにこのサイトのユーザーから広く支持される名盤ということ。ストーナーって日本だとややマイナーなジャンルですが、欧米には熱狂的というか、根強いファンがいますよね。あと、あまり賛否両論が分かれない、どちらかといえば賛で統一されている気がします。これ、USメタルに独特な音像なのかな。なんとなくサザンロックとか、アメリカのサイケデリック(グレイトフルデッドとか)の流れも感じます。2位もDeftones「White Pony」。新世代のメタルですね。その中で11位にIron Maiden復活作「Brave New World」がランクイン。ここからIron Maiden復活の快進撃がスタートします。ランキング。
2001年、21世紀スタート。トレンドはブラックメタルがさらに躍進するものの、Heavy Metal、パワーメタルも票を伸ばしています。ストーナー、メタルコア、Nu Metal、メロデス辺りも強い。あとは高速志向の極北を目指すBrutal Death Metal(ブルデス)も伸びています。1位はToolの「Lateralus」、分類としてはオルタナティブメタル、プログレメタルに分類されています。Toolはこのサイトでの評価が高いですね。2位はOpethの名盤「Blackwater Park」。3位にメタルコア、ハードコアのConverge「Jane Doe」がランクインしています。4位にX Japanの「The Last Live」がランクインしていますがレビュー数が少ない(100件程度)なので、一部熱狂的なファンの支持といった感じですね。7位のSystem of a Down「Toxicity」はレビュー数も多く、この年を代表するアルバムの一つと言えるでしょう。ランキング。
2002年はトレンドは変わらず、ブラックメタルが一位。スラッシュメタルとプログレメタルが設定ます。オルタナメタル、メタルコアが伸びている。インダストリアルメタルもけっこうしぶとく伸びていますね。全体的に作品数が増えているイメージ。複数ジャンルにカテゴライズされるアルバムも増えてきているのかもしれません。ランキング1位がまさかのPentagram「First Daze Here: The Vintage Collection」。これ、昔の音源の再発なのでちょっと特殊ですが、Doomっぽい、70年代HRへの回帰というのはこの頃から盛り上がったのか、それとも後からの評価向上か。ちなみにUKのバンドの方で、i以前取り上げたトルコの同名のバンドではありません。2位にIron Maidenの「Rock In Rio」、3位がBlack Sabbathの「Past Lives」とライブ盤や企画盤が強い年。目を引くのは4位にフォークメタルのAgalloch「The Mantle」が前作に続いてランクイン、また、11位にゲーム「ギルティギア」のサントラ石渡太輔 [Daisuke Ishiwatari] / 盛山浩一 [Koichi Seiyama]「Guilty Gear XX Original Soundtrack」がランクインしています(少数の熱心なファンの投票)。16位、日本のBoris「Heavy Rocks」がランクインしているのも見逃せません。Borisはこういうファン投票系強いですね。2020年のAllMusicのメタルジャンルベストにも「No」が入っていたし。分類としてはストーナー、スラッジメタルに入っています。ランキング。
2003年は大きなトレンドは変わりませんが、「グルーヴメタル」が表外に。トレンドから外れた、ということでしょう。このサイト、グルーヴメタルに対してはあまり評価をしていない人が多いようで、グルーヴメタルの代表格であるPanteraの「Vulgar Display Of Power」(1992)も27位とそこまで高くありません。まぁ、「Metallica」も57位でしたし、影響力の大きさからか賛否両論があったのでしょう。ランキング1位はなんとBoris「Boris at Last -Feedbacker-」、投票数も1万近く、堂々の1位です。ジャンルはドローンメタル、ポストメタル、だそう。「メタル」というジャンルを超えて前衛音楽、ポストロック界隈からの評価も集めている様子。Borisは8位にも「あくまのうた (Akuma no uta)」でランクイン。ランキング上位はけっこう投票数が少ないアルバムで占められている中、Borisが気を吐いています。他はストーナーの名盤Sleep「Dopesmoker」が5位。ただ、全体的にアンダーグラウンドというか、投票数が少ない(=一般知名度が低い)アルバムが多い。音楽業界全体で言えば「メタル音楽」そのものが下火の時期だったのかもしれません。ランキング。
2004年、ブラックメタルが独走状態、他のジャンルはグルーヴメタルが再登場、とはいえ大きな変動はありません。少しフォークメタルの順位が上がっているかな。ランキングの方は1位がIsisの「Panopticon」、2位がMastodonの「Leviathan」。どちらも1万票近い投票がされており、一般的な知名度もうかがえます。ランキング全体としてアンビエントな、音の塊感のあるバンドが増えてきていますね。いわゆるザクザクしたリフとか、様式美、疾走感といったメタルとは別物(Mastodonはそういう要素も持っていますが)。「アトモスフェリック~」といったジャンルが上位に増えています。2000年以降、いわゆるBurrn!史観というか、ラウドパークでヘッドライナーを強めるようなバンド群が減り、新世代・違う音像のアーティストたちがランキング上位を占めるようになっています。ランキング。
2005年は上位の顔ぶれはあまり変わらず、下位だとグルーヴメタルがまた消えて、代わりにディプレッシブブラックメタル(DSBM)が入ってきています。ランキングの方は内向的、陰鬱さのなかに暴虐性や美麗なメロディが舞う、といった世界観のアルバムも多いですが、スラッシュ/デス系がランクインしたり、メロディ的にも起伏が増えて従来のメタル耳でも理解しやすいバンドが増えた印象。「21世紀だから新しいことをしよう!」と前衛・実験に振っていたのが少し揺り戻したのでしょうか。1位はOpethの「Ghost Reveries」。2位はスラッシュの大御所Testament「Live in London」(投票数は少なめ)。9位にパワーメタル新世代の雄、Kamelotの「The Black Halo」も入っています。ランキング。
2006年はトレンドはそれほど変わらず、グルーヴメタルがちょっと息を吹き返したぐらい。ランキングの方は昨年と同様、「新しいメタル音楽」と「従来のメタル音楽」の両方がランクインしています。新しいメタル音楽、というのは、分かりやすい歌メロとかリフが主導するのではなく、アルバム全体の起伏とか音響も含めて激情を表現していくバンド群、たとえばToolとか。従来のメタル音楽はリフとか歌メロとか超絶技巧とか、「曲」あるいは「曲の中の見せ場」で魅力を作っていくバンド群。ざっくり言えばそんな印象でしょうか。音楽の快楽構造が違う。1位はAgalloch「Ashes Against the Grain」、このアルバムは「ポストメタル」に分類されていますね。Kamelotが「One Cold Winter's Night」で3位に躍進。北欧メタル(フィンランド)らしい美麗なメロディが特長であるシンフォニック/パワーメタルのNightwishの「End of an Era」も6位にランクインしています。その合間に「アトモスフェリック~」系の「新しいメタル音楽」がランクイン。ランキング。
2007年は上位ジャンルに目新しさはあまりなし。下位ジャンルを見るとアトモスフェリックブラックメタルとディプレッシブブラックメタルが伸びていますね。デスコアも初ランクイン。ランキングを見るとこの年は「みんなが認める名盤」はあまりなかったようで、1位Heaven & Hell「Live From Radio City Music Hall」、2位Black Sabbath「Live at Hammersmith Odeon」と、どちらも得票数少な目。ライブ盤と発掘盤ですし。Boris With Merzbowの「Rock Dream」が3位にランクイン。Boris根強いですね。ランキング。
2008年、上位のトレンドは変わらないながらアトモスフェリックブラックメタルが増えています。あとはシンフォニックメタルが表に入ってきました。Nightwishの成功を受けてでしょうか。リリース点数は着実に増えている様子。ただ、ランキングを見ると不調、得票数がそもそも少ないアルバムがほとんどです。メタルという音楽ジャンル自体、コアなファンは多くアルバムもかなりの量出ているけれど、一般的な知名度やマーケットには訴求できていないアンダーグラウンドなシーンになっていることが推測されます。Iron MaidenとかMetallicaは頑張っ就ているんですけれどね。あとはNu Metal勢。そうした大御所やチャートで活躍するバンドと、こうしたサイトで投票する様なコアなメタラーの評価が乖離している時期のようです。ランキング1位はプログレメタル、メタルコアのBetween the Buried and Me「Colors_Live」。2位がRiverside「Reality Dream」。日本からDir en Greyの「Uroboros」が19位にランクインしています。ジャンルは「Alternative Metal, Progressive Metal, Avant-Garde Metal」だそう。ランキング。
2009年は表には大きな変化なし。ランキングの方はひさびさに一般知名度とマニアの評価を得る名盤が登場、ランキング1位のMastodon「Crack the Skye」。1万以上の投票がありながら堂々の一位。あとはけっこうマニアックというか得票数少な目のアルバムが続きますが、4位Vektor「Black Future」は得票数もそこそこ多い、意外と人気があるんですね。27位のDrone Metal、Sunn O)))「Monoliths & Dimensions」も得票数が多いです。ドローンメタルは「新しいメタル」の中でも、旧来のメタルとは音楽的快楽が大きく異なるジャンルですね。ランキング。
2010年、いよいよ10年代に突入。アトモスフェリックブラックメタルが順調に伸びています。あとはシンフォニックメタルが前年は表から消えたものの今年は復権。なんでしょうね。ランキングではDIOの再発掘ライブ盤DIO「Dio at Donington UK: Live 1983 & 1987」が1位、こうした「復刻版」が人気を持つようになってくるのも00年代以降の特徴。新譜だと意外なところでDeathspell Omega「Paracletus」が2位。票数も5000以上あるし、こんなに人気なんですね。再発盤・ライブ盤を除いていくと次は6位のMurmuüre「Murmuüre」、ジャンルはAtmospheric Black Metal, Ambient, Avant-Garde Metal、だそう。次は7位のNails「Unsilent Death」、ジャンルはGrindcore, Powerviolence。マニアック、アンダーグランド感の強いランキングになっています。2000年代以降はメジャーでヒットしているメタルバンド自体がかなり少なくなっていますが、それでもこうしたユーザー投票ランキングとチャートアクションが良いバンドの乖離がさらに強くなっています。この傾向はいろいろな要因が考えられますが、最初に書いた通り「未知の名盤」を見つけるには良いランキングですね。上位に未知のアルバムが多く存在します。メジャーどころでは21にDeftones「Diamond Eyes」がランクイン。22位には日本のGalneryus「Resurrection」が入っています。ランキング。
2011年はメタルコアが強いですね。「Post Metal」も上位に来ています。Post Metalってどんな音像なんだろう、「ポストメタル」のランキングを見てみるとBorisとかNeurosisとか、スラッジメタルと重なる部分が多く、そうした中でも前衛的、新規性を求めたようなアルバムのことを指すようですね。この年のランキング1位はなんとイスラエルのOrphand Landのライブ盤「The Road to OR-Shalem」。とはいえ得票数が少ないので参考程度でしょうか。5000票以上の投票数があるアルバムが50位までに一枚もないですね。話題作がなく、かなり票がばらけた年だったようです。5位のストーナーメタル、Elder「Dead Roots Stirring」や8位のVektor「Outer Isolation」あたりがあえて言えばランキング上位の中では話題盤でしょうか。Vektorはこのサイトではランキング常連ですね。ランキング。
2012年、1位は変わらないもののプログレッシブメタルがついに2位に。演奏技術を売りにする、複雑な曲構成のアルバムが増えているようです。パワーメタルがだんだんと順位が下がっていますが、パワーメタルのリリース作品数はあまり変わっていないので、他が増えている、ということですね。ランキング1位はひさびさに新譜かつ話題作と言えるConverge「All We Love We Leave Behind」で5000以上の投票数。また少数派の得票ながら3位にゲームサントラ、Revo「Bravely Default Flying Fairy Original Soundtrack」がランクインしています。ちょくちょくゲームのサントラがランクインするのはおもしろい現象。得票数が多いアルバムだと5位Deftones「Koi no yokan」も5000票以上。1位Convergeと5位Deftonesの2枚は話題作でありつつマニアも納得の内容か。ランキング。
2013年、さらにプログレッシブメタルの比率が上がっています。テクニカルしこうのトレンドは変わらず。あとはスラッシュメタルが復権してきています。ランキング1位はライブ発掘盤のDio「Finding the Sacred Heart: Live in Philly 1986」ですが、2位はテクニカルデスのGorguts「Colored Sands」。得票数も4000票近いし、このランキングだと上位常連の印象です。この年で目立つのは6位Deafheaven「Sunbather」、得票数が15,000以上でこれだけ上位ということはメタルを超えた幅広い支持を集めつつ、メタル要素もあるバンドということでしょう。ジャンルとしてはBlackgaze, Post-Metal(Post-Rock, Screamo)だそう。これは市場への認知度も高く、マニアからの支持も良いという点で2010年代の名盤と言えそうですね。あとは8位The Dillinger Escape Plan「One of Us Is the Killer」も3000得票超え、ジャンルはマスコア。ランキング。
2014年は、上位は変わらないもののスラッジメタルやストーナーメタルが少し上位に。2011年以降消えていたゴシックメタルも復活。全体として見れば少しスロウでヘヴィなものがトレンドだったのでしょうか。ランキングは1位がDeaf Dealer「Journey Into Fear」、パワーメタルだそうです、得票数が少ないのでかなりマニアック。このランキングは得票数と点数(5が最高)を掛け合わして出しているようですが、得票数が少なくても点数が一定以上高ければランキング上位に出るんですよね。なので、一部コアファンが高い点数をつけると上位に来ます。特定のニッチなコミュニティで熱い支持を受けているアルバムが上位に来やすい仕組み。「未知の名盤」と出会いやすいですね。得票数も多いのは4位のBehemoth「The Satanist」ですね。ブラック/デスメタル。あとは8位のNe Obliviscaris「Citadel」、このバンドもランキングう上位の常連です。ジャンルはプログレッシブメタル。ランキング。
2015年、順位は変わらないまでもHeavy Metalがプログレメタルに肉薄しています。伝統派メタルの復古かな。2000年代後半からNWOTHM(New Wave Of Traditional Heavy Metal)という伝統派(80年代的)メタルの復古ムーブメントがあり、その盛り上がりも影響している?のかな? 正確にはわかりませんが。この年はスラッジメタルがやや少な目でストーナーメタルが多め。他はこの年からテクニカルデスメタルが表に出てきていますね。この年の1位はDevin Townsend Projectのライブ盤「Ziltoid Live at the Royal Albert Hall」、僅差で2位はMgła「Exercises in Futility」、ブラックメタルで、ランキング常連。だんだん得票数も評価も上げてきてこのアルバムは5000票以上獲得。6位のБатюшка [Batushka]「Литургия (Litourgiya)」もブラックメタルながら5000票近く得票しています。両方ともポーランドのバンド。ノルウェジアンブラックの波が去ってしばらく経ちましたが、東欧ブラックメタルの波がだんだんと盛り上がってきているのが分かります。17位にGhost「Meliora」がランクイン、一般知名度もマニアからの得票も得たアルバムです。ランキング。
2016年、トレンドは変わらず。下位を見るとメロディックブラックメタルが出てきていますね。メロディックデスメタルとは違う。こういう微妙なジャンルの違いがトレンドの違い、音像の差として出てくる気がします。ランキングは1位がプログレッシブメタルのLeprousのライブ盤「Live at Rockefeller Music Hall」。得票数の多さで言うと4位のVektor「Terminal Redux」が約5000票、このバンドはアルバムを出すごとに評価も得票数も上がっていますね。他に目を引くのはデスメタルの新星、9位のBlood Incantation「Starspawn」と、11位、フィンランドのOranssi Pazuzu「Värähtelijä」、このアルバムのジャンルはPsychedelic Rock, Black Metalになっています。他は票が散っている印象。話題作は少ないものの若手の台頭が感じられる年です。ランキング。
2017年、久しぶりにデスメタルがプログレメタルを抜きました。他はそれほど大きな変動はありませんが、デスコアが表から落ちてフォークメタルが戻ってきています。ランキング1位はCult of Luna「Live at La Gaîté Lyrique: Paris」、ライブ盤です。アトモスフェリックスラッジメタル、ポストメタルに分類されるバンド。得票数が少なく評価が高いアルバム。得票数が多くて評価も高いアルバムを見ると5位Converge「The Dusk in Us」、13位Bell Witch「Mirror Reaper」あたり。Bell Witchのアルバムは83分1曲という強烈な主張がある曲。ジャンルが「Funeral Doom Metal」と名付けられています。ランキング。
2018年、アトモスフェリックブラックメタルが躍進して2位に「ブラックメタル」音像が1位、2位を独占。他はフォークメタルが落ちてデスコアが上がってきました。ランキング1位はDevin Townsend Projectのライブ盤「Ocean Machine – Live at the Ancient Roman Theatre Plovdiv」、デヴィンもこのサイトでは評価が高いですね。得票数も多く評価も高いのは16位、Sleep「The Sciences」ですね。ストーナー、ドゥームメタル。次は39位Judas Priest「Firepower」。こちらも見事な作品でした。ランキング。
2019年。大きなトレンドは変わらず。テクデスが落ちてDSBMが再び上がっています。ブラックメタルがずっと強いですね。ブラックメタル的な要素はかなり多くのメタルバンドが取り入れているようで、1995年以降、25年にわたって1位のトレンドです。「メタル」というのはつまるところ音像のイメージですが、現在「メタル」という単語から最初に想像するのはブラックメタルの音像なのでしょう。ちょっとマニアックで極端なサブジャンル、というイメージもありましたが、圧倒的な主流なのですね。確かに、2000年代以降に出てきた新しいバンドはブラックメタル的な要素を持っているバンドが圧倒的に多い気がします。2010年代最後の年、1位はパワーメタルのCirith Ungolライブ盤「I'm Alive」。渋いですね。ベテランでカルト的な人気を誇るバンドです。得票数の多さで言うと1stから飛躍的に成長した8位Blood Incantation「Hidden History of the Human Race」。あとは12位のLiturgy「H.A.Q.Q.」、ジャンルはAvant-Garde Metal, Black Metal。17位のKing Gizzard and the Lizard Wizard「Infest the Rats' Nest」、ジャンルはThrash Metal, Stoner Metal、あたり。King Gizzard and the Lizard WizardはUKではけっこう推されている印象です。新世代のバンドですね。ランキング。
こうしてみてくると、90年代中盤から一般知名度(得票数)が高いアルバムがだんだんランキング上位から減り、2000年代中盤には再発盤やベテランのライブ盤(新譜は出ず)が上位に出てきます。興味が細分化し、知名度(=市場への影響)とマニア評価を両立した名盤が減り、新譜の説得力が減る、ファンの新陳代謝が進んでいないという状況も見て取れますが、とはいえリリース数は増え続けているし、新バンドも出てきています。また、このサイトはアメリカのサイトなので非英語圏の情報が少なく、新しいジャンルもそれほど増えていませんが、私が多く紹介しているように非英語圏からそれぞれの伝統音楽と融合した新しい音像のメタルバンドが次々と生まれていて、「フォークメタル」では括りきれない多様な音像を生み出しています。変革は辺境から生まれる。進化し続けるメタルは、音楽好きにまだまだ新しい刺激を与えてくれるでしょう。
最後に、各サブジャンルの紹介。なんと、インフォグラフを作った偽メタルさんが各ジャンル(48種類!)を20分弱にまとめてくださった動画があります。こちらを観て(聴いて)いただくと各ジャンルの音が分かると思います。
いやぁ、偽メタルさん素晴らしいですね。友達になりたい。
今日はメタルのトレンドを掘り下げてみました。それでは良いミュージックライフを。