中村佳穂 / AINOU
中村 佳穂(なかむら かほ、1992年5月26日生まれ)は、京都出身の女性SSWです。細田守監督「そばかすと竜の姫」で主役、劇中歌を担当したことで一躍話題となりましたが、2012年から音楽活動を始め、2016年に1stアルバム「リピー塔がたつ」リリース、本作は2018年にスペースシャワーミュージック内の自主レーベルAINOUからリリースされた2ndアルバムです。雑誌『ミュージックマガジン』の特集「2010年代の邦楽アルバム・ベスト100」では第9位に選ばれるなどメディアからの評価も高く、「ポスト矢野顕子」という評も。1曲聞いてみたら”新しさ”を感じたので聞いてみたいと思います。
活動国:日本
ジャンル:J-POP、R&B、ソウル、ジャズ、エレクトロニカ
活動年:2012-現在
リリース日:2018年11月7日
総合評価 ★★★★
面白い、発展途上な感じもするし、本人の作曲能力にまだ録音(特にボーカルの録音)や編曲が追い付いていない感じもする。頭の中の世界、鳴らしたい音をどう具現化するか、まだまだ進化の余地を感じる。ニューアルバムが楽しみ。
日本語圏ではないインディーポップ好きに聞かせたらどう感じるのだろう。US、UKとは違う独特の感覚がある。もちろん言葉の響きが違うから歌の骨格も違うのだけれど、育ってきた世界観、日本という社会や文化が透けて見える(という印象を持てる)音像。音楽を通じて抽象化されたイメージ。まだ世界観が粗く継ぎ接ぎが見えるところもあるけれど、2018年、世界のインディーポップシーンの中で「新しいこと」を切り開こうという意思を感じる。広い視点を持った同時代的な音。
1.You may they 02:38 ★★★★☆
滑るようなシンセサウンドに、少し加工された(オートチューン)ボーカル、滑りが良い言葉を選んであるが日本語として意味は伝わる歌唱。ボーカルが前面に出てはこないが歌が中心のサウンド。リズムが細かく打ち鳴らされる。かなり実験的な音像だが、音全体は小さな空間にまとまっている。外に向かって開かれる、聞き手を浮遊させるというよりは、ヘッドフォンで聞くと頭の中心に居座るような。センターに音が寄っているのかな。音の焦点がクリアとも言える。
2.GUM 03:40 ★★★★☆
全曲をインタールード的にして、間髪入れずスタートする。ビートがちょっと変わったかと思ったら次の曲へ。ビートはオーガニックなインターフェースを持った機械といった趣で、「優しいインダストリアル」という音像。電子音、エレクトリックビートなのだがどこか生き物感がある。こういう肌触り、質感は日本のエレクトロニカアーティストが得意とするところかも。けっこうビートが強い。中低音をそれなりの音量で埋めている。中高音で、その波の上で漂うようなボーカル。ボーカルは歯切れよくその上で飛び回る。ドリームポップというにはどうもビートが生々しい。音もそこまでリバーブが強くなく、ポップで快活な印象がする。ボーカルもけっこう加工されているのにこちらに近い。言葉の意味が分かる、音として入ってこない、ということもあるのだろうけれど。
3.きっとね! 04:06 ★★★★
ビートが止んで、間髪入れず次の曲へ。ここまでテンポよく続いている。引っかかるビート、言葉とリズムを区切りながら進んでいく。日本的ソウル。これはもう独自性だろう。MISIAとかUAの流れというか、そういえば日本のソウルってどこが起点なんだろう。もちろん和田アキ子とか古くからソウルフルな人はいるのだけれど。電子音と飛び跳ねるリズム、サウンドに特徴がある。UAとかMISIAあたりからなのかな。シティポップスと(洋楽ヒットチャートに乗るような)ソウル、影響としてはマライアキャリーとかなのだろうか。管楽器も入ってくる。どこか優し気な響き。Ceroとかもそうだが、柔らかい音。曲にはパレード感というか練り歩く感じが入っている。
4.FoolFor日記 04:02 ★★★★
とぎれとぎれのリズムに、ループ。ああ、これはエレクトロニカだな。レイ・ハラカミとか。そういえば矢野顕子とレイ・ハラカミもコラボしていたな。ただ、いうほど矢野顕子感は感じない。声質が違う。USのインディーポップの流れを感じる。Fiona Appleとかいろいろ。どこか祭囃子、和のテイストもあるビート、きしむような音が入ってくる。つかみどころがない音で、なんだろう、潜水するような、どこか圧縮された音。中央に対して集まる、中心を持った球体のような音像。音域の問題なのだろうか。音の玉手箱間。
5.永い言い訳 02:57 ★★★☆
ピアノ弾き語りでスタート。リズムが揺れ、言葉も自由に揺れていく。ややオペラティックな歌唱。オペラというほど圧倒的な声量があるわけではなくマイク前提の声量とのどの使い方だけれど、今までの曲とは歌い方を変えている。メロディが予測不能で、且つポップな質感がある。こういうセンスがあるのは凄い。ありがちな展開に落ち着いていかない。妥協をすべて拒絶しているのに音全体としては親しみやすくポップ。
6.intro 01:29 ★★★
デモテープのような、ホワイトノイズが混じる音。ハミング。実際に作曲途中のスケッチだろうか。インタールード。揺れる残響音っぽいノイズ、弦が揺れる。だんだん舌足らずになっていく。意識が解体されていく。
7.SHE'S GONE 04:26 ★★★★
ここからB面だろうか、少し仕切りなおすイントロ。雑踏、アーバンな響きを感じさせるホーン。水気の多いキーボードフレーズ。マルコスヴァーリみたいな。そういえばMPB(現代ブラジル音楽)的な部分もあるな。コード進行とか、ビートとボーカルが一筋縄ではなく絡み合うところとか。ジャズ由来なのかもしれないけれど。言葉の載せ方は最近の宇多田ヒカルにも通じる、単語の途中で音を分割する載せ方。途中はプログレ的な音像に。スペーシーなキーボードソロが入る、が、やはり音は宇宙的な広がりは感じず、中央に固まっている感じはする。たとえばLiarsの新作の「宇宙浮遊感」みたいなものはない。自分が宇宙を漂う、というよりは、小惑星を外から見ている、というか。箱庭感がある。それが悪いと言いたいわけではなく音響上の違い、面白い質感。
8.get back 04:23 ★★★☆
やや落ち着いた雰囲気、「JAZZ」と聞こえるが「Just」と言っていたのか。ゆっくりとスローなテンポのバラード。リズムもボーカルも、揺れているようでまっすぐ進んでくる。歯切れがよい。かといって音全体としてはどこか手作り感もある、過度に機械的、かっちりはしていない。それがかえってこじんまりとしている部分もあるけれど、丁寧さを感じる音作り。声が重なっていく。少し声が過多な感じもする(曲構成というよりミックスで)。多重に入ってくるすべての声が「声」としての輪郭が残りすぎているからかな。
9.アイアム主人公 03:29 ★★★★
ヒップホップ的な、言葉を紡いでいくポップス。脱力したリリックとライム。チェルミコとか。でも、聞いていくと脱力感よりはつらつとした勢いの方が強いな。BPM早めというか回転が速い。ちょっと過剰な気もする(声を詰め込みすぎ)が、娯楽性が高い。コテコテ気味だけれど聞いていて楽しい。ライブだと盛り上がりそう。
10.忘れっぽい天使 03:55 ★★★★
ピアノ弾き語りバラード、かと思ってスタートしたら小節をぶった切りボーカルが上下に飛んでいく。これは矢野顕子的といえばそうだけれど、やはり声の質感が違うからあまり似ては聞こえないなぁ。どこか声が地に足がついているというか、土着的。親しみやすさというか、軽やかに飛び立てない感じもある。宙を自在に舞うというより元気いっぱい駆け回っている、見上げているというか。それは声質もあるだろうしボーカルミックスもあるのだろう。低音の倍音が多いのかな。
11.そのいのち 04:53 ★★★★☆
ビートが戻ってくる。マムフォードアンドサンズみたいな、ビートが強調されたアコースティックな音像。どこか和的、音頭的なループする歌メロ。力強いコーラスが入ってくるのでそこが緩和されているが、節回しをつけて独唱したらかなり音頭的。面白いなぁ。チームラボのデジタルアートとかと子ラボしやすそうな音像。さまざまな音が個別にループしながらひとつのうねりを作っている。J-アニメ的。ベースとなるリズムがずっと単一なのがやや惜しい、ずっとループするにしては音色が弱い気がする。
12.AINOU 04:23 ★★★★
あれ、ゲストボーカルかな。声が少し変わったような気がする。トリップホップ的なビート。これは宇多田と小袋 成彬のコラボ曲みたいな雰囲気。ゲストボーカルとのデュエットだな。ちょっと音選びがチープ(インディーズ感はある)だけれどインストが凝っている。