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Fiona Apple ‎/ Fetch The Bolt Cutters

Fiona Appleは1996年デビューのアメリカのシンガーソングライターです。本作は2020年発表の5作目、キャリア24年で5作なのでかなり寡作な人です。さまざまなランキングで上位に選ばれていたのが納得の出来。ポップセンスと前衛性、実験性が絶妙なバランスで両立しています。聴いたことがない心地よさと、どこか懐かしい感じが同居しているというか。2020年に作りうる「エバーグリーンなポップス」というのはこういうものなのかも。レジーナスペクターとか、最初はそのあたりを想起したのですが聞いているうちにポールマッカートニーとフランクザッパが浮かんできました。なんというかポールのソロのようなポップセンス、どこか手作り感がありつつザッパのような音楽に対するメタな視点、批評眼を含んだユーモア、対象化する音楽センスといったものも感じます。予定調和を超えながらポップスの領域を拡大してみせた作品、名盤。

スマホで聴きながら読みたい方はこちら(noteに戻ってくればYouTubeでバックグラウンド再生されます)。

2020リリース

★ つまらない
★★ 可もなく不可もなく
★★★ 悪くない
★★★★ 好き
★★★★★ 年間ベスト候補


1.I Want You To Love Me 3:58
断続的なリズム、おもちゃのような、オルゴールのような音からスタート、何か楽し気で懐かしい雰囲気
ピアノが入ってくる、優雅なピアノ
ボーカルが入ってくる、音程が上下に舞い踊る
語る、昔語りだろうか、コードに不協和音が入る、記憶が歪んでいるのか、感情が歪んでいるのか
正しく認識できない、どうしてもノイズが混じる、そんな風景だろうか
ボーカルは多少熱を帯びていく、言葉を紡ぐ
コードが着地するがまた不協和音が入ってくる、少しランダムに、バラバラにしたような
弦楽器が入る、優雅な、ポールマッカトニーのソロを彷彿させるアレンジ
演劇的な、声色が変わる歌い方、歌メロは連続していて極端な音程の飛びはないが上下に舞い踊る
さまざまな音、メロディが有機的に絡み合う、全体として少し古びた、シャビーな音像
ただ、もともとはキラキラとしていたのだろう、忘れられた宝箱のような
歌声が奇声に変わっていき終わり
★★★★

2.Shameika 4:09
反復するピアノフレーズ、歌が入る、前の曲から間髪入れずに続く
一息入れてリズムをためて声が入る、何か様子をうかがうような
生き物のように、ジャズライブのように、声に合わせてバンドが止まる
ふたたびオープニングのピアノ、反復フレーズ、その上で語りのような言葉数が多いボーカルが踊る
優美さを取り戻す、さまざまなシーンへの移動がある、メロディも表情を変える
コード進行、コードの雰囲気が曲をつないでいる
途中、プログレ的な音像、70年代プログレ、ジャズロック的な音作りにも感じる
★★★★

3.FTBC 4:59
リズム、パーカッション、何かを探るような、雨音のような、断続的な打楽器の音
微かなコード感、ピアノか、少し歪んだ透明感のあるキーボード音、マルコスヴァーリのような
ボーカルが乗る、語りと歌の中間的な歌い方だがメロディはある、和音と絡み合う
ポップさというか、メロディのフックがある、かなり前衛的で実験的なのに聴きやすく娯楽性がある
ポップな側面のザッパのアルバムのような、ただ、演奏や編曲はかなり不規則で自由さがある
崩れるような、和音が残る、犬の鳴き声が不規則なハーモニーを生む
生活シーンがしばらく続き終曲
★★★☆

4.Under The Table 3:21
アカペラで上から降りてきて上っていく、一巡するメロディ
和音のドローン音が入り、別メロディを歌う、リズムが入ってくる
民謡というかマザーグースのような、子供の唱歌のようなメロディ
そこから自由に舞い踊るメロディに、ブルージーと言えばブルージーか
ルーツ・ミュージックの影響下にあり、音作りやコード進行はルーツを感じるがかなり飛び回っている
音が出たり入ったり、喜怒哀楽も入れ替わるようだ
最初のアカペラのメロディ、下がってきて上昇していく、が出てくる
なんどかそのメロディが回る、ポリフォニーの後、落ち着きを取り戻して別の歌メロへ
先ほどのメロディも戻ってきて絡み合う、なるほど、こういう構造か
★★★★★

5.Relay 4:49
ドラムに合わせて小悪魔的な、少しほくそ笑むメロディ
アフリカ的な響きもある、なんだろう、少し踊るような、トライバルな感じがあるからか
その景色は姿を消して、ヒップホップ、ストリート的な歌いまわしに
誰かを煽る、あるいは吐き捨てる、訴える
ふたたびアフリカ的、トライバルなリズムに戻る、そうか、言葉の区切り方のリズムか
メロディとリズムが入れ替わり、切り替わっていく
舞台が変わるような、ミュージカルのような
二つのグループが互いに歌で訴えるような
二つのキャラクターのあるメロディが交互に出てくる
ジャズ的なベースの音階移動、ドラムのリズムはトライバル
雄たけび、部族の呼び声、鬨の声のような奇声が入る
野生を感じる
同じメロディをハモリラインで、語りと鼻歌が残る
鼻歌のみが残る
★★★☆

6.Rack Of His 3:42
ドアを叩くような音、訪問者だろうか
雨の中を歩くような、古い楽器のような音、笛か、キーボードか
おもちゃの縦笛のようにも聞こえるが、少し不協和音というかチューニングのずれのような揺らぎが入る
ボーカルがその上で踊る、クールなのだがところどころ声は荒くなる
とはいえ暑苦しさはあまり感じない、音像のせいだろうか
50年代ポップス、映画音楽、のような雰囲気を感じさせるが音作りは現代、それらがさび付いた感じというか
それらがさび付いて現代にまだ動いている、その上で今を生きるボーカルがメロディを奏でる
古い町、サビれた映画館、映写機、ホワイトノイズ、あるいは舞台か
古びた街で未来を夢見る女性
むにゃむにゃと歌声が残り終曲
★★★★

7.Newspaper 5:33
犬の声、洗濯機を回すような音、低い、超低音が鳴り響く、スーパーウーファー
鉄、ドラム缶を叩いたような音か、ボーカルが入ってくる
リズム、それと声、ハーモニーが入る
現代舞踏、何もない工場で踊るバレリーナ、ダンサー
リズムが増えていく、コーラスも増える、声とリズム
メロディが動き、コード感、スケールがずれていく、ギリギリのところで保たれる
不思議なメロディ、スケールから解き放たれるような、ギリギリでスケールを保っているような
音とついたり離れたり、自由に舞い踊っている
コーラスの和音感だけがスケールを保持しているのか
ボーカルは細い線、綱渡りのように、その間を縫っていく
キーボード、冷たい音とコーラスが混じる
後半、ちょっと音程に居付いてしまうのが惜しい、もっと最後までギリギリを舞い踊ってほしかった
★★★☆

8.Ladies 5:25
リズム、Ladiesと語り掛ける声
ブルージーというか、歩くようなリズム、ジャジーで落ち着いたリズム、コード
メロディも展開していく、しっかりとしたバラード
少しコードはずれていて凝っているが、バッキングは比較的落ち着いて進行する
トムウェイツのレインドッグス辺りの音像のような
声はもちろんあんなにしわがれていない、飛び回るような、小鳥とまで軽やかではないが鳥のような声
ベースが強くなる、曲構成が落ち着く
鼻歌が残る、音圧が減り、ボーカルが少し静かに歌う
つぶやくような、ジャズクラブ、バー、ステージが見えるようだ
きらびやかなショーではないが場末でもない、少しこじゃれた都会の片隅のジャズバーだろうか
カクテル、ロックグラス、乾杯と話し声が似合う
少し光が差し込むようなキーボード、だんだんテンポが落ちて、ボーカルの音程が下がる
テープが伸びて音が下がるのを人力で再現しているような
実際に回転数を落としてはいない、他の楽器はテンポはおちても音程は変わらない
ボーカルだけ下がっている、ちょっとふざけた感じかな、面白い
★★★★

9.Heavy Balloon 3:26
ハキハキとしたリズム、ジャングル的な
アフリカというより南アメリカか、ブラジル的なこじゃれたコード進行
力強い節回し、R&B的、少しデスチャやビヨンセ的な歌いまわしが出てくる
風景が変わり、落ち着いたコード、カントリー的な進行と言えるか
曲の展開が物語性がある、ディズニーのアトラクションのような
風景が変わる、それぞれのシーンでキャラクターがある
これはどういうキャラクターだろう、いろいろなものを打ち鳴らす音、海賊だろうか
Heavy Baloonか、何か旅立とうとする、矛盾する気持ちだろうか
飛び立ちたいが重くて飛び立てない、あるいは重いのに飛び立ちたい、胸につかえる希望や夢というか
打ち鳴らす、声のひしゃげ方がビヨンセやマイケルジャクソン的
★★★★

10.Cosmonauts 3:59
歯切れの良いリズム、メロディ
ヨーロッパの民謡、マザーグースあたりのメロディを連想するのか
なんだろう、レジーナスペクターもこういうメロディだった気もする
ニューヨーク辺りの感覚もある
ジャズの空気なのかな、都市で洗練されたジャズ・ボーカル
ピアノと声、ピアノで曲を作っていくとこうなるのか
いろいろな風景が変わっていく、摩天楼か、行き交う人々、タクシー
声が荒ぶっていく、響く、雑踏、その中で叫ぶ、声が変わる
狂騒が去り鼻歌とささやくような声が残る
★★★★☆

11.For Her 2:44
手拍子、アカペラで勢いのあるボーカル
マイケルジャクソンをアカペラでやるような、歯切れのよい歌
いや、クリスマスコーラスを高速化したような感じか...?
歌い上げる、R&Bやゴスペルのメロディや雰囲気を感じるが言葉遣いが早い
そこからリズムが変わる、ダンサブル、ブルースブラザーズのミサ
これもボーカルとリズムだけか
途中でガラッと雰囲気が変わりスロウというかミドルテンポのパートへ
幽玄なコーラス、上昇する、揺らぐ、霞か雲のようだ、昇天か
★★★★

12.Drumset 2:40
煙に巻くような、魔法にかけるような音、幕が開く
シンプルなリズム、ジャズ編成、ジャズボーカル
ハーモニーが複雑な和音感、常にハーモニーが入っている
シンプルで歩くようなメロディ、陽性のメロディにハーモニーがついている
ハーモニーは和音感はあるが少し凝っている、ずれた感じがする
少し荒げた声、ウォーキング、歩くリズム
気持ちよく歌っている、声がいくつも出てくる、ハーモニー、ビートルズ的
ビートルズもふざけた、掛け合いのような声が多かった、イエローサブマリンとか
ああいう、いろいろな声が入ってきてところどころでハーモニーを生んでいく
★★★★

13.On I Go 3:09
早い言葉遣い、マシンガントークのような、歯切れの良いボーカル
そこから音の塊のリズム、あまり和音感はない、音の塊、金属音、それとボーカルが絡み合う
金属的な何か、ボーカルはハーモニーがありささやくような、口ずさむような、軽やかなハーモニー
ディストーションギター、破壊的な音、ガラガラと崩れる、故障するような
声とリズム、ゴミ置き場、金属処理場でMVを録ったら映えそう
都市、人の行き来、人間社会の生産と消費だろうか、もっと単純なものだろうか
去っていく
★★★☆

全体評価
★★★★★
面白い、新規性があるし娯楽性があるし実験性も高い
聞いて衝撃を受けつつも分かりやすさもあって聞いていて楽しい
昔から実験的ながらもポップな曲を作る人という印象はあったが、久々にしっかり聞いてみたらかなり進化していた
なんだろう、ビートルズ、というか、ポールマッカートニーのソロ的というか
ポールマッカートニーとフランクザッパを混ぜたような曲に、うまい女性ボーカルを載せたような
歌メロはポップで歌も上手い、声色がいろいろあって少女のような、鳥のように舞い踊る声から少し粗ぶったジャジーな声まで
舞台、場面に合わせて衣装が変わるように声色が変わる
これは傑作、女声SSWの名盤

ヒアリング環境
昼・家・ヘッドホン

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