Dymytry / Revolt(2022、チェコ)
メインストリームメタルの完成度 ★★★★☆
まずは簡単なバイオを。
チェコではかなり人気のあるバンドのようで、チェコ語のWikiがかなり充実しています。だいたいWikiの文章量と人気は比例する。チェコ国内ではある程度メインストリームの成功も収めているのでしょう。TIDALのレコメンドで結構大きく出てきて「チェコのバンドか」ということで興味を持って聴いてみました。ワールドミュージック+メタルなので好物。
聴いた感じ、あまり「チェコらしさ」は強くありません。基本ドイツ、ときどき北欧、という感じ。東欧的なダークさも言われれば感じるかなぁ。ややプロダクションに重さ、暗さはあるけれど基本はドイツ感が強い。まぁチェコはドイツのお隣ですからね。Powerwolfとかにも近い感じだけれど、もう少し最近のモダンヘヴィネスというか、日本で言うところの「ラウドロック」に近い感じ。キーボードの音とかブレイクダウンパートとかが入ってくるので純粋なパワーメタルではない。ただ、メロディそのものはシンガロングというかアリーナロック的なハードロックで、どの曲もキャッチー。なのでメインストリームのメタル感が強めです。完成度も高い。アルバム全体の構成もよく練られていて、本国で人気がある中堅バンドなんだなぁというのは良く分かる堅実な作り。冒頭の掴みとなるタイトルトラックで幕を開け、前半でバリエーションを見せ、だんだん後半盛り上げていくという作りも流石。ライブ的な作りになっています。ただ、ちょっと「このバンドならでは」の個性とか、突き抜けてくる名曲まではなかったので☆減。クオリティは高いけれどややマニア向け。
なお、自分たちの音楽を「Psy-Core」と定義している様子。サイコなコア、ですね。こういう「自分たちで定義」しているバンド(先日の記事の定義だと4)はそれがサウンドコンセプトなので、サイコビリー(ロカビリーのサブジャンルで、ホラーパンクからの影響を受けている)とかの流れと、メタルコアの流れを汲んでいる、ホラー、パンク、ロックンロール、メタルコア(というかメインストリームのニューメタル、リンキンパークとか)あたりの影響を統合し、表現しようというのがコンセプトなのでしょう。そのコンセプトは見事に体現しているアルバム。
1.Revolt ★★★★☆
軽快なリフ、モダンメタルというよりオーソドックスなハードロック、オープニング時点ではKISSとかLordiとかの流れを汲んでいるように思う。ボーカルスタイルはややグロウルなのでLordi的だな。ボーカルラインはメロディアス。しっかりキャッチーなサビもある。チェコのバンドか。お隣ドイツで言えばPowerwolfが近いかも。音のクオリティは高い。さすがAFMからワールドワイドに出るだけあり、モダンでヘヴィなプロダクション。1曲目からタイトルトラック。
2.Stronger ★★★★
これはモダンというかちょっとインダストリアルな感じが入ったイントロ、メタルコア的なタメがあるグルーヴィーなリズム。ラップ的な歯切れのよいボーカルが入ってくる。グロウルとクリーントーンというか、クリーントーンといってもジェイムスヘッドフィールド的な歌いまわしだけれど、けっこうクリーントーンの比重が高い。基本的にはメロディアスなモダンハードロックと言えるような音像。メロディラインがしっかりとあり、底抜けに明るいわけではないが暗鬱でもない。旧東欧国から連想されるダークさ、アングラさは音からはけっこう薄目。もっとメジャーでメインストリームな薫りがする。
3.300 (Feat. Joakim Lindbäck Eriksson - Brothers Of Metal) ★★★★☆
これは王道パワーメタルに回帰、Trivium的な感じもするメロディアスなギターリフと乱打されるドラム。いや、Sabatonとかにも近いのか。Brothers Of Metalってフロンティアレコードのスーパーボーカル2名を組み合わせたプロジェクトだったっけ、、、ああ、違うな。スウェーデンのバンドか。そこからゲストボーカルを迎えての曲。Brothers Of Metalの世界観に寄せているのか、ヒロイックでファンタジックなパワーメタル。ミドルテンポで勇壮。
4.Never Gonna Die ★★★★☆
浮遊するキーボード、そこからザクザクとしたモダンなグルーヴへ。お、コード進行がちょっと凝っている。ここまでは完成度は高いしこのバンドなりの味わいもあるけれどまだ突き抜けた個性は感じないなぁ。この曲はモダンなヘヴィメタルの手法を使ってテンションを上げていく構成になっていて、そこにいい感じにメロディが絡みついていて個性を感じる。
5.Rise And Shine ★★★★
ここで雰囲気を変えてパワーバラード。本格的なバラードだな。モダンな装いをしているけれどベースはオーソドックスなハードロックバンドなんだな。80年代メタル的な感覚がベースにある、というか。アルバム構成も今のところそんな感じ。硬派で無骨な感じのバンドなのかもしれない。
6.Awaking The Monster ★★★★☆
ファンタジー映画的なSE、このままファンタジックな感じで行くのかと思ったらヘヴィなリフが落ちてきた。ダークでゴシックな感じか。お、そこからややアップテンポに。ホラー、ショックロック的。Lordi的。いい仕掛け。A面は外向き(ワールドワイドデビュー)のお化粧でB面でもともとのこのバンドらしさが出てくるのだろうか。この曲はなんというかもっとバンドに馴染んだ感じがする音。もっとアンダーグラウンド臭が強まったがサウンドがイキイキしだした。Sabatonにも通じるコンパクトなパワーメタル。
7.Until The World Knows Why ★★★★
キーボードのフレーズからスタート、ただ、グルーヴはモダンではなくもうちょっとストレート、オールドスタイルなハードロック。ボーカルはメロディアス。メロディセンスも自然に流れるようなメロディアスさ。途中からヒップホップ的に。そしてメロディアスなコーラスへ。ややゴシックな感じもするメロディラインだな。パラダイスロストとか。このあたりのちょっとした暗さというか欧州の歴史を感じさせるのはチェコ、プラハの土地柄もあるのか。そういえば「音楽の都」と言われることもあるし、音楽文化は根付いた土地。共産主義国時代がどうだったかは不明だが培われた国民性や文化土壌はそこまで急激には変わらないだろう。音楽に否定的な政府に占領されていたわけでもないし。
8.Touchdown ★★★★
こちらもキーボードのリフからミドルテンポのリズム、アリーナロックという感じ。途中からメタルコアっぽいブレイクダウンパートが出てくる。これはライブ感がある曲だな、ライブ仕様。メロディはシンガロング。
9.Tick Tock ★★★★★
激走曲、ドラマーが一番連打している。今までの中で一番テンションが高い。ああ、何か物足りなさを感じていたのだけれど音圧かも。こういう音像の割には音圧が控えめなんだよな。結局ハードロック、アリーナロックがちょっとモダンな音像を纏っている、というか。こういう音像ならもっと攻めてきてくれた方が面白いのかも。この曲はテンションも高くてカッコいい。
10.Hope ★★★★☆
ちょっと北欧感があるメロディというかイントロ。緊迫感が高め。そして長めのメロディアスなコーラス。曲全体で緊迫感が維持されている。バイオリンのフレーズも入ってきて、少しシンフォニックな雰囲気で終曲。
11.Somebody's Watching Me (Feat. Victor Smolski) ★★★★☆
ゲストのVictor Smolskiは元Rage(ドイツのパワーメタルバンド)のギタリスト。渋いところ持ってくるな、AFMレコードつながりか。アルバム後半にきちんと盛り上がりを作っている。
12.Chernobyl 2.0 ★★★★★
ミドルテンポでメロディアスな曲。ドラムが左右のイヤホンに飛び散っている。TriviumとかSabatonもこういうプロダクションにしているけれど、最近のメタルバンドのドラム音。けっこう連打感はあるけれどいい感じに散らばるから爆撃感がある。アルバム最後に相応しく緊張感が高めの曲。オープニングとエンディングにちょっと道化じみたコーラスが乗るのが妙な哀愁を感じる。面白い曲。