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Lucifer / IV

2020年のベストアルバムにも選んだLuciferの新譜。ルシファーは、2014年にフロントウーマンのヨハンナ・サドニスによってベルリンで結成された多国籍ヘビーメタルバンドです。いくつかのメンバーの変更後、ボーカリストのサドニスは唯一のオリジナルメンバーであり、現在のラインナップにはドラマーのニック・アンダーソン(元エントゥームド、ヘラクプターズ)がいます。もともとの活動国はドイツですが、現在ドイツ在住はサドニスのみ。他はスウェーデン人でストックホルムを拠点としています。本作は昨年に続いてのリリースで4作目。こうした魔女系ハードロックが好きで過去に特集記事も書いています。

活動国:ドイツ、スウェーデン
ジャンル:ヘビーメタル、ハードロック、ドゥームメタル、オカルトロック活動年:2014年
リリース:2021年10月29日
メンバー:
 Johanna Sadonis – vocals, keyboards (2014–present)
 Nicke Andersson – drums, guitar, bass (2017–present)
 Martin Nordin – guitar (2018–present)
 Linus Björklund – guitar (2018–present)
 Harald Göthblad – bass (2019–present)

総合評価 ★★★★★

期待を裏切らない出来。新譜なのになじみがある昔からの付き合いのような、肌になじむ感覚がある。70年代の名盤、と言われても通じるような。惜しむらくはとびぬけたキラーチューンや目新しさ、狂気のような才能がないところだが、前作より音楽的豊饒性が増してより聞いていて楽しくなっている。9曲目以降、酩酊感が増していくのも面白い。ハイテンションというわけでもなく、なんというかインディー系女性SSW meets ブラックサバスみたいな音像なので、ある意味ニッチで地味なサウンドなのだが、70年代ハードロック好き、オカルトロック好きには無条件でおススメ。

1. ARCHANGEL OF DEATH ★★★★☆

SEに導かれ、レトロなハードロック、このバンドらしいサウンドがなだれ込んでくる。ニッケアンダーソンのドラムが歌っているというか、手数が多く60年代、70年代感を増している。ボーカルはくぐもったようなエフェクトがかかっていて魔女感たっぷり。やはりオカルトロックはこうでなければ。魔女系HRバンドとしての期待通りの音像。リフとボーカルとドラムが絡み合うレトロなハードロック。

2. WILD HEARSES ★★★★☆

ややミドルテンポ、ブラックサバス的な不穏な、ブルースを基調としたドゥームメタルだがそこそこ軽快な勢いもある。初期サバスも今聞くと「重さ」もあるけれど、意外と軽快でテンポ感が速いというか展開の速さがあるが、そんな感じ。ちょっとリフの音階が不穏な感じがするところがサバス的。ボーカルも女声だが音域とか声量で勝負というよりはキャラクター性で勝負、つまりオジー的な雰囲気がある。お、最後まで不穏な雰囲気で行くのかと思ったら途中からメジャーコードに変化、ややサイケポップな感じに変化する。中期サバスっぽくもあるな。いずれにせよ良質なレトロハードロック。

3. CRUCIFIX(I BURN FOR YOU) ★★★★★

今作はリフが良く練られている感じがする。リフからスタートし、ボーカルとドラム、ベースが絡み合う。ドラムに軽快感というかロックンロール、ノリの良さがあるのは流石ニッケというところ。ただ、ギターもいい感じ。ツインギターなのでギターサウンドも厚い。この曲はボーカルラインもメロディアスでいい。サビが「Burn For You」というので、ブルーオイスターカルト(BOC)の「Burnin For You」を少し思い出し、実際に音像的に近い感覚もある。NYのBOCに比べるとこちらの方がもうちょっと欧州的な湿り気はあるけれど。

4. BRING ME HIS HEAD ★★★★☆

ステッペンウルフの「ワイルドで行こう」のような、アメリカンハードロック的なビート。そこに抒情的なギターフレーズが乗る。サイケデリックロックとハードロックの中間、初期のジェファーソンエアプレインのような雰囲気もある。このバンドなりにヒット曲というか、キャッチーな曲を作ろうとした感じが強い。

5. MAUSOLEUM ★★★★★

大仰なリフ、からのやや変拍子。初期Rush的な感じもする。とにかく70年代、レトロなハードロックをやらせたらうまい。こういう女性ボーカル系の70sハードロックリバイバルバンドはたいていクオリティが高いわりに活動が単発的だったり、あまり長く続かない印象もあるのだけれど、このバンドは活発に活動している。このバンドはオリジナリティもある、というか、呪術的、魔術的な感じ、70年代のハードロック、オカルトロックがまとっていた雰囲気をかなり色濃く纏っている気がする。ギターは2人いるが基本的にツインリードはあまりなく、片方がリードをひき、その間もう片方はリズムで支える、という感じ。基本的にあまりオーバーダブがないライブっぽいサウンド。やはりこういう煮え切らないメロディがこのバンドには合うなぁ。どこか煙たい、色あせた音像。

6. THE FUNERAL PYRE ★★★★

やや不穏なギターアルペジオからスタート。ちょっと筋肉少女帯のリテイクにも似てるな。橘高文彦的なコード進行というか。Luciferと筋肉少女帯の邂逅。インスト曲。

7. COLD AS A TOMBSTONE ★★★★☆

ちょっと人間椅子的な雰囲気もあるリフ。ドゥーム。この女性ボーカルは雰囲気があって素晴らしい。コーラスでコードの進行感がある。こういうちょっとしたポップさ、というのが効いてくる。ストーナー的、酩酊感強め。ただ、ストーナーロックと考えるとかなり刺激的というか曲展開がめまぐるしい。やはりサイケロック、ハードロックがメインなのだ。カッコいい曲。

8. LOUISE ★★★★★

うん、今作はメロディがいいなぁ。リフがいいし、歌メロもいい。前作よりも完成度が上がっている。サビは「ルーイー、ルーイー」と、ロックンロールの王道というかモーターヘッドにも「ルーイルーイ」という曲があったよな。ヘヴィでドゥーミーでサイケなのにしっかりロック感、ロックンロール感があるのはニッケの特性なのかなぁ。手数も多いし、バンドサウンドに引き込まれる。新譜なのに、昔から聞いているなじみの名盤のような趣がある。ちょっとボーカルだけ聞くとインディーフォークというか欧州系女性SSW感もあるんだよな。それが完全にブラックサバス的なハードロックと絡み合うのが面白い。

9. NIGHTMARE ★★★★☆

雷鳴のSEからスタート。ここまで来たら安心の酩酊感のある曲。ちょっとこの曲はGhost感もある歌メロ。ということは北欧感があるということか。Ghostの1st、2ndとかに入っていてもおかしくない感じの曲。やや幽玄でまさに「悪夢(ナイトメア)」的な曲だが、本格的に怖いというよりはオカルト、お化け屋敷的な怖さ。

10. ORION ★★★★☆

泣きのメロディ、欧州的抒情性のあるメロディ。ブルージーな進行なのだけれど歌メロが美しい。どこか(80年代の)北欧メタル的な透き通った感覚もある。このバンドなりのメロハー感というか。Vandenbergとかにもちょっと近いか。ただ、キャッチーなハーモニーなどはないけれど。あくまでベースは今までのサイケ、ドゥーム、オカルトな世界観。チャーチオルガンの音が後半入ってくる。スロウテンポで展開していくメロディアスな曲。リフも凝っている。リラックスしてきた、お香のような、煙がかったサウンド、だんだんとアルバムが終盤になるにつれてスローテンポになり酩酊感が増している。

11. PHOBOS ★★★★☆

前の曲から連続してリフが始まる。ちょっとやる気を取り戻してリフの勢いはいいがビートそのものはスロウテンポ、酩酊感が強め。メロディアスでどこかララバイ的というか、心を落ち着かせるような感じもある。テンションが上がる、というよりなんだか落ち着いてくる感じ。退屈というより居心地がいい感じ。最終曲だけあり、後半は静かにテンションが上がっていく。

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