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KK's Priest / Sermons of The Sinner

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KK's PriestK.K.ダウニングこと ケネス・キース・ダウニング・ジュニアのソロ・プロジェクトのデビューアルバムです。Judas Priest(JP)の創設メンバーにして伝説のツインリードの片割れKKがJP脱退後、初めて表舞台に戻ってきた復帰作。元JPのティム”リッパー”オーウェンズをボーカルに据えたKK's Priestとしてカムバックです。

2011年にJPを去り、表舞台から姿を消していたKK。その時は円満脱退とされたようですが、最近になって「あれは本当はやめる気はなかったんだ」とインタビューで話したりするなどJP復帰を希望していた様子。そういえばロブハルフォードも1992年にバンドを離脱した時、「やめる気はなかったが、当時のマネージャーがソロ活動に熱心すぎて、ほかのメンバーとコミュニケーションが行違ってしまったんだ」みたいな話を自伝(Confess)の中で書いていました。バンド活動はいろいろあるし、脱退というナイーブな話題だとなかなか落ち着いて話し合うのが難しいのでしょうね。ツインリードの相棒であったグレン・ティプトンがパーキンソン病に倒れた時、KKはJPへの復帰を希望しましたが叶いませんでした。しかし、2021年9月28日に現在のJPのメインギタリストとも言えるリッチー・フォークナーが心臓の病に倒れツアー中断中。そんなタイミングでKK’s Priestのアルバムがリリースされるのも不思議なタイミングを感じます。フォークナーの容態次第ではもしかしたら電撃復帰もあるのかもしれません。JP再躍進の立役者であるフォークナーには快復してほしいですけれどね。人生万事塞翁が馬。

ゴシップ的な話はさておき、アルバムに先立って発表された新曲はどれも「これぞメタルの王道」というべき素晴らしいもの。メタルの元祖というのはどこを起点にするかでとらえ方が変わりますが(ギターサウンドの革命ならジミヘンかもしれないし、Beatlesのヘルタースケルターも衝撃的だし、ハードロックの確立ならZeppだし、暗黒感・ダークさならブラックサバスだし、速さ・攻撃性ならモーターヘッドだし)、JPが現在の「ヘヴィ・メタル」と呼ばれるサウンドスタイルを築き上げた源流の一つであることは異論がないでしょう。そのサウンドの一翼を担ったKKの新作。キャリアの最終章に差し掛かりつつあるKK(今年69歳)が、どのようなメタルサウンドを提示し、遺そうとしているのか。聞き届けたいと思います。

活動国:UK
ジャンル:ヘヴィ・メタル
活動年:2020年ー
リリース日:2021年10月1日
メンバー:
 K. K. Downing – guitars (2020–present)
 Tim "Ripper" Owens – lead vocals (2020–present)
 A.J. Mills – guitars (2020–present)
 Tony Newton – bass (2020–present)
 Sean Elg – drums (2020–present)

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総合評価 ★★★★☆

素晴らしい復活作。KKダウニングに求められる音像を、期待以上に体現している。JPに多くの人が求めているであろうPainkillerとScreaming For Vengence、Diffnders Of Faithのエッセンスを入れつつ、70年代のSin After SinやSad Wings Of Destinyのニュアンスまで取り入れ、さらにJPだけでなくメイデン感や最近のストーナーメタルへの接近(それもメイデンと呼応しているのかも)も見られる。懐古、JPの再現というテイストが8割ぐらいだが、残り2割は今のKKの興味、彼が提示したいメタルの音像も垣間見える。

ただ、単純に1枚のニューアルバムとして見るとややスリリングさにかける。それはJP本体にも言えることだが、やはりパワーは落ち気味。Firepowerはいくつかキラーチューンがあり名盤となったが、アルバム全体としてみると曲のクオリティにばらつきがあり、最先端のトップレベルのメタルアルバムではなかった。それはローリングストーンズが最新系のロックを提示する必要がないのと同じで、メタルの最新系をオリジネイターが提示する必要はない。ただ、少しスリルに欠けることも残念ながら確か。その分が☆減点。

NWOTHM(New Wave Of Traditional Heavy Metal)が好きな方なら、NWOTHMの新バンドと考えると超S級の新星。なので、聞くべきです。まぁ、NWOTHMが好きな人でJPに思い入れがない人はほとんどいないと思うので、言われるまでもなくチェックしていると思うけれど。

1 Incarnation ★★★

雷雨の音とナレーション、指輪物語のようなファンタジックな始まり。期待の高まるイントロ。映画音楽のようだ。

2 Hellfire Thunderbolt ★★★★☆

雷雨が続く中、ギターが遠くで鳴り響いている。ギターリフが入ってくる。おお、プリーストだ。これは先行リリースされていた曲だったか。ペインキラー+ジャギュレイター的な曲。リッパーの声は相変わらず迫力はあるがさすがに少し線は細くなったか。ミックスかもしれないが。しかし、しっかりプリーストの空気感がある。プリーストに寄せているのはもちろんそうなのだろうが、そうはいってもオリジナルの雰囲気をしっかり纏っている。独特の空気感。手数は多いが安定したドラム。そういえばドラムはジャーマンメタルっぽさもあるな。機械的というか。もともとプリーストもそういう性質があった。機械的な正確さを追求している。この音像はAcceptにもやや近いな。歌メロが耳に残るのは流石。

3 Sermons Of The Sinner ★★★★☆

パワーコードの刻みから、高音を切り裂くような金属ボーカル。怪鳥ヴォイス。”Sinner”という単語と言い、いやおうなしにJPを想起する。ただ、やはり本家に比べると少し欠けているものがある。それは何なのだろう。独特のオーラ、カリスマ性のようなものはやや少ない(それでもKKの存在感はしっかりあるし、曲のレベルも高いが)。その分、フレッシュな勢いはやや感じる。

4 Sacerdote Y Diablo ★★★★

ヘヴィなリフとミドルテンポの曲。かっちりしている。もう少しドラムの音が重くてもいいかもな。しかし、ここまでは(イントロ曲があることを除けば)全体的にPainkillerに近い構成だ。長いJPの歴史の中で、KKが一番好んでいたのはPainkillerだったのか。あるいは、あの時点からもう一度やり直したい、と思う地点だったのか。うーん、ボーカルがリッパーなのでJugulatorにも近いが、あんなにヘヴィではない。リッパーのスクリームは存分に生かしている。エンジェルズオブレトリビューションに入っていてもおかしくなさそうな曲。

5 Raise Your Fists ★★★★☆

お、ちょっと新機軸の曲、シンガロングなコーラスからスタート。このイントロはJPではあまりないな。歌メロが入ってきたらJPっぽさが出てくる。やはりKK単体でここまでの音を作れるとは。JPらしさ、のけっこうな部分をKKは担っていたのだな。ギターだけでなく歌メロもかなりJPっぽい。JugulatorとDemolitionでだいぶ変わったから歌メロは基本的にハルフォードが作っていたのかと思ったがそうでもなかったのだろうか。このリフとボーカルの組み合わせ方は発明だよなぁ。サウンドスタイルの発明。発明者の一人だから使い方、活かし方を良く分かっている。なんだろう、メイデンとJPをまぜたような曲。イントロのシンガロングなところがちょっとメイデン感がある。JPのレガシーをなぞるだけでなく、新機軸が入っているのはうれしい。

6 Brothers Of The Road ★★★★☆

ミドルテンポでポップなフックがある曲。実はJPって疾走曲よりミドルテンポの曲の方が多い。Living After Midnightもそうだし。PainkillerやRam It Downの方が特異なんだよね。この横揺れのリズムに、独特の血の味、金属の味(鉄の味=血の味)を加えたのがJPらしいサウンド。なぜかJPを聴くと血の味を感じる瞬間がある。このアルバムからもかすかだが同じ感覚を感じる。お、Thin Lizzy的なツインリード。90年代JPではなく80年代、70年代JPの色もあるな。

7 Metal Through And Through ★★★★☆

静かな、バラードのような始まり方からミドルテンポで勇壮なビートが入ってくる。ただ、一気にどかっと来るよりはじわじわと盛り上がっていく。そこからテンポアップ。これも新機軸だな。最初はJPを彷彿させる、具体的に「○○の曲」を連想させる(主にPainkillerアルバム)だったが、後半になるにつれて新しさが出てくる。中音域~高音域にかけてのレンジで、リッパーのボーカルも魅力的。ノスタルジー、本家JPへの対抗意識だけでなく、しっかり「今のKK」の創作性が出ているのがうれしい。この曲もちょっとメイデンっぽいというか、80年代初頭、NWOBHM的な感じもある。間奏では70年代、運命の翼(Sad Wings Of Destiny)の頃の雰囲気も出てくる。これは最近のJPには失われたものかもしれない。そもそもこういう要素はKKが持っていたのか。8分ある長尺曲。カッコいいパートも多いが、少し中だるみするのが惜しい。

8 Wild And Free ★★★★

アカペラのコーラスからスタート、高速でリフが入ってくる。きたきた!という感じ。突き進んでいく、Motorhead的な感じもある(ボーカルスタイルが違うが)。ただ、リフと入りはカッコいいが途中の展開がやや弱いなぁ、もう少し強いメロディ、ボーカルなりギターなり、があるといいのだけれど。

9 Hail For The Priest ★★★★

タイトルが「神官(プリースト)を称えよ」。未練たっぷりですね。オペラティックなボーカルからスタート、じわじわとアカペラ的に歌った後で勢いの良いリフが入ってくる。このあたりのリフは流石の王道感。パワーコードを刻んだ後でメロディアスに変わる。ちょっとこの曲はボーカルがDIOっぽさもある。高音に上がっていくとリッパーらしさが出てくるが。

10 Return Of The Sentinel ★★★★☆

今度はReturn Of The Sentinel。Deffnders Of Faith収録の名曲「The Sentinel」を彷彿させるタイトルだ。続編だろうか。ただ、Sentinelのようなつかみが強いイントロのメロディアスなリフはなし。ミドルテンポで進んでいく。悪い曲ではないがSentinelのような名曲感はないなぁ。今までと違うリッパーの声が入ってくる。これ長尺で、ちょっとストーナー的な感覚もあるな。あまり展開せず同じテンポで続いていく。こういう感覚は新しいかも。KKの感性は新しいものをチェックしてるんだな。この曲も9分近く。最後の方にThe Sentinelのリフを思わせるフレーズが出てくる。最後はアコギとボーカルで荘厳に締める。途中、少し中だるみしたがきちんと曲と感情を盛り上げて終わるのは流石。このアコギとボーカルの組み合わせはDIO時代の初期Rainbow感もあるな。もちろん、初期JP感も。Sad Wings Of Destiny感。

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