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66.北欧メタルを掘り下げる③:スウェーデン後編 = Katatonia

北欧メタルとはフィンランド、スウェーデン、ノルウェー、デンマーク、アイスランド出身のメタルバンドの総称です。特に現在「北欧メタル」として盛り上がっているのがフィンランド、スウェーデン、ノルウェーの3国。この3国のメタルシーンを各国の推しバンドと共に紹介し、聴き比べていきます。

第一回:ノルウェー編
第二回:スウェーデン前編

今回は第3回目、スウェーデン後編です。前編では比較的メジャー志向でメロディアス、陽性で明るめなものが中心でしたが、今回は暗黒、耽美、アグレッション強めのものが中心です。では、まずはプレイリストをどうぞ(こちらをバックグラウンドで流しながら読んでいただければ各バンドの音と情報が一緒に手に入ります)。

では、本編スタートです。

Katatonia(カタトニア)は1991年結成のストックホルムのバンドです。中心人物はジョナス・レンクス(ボーカル、ドラム)とアンダース・ナイストローム(ギター、ベース、キーボード)の2名。この2名ですべての楽器を録音しツアーメンバーを集めてスタートしたバンドでしたが、2016年以降は同じメンバーで活動を続けています。初期はデス・ドゥーム系の音楽からスタートしてだんだんとメロディの美麗さと曲展開の複雑さを増していきメロディが美しいプログレ・メタル的な音像に。OpethやParadise Lost、Soenの新譜にも近い雰囲気を感じます。レンクスとアンダースはスーパーグループBloodbath(後で紹介します)でOpethの中心人物ミカエル・オーカーフェルトやParadise Lostのニック・ホームズと一緒に活動もしていたし、この辺りの音像は互いに影響を与えている印象。2020年リリースの11thアルバム「City Burials」が素晴らしい出来で、メロディの質がとにかく高い。今年はParadise Lostの新譜も出ましたが個人的にはこちらの方が断然好みでした。

続いてSoilwork、スウェーデンメタルシーンのベテランで、1995年結成、1998年デビュー。初期はデス・スラッシュ的な音像でしたがだんだんプログレ的な音像に。2019年のアルバム「現実/ヴァルケヒエッテン - Verkligheten」は世界観が確立されたプログレ・メタルの名盤です。この曲でも激烈性は失われておらず緩急のつけ方がすばらしい。こちらは16分半にわたる大曲で、2020年12月にリリースされたばかりの新EPからのタイトルトラック。EPといいつつ40分近いのでほぼほぼフルアルバムです。昔ドリームシアターが「A Change Of Seasons」という大曲を中心としたEPを出しましたが、同じような印象ですね。こちらは前作に引き続いて、いや、むしろフルアルバムを超える素晴らしい出来でした。Soilworkって昔から知ってはいたんですけど、「ちょっと変わったコード進行のデス/スラッシュメタル」ぐらいにしか認知していなかったんですよね。昨年のヴァルケヒエッテンから今作EP「A Whisp Of The Atlantic」の流れが素晴らしすぎてすっかりファンになりました。メロディ、演奏力、編曲能力、カリスマ性を兼ね備えた素晴らしいバンドです。

続いてAmon Amarth(アモン・アマース)、北欧神話やバイキング色が強いメロディックデスメタルバンドです。1988年に前身バンドのScumを結成、Amon Amarth名義でのデビュー作は1996年リリースとキャリアの長いバンドです。こちらは2019年リリースの11thアルバム「Berserker(ベルセルク)」からのトラック、勇壮な世界観と芯があるメロディが魅力的です。あんまりスウェーデンのバイキングメタルにはおふざけ感がないですね。ビールの歌とかあるのかもしれませんが。この雰囲気でパーティーメタルやられても怖い気もします。

スピードアップしていきましょう。アルバムレビューでも取り上げたNonexsit。Dark Tranquilityのヨハン・レインホルツが中心となっているサイドプロジェクトバンドで、この曲はArch Enemeyのマイケル・アモットがゲスト参加しています。なんとなくギターソロのメロディがアルバムの他の曲と違うなぁと思ったらアモット節ですね。曲全体でも暴虐性とメロディが高い次元で結実し、メロデスのうまみが凝縮された佳曲。こちらはEPで先行リリースもされていましたが、2020年リリースの4thアルバム「Like the Fearless Hunter」に収録されたナンバー。

先ほど名前がでたBloodbath(ブラッドバス)。スウェーデンメタル界のスーパーバンドで、現メンバーはMartin Axenrot(Opeth)、AndersNyström(カタトニア)、Jonas Renkse(カタトニア)、Nick Holmes(Paradise Lost)の4名。カタトニア組が半分を占めていますね。結成時はミカエル・オーカーフェルト(オーペス)、ダン・スワノ(エッジ・オブ・サニティ)も在籍していました。音像的には基本的には禍々しさを保ったブラックメタルです。ややメロディアスで耽美、ゴシックな雰囲気もあるそれぞれの本体バンドとは違う、アグレッションに振った音像なので、各アーティストの別側面の音楽を追求しているバンドですね。もともとデス・スラッシュ系からスタートしているミュージシャンたちなので、それぞれのバンドの初期衝動的な音像と言えます。ところどころにさしはさまれる美麗なメロディもさすが。本体バンドが活動規模が大きくなり、ゴシックやパワーメタル、正統派HMに近づいていく過程で、サイドプロジェクトで初期衝動を保った音楽を続けているミュージシャンも多いですね(前のNonexistもそうたし、Arch EnemyメンバーがやるBlack Earthとか)。ファンからすれば洗練・拡張されていく本体も、初期衝動を保ったサイドプロジェクトも両方楽しめる良い流れです。

続いては来日も豊富で日本人気も高いARCH ENEMY。1996年に元Carcassのアモット兄弟を中心に結成され(弟のクリストファー・アモットは2005年に脱退、2020年にDark Tranquilityに加入。あと、初期Arch EnemyメンバーによるBlack Earthというプロジェクトでは兄弟そろって活動中)、女声ボーカルながら激烈性とメロディアスな展開で洗練された音像を提示しています。他のメロデスバンド群がだんだんクリーントーン、正統派HMやバンドによってはニューメタル的な音像に近づいていく中、フォーマットとしては「メロデス」を貫き続ける貴重なバンドです。中心人物のマイケル・アモットは70年代HRに接近したスピリチュアル・べガーズというバンドでも活動しており、拡散とか他の音楽性の追及欲はそちらのバンドで発散している印象。この曲は、ボーカルはデスボイスながら音像的には正統派メタル感が強く、かなりメロディアスでフックがありますね。こちらは2017年の10thアルバム「Will To Power」からのナンバー。

Doom Metalの大御所、Candlemass。1984結成で1986年デビュー、スウェーデンのドゥームメタルシーンの確立に大きな影響を与えました。ブラックサバス直系というか、70年代HRの雰囲気も感じさせるヘヴィでメロディアス、呪術的な世界観を持ち続けているバンドです。こちらは2019年リリースの12thアルバム「The Door to Doom」の最後を飾るナンバー。アルバムの他の曲にはブラックサバスのトニー・アイオミもゲスト参加し、サバスの遺伝子を伝えています。聞いていて心地よいヘヴィさなんですよね。人間椅子の鈴木さんが「70年代HRは完成された芸術だと思うから、そのフォーマットを継承して高めていきたい」みたいなことを話していましたが、こういう曲を聴くと実感します。

続いてはTherion(セリオン)です。1987年結成、1991年デビュー。ガチのシンフォニックメタルというか、クラシックとメタルの融合というのをかなりクラシック側によって実践しているアーティスト。もともとデスメタルバンドだったんですけどね。本当にメタル・オペラというか、本職のオペラ・ボーカルや合唱を取り入れています。2018年リリースの「Beloved Antichrist」は3時間、3枚組の大作で、19世紀のロシアの哲学者にして思想家ウラジミール・ソロヴィヨフが著した「A Short Tale of the Antichrist」をベースにした物語が展開されるメタル・オペラです。こちらは2021年リリース予定とされているアルバムからの先行トラック、独自の世界観をさらに推し進めています。

続いてはDark Tranquility。1989年結成、1993年デビューで、いわゆる「北欧メロデス」がシーンとして確立されはじめた黎明期から活動するバンドです。デビューEP「Skydancer(1993)」が当時は奥路地にあったディスクユニオンお茶の水HM館で並んでいたのを思い出します。他にはDissectionの「The Somberlain(1993)」、「Storm of the Light's Bane(1995)」やAmorphisの「Tales From the Thousand Lakes(1994)」も並んでいましたね。Dark Tranquilityも1stアルバム「The Gallery(1995)」を発表、Sentencedの「Amok(1995)」も出て北欧メロデスは次々と名盤、スターが生まれていく。少し後にIn Flamesの2nd「The Jester Race(1996)」が出て、そこでメロデスはめちゃくちゃ盛り上がったもののひとつの完成形を見てしまったというか。しばらくするとどのバンドもクリーンボーカルを取り入れ、暴虐性を抑えていき、耽美というか空間的なキーボードを取り入れた音作りに発展していきました。メロディアスになるのは良いのですが暴虐性を失いすぎると退屈になるので、バランスが難しいところです。あと、北欧らしい美しいメロディがどうも枯渇しているようにも思う。やはり暴虐性の合間に見える美しいメロディを作るセンスと、一曲丸ごとメロディアスな曲を作るセンスは別物ということなのでしょう。中心人物が同じNonexsitはバリバリの暴虐性があるので、もっといい具合にミックスしてくれればいいんですけどね。こちらは2020年リリースの「Moment」からのナンバー。

続いてIn Flames。1990年結成、1994年デビューで、デビュー当時はその完成度の高さに度肝を抜かれました。確か2ndアルバムの「The Jester Race(1995)」がBurrn!誌のレビューでかなりの高得点をたたき出し、それまでメロデスには手を出していなかったリスナーにも扉を開いた記憶があります。パワーメタル愛好者にも訴求するほどのメロディとアグレッションの奔流で衝撃的なアルバムでしたが、そこでその路線をやり切ったのか2000年の5thアルバム「Clayman」からだんだん正統派メタルに路線変更、ちょっと個性が喪われつつある気もします。こちらは2020年にリリースされたClaymanのリイシュー版で、2020年再レコーディングしたナンバー。

Månegarm(モーネガルム)は1995年結成、1998年デビューのバイキング、パワー、ブラックメタルバンドです。こちらも勇壮な世界観。バイオリンや女声ボーカルも入り、フォークメタル色もあります。アルバム名は北欧神話の狼から。北欧らしいクサメロと適度な暴虐性、正統派メタル的な楽曲構成などがミックスされ、目新しさは少ないものの程よい塩梅です。こちらは2019年のアルバム「Fornaldarsagor」からのナンバー。

スウェーデンメタルの大御所、Opeth(オーペス)。以前単独記事も書きましたが、芸術性が高く完成された音像にたどり着いたバンドです。デスメタル、アグレッション強めの音像からスタートしていますがどんどん曲展開が複雑化していき、独自の北欧プログレメタルというか、単純に「美しくて芸術性の高いロック」にたどり着いたバンド。こちらは2019年のアルバム「In Cauda Venenum」からのナンバー。音作りが温かく、ややアナログ的な温もりを感じる音像。冬に聞きたいアルバム。今やプログ・メタルの名プロデューサーとなったスティーブン・ウィルソンがプロデュースした「BlackWater Park(2001年)」は名盤とされていますが、その境地にとどまることなくさらに前進し続けています。けっこう奇妙なのに自然に流れていくメロディ、かなり複雑な展開を流麗に聞かせる力。カリスマ性を感じます。

余韻を吹き飛ばすように暴虐性の海へ。Meshuggah(メシュガー)は1987年結成、1991年デビュー。ポストスラッシュメタルの一群で、ジェントというジャンルの源流のひとつともされています。この曲にも聞かれるようにかなり複雑で多重的なリズム。Toolにも近い、感じるままにひたすら探求していった結果、だれもいないところにたどり着いたような境地を感じます。孤高というか、突然変異的なバンド。ブラジルのSepulturaもそうですね。シーンの中の特異点的なバンドに感じます。キング・クリムゾンのヌーヴォ・メタルも、彼らが40歳若ければこんな風になっていたような(因果が逆か)。2016年のアルバム「The Violent Sleep of Reason」からのナンバー。

The Crownは1990年結成、1995年デビューのデスメタルバンドです。ちょっとロックンロール的なノリもあるというか、ひらすた疾走するノリが心地よい。もともとクラウンオブソーンズというバンド名でしたが、同名のバンド(メロハーっぽいバンド)がアメリカにいたので改名したとか。今は「The Crown」で検索するとネットフリックスのドラマばかり出てきますね。硬派でカッコいいバンドです。2018年、The Originとのダブルヘッドライナーでの来日公演、渋谷サイクロンでのライブは暴れまくりでとても楽しい時間でした。2019年のアルバム「Cobra Speed Venom」からのトラック。

THE HAUNTED(ザ・ホーンテッド)は1996年結成、1998年デビューのメロディックデスメタルバンドです。スウェーデンのメロデスシーンはDark Tranquility、In Flames、At The Gatesという3大バンドを生みましたがAt The Gatesは1996年に解散、そのメンバーが結成したのがこのThe Hauntedです。過去作を聴いたのがだいぶ前なのでうろ覚えですが、そこまでメロディが前面に出ず、正統派メタル的なかっちりした音像、リフ構造を持ったバンドという印象だった記憶があります。それほど北欧メロデス感はなかったというか。しかし、こうして新作を聞き比べてみると今ではこの3バンドの中で一番メロデス色を残しているバンドと言えるかもしれません。こちらは2017年リリースの9th「Strength in Numbers」からのナンバー。

さて、最後のバンドです。Grand Magus(グランド・メイガス)は1999年結成、2001年デビューのスリーピースバンドで、抒情的というよりは漢臭い、マノウォーやモーターヘッドの影響も感じるハードロック色の強いメタルを奏でています。シンプルながらカッコよくて好きなんですよ。2019年リリースのアルバム「Wolf God」からタイトルトラック。大曲が続いたので、最後はシンプルな曲で終わりにしましょう。

さて、以上16バンド、16曲を紹介してきました。大曲が多い。前編と同じ曲数ながら前回はプレイリストの長さが1時間7分、今回は1時間32分と約1.5倍に。やはり世界観をじっくり描こうとすると曲が長くなる傾向があるようです。ある程度の時間を経て酩酊に誘うような曲も多くありました。前編と対で聴いてもらえると、スウェーデンのメタルシーンの幅広さを感じると共に、どこか通底するメロディであったりセンスを感じるかもしれません(まぁ、それはキュレーターである私の好みの偏りかもしれませんが、、、)。

今回選んでみて、やはりスウェーデンのバンドはノルウェーに比べると洗練されているなという印象を受けました。特にメロデス勢。初期の音像からはだいぶ発展、進化しているというか、メロディを取り入れ、プログレ的な手法を取り入れ、音楽性を発展させています。ノルウェジアンブラックは同じ音像を掘り下げているバンドが多い印象に対して、スウェーデンのバンドはより拡張しているというか、グローバルな市場に対する同時代性を感じます。それは良い面も悪い面もあり、たとえばIn FlamesやDark Tranquilityからはかつてのようなカリスマ性は感じられませんでした。逆に、SoilworkやKatatonia、Opethは今の方が好きです。これは単に私の好みであって、同様に前述のバンドも新しいファン層を開拓し続けているのでしょう。こうした「変化していく現在進行形の北欧メタルシーン」を感じられたのがスウェーデン編通しての一番の感想と収穫ですね。あと、KatatoniaとSoilworkは改めての再発見でした。こんなにいいバンドだったとは。Katatoniaとかあんまり印象なかったんですけどね。出会えて良かった。今やかなりビッグなバンドになっているようでそれも驚きました。

次回は最終回、フィンランド編です。個人的な2019年最大の衝撃「Beast In Black」擁するフィンランド。他にどんなバンドがいるのか楽しみです。それでは良いミュージックライフを。

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