Metallica / Death Magnetic(2008)
2008年、5年ぶり9枚目のオリジナルアルバムにしてロバート・トゥルージロ加入後初の作品。トゥルージロの加入によって新しいバンドサウンドとなり、満を持しての作品です。90年代を通して、ブラックアルバムからSt.Angerまでタッグを組み「第5のメンバー」とも言われたプロデューサーのボブ・ロックとの共同作業を離れ、リック・ルービンと組んだ作品。リック・ルービンという人はあまり細かいプロデュースはせず、その代わりアーティストの本質的な特長、原点回帰といったところに焦点を当てるプロデューサーだそうで、このリリース時に標準を定めたのは「1st(Kill ’Em All)から4th(...And Justice For All)」までの4枚だったそう。確かに、過去作でどれに近いかと言えば一番メタルジャスティスに近い音像を感じます。ただ、違いはベースの存在感があることと、歌メロがより強い、メロコア的なフック、ポップさというか印象的なフレーズが多いというところでしょうか。
長尺曲が多く、リフの反復やポリリズム的な、じっくりと展開する曲も多く入っていますが、Load、Reloadにあったストーナー、サイケデリックな酩酊感は薄目。音作りがメタルジャスティス的というか、整理されていていわゆる「スラッシュメタル」的な、ソリッドな印象です。酩酊よりは覚醒した快楽というか。ザクザク切り込んでくる理性的な心地よさ。この後、2010年にスラッシュメタル四天王(Metallica、Megadeth、Slayer、Anthrax)によるBig 4ツアーが行われましたが、それはMetallicaがこのアルバムで初期、スラッシュメタル的なものを振り返るムードになったため、その総括的な意味合いもあったのかもしれません。
なお、このアルバムはリリース時「音が悪い」と評判に。マスタリングで音を大きくしすぎて割れたらしいんですよね。うーん、発売日にCD買った記憶がありますが、そんなに割れていたかなぁ。今回聴いたのはリマスタリング盤なのでもっと自然な仕上がり。まぁ、そんなサウンドプロダクションの面での賛否両論はあったものの、音楽的には賛否両論が分かれない、むしろ90年代以降初めて「過去を振り返った」アルバムです。とはいえ、焼き直し感よりは「2008年」という時代の空気を十分取り入れた、現代的なメタルになっているのは流石。
ドゥームでヘヴィなスタート、Budgieの影響も感じるリフながら、音像がスラッシーでザクザクしている「Broken, Beat & Scarred」をどうぞ。この乾いた音作りはTestamentの近作にも近いですね。ベイエリアスラッシュど真ん中の音。とはいえ歌メロがキャッチーで、曲の起承転結にはっきりとしたフックがあるのが流石。
スマホで聴きながら読みたい方はこちら(noteに戻ってくればYouTubeでバックグラウンド再生されます)。
2008リリース
★ つまらない
★★ 可もなく不可もなく
★★★ 悪くない
★★★★ 好き
★★★★★ 年間ベスト候補
1.That Was Just Your Life 7:10
鼓動音からスタート、かなりズレ感のある不協和音のリフからスタート
ここまで不協和音が前面に出ているのはメタリカにしては珍しい
ドラムの音は硬めだがカンカンしたドラムではない、ギターサウンドは塊感はあるがエッジは立っている
また新しい音だな、勢いがありつつ全体感もある、いい音かな
けっこう生々しさもある、おお、St.Angerからの遺産も感じる
やはりベースとドラムの相性はいいようだ、ドラムが浮いている感じはない
ミックスとか、デジタル録音技術の進化もあるのだろうけれど
ブリッジのメロディが新機軸、St.Angerで幅を広げた歌唱法や、メロコア(メタルコア)的な手法も取り入れている
とはいえメタルのエッジが強い、リフも刻み感がある
リフの途中からツービートで走るのはハードコア由来的か
生々しい、ザクザクしたギターにちょっとアジテーション感もあるボーカルがヴァース
ふむ、音作りはだいぶ違うけれど、曲そのものはSt.Angerに入っていてもおかしくない曲だな
音が明るめというか、ハキハキしている、機械的なザクザク感も戻ってきた
おお、ギターソロが戻ってきた、やはり風景が変わっていいね
リフがけっこう音程移動が激しい、メガデスみたいなリフだな
ベースラインもユニゾンで動いている、グルーヴが強まっている
ツインリードへ、この曲はなかなか新しいな、St.Anger的な要素に一瞬メロスピ要素(終盤のツインリード)を足して、そこに従来のメタリカ的な要素が加わっている
いわゆる「スラッシュメタル」の音像、ビッグ4ツアーも影響した?
★★★★☆
2.The End Of The Line 7:50
2曲目で少し音が小さくなるパターン踏襲、これ、もしかしてこちらの機材の問題?
うーん、でも他のアーティストだと起きないからなぁ
刻むリフ、昔聞いた時は結構複雑な曲構成が多いアルバムの印象があったけれどそうでもないなぁ
思ったよりもSt.Angerからつながっている
この曲の最初のリフとかは初期、メタルマスターの頃に戻った感じはある
単音程で刻むリフ
そこに途中からグルーヴ重視のリフに切り替わる、今まで拡張してきた音楽性を組み合わせつつ新しい要素も取り入れている
やはりリズムの切り替わりやバンドサウンドのまとまりは良い
単純にベースプレイがスピーディー? 音程移動が速いのはあるかも
歌メロだけ抜き出せばちょっとレッチリも彷彿させる、グルーヴ感強めのボーカル
そこにNWOBHMの頃のようなツインリードが乗る
Diamond HeadやMercyful Fateのようなパート
ツインリードが多いな、ギターハーモニー、いや、ベースもハーモニーに参加する
弦楽器隊のメロディの絡み合いが多い
メロディの感じは今までにない感じでもある、途中のスローなパートのメロディなど
「新しい曲」という感じ、2008年のメタルのメインストリームのど真ん中
こうして聞くとメタリカがUSメタルのメインストリームを定義し、切り開いているのだなぁ
★★★★
3.Broken, Beat & Scarred 6:25
分断されたリフがだんだんとつながっていく
ヘヴィで、Budgieのようなリフ、人間椅子的というか、ちょっと和風なメロディでもある
歌メロが魅力的だな、これは面白い、実は新機軸だがらしさがある
ヘヴィなリフだが途中で刻みやちょっと跳ねる感じもあって面白い
Loadで回帰した70年代、Reloadでストーナー的な世界観を打ち出し、St.Angerでメタルコア的なメロディ
それらを踏まえて初期メタリカのリフ構造やツインリード、欧州メタル的なパートを組み合わせて先に進めている
後、コード展開のバリエーションが増えたというか、不協和音をうまく使うようになった印象
スラッシュメタル回帰、実はスラッシュメタルの代表的なバンドと言われながらいわゆる今のスラッシュメタルにあまりつながっていないような気がしたのだが、このアルバムの音像は近い
むしろ一巡して、そういう要素を取り入れたような印象
Testamentの2020年作とかにも近い感じ
★★★★☆
4.The Day That Never Comes 7:55
ギターハーモニーからスタート、80年代メタル的
メタリカが昔から作るバラードの流れ、Nothing Else Mattersとか、なのだが、音作りがもっと古い
初期的なちょっとチープさもある音
だけれど音がクリアでそれぞれは存在感がある、何かしらポップさがあるというか、聴きやすい
声がコンプがかかって、サウンドの真ん中で存在感がある
途中の展開の複雑さはちょっとONEっぽさもあるがあそこまで複雑かつシリアスではなく、もう少しラフなノリがある
途中けっこう走っていくが大げさで神話的な感じはない、メタルな感じ
ソロのメロディにベースも合わせる、弦楽器隊の絡み合いが多い
ジャムりながら作った部分もあるのだろうか
★★★★
5.All Nightmare Long 8:01
不穏なミドルテンポのリフからアップテンポなリフへ
ザクザクしたリフ、刻みのリズム変更でバリエーションを出す
そこそこ音程移動も入る、これもスラッシーだなぁ
Big4は2010か、このアルバムの後
このアルバムで一度スラッシュメタルシーンを振り返ってみたのかもな
なんというか、ベースの存在感がしっかりあるメタルジャスティスみたいな感じ
リフの際立ち方はメタルジャスティスの方があるけれど、こちらの方がベースの存在感と歌メロのフックは上
そのあたりが変わった要素というべきか
リズムはリフとドラムとボーカルがそれぞれ別リズムで攻めるポリリズムではなく全体として一つのうねりを作る形に
そこにグルーブメタル的なリフが入ってきて、旧来のかっちりしたメタル的なリズムと切り替わることでバリエーションを出している
けっこう曲の展開は早い、ただ、メタルマスターの頃に比べると一つ一つのパートが長尺でじっくり聞かせてくる
この辺りはReloadであったストーナー的な要素も残っているのかもしれない
反復による酩酊感で、よりその反復の回数が増えたというか
時代的にもストーナーロックのシーンが確立され、リスナーがそうした反復になれたというのもあるのだろう
メロディ、歌メロの力強さ、複雑さは増している
★★★★
6.Cyanide 6:41
ワウギターが印象的なリフ、そこからベース主導でドラムが入ってくる
ベースのグルーヴがやはり心地いいなあ、聴きやすいというか乗りやすい
ギターリフとベースで呼応するようにリフを奏でる
キャッチーなリフ、歌うような
今回祭囃子的なリフがあるな、3曲目もそれを感じたが
この曲もコーラスの合間のリズムやリフは祭囃子を想起する
鼓童とかがラーズに影響を与えていても不思議はないが、ああいう力強いポリリズムはなかなか他にない
メタリカ(特にラーズ)には同じようなベクトルを感じる
ツインリード、うーん、面白い、欧州的な、正統派メタルというべきツインリードシーン
そこから祭囃子的なトライバルなリズム、グルーヴ
ベースがグルーヴが強い
そこにポップな感じすらするキャッチーなリフが乗り、歌メロが乗る
ストリートミュージック、古臭さがない(2008年の)最新型音楽になっている
★★★★
7.The Unforgiven III 7:47
おお、アンフォーギヴンシリーズも3作目か、2作目はReloadだったかな
哀切な管楽器の音が入ってくる、少しうらぶれた感じ
アルペジオ、ウェスタン音楽的な
スローテンポのドラムが入ってくる、これはサザンメタルの流れだな、Reloadからの流れ
ただ、音がどこかスムーズ、ポップさもあるというか、メタルコアの影響か
A7XとかDisturbedとかにも通じる感触がある
アメリカンな音像、ちょっとアーシーというか
アコースティック感はあまりない
★★★☆
8.The Judas Kiss 8:02
長尺の曲が多いな、メイデンとかも長尺曲ばかりになったのはメタリカの影響もあったり?
途中からアップテンポに、長尺曲のドラマの作り方は手慣れたもの
リフの刻みの快楽が戻ってきている
音像はReloadの塊感とガレージインクの各楽器のクリアさが混じった感じだな
そこにメタルジャスティス的な曲構成、リフ構成とSt.Angerの歌メロ、Load以降より深く追求してきたグルーヴメタルの要素が乗る、と
反復が過去1ぐらいで多い印象だが、酩酊する感じよりは音像がハキハキしている、ギターの音も軽やか
暗さや荒々しさはあるのだけれど、どこか明るい音というか
刻みがザクザクしつつメロディアスでグルーヴィー、Triviumとかのようだ
音が若い
こういう長尺曲でしっかり「聴き足りなさ」をカバーしている、満足するまで反復する感じがありつつ長すぎると感じさせないラインではある
もうちょっとコンパクトにもできただろうけれど、この「反復感」はたぶん大事にしているところなのだろう
もともとそういう要素があったが、Reloadあたりからその反復度合いがさらに増してきた
★★★★
9.Suicide & Redemption 10:02
延々とシンプルなリフを繰り返しながらリズムを繰り返す、ところどころ連打が入る
反復の上で少しメロディが乗る、ストーナー的な反復
これインストなのかな? 3分半ぐらい延々とリフを繰り返してそこからギターメロディが入ってきた
アルバム全体に言えるが、音作りがすっきりしている
音圧は強いのだけれど、なぜそう感じるのだろう
けっこう聴きやすい、うーん、ハーモニーもしっかりあるし、リズムも複雑なのだけれど
インストかこれ、ふむ、珍しいタイプのインスト
クラシカルではないし、リフとかは70年代的というか、ハードロック的なカッコよさがある
弦楽器の絡み合いが聴き所の曲
★★★★
10.My Apocalypse 5:01
組み合わせリズム、リズムパートを埋めて絡み合うそれぞれのギター
片方のリズムの穴をもう片方あ交互に埋める
低音はベースが埋めている、ややアップテンポ
1曲目と最終曲は早め、という1st以来のアルバム構成を踏襲している
ユニゾンのリズム連打、息が合ったバンドサウンドは見事
フレッシュな音像なのはリックルービンプロデュースなもあるのかな
★★★★
総合評価
★★★★
ブラックアルバム以降、どんどん音を変化、拡張してきたMetallicaが立ち止まって過去の総括というか、過去の音像に少し先祖返りしたアルバム
メタルジャスティスに近いものを感じる
ただ、改めて聞き直すとSt.Angerからの連続性を思った以上に感じた
St.Angerはジェイムスの歌メロが大きく変わっていて、メタルコア的な音像、曲構成を取り入れていた
いわばニューメタルのど真ん中に飛び込んでいった作品だったんだなぁと改めて認識
今作もその流れを継いでいる部分もある、1曲目とか、歌メロだけで言えばSt.Angerに近い
ただ、そこに従来のメタリカサウンド、それこそメタルジャスティスの頃の曲構成とかが入ってくる
メタルジャスティスはそれまで持っていた欧州HM的なメロディ、ツインリードだとかそういうパーツをかなり精密に作り上げたアルバムで、1st~3rdまでに比べるとメロディの比重も増した
メタリカの特長はかなりリズム重視で、リフにしろボーカルにしろ、リズムの一部として扱っていてポリリズムを組んで反復して酩酊するような快楽を初期から追求してきた
しかし、クリフバートンを喪ってそのリズムが崩れてしまい、新たな形を模索する中でメロディが強化されたのがメタルジャスティスだと思う
で、その次のメロディ強化タイミングは実はSt.Angerだったんじゃなかろうか
ブラックアルバム~Load~Reloadは音楽性の幅を広げるとともにグルーヴを取り戻す旅路でもあったように思う
Reloadでそれは新しいグルーヴとなり、バンドサウンドが再生する
だからガレージインクは聞きやすいし、S&Mで一度、ロックサウンドの最新系として結実する
ただ、そこで再びベーシストを喪い、音楽性を再構築しなければならなくなる
そこで再度、ボーカルメロディの強化が図られた
黎明期だったニューメタルだけでなくメタルコアとしてもかなりポテンシャルがある、一流の作品としてSt.Angerは作られている
音作りがかなり特徴的だったのでそこは模索の後を感じるが、実際には「(歌メロが)メロディアスなメタリカ」としては過去一番メロディアス、ボーカルの声色も多く、表現力も多彩になった
今作はその歌メロ作曲能力を活かしつつ、トゥルージロが馴染んだことによりグルーヴ感を取り戻している
ただ、グルーヴ感はやはりまだ弱い、Reloadに比べるとだんだん熱量が上がってくる感じは薄い
トゥルージロはうまく馴染んでいるし、メタルジャスティスに比べたらかなりベースの存在感があるのだけれど、まだなんというか「聴いているうちに体に熱が溜まる感覚」までは行けていない
とはいえ、メタルのメインストリームど真ん中に投げ込まれた良質なアルバムであり、このアルバムを超えるアルバムはなかなかないと思う
2000年代以降活躍しているUSメタル群、Slipknot、Trivium、Avenged Sevenfold、Disturbedなどなど、そのあたりのアルバムと並べてみると凄味が分かる
ただ、Reloadのストーナー路線がやや弱まってしまったのは残念、ああいう音楽は不思議なものでどうもバンドサウンドの魔法というか、相性みたいなものが出る気がする、いい悪いが説明しづらい
ヒアリング環境
夜・家・ヘッドホン