特撮 / エレクトリック ジェリーフィッシュ
特撮5年ぶりのニューアルバム。前作はウィンカーですかね。5年後の世界→パナギアの恩恵→ウィンカー→本作、か。(結成当時)元筋肉少女帯の大槻ケンヂを中心に、同じく元筋肉少女帯の三柴理(Key、Piano)、筋肉少女帯の内田雄一郎(Ba)、Coalter Of The DeepersのNARASAKI(Gt)、オブリヴィオン・ダスト (当時)のARIMATSU(Dr)というメンバーで2000年デビュー。気が付けば特撮も21周年。筋少の崩壊から、オーケン・内田の再始動、そして三柴理(江戸蔵)の再結集、NARASAKIとの合体。特撮の1stアルバムは新鮮でした。大槻ケンヂ関連の作品もそのうち振り返ってみたいと思います。
1.電気くらげ ★★★☆
幽玄な音、ハープか琴のような。そこからベースが入ってくる、ハモンドオルガンか。70年代ロックのオマージュ的な音像。少し古びた、ビンテージなロックの音像。電車やオケミス的。ちょっとサイケ。ニューウェーブ。ビンテージシンセの音が響く、ジョンロード的。タイトルトラックなのかこれ、エレクトリックジェリーフィッシュ=電気くらげ。初期のハードコアな音像というよりはもっとダウナーな、NYアンダーグラウンド的な音像。前作のウィンカーもこんなオープニングだったような気もする。荒井田メルの上昇もそうだったか。お、途中からギターが入ってきてザクザクしはじめた。NARASAKIらしい空間を埋める、壁のような、そこまでエッジが強くなく音の塊感が強いギター。言葉だけが浮き出る感じはないな、いいミックス、ストーナーロック。クィーンズオブストーンエイジ的な。比較的曲展開はシンプル、同じリズム、進行でギターは比較的単調なリフ。キーボードの装飾は面白いセンス。うーん、オープニングにしては弱めか。
2.ヘイ!バディー ★★★★
軽快なテンポに、ただ、ベースが強調されていて全体的な音はストーナー的。そういえばある時期からこういう音像になったなぁ、内田が抜けたあたりからだろうか。少なくともパナギアはこうだった。夏盤もこんな感じだったなぁ、NARASAKIのセンスなんだろう。女声が入ってくる。絶望少女達で手に入れた手法。まぁ、もっとさかのぼれば221B戦記だろうか。いや、女声ボーカルと分け合うのはペテンか。声優声(演じている声)とのデュエット。ああ、こういうサウンドはヌイグルマーですでにあったか、バーバレラとかそうだよな。爆誕はもうちょっとエッジを強調していた気もする。「ハードコア」というコンセプトが強かったというか。最初のヴァースのベースラインはちょっと平坦だが、途中からのコード進行はさすが。NARASAKIの作曲家としてのセンスを感じる。犬でもネコでも何でもいい、とか言ってるな。アベルカインを引きずっている。
3.オーバー・ザ・レインボー~僕らは日常を取り戻す ★★★★
やや明るめのスタートからヘヴィでグルーヴィーなリフへ。ただ、ギターの音は芯があって硬い音というよりはストーナー的。もうちょっとリフのセンスがあるといいんだけれどなぁ。けっこうかき鳴らすだけで、「リフ」という感じはない。発想が音響から来ているんだろうか。ボーカルに対立するメロディとしては三柴のピアノ、キーボードに任せているのかなぁ。もうちょっと印象的なギターフレーズとかあってもいいと思うんだけど。どちらかといえばサウンドレイヤーに徹している印象。これは初期からだけれど。まぁ、それを聞きたければ橘高がいる筋少を聞けということかもしれないが。揺れるような、比較的ミドルテンポで演劇的な進み方、オケミスといいこういう感じのモードなのはオーケンなんだな。プロジェクトが違っても似た感じの音像になってる。サビで轟音、ハードコア感(コーラス)が出てくるのは特撮というプロジェクトの特性か。後半になるにつれて熱量が上がっていく。ジョディ・ガーランドと言っているな、オズの魔法使いか(オーバー・ザ・レインボウはオズの魔法使いの主題歌、主演がジョディ・ガーランド、ガートランドだったかな)。女声が入ってくる、コーラス。グランジオルタな的なバラード。コード進行が。
4.I wanna be your Muse ★★★★☆
急にシティポップ的なイントロ。いいね、空気が変わる。ディスコか。煌びやかな感じ。シティポップ感はあるがなぜかミラーボールが浮かぶ。どこかうらぶれた、路地裏のホール。Museは女神。I Wanna Be Your Dogというストゥージーズの曲があるからパンク的かと思ったがそういう路線ではないな。歌謡曲、シティポップ的だが音像は違う。ギターの刻みがなかなか面白い、これは新しい感じの音、NARASAKIさんノッてる。組み合わせてあるドラムパターンが面白い。やや性急なダンサブルな曲。パーカッション的というか。分散リズムを刻み、メロディはボーカルとピアノが担当。ミューズ音楽学院とタイアップしたりして、この曲。CMソングにいいんじゃないですかね。ああ、なんとなく何かに近いなあと思ったら歌メロがちょっと米米CLUBを想起させる。Sure Danceとかの、ちょっとエロチックで滑るような頃の米米CLUB。
5.ミステリーナイト ★★★★☆
悲鳴、うごめくリフ。ホラーメタル的な感じ、お、リフが来た。Lordi(フィンランド)みたいだな。「俺はアンチクライスト、マジヤバいブラックメタリスト」だそうで。こりゃ北欧メタルオマージュだな。もうちょっとリフは頑張ってほしいが。マジでよくできてるなこれ。笑えるぐらい北欧メタルのパターンを理解している。Powerwolf(ドイツ)も、ときどき北欧っぽい曲やるんだけど、あれは「北欧メロディ」を分析して再現してる感じがする。曲名忘れたなぁ、修道院でシスターが躍るやつ、自分の記事で取り上げたのだけれど曲名を忘れてしまった。なんというかそういう「きちんと北欧メタルをカリカチュア化した曲」の感じがする。いいね。ちなみにLordiとか、本家だともっとひねりがある。「らしさ」の上にひねりを加えてくるからね。これは日本(に限らず、非北欧圏のバンド)がやるパロディとしては冴えている。お、トランペット? が出てきたぞ。マイケルモンローを意識してるのか。彼も何か管楽器吹いたよね。Lordiの新譜でなぜか管楽器でゲスト参加してた。ああいう感じか。というかこれLordiを狙い打ったオマージュか。昨年リリースされた「Killection」はいいアルバムですよ。
6.ウクライナー ★★★★★
タイトルからすると東欧か、東欧ブラックメタルか。いやしかし、音像は違うな。そこまで激烈性はない。ベースがブリブリした上で語りが乗る。企画ものAVの女、的な構造。途中からブラックメタル的な音像にはなる。轟音リフ、音を埋める、そのうしろでグロールボーカルが入る。上ではオーケンが語り続ける。なるほど、オーケンフィルター、特撮フィルターを通すとウクライナはこういう感じか。東欧ブラックメタル+なんとなく東欧に持っているイメージを音像化するとこうなるのか。北東へ向かうとツンドラだ。イワンのばかのように消えていくのか。コサックダンスを踊るらしい。ベースやギターがちょっとファンクっぽいのが面白いな。お、欧州フォークソング的になってきた。リズムやメロディにポルカ感はないな。あ、テンポアップした。「ポルカを踊りましょ」といえばノゾミのなくならない世界か。ちょっとあの世界観にも通じるな。男女の声が入ってきて、くるくる舞い踊るようなメロディ。最後の高速パートはノゾミのなくならない世界だな。幽玄でホラーなキーボードが出てくる。娯楽性が高くていい曲。「胎児よ胎児よなぜ踊る? ママの夢分かって怖いのさ」。オーケンこのフレーズ好きだねえ。でも歌詞で出てくるのはペテン以来2回目かな、そうかもな。寺山修司だったか。そのまま民族色が強いパートへ、バンドネオン? アコーディオン? ポルカか。ポルカだ。
7.喫茶店トーク ★★★
気だるいボーカル、オケミス風。つかみどころがない音像、80年代ポップス、もっと強いリバーブ、Vaperwave的ですらある。どこかレトロで人工的な音像。ドット絵で描かれた江口寿史。NARASAKIが作るバラードはこういうメロディがあるね。NARASAKIさんの声で歌ってるのも想像がつく、こういうのってもとはどこから来てるんだろう。シューゲイズかな。マイブラッディバレンタインとかか。メロディセンスは歌謡曲ともまた違う。全体的な音像は最初に書いたようにVaperwave的、80年代、いや、90年代ポップスか。それが少し色あせたような、あるいは人工的に保存されて、再着色されたような。箸休め。耽美。
8.フィギュア化したいぜ ★★★
打ち込みリズムから生ドラム、メジャーで開放感があるコード進行、なんだろうこういう進行、グランジオルタナ的か。力技で移動していく。ちょっと各楽器の音が分離している。意図的だろうか。距離がある。開放感があるアリーナロック的な作りなのか。朗々とサビを歌う。これはどういうモチーフなんだろうなぁ。アリーナロックをイメージしたのか。90年代、00年代的。80年代メタルではないな、ニューメタルとかそっちのメロディセンス。そういえば日本のバンドシーンはその間どういう経路をたどったんだろうなぁ。80年代はバンドブームで好き勝手やってたわけで、その次はメロコアか。そのあとはメタルコアなのかも。こういう歌い上げる系のメロディとこの歌詞というのが、訴えかける、高らかに歌い上げる心情としては合っているが表現の仕方がストレンジ。楽曲と歌詞のそのミスマッチ感というか、同じ方向性を向いているのにちょっとしたズレを楽しむ曲だな。
9.果しなき流れの果へ ★★★
三柴ボーカル。いきなり力強い歌声。ホンキートンクピアノ、いや、ロックンロールか。古いラジオ。50年代、60年代、オールディーズのロックンロールか。裸で踊るジルバ? いやそれは(サザンの)いなせなロコモーション。ただあの曲で描かれた情景に近い。よりその時代からは遠かったわけだが、追憶する時代は同じ。ギターノイズが間を埋める。歌メロもオーソドックスというかオールドスタイルなロックンロール、ちょっとジャジーな音の飛ばしも入っているがテンションはあまりない。三柴の朗々たるボーカルで終曲。
10.歌劇「空飛ぶゾルバ」より「夢」 ★★★★★
オルゴールと語り、催眠的なスタート。胡散臭いな。そこから開放感がある、パチンコのあたりのような音像。ギターが轟音を足している。少しつっかかりはあるがスタスタとしたリズム、開放感あるコード。突然場面が壊れる、転換。刺される。演劇的だなぁ。声優の声が入ってくる、綾波? 「それができねぇから聞いてんだよ!」これはナイスパフォーマンス。声が乗ってるなぁ。ある時期からオーケンがライブでプロンプターみるようになって語りから狂気性が失われた。即興ではなく音源通りの朗読的な。お仕事感。弾き語りはじめてからまた復調してきたけれど。このパフォーマンスは迫真だな。場面が変わりウェスタンへ。そこから寸劇が続く。いやぁこりゃすげぇな。Radio Heaven、いや、スネークマンショー。もともと筋少でもパンクでポンとか寸劇もやってたわけだけど、いや、空手バカボン まで遡るべきか。特撮でも文豪ボースカやケテルビーだって演劇的だし。それを突き詰めていらっしゃる。これは音楽形式的な「プログレッシブロック」の極北だな。組曲。一番近いのはZappaか。Frank Zappa。小曲の連続のような作り。それをつないでいくのが物語、歌詞世界。いや、オーケンの嗜好を考えるとGenesisやVan Der Graaf Generaterか。
11.ネタバレの世界で生きてくための方法 ★★★★
前の曲から続いていく、組曲の続き、といった趣。フィナーレか。ちょっとじゃがたら2020的、「それから」以降の、OTTOの色が強めだが、そういえばじゃがたら2020のライブにオーケンが出たのも影響しているのかな。大団円、アルバムの大団円を表現するにふさわしい音は何か、じゃがたらだ。という発想かもしれない。虹色のファンファーレ的。ファンファーレはないけれど、コンセプト的なものが似ている。
全体評価 ★★★★☆
面白い、アルバム全体としてアイデアが詰まっている。全体として、「聞いていて心地いい」、こういうサウンドとしての面白さ、心地よさ、バラエティを作る能力はNARASAKI氏は高い。し、特撮もバンドとしての状態がいいんだろう。けっこう実験的なことができている。長いキャリアになってくるとどうしても過去の自分との対比というか、目新しさに限界が出てくるけれど、少しずつ領域が拡大されている。筋少、オケミス、特撮と活発に活動しているし、それぞれ微妙に違いながら絡み合っていて、互いの音楽性に影響を与えている。今回はプログレ色というか、70年代プログレの元ネタまでさかのぼってクラシックロックやサイケの空気感を持ちつつ、もともとあった80年代ハードコア的な音響もあるし、北欧や東欧も取り入れる、ミステリーナイト~ウクライナーの流れが面白い。相変わらずNARASAKIのギターフレーズは弱め、というか、この人はギタリストというより作曲家、コンポーザー思考なんだろうな、サウンドレイヤーとしてのギターなので90年代以降のギタリストで、80年代的なリフとかメロディ主体のギタリストじゃないんだろう。その分、サウンドはいろいろと凝っていて面白い。7、8、9あたりがちょっと弱いが、10,11で持っていって終わる。最後JAGATARA的なのはなんとなく個人的にはうれしい。納得感がある。JAGATARA2020の会場にいて、オーケンも出てたからね。進化、変化しつづける大槻ケンヂの今。