マックの物語(4)
「こんちは~~~」
必要以上に大きな僕の体育会系あいさつ。
無駄に声が大きいんです。
「・・・」
無言かよ・・・寂しい~
「よく来たな、今日はいい天気だな~」
「午前中はどこか行ってたの?」
爽やかに一方的にしゃべりまくる僕。
「・・・」
一人芝居だよ、完全に。
しかしマックはやる気はあるようで、
一直線に奥から2番目のパソコン目指して
歩いている。どうやら自分で勝手に
定位置を決めているらしい。
「よ~し、今日は何読もうか?」
「先週の続きを・・・」
おっ、いいぞ自分で計画してきたんだな。
「菊次郎とさき」を本棚から抜き出し、
朗読CDを探し始めた。
体験の時に位置関係をしっかり把握していた
ようで、ほんの数分で探し出して
席に戻ってきた。
「よく覚えていたね、じゃパソコン立ち上げて
始めよう。やり方覚えてるかな?」
「ええ、まあ・・・パソコンはやっていたことがあるので」
お~前向き、いい感じ、いい感じ。
テキパキと動き出したが手順は滅茶苦茶、
変な音が鳴り出した。
マックが無駄にマウスをシャカシャカと
消しゴムで文字を消すように素早く動かし始める。
顔面をパソコンが嫌がるくらいにモニターに近づけた、
おっ!これは何か新手のパソコン処理か?
「だめだ・・・」
マックがつぶやく。
何だジタバタしてたのか。(苦笑)
「1回じゃ覚えられないよな、でもパソコンの
扱い方なれているじゃん」
「ええ、まあ・・・パソコンはよく使っていたので・・・
得意っていうか・・・」
案外調子に乗るタイプだ・・・やっぱり。
ヘッドフォンを中途半端に斜めにつけてマックが読書を始めた、
1.0倍→1.5倍→1.0倍→1.5倍
おそるおそるスピードを上げたり、下げたりしている。
新しい世界に踏み込むことをためらうように、
行ったり来たりしている。
予想以上の集中力で50分が終了。
「ふ~」と息をはき、ヘッドフォンをはずす。
「どう、面白かった?」
「ええ、まあ・・・」
ええ、まあ・・・には大分なれてきた。
本をこんなに長く読んだのは何年かぶりだという事だった。
ひどく疲れたが、本は面白かったということを
ポツリポツリと説明してくれた。マックの言葉使いは
とても丁寧で真っ直ぐだった。
「来週も来ていいですか・・・」
「おお、当然だよ絶対来いよ」
今日も体験のつもりだったのか(笑)、
自分が入室したことを理解していないのか?
まあ、いい。
読書記録
4月1日、「菊次郎とさき」、作者ビートたけし、
26ページ~97ページ、1.0→1.5→2.0、
高校生とは思えないつたない字ではあるが、
真っ直ぐなマックの性質をよく表した文字。
一言でいいからコメントを書くようにすすめたが、
今日もコメント部分は白紙だった。
自分でも変わろうして
もがいているように見える。
マックよガンバレ!!継続は力だ、君は元気になれる。
「また、来週な。さよなら」
「・・・さようなら、ありがとうございました」
小さくてか弱い声ではあるが、丁寧なあいさつだ。
マックが少し笑ったような
気がした。そんな気がした。
几帳面に鞄を肩から斜めにかけて、
マックがトボトボと帰ってゆく、
さよなら・・・また、来週会おう。
4階の窓からマックのうしろ姿を見送った。