マックの物語(11)
マックは坂本竜馬の前半を読んで
色々な感想を僕に嬉しそうに話した。
読んだ本について
こういう風に一生懸命話すのは初めてだ。
竜馬が要求した賠償額の正確な金額や
修行した道場の名前などを正確に記憶していたのには
少し驚いた。
「おい、すごいじゃないか!
ふつうは正確な金額まで覚えられないぞ。
もう、読書の方法が分かったんだな!」
正直驚いた、
「ええ・・・まあ・・・、数学的なことや
ゲームでも賭け事のようなものが好きで・・・」
何かチグハグな返答だが・・・まあ、いいか。
とにかく
マックの読書力は明らかに上がっている。
50分読んでそのあらすじやポイントを的確に
つかむようになっていた。
問題と言えば
相変わらず1行の感想を書くのに
10分、いや長い時は40分くらい考えるということだ。
ゴールデンウィークは教室を休みにする予定だったのだが、
4月29日(日)はオープンすることにした。
これはマックのこともあったが、
他の生徒の中にも1週間あけたくない
という連中がけっこういたので
嬉しくなって、
その場で「もちろんゴールデンウィーク中に
1日開ける日は決めてあるぞ!」
なんてお調子者の僕が言ってしまったからでもある。
とにかくマックには4月29日(日)は
オープンするから「来ても大丈夫」だと伝えた。
マックも喜んでくれた「必ず来る」と言った。
坂本竜馬が面白かったらしく、
この後は歴史物を続けて読みたいと
自分から計画を言い出した。
坂本竜馬が子供の頃、
寝小便ばかりしていたのに
立派に成長してゆく様子には
ひどく感激していて、
「人は変わるんですね」
という事を5回くらい言っていた。
マックは変わりたいんだ、
マックよ変われるぞ、
人は自分で変わろうと思えば
いくらでも変われるんだ。
ところが、
4月29日(日)マックは来なかった。
家に電話をしたがずっと留守番電話、
夜まで待ったが
結局マックは来なかった。
恋人にデートをすっぽかされて
時間をもてあました男のように
教室の中をウロウロする。
マック、
坂本竜馬の後半をあんなに楽しみに
していたじゃないか。
どうしたマック。
歴史シリーズに突入しようと約束したじゃないか。
継続こそ力だぞ!マック。
変わりたくはないのか。
僕の独りよがりか・・・
日照時間が大分のびている、
夕暮れが教室を真っ赤に照らしていた。
僕はマックが差し込んだ栞をつまんで
本を開いた97ページ、坂本竜馬、
誰もいなくなった教室は
静だった。いやになるくらい静だった。