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感情の消えた夜 境界線 Ⅴ
彼の居ない時間
きまって日曜日は私と彼は一緒に居ない。
深い理由はないのだけれどなんとなくそうしていた。
私は社会人になってからほとんど学生時代の友人や知人と会わなくなっていたのだけれど、数少ない親しい友人と久しぶりに会うことになった。
彼女とは中学校の頃からの付き合いで、将来の事や趣味の話、恋愛の愚痴まで話し合える仲だったし一緒に居て楽だったから前はよく会っていた気がする。
ある土曜日、ウィンドウショッピングをしながらたまにはお泊まり会をしてだらだらしようと、地元の商店街を夕方くらいから二人で歩いていた。
「そういえばこの前同窓会で紹介された喫茶店よく行ってるんだっけ?いい感じ?あの子紹介しといて一回行ったきりらしいよ。どうでもいいけど相変わらず適当よね。」と彼女が言ったので、私は「あの子は昔からそう。私はほとんど毎週行ってるよ。お店のインテリアとか音楽の選曲とかの雰囲気好きだし、マスター面白いし。彼もできたし。」と答えた。
「ふーん、変わった喫茶店ね。いい居場所じゃない、今度彼紹介して。あ、そうだちょっと薄手のカーディガン欲しいからあっちの店行こう。」と彼女は割と深く干渉してこないので楽だったのかもしれない。
一通り洋服屋さんを巡った後、私達は地元のカフェでお茶をする事にした。
私は「最近彼とはどうなの。もう中学くらいからだっけ、随分長いじゃない。」と彼女に聞いた。
「高校からよ。うーん、もう家族みたいな感じかな。良くも悪くも。同棲しようかって話はしてるけど私乗り気じゃないの。」と彼女は続けて「あなたこそ例の彼とはどうなのよ。昔から割と面食いだったじゃない。どんな人なの。」というので「うーん、顔とか別にタイプじゃないけど雰囲気が好きかな。煙みたいな人。」と私は答えた。
「へえ、爽やかな人好んでたのに変わるものね。」
私たちは一息ついてまた街を歩きながら駅地下のスーパーでお惣菜やお菓子を買って、彼女の家へ向かう。お泊まり会というと大体昔から彼女の家で集まっていた。
特に何をするというわけでもなく、私たちは賑やかなテレビのバラエティー番組をBGMにして、学生の頃の話や予想も出来ない将来の話をして眠る。
そしていつも彼女は電気も消さずに話している最中、突然糸が切れたように先に寝てしまうから私は、その後一人で机を片付け押入れから掛け布団を二枚引っ張り出して彼女にも掛けて、電気を消して目を瞑った。
10年後も20年後も私達はこんな風に遊べるのかな。多分どちらかが結婚してしまうのだろうな。きっと彼女が先だろう。今度二人でずっと食べてみたかったけど行けていない美味しいクレープのある店に足を運ぼう。
彼は今何を思っているだろう。私の事少しは考えてるのかな。いや、多分小難しい答えがあるのかもわからない会話を友達か誰かとしているんだろうな。
真っ黒な天井に飲み込まれ意識が薄れゆく中、彼がたまにつける香水のかおりを思い出す。
味気なく繰り返される日常の一駅手前で。
果てしなく遠く、限りなく近い場所へ。
太陽が昇ることのない、無人列車の永遠の旅。
感情の消えた夜 - 境界線 Ⅴ - アルバム下書スケッチ