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「ルパン三世」トウキョウ・トランジット~山田康雄の誕生日に寄せて~

はじめに

本日9月10日は山田康雄の誕生日だ。ご存命であれば89歳。

26年も前に他界されたので、まるで昔の人のようだが、先日、次元大介役の勇退で話題となった小林清志が88歳なので、近年まで山田ルパンが活躍した可能性も全くあり得ない話ではない。

後任の栗田貫一も山田康雄のルパンよりキャリアが長くなり、もうすっかり「ルパン三世」として定着しているが、「ルパン三世」という作品を思う時、どうしても山田康雄を忘れることが出来ない。

今日は山田康雄の誕生日を記念して、結果的に彼のラスト・アルバムとなり、私の「山田康雄好き」を決定付けたCDを紹介する。

Lupin the Third Tokyo Transit featuring YASUO YAMADA

0.大人の視聴に耐えられるアニメCD

このアルバムは1993年に発売された。以下の1.でも書いているが、この時代多くのアニメ作品がCDでオリジナル作品を出しており、長寿アニメ「ルパン三世」もその時流に乗ったことで生まれた作品のように思う。

しかし、アニメ化当初から大人をターゲットにした作品だった「ルパン三世」のCDということもあって、「コンセプトアルバム」と言う形で「ルパン三世」が持つ大人の世界を表現した内容で、作中の空港のシーンの音などは本物のフランスの空港の音を取り寄せて使用するなど、こだわりを持って作られている。

結果的にこの「コンセプトアルバム」というスタイルは、峰不二子役の増山江威子と共演した「聖夜泥棒」(1992年)と本作のみとなった。

1.発売までの経緯

振り返ってみれば、時代の潮流の中で生まれたCDだったように思う。

1982年、コンパクトディスク(=CD)が世に生み出され、86年にはレコードの販売枚数を超えた。
90年代に入る頃にはCDはすっかり身近な音楽ソフトとなり、アニメ業界においても、単に主題歌や劇伴をソフト化するだけでなく、「声」という特質を生かしてドラマCDが企画されるようになった。

ルパン三世においても、「ルパン三世 テーマ・レボリューション'92」・「ルパン三世 聖夜泥棒」など、ドラマや語りを含んだ新録のCD(コンセプトアルバム)がこの時期よく発売されていた。
山田康雄のファーストアルバムである「せ・しゃれまん」が、折からのアニメブームによって企画されたアルバムだったように(本人はそう言ったブームを嫌っていたようだが)、本作もそんなCDの歴史と重なって生まれた作品である。その点で、山田康雄はそういう運を持っている役者である。

2.内容

内容はトランジットによって東京で一夜を過ごすことになったルパンという設定だが、ルパン三世の音楽がバンバン流れたり、キャラクターとのやり取りがあるといった「アニメ的」な作品ではなく、静かに大人の夜を過ごす内容で、山田康雄も「ルパン」を演じている雰囲気は無い。

収録は大野雄二の自宅兼スタジオで行われたそうで、山田康雄がかなりリラックスして収録している様子がうかがえる。「せ・しゃれまん」の「またひとつ恋が終わった」が流れ同作を彷彿とさせる台詞を喋る件は、そんなリラックスした雰囲気から生まれたアドリブだったのではとさえ思えてしまう。

本作で山田は3曲歌唱しており、いずれも後に追悼本「ルパン三世よ永遠に-山田康雄メモリアル-」にも収録された。
大野雄二に言わせると晩年の山田は高音が出にくくなっていたとのことで、本作の歌唱も喉と口先で歌い、どちらかと言えばかすれ気味で声量のある歌い方をしていない。
しかし本作ではそれが山田のキャラクターと相俟って「味」となっている。

3.聞きどころ

聞きどころは何と言っても「MEMORY OF SMILE」である。
今では「ルパン三世」のナンバーの一つとなり劇中でも流れることがあるが、本作がオリジナルで、少ししゃがれた温かみのある歌声は、山田康雄の魅力に溢れ、山田康雄が歌うからこそ名曲になる一曲だ。

歌詞は作中の物語から、ルパンが過去の女性を思い浮かべているような内容で作られたと思われるが、山田没後、大野雄二自身の手でジャズアレンジされ、自身のライブなどでも山田康雄を偲んで弾かれることから、
「山田康雄の笑顔の記憶」といった印象が強い。この曲は後に前述の追悼本や、「LUPIN THE BEST!PUNCH THE ORIGINALS!」にも収録され、カラオケでも歌える比較的メジャーな曲でもある。

4.その後

発売年である93年、テレビスペシャル「ルパン暗殺指令」のアフレコで山田は体調不良から着席で収録しており、雑誌が企画した座談会も中座している。世間的にもこの「ルパン暗殺指令」から山田の声が衰えているのでは?という声が上がり始めた年であった。事実カリウム欠乏症などになり、歩行が困難になっていたのはこの頃で、大野に「早く次のアルバム作らないと俺死んじゃうよ」と漏らしたり、「ハヤイ ハナシガ イショ」という手紙を家族に残したりと、本人も多少なりとも自覚があったようである。

大野雄二も多忙であり、次のコンセプトアルバムが制作されることはなく、
山田康雄は1995年3月19日、鬼籍に入った。
本作の再販期限が「95・3・20」だったことにすら運命を感じてしまう。

現在もアニメ業界ではドラマCDの類は発売されているが、「ルパン三世」としては、山田没後この手のコンセプトアルバム、ドラマCDの類は発売されていない。

5.入手方法

本作品は山田没後徐々に希少価値を高め、2010年まではオークションサイトなどで出品されると高額で取引されていた。
しかし、2010年「ルパン三世 ミュージック・トレジャーズ CD-BOX」としてリマスター版が発売され、音源を入手することは比較的容易になっている(このBOXは2021年現在も購入可能)。
上述の「テーマ・レボリューション」や「聖夜泥棒」もBOXに含まれるため、それぞれ未入手の方は、まとめ買いするのにオススメだ。
オリジナルのCDは中古で市場にある限りであり、定価の2800円で買えることは少ないが、3000~5000円ぐらいが相場でないかと思う。

6.おわりに

実のところこの記事は、上記Amazonレビューで私が書いた内容の再掲である。Amazonレビューに書いてはみたものの、商品購入のためのレビューとして良いのか?という気持ちもあり、こちらに再掲させて頂いた。同じ内容が載っているからといって、盗用ではないので、その点だけ念のため。

また、上記の作品はGoogle等で検索すると、違法に全トラック聞けてしまう動画共有サイトがあったりするが、簡単に音楽が聴けてしまう時代だからこそ、CDを手にしてその時間を大切にしながら聴いて欲しいと思う。

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