声優交代―山田康雄から栗田貫一へ
本日3月19日は、初代ルパン三世の声で有名な山田康雄の命日である。
今年で29年になる。
長寿アニメの声優交代は、この20年で事例が増え、受け手である視聴者も慣れたところがある。
また、声優の方もニュアンスを残しつつモノマネにならない巧みさを持つようになり、納得感のある声優交代も増えたように思う。
しかし、29年前のルパン三世役の交代は、まだまだ事例も少ない頃で、声優と役が不可分となっている場合、その交代には激しいショックと抵抗があった。
今回はその頃の経緯を振り返ってみる。
「ルパン三世」役の声優交代についてプレイバック
奇しくも今年は「ちびまる子ちゃん」のまる子役・TARAKOさんの死去により、まる子役の後任が取沙汰され、その批判を危惧するようなポストが投稿されている。
万人が納得の行く声優交代は現代でも難しいが、出来るだけ傷を浅くするには、以下のようなことが求められると感じる。
前任者と比べて声質や芝居に違和感がない(=同質性)
前任者と異なっていても、役にあった声である(=実力がある)
同業者、あるいは同じ事務所など、前任者の薫陶を受けている(=芝居・出自の共通性)
人は不思議なもので、人間としては全くの別人でも、○○の息子・○○の弟子などということに妙に正統性を感じてしまう。
世襲の多くは「3.」のケースである。
この「3.」のケースが大きく喧伝され、その結果、事実と異なった情報が流布されたのが、「ルパン三世声優交代劇」ではなかったか。
山田康雄と栗田貫一師弟説
近年の「ルパン三世」関連本では見られなくなったが、1995年の声優交代当時、「山田康雄と栗田貫一は師弟のような関係であった」「山田康雄は栗田貫一に後を頼むと言っていた」という話が関連本や関係者のインタビューなどで取り上げられていた。
多くは、栗田貫一が公私に渡って山田康雄と交流があった事実と、山田康雄が冗談で「クリカンにやらせろ」と収録現場で言ったというエピソードに尾ひれがついたもののようだ。
しかし、業界関係者にもまことしやかにこの話は伝わっており、関係者が証言することで信憑性を得てしまっている。
実際、栗田貫一が山田宅の留守番電話にルパンのモノマネで吹き込み、後から「オレはそんな言わねえよ」と返すなどやり取りはあったようだが、栗田は以下のように証言しており、ルパン役に関する演技指導などの「師弟関係」は無かったことが推察される。
現在では、ルパン三世の声優交代については、凡そ以下のような流れであったことが判明している。
山田康雄が倒れたのは新作映画「ルパン三世 くたばれ!ノストラダムス」の収録間際で、映画を中止することは出来なかった
山田が所属した劇団テアトル・エコーは、代役として声質は違うが山田の芝居に傾倒した安原義人を推薦し、八分通り決まっていた(前述の「吐いてけ!辛口屋台」での納谷悟朗の証言)
過去のキャラクターのイメージを変えない(ショックが大き過ぎるため)条件で何人かオーディションをした
栗田貫一は、前年に山田が演じた「ルパン三世 燃えよ斬鉄剣」の台詞を山田風に喋るオーディションを受け決定した
安易な「師弟説」がクリカン批判を生んだのでは
今では山田康雄以上に長期間ルパン三世役を務め、すっかり定着した「栗田ルパン」。しかし、交代から10年以上は批判され続けていたように思う。
それは、超一流のベテランでオリジナルの声優陣の中で、声の演技では素人同然であった栗田貫一の声の違和感が大きな理由だったと思うが、それ以上に、
当時、長寿アニメの声優交代のケースが少なかった
後任のオーディションがブラックボックスだった
安易なモノマネタレントの起用に不満があった
というところが大きかったのではないだろうか。
制作側も今ほどアニメ作品に重きを置いていないような節があり、役のイメージが付いていないタレントを起用して急場を逃れようとした節すらある。
※近年、栗田の証言により、さんまやたけしをルパン役に据え、終わらせようとするアイデアもあったことが明かされている。
事実を知れば、栗田貫一も相当の無茶振りの中役を引き受けているので、クリカンを批判するのはお門違いなのだが、安易な「師弟説」も、正統性につながる安心材料どころか縁故採用みたいなイメージを与え、「ちゃんとオーディションして後任を決めろ」という批判につながってしまったように思う。
現在でも、不祥事の会見などで納得感のある説明(ストーリー)が提示されないと批判・炎上の対象になることは良くある。
当時も、詳細を伝えず「山田と栗田は師弟関係」「原作者・声優陣も太鼓判」みたいな宣伝だけでは、すべてのルパンファンを納得させるには至らなかったのではないだろうか。
クリカンは「ルパン」を繋げた功労者
実際の栗田は、当初勝手が分からず収録現場でも針のむしろであったし、何日も山田の声(音)を耳に入れたり、一人だけ録り直しをしたりと、かなり勉強熱心で真摯に役に取り込んでいた。
この栗田の姿勢が、共演者や制作者を味方に付け、ついには批判されないキャリアにまで辿り着いた。
お陰で「ルパン三世」は50年を超え、数年に一度コンスタントに新作が作り続けられる国民的作品として存在し続けている。
「ルパンは俺だ!」と豪語した山田康雄も、栗田貫一の活躍には拍手を送っているに違いない。