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「山田康雄の戦い」の誤りを正す

名優・山田康雄の誕生日(9月10日)に合わせ、ネット上に出回っている動画の誤りを正してみたいと思う。


現在、Googleで「山田康雄」と動画を検索すると、上位に以下のような動画が表示される。

これは元々、2009年9月10日(金)(※)に放送された、日本テレビ系列の情報・バラエティ番組「おもいッきりDON!」内の「きょうは何の日」のコーナーである。

※動画内のナレーションでは「今から78年前」とあり、山田の生年1932年から計算すると2010年になるが、「おもいッきりDON!」が放送されたのは2009年3月30日~2010年3月26日の1年間のため、放送期間中唯一9月10日が「今日」になるこの日を放送日とした。
番組の特定は、動画内の装飾に「DON!」とあること、出演者に中山秀征・草野仁・東MAXなどが見られることからこの番組とした。

構成

動画の構成はおおむね以下の通り。
時間はYouTubeの動画の時間を示している。

  • ~4:40 山田の生い立ち~イーストウッドの吹替をするまで

  • ~8:40 「ルパン三世」との出会いと活躍

  • ~11:30 後輩への影響・努力

  • ~14:36 晩年と受け継がれる思い

動画には、ルパン三世の関係者として、納谷悟朗・おおすみ正秋・モンキー・パンチ・栗田貫一、後輩として神谷明が登場する豪華なものとなっており、大筋は「山田康雄の仕事へと取り組み方」「そのプライドが与えた影響」という点で、「山田康雄」を紹介するVTRとして間違ってはいない。

しかしよく見ると、動画の構成を決まった着地点にしたいために映像素材を恣意的に編集した「編集の嘘」があることが分かる。

誤り

以下、誤り・視聴者に事実と異なる認識を与えると思われるものを挙げていく(時間は動画内のおおよその時間)。
「難癖」のように取られる内容も含むが、気付いた点を列挙したので、小うるさく感じる点はご容赦願いたい。

1:03~1:33 収録をボイコット

このパートは、この後説明される山田の生涯を要約して紹介した部分だが、1960年代から度々収録をボイコットしているかのようにも感じられる。
共演者・納谷悟朗の証言では、収録のボイコットはルパン三世のレギュラー放送で2回あったのみで、ことあるごとにボイコットしたわけではない。

3:47~4:04 ダーティハリーシリーズのヒットでその声はおなじみに

「ダーティハリー」の吹替版がテレビ放送されたのは1978年で、既にアニメ「ルパン三世」も放送されている。
イーストウッドの声=山田となったのは、「ローハイド」が1959年から足掛け6年間に渡って放送されたことの影響が強い。

6:14~8:49 スタジオでの山田の様子

「ルパン三世」第1シリーズ(1971-1972)放送開始の説明の後に、納谷悟朗が語る山田のエピソードがあるが、「嫌だよオレこれ」と言ったのは、おそらくマンネリ化が進んだ第2シリーズ(1977-1980)の頃。
第1シリーズは半年で放送が終わった上、山田を始め出演者は「初の大人向けアニメ」として意欲的に取り組んでいる。
続く第2シリーズが視聴率重視の子ども向けになったことへの不満として、シャレのめして言ったと解釈するのが良いように思う。
もちろん、第1シリーズの頃に山田がシャイでわざと「嫌だよ」と言ってみせた可能性も大いにある。

7:29~8:36 カリオストロの城について

全体的に山田が絶賛したように紹介されているが、収録時点で宮崎駿監督に意見した有名なエピソードは紹介されていない。
尺の都合だろうが、宮崎駿とのエピソードを紹介した方が、山田の慧眼や仕事への向き合い方が伝わったように思う。

11:34~12:41 晩年の山田康雄の様子

この動画で最もひどい「編集の嘘」がある。
「1994年に『ルパン三世 くたばれ!ノストラダムス』(1995)の収録開始」とあるが、実際に収録されたのは1995年3月9日~11日。
この時のエピソードとしておおすみ正秋が語った内容は、すべて1993年の「ルパン三世TVスペシャル ルパン暗殺指令」の収録時のものである。
山田康雄が体調を崩したのは1993年に入ってからで、93年の収録は途中から着座、1994年の「燃えよ斬鉄剣」では最初から着座での収録となった。
翌、95年1月のルパン役として最後となったTVCMの収録では車椅子で現場に現れている。

13:10~14:26 山田康雄と栗田貫一のエピソード

この動画で2番目にひどい誤りがこの部分。
「栗田はルパンのモノマネで知られていた」「だが、それだけで選ばれたわけではない」として栗田のインタビューが流れるが、栗田の話す内容は、山田没後の栗田独自の取り組み方であり、ナレーションが紹介するような、山田との交流の中で「ルパンに対する思いを受け継いでいた」というエピソードではない。
以前に以下の記事でも書いたが、山田→栗田の交代劇は、日本テレビの安易な抜擢により、その後、キャラクターの歴史・ファンからの目など重圧に栗田を晒している。

動画は「山田のプロ意識を引き継いだことで栗田は山田の後任に選ばれたと言っても過言ではない」という一見キレイな終わり方をしているが、これは結果論に過ぎない。
抜擢の当初は、あくまで「声質が似ている」ことが理由であったし、山田の演じたもののモノマネでオーディションを合格させ、新作を録るという無茶振りをやった日本テレビが言って良いことではないと思う。

たかが番組の1コーナー、されど163万回再生

ここまでお読み頂いた方は、重箱の隅を突いて、たかが番組の1コーナーに目くじら立てて、これだからオタクは…と思った方もおられるだろう。

しかし、番組の本意ではないにしても、誰かの手によってYouTubeに公開され、今や163万回再生されている。
一部に誤った情報がそれだけ流布されているのである。
個人が作成した動画ならまだしも、アニメ「ルパン三世」のお膝元・日本テレビ制作で、本物の関係者が証言しているから、よりタチが悪い。

かつての栗田貫一への誹謗中傷も、メディアが流した山田との師弟説が影響したところもあったと思う。それだけに、出来るだけネット情報や切り取られたメディアの情報だけを鵜呑みにせず、一次資料や信頼のおけるソースに当たることも大切だと言いたい。

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