映画音楽分析2・・・細田守監督「おおかみこどもの雨と雪」 高木正勝の音楽の特徴と映像との関係
はじめに
こんにちは、作曲家の石川泰昭です。先日、「Yureru」という作品をリリースしました。
ピアノとエレクトロニクス、ピアノソロバージョンの2曲です。
良かったら聴きながら、読んでください。
Spotify
https://open.spotify.com/album/0pjirzQbTk3nEh4m573C5b?si=uRoB90ftSTqkQ2ZPmexPCA&dl_branch=1
Apple Music
https://music.apple.com/jp/album/yureru-single/1567407368
今回は、細田守監督「おおかみこどもの雨と雪」の冒頭部分の映画と音楽の関係を分析していこうと思います。作曲は、細田監督作品の音楽を沢山手掛けている高木正勝さん。最近では、朝ドラ「おかえりモネ」の音楽も作っています。
高木正勝さんは、もともと映像も自分で制作して音楽と映像の作品を数多く作ってきています。現代アートの展覧会でも時々見かけていました。おそらくこの作品「Girls」が一番有名かなと思います。
冒頭の映像
冒頭のシーンは、暗転した場面に、おおかみこどもの雪の語りから映画が始まります。「おとぎ話みたいだって笑われるかもしれません。そんな不思議なことあるわけないって」という語りから、徐々にフェードインしていき、お花畑に白い花が揺れている映像に変わり、それに合わせて音楽も入ってきて、そこに横たわって眠っている花(雪の母親)が映ります。深呼吸して目を開いたら、遠くからおおかみのような黒い影が歩いてくるのが見えます。上半身を起こして、もう一度見てみると、その影が次第に人間の男のような影へと変わります。でもその影は、最後まではっきりとは見えないままになっています。その後、タイトル映像へと移り、次のシーン(花が大学生だった頃の狼男との出会いのシーン)へと移り、音楽はフェードアウトしていきます。
まず、この場面の映像を見てみると、全体的に淡い水彩画タッチの映像になっています。また映像は、焦点が合っているものと合っていないものがあり、ぼやけた印象もあります。揺れている花や、レンズにあたる光や花びらのようなものが常に横に流れていたり、深呼吸する花(雪の母親)など、心地よい風、空気、自然を感じます。全体的に、夢のような淡い優しい感じがする映像となっています。
高木正勝の音楽の特徴
次に、高木正勝さんの音楽を見ていくと、ピアノソロに自身のハミングのような歌が重なった音楽となっています。音楽は、優しい雰囲気で映像とマッチしています。高木さんの作曲の特徴として、即興演奏を主体としているという部分があります。五線紙に音符を書いていく方法や、DAW(コンピュータの音楽制作ソフト)を使用して取り込んだ映像に合わせて制作していく(現代の映画音楽制作において一番主流なやり方)という方法ではなく、おそらく映像を流しながらピアノの即興演奏を繰り返し、徐々に音楽が決まっていくという方法で制作しています。彼の音楽の面白いところは、たとえ同じ曲名の作品でも、最初に弾いたものと、その後、徐々にメロディが変化していったものが存在し、同じ作品でも時間とともに少しずつ変化しているという点があります。
また、コンピュータを使った制作では、一定のテンポになりがちですが、即興演奏で映像に合わせているため、テンポが揺れていて、ためがあって、柔らかい印象になっていたり、かつ、セリフの開始にかぶらないような微妙な調整が自然に行われています。また、ここで重ねられている自身の声も即興の中で自然と湧いてきたような声の質感で、優しい感じがして映像にもとても良く合っています。ここに、例えば、専門のヴォーカリストに頼んで歌ってもらっていたら、全く違う印象になってしまい映像とも合わなくなっていたかと思います。訓練されていない自然な声が重なっているところに高木さんの音楽の良さが表れています。
また、寝ている花や狼男のセリフはなく、雪の語りのみという、映像が俯瞰したものになっているので、音楽も登場人物の感情に焦点を当てるのでなく、空気感になるような俯瞰したものになっています。
おわりに
この映画は、山奥の自然の中で住むことになった母とこども達に焦点が当てられた映画となっていますが、それが高木さんの音楽制作のスタイルとも合っていたり、また高木さん自身も山奥に暮らして自然とともに暮らしているということもあり、その点で映画ともよく合ったものとなっている気がします。