![見出し画像](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/171197534/rectangle_large_type_2_2511e633ddbf81f7b626317484bda294.jpg?width=1200)
夫が「がん」になった話④▶導入治療
がん専門病院での最初の治療開始まで
精神的にきつかった初診を終え、家に戻りました。しかし、夫の鼻血は止まらず、ある夜はがん専門病院の夜間救急に連れて行くこともありました。処置をしてもらったものの対症療法でしかなく、鼻には体内で吸収される綿球を詰めてもらいました。鼻血による貧血でふらふらし、目の腫れも大きくなっていく夫を毎日見守るのは、とても辛かったです。
初診から1週間後、治療方針が決まり、すぐに最初の治療が始まりました。夫のがんは手術が適さないため、化学療法と陽子線治療を行うことになりました。主治医からは「全行程の治療を完了した場合、根治率は30%」と説明されました。この数字を高いとは思えず、「治療を終えられるのか」「根治に至れるのか」という不安が胸に広がったのを覚えています。それでも、幸いなことに原発巣以外に転移は見つからなかったため、ぎりぎり根治(がんが完治すること)を目指せる状態であると励まされました。
標準治療の現実と希少がんの難しさ
がんに罹患すると、通常は「標準治療」と呼ばれる治療を行います。名称こそ「標準」ですが、国内の症例を基に作られた信頼性の高いガイドラインに沿った治療法です。ただし、夫のような希少がんの場合、症例が少ないため標準治療の効果がどれほどあるかは曖昧です。同じ「がん」という病名でも、発生する部位や種類は非常に多岐に渡ります。心臓以外のほぼ全ての臓器に発生する可能性があり、鼻腔がんも例外ではありません。
日本人に多いがんの中で、頭頚部がんは全体のわずか3%を占める希少ながんです。その中でも最も多いのは口腔がんであり、夫が罹患した嗅神経芽細胞腫はさらに稀少です。同じがん種でも治療の効果が人によって異なるため、どうなるかは実際に治療を進めてみないと分かりません。夫のがんが発覚するまで、「がんは大変な病気」という程度の漠然とした知識しかありませんでしたが、調べていくうちに、がんがいかに不思議で、そして悲しくつらい病気であるかを知ることになりました。
治療開始と免疫チェックポイント阻害薬の挑戦
夫の化学療法の前に、今年5月に嗅神経芽細胞腫に対する新たな研究として発表された「免疫チェックポイント阻害薬(キートルーダ)」を試すことになりました。夫にはPD-L1発現体がありませんでしたが、同様のケースでキートルーダが著効した事例があることから、わずかな望みをかけて投与を決めました。
治療当日の朝、夫の目はこれまで以上に腫れ、ぱんぱんに膨らんでいました。充血もひどく、視界がおかしいと訴える夫を見て、言葉にできないほどの苦しみで胸がいっぱいになりました。とにかく早く治療を始めてほしい、何かが変わるかもしれない、そんな一心で夫を病院へ連れて行きました。
治療の経過と次へのステップ
最初のキートルーダを投与した2日後、奇跡的に夫の鼻血が止まりました。しかし、それ以上の効果は見られず、その後は目の腫れがじわじわと進行していきました。鼻血が止まった理由がキートルーダによるものなのかは不明で、治療が終わった今でも原因は分かりません。結局、キートルーダの投与は2回で終了しました。結果として、がんによる腫瘍は増大も縮小もしませんでした。
その間にもがんの進行は止まらず、目の腫れはさらに大きくなっていきました。主治医の判断により、次の本命となる治療へ移行することが決まりました。それは、治療開始から6週間後のことでした。
まとめ
この経験を通して、がん治療は患者一人ひとり異なり、簡単に予測がつかないものだと実感しました。それでも、一つ一つの治療に小さな希望を見出しながら進んでいくしかありません。次の治療がどんな結果をもたらすのか、不安を抱えながらも夫とともに歩む日々が続いていきます。