見出し画像

夫が「がん」になった話⑤▶治療準備

導入治療のキートルーダ

最初の治療は、免疫チェックポイント阻害薬「キートルーダ」の点滴でした。この薬は免疫細胞ががん細胞を攻撃できるようにするもので、主治医からは「約30%の患者に効果がある」と説明を受けました。6月中旬に1回目、6月下旬に2回目の投与が行われましたが、2回目の投与後に行われたMRIでは「腫瘍のサイズに変化なし」という結果でした。

このため、キートルーダによる治療は中止となり、抗がん剤と陽子線治療を組み合わせた治療が開始されることになりました。

本命の治療開始まで

ついに本命の治療に移る時が来ました。標準治療と呼ばれるEP療法(エトポシド+シスプラチン)と陽子線治療が予定されていましたが、今回も少し標準治療とは異なる形で行われることになりました。治療が効かなければ緩和ケアに移行すると聞かされていたため、私たちは常に嫌な緊張を抱えていました。

主治医の説明によると、エトポシドとシスプラチンの併用は身体的な負担が非常に大きく、治療を全うすることが難しいとのことでした。そのため、シスプラチン単剤と陽子線治療を組み合わせる治療法に変更されました。シスプラチンは抗がん剤の中でも特に重要な「キードラッグ」にあたるため、こちらが優先された形です。

また、通常は規定量のシスプラチンを3週間に1回投与するスケジュールですが、今回の治療では規定量の3~4割を7週に渡って毎週投与する方式に変更されました。最近の研究で、このスケジュールでもほぼ同等の効果が得られることが分かっており、副作用が軽減される傾向があるとのことでした。このように、標準治療から若干外れる選択に不安を抱きながらも、私たちは主治医を信頼し、この方法で治療を開始しました。


陽子線治療の準備と実施

抗がん剤投与と合わせて、全32回の陽子線治療が決定しました。1回の照射は約15分です。シスプラチンは陽子線の効果を高めるため、両方の治療を同時に行うことが重要とされました。2か月にわたる全治療を完走することが、根治へのわずかな道だと説明を受けました。

陽子線治療を受けるためには、特殊な準備が必要です。まず、治療時に頭から肩を固定するための専用マスクを作製しました。温められたプラスチックを夫の顔や肩にあてて、一人ひとりに合ったオリジナルのマスクを作る工程です。また、陽子線を照射する機械の照射口も個別に調整する必要があり、この準備全体には約1か月を要しました。

陽子線治療は放射線治療より体への負担が少ない治療です。一方、治療できる機械は全国に18か所のみと少なく、かつ費用も非常に高額です。2018年4月から嗅神経芽細胞腫も保険適用となったため、今回陽子線治療を受けることができました。


治療スケジュールと夫の様子

治療は以下のようなスケジュールで進められました:

  • 月曜日:シスプラチン投与に問題がないことを確認するための血液検査と陽子線治療。

  • 火曜日:血液検査の結果を基にシスプラチンを投与し、陽子線治療を実施。

  • 水曜日:補液を投与し、陽子線治療を実施。

  • 木曜日:補液を投与し、陽子線治療を実施。

  • 金曜日:陽子線治療のみの実施。

抗がん剤投与の日は、シスプラチンの前後に補液という生理食塩水を点滴します。そのため、火曜日に夫は7時間ほど点滴に繋がれることになります。


まとめ

キートルーダが夫にはあまり効果がなかったため、目が腫れて気分が落ちている夫を見るのは非常につらかったです。一方、新たな治療に進むことができ、少しの安堵と期待を感じました。しかしながら次の治療も効果がない可能性は常に頭をよぎり、常に薄氷の上を歩ているような気分でした。

いいなと思ったら応援しよう!