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初めて国立能楽堂に行ったら、この世とあの世でハイパーチルなトリップした話。

「いわゆる”伝統芸能”は、まだハマったことない。」「だって、YoutubeもSNSもNetflixもあって、毎日見たいのたくさんあるし。」「最近、歌舞伎と講談はよくTVやSNSで話題だからなんとな~く知ってるけど‥‥行くきっかけ特にないし。」「ルールとか楽しみ方も決まってそうで、勉強してからにしよっかなって。」

2021/7/3まで、私はそうだった。

今回、私は「能楽」に着目する。落語や歌舞伎ほど普段の生活で出会えず、さらに調べてみると2004年から年々検索数が減っている。これは同程度の影響度を誇る「文楽」よりも実は低い。

トレンド2

ここから私の能楽体験を通じて、能楽の見立てと展望をまとめる。能楽を取り囲む環境が少しでも変わり、魅力を感じる方が増えますように。

※念のため…能楽とは能と狂言を包含した総称。ざっくり、能はセリフを伸ばしながらうたう長い方で、狂言は笑えるテーマの短い方。

図1

①あの世にカジュアル”トリップ”

能楽はもともとが神にささげる芸能。登場人物がその舞で、舞台上に結界をひく(次元を上げるとも)。その結果、霊界と接続されて幽霊が現れるのだ。だから捉え方次第では、能舞台があの世に一番近い場所だ。

ふわっと気が遠くなり一瞬記憶が飛ぶ(落ちる)、そんな経験をする人は多くいるようだ。

▼fig.事実、ひやりと暗い会場で浮かび上がる能舞台は幻想的。

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能の場面。

男性の低い声が重層的に響く、鼓がリズミカルなビートを刻む。

古語のため意味をとりづらい台詞が続き、スマホネイティブにはYoutube再生スピード×0.5なのではと思う時間が続く中、だんだん意識が遠のきふわふわとしてくる。気持ちよくなってくる。

私はこれを知っている。

Youtube10分瞑想・お葬式のお経・ヘッドマッサージ屋の絶頂睡眠・プール後の国語の授業‥‥。

周りを見渡せば、熱心に今日の演じ手の話をしていたおばちゃんが開始12分でトリップ。一番前の席のおじいちゃんも、1人目立っていたモデルのような男性も、みなトリップ。

私も気づけば…目を閉じ、トリップしていた。

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②サゲ・アゲ・サゲの”チル”

映える・エモいに次ぐ概念として2019年ごろからちらほら見かけるようになった「チルい」。チルいとは、英語スラングChill outの「落ち着いた、冷静である」と日本ではことさら「積極的な脱力(ゆるさ)」「まったりとした心地よさ」という意味が強いように思う。

▼チルいイラストを検索すると出てくるツイート。かわいい。

能楽は、能と狂言を交互に盛り込む。精神を落ち着かせる能・しんどい気持ちを解放する狂言と置くと、起伏のある一連の体験はさながらサウナ。最後にはしっかりチルと化す。

③最強ミニマル演劇で”超越”視点

能楽では主人公であるシテと語り部や相手役であるワキの2名の関係性がすべて。無駄な物体も人間も一切存在しない舞台構成は、鑑賞者の妄想力による補完が必要。世界を俯瞰した超越視点ともいえそうだ。これまで真正面で捉えていた事象が、ふと視点を切り替えたように別のものに見えてくる。まさに神の視座。関係があるのかどうか、私はこの公演中に大量のアイディアが思い浮かんだ。

能楽の戦略的展望

「能楽を鑑賞する若者をこれからどう増やせばいいか」。

伝統芸能内での奪い合いを避けるならば、デジタルコンテンツユーザーからの新規獲得は不可避。スピーディかつわかりやすさを求める彼らをどう魅了するか。

スマホネイティブの話題になる漫画や映画テーマを取り込んだ歌舞伎。演芸場やTVなど接点が多く、日常時間に寄りそい楽しませ続けてくれる落語。そこに対して、心の安寧(チルトリップ)を提供するのが能楽だと私は思う。

図1

コロナを機に自分自身の在り方を問い直す時代だから、どうしてもひとは不安定になる。事実、身体の健康にとどまらず心の健康も必要だと世界でもチルやマインドフルネスが重視されるようになっている。近い体験を起こすグッズやサービスはあれど、合法的にこの世とあの世を伴ってチルを提供するサービスは聞いたことがない。

意識を飛ばして、笑って、ふっと覚醒して。どうやら能楽は私にとっても社会にとっても、引き続き大切な体験になりそうだ。

さあ、チル楽堂へ

東京の方は、国立能楽堂。行かれるときはぜひご一報ください。既に行く予定にしているか、ご一緒するかです。

その他の地域の方は、こちらも。

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能楽とそこで得られるチルに関連づく内容のご紹介。
※いずれも個人的付き合いや利害関係は全くありません。

▼森山未来さん他主演で舞台化もされた「未練の幽霊と怪物」。
能のフォーマットを活用し、現代において考えうる幽霊を登場させる試み。

▼能の体験とやや近似する「ブッダマシーン」。※品切れ中ですが…
意味のとれない念仏、永遠と繰り返される素晴らしいガジェット。もともとアジア仏教圏で流通している商品だそうで、日本ではECなどで展開。

▼能の体験とやや近似する「Lo-fi hiphop」。
私が作業中にエンドレスでかけ続けているBGM。大変覚醒します。



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