ゼルダの伝説ブレスオブザワイルドの失敗から学ぶ「自由度の高さ=ゲームデザインの放棄」という公式

■序論

以前から「自由度の高さ」はゲームの「面白さ」を語る上で大きな指標の一つとされてきた。最近では特にオープンワールドの文脈で語られることも多く、代表的なゲームとしてはゼルダの伝説ブレスオブザワイルド(以下ブレワイ)などが挙げられる。

しかし「自由度の高さ」を言い換えてみれば、プレイヤーは何でも出来る、つまりはプレイヤーが何をすべきか明確に決められていないということでもある。これは即ちゲームデザインの放棄とも言えることであり、「自由度の高さ」が本当にゲームとしての「面白さ」に寄与しているのか、私は疑問に感じた。

そこでこのnoteではブレワイを例に挙げ、ゲームの「自由度の高さ」と「面白さ」、そしてその二つを結ぶ「ゲームデザイン」に関する問題提起をしたいと考える。

まずはゲームにおける「自由度の高さ」がどういうものかを確認し、そのメリットとデメリットを挙げ、「ゲームデザイン」を通じてどのように「自由度の高さ」が「面白さ」と関わっているかを述べていく。

■ゲームにおける「自由度の高さ」について

ブレワイの「自由度の高さ」について、ディレクターの藤林秀麿氏は以下のインタビューで「解法が複数ある」「どこでも自由に進める」の二点を主に挙げている。

参考:【Nintendo Switch 5週連続インタビュー(3)】「ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド」編。“当たり前”を見直して,複数の解法をプレイヤーが試行錯誤できる作品にまずは「解法が複数ある」という「自由度の高さ」について考える。

・「解法が複数ある」という「自由度の高さ」

まずは「解法が複数ある」という「自由度の高さ」について考える。

ここでいう「自由度の高さ」とは、敵を倒す・ダンジョンのパズルを攻略するなどの目的(ゴール)が最初から明確に決まっており、その目的のためにプレイヤーが自分で考えて様々な手段を取れること、と換言できる。

こういった「自由度の高さ」のメリットとしては、プレイヤーが実際に自分の考えた選択をすることによりプレイヤーと主人公の一体感を高め、ゲームの世界観へと一層没入できる点が挙げられる。例えばアドベンチャーゲームにおいて、分岐の無い一本道のシナリオよりも選択肢による分岐を与えた方が、よりプレイヤーが自分の選択によって物語の結末が変わったと感じることができ、主人公に感情移入できるようになる。

既存のゲームにおいては、その「自由度の高さ」の中でも実質ただ一つの最適解が用意されていた。それは例えば敵を倒すときに、その敵に一番相性のいい武器を選び、一番相性のいい装備を整え、決められたパターンを学習しながら特定の攻撃・防御・回避行動をする、というものである。しかしブレワイにおいてはパズルを解くときに盤面ごと引っくり返したり、強い敵に対して正攻法だけではなく卑怯な手を使ったりと、唯一つの正解ではない自分だけの攻略法を見つけることが出来るようになっている。

こういった「自由度の高さ」は既存のゲームと一線を画すものであり、後述するデメリットはあるものの、ブレワイ独自の「面白さ」へと繋がった部分であると考えられる。

・「どこでも自由に進める」という「自由度の高さ」

次に「どこでも自由に進める」という「自由度の高さ」について考える。

「解法が複数ある」ことが一度の戦闘やパズルなどのミクロな視点であるのに対し、「どこでも自由に進める」という「自由度の高さ」はよりゲーム全体に関わるマクロな視点のものであると言える。

最近では「自由度の高さ」は主にこちらを指していることが多い。ブレワイのインタビューから引用すれば、スタートした直後から強制される道順がなく、どこからでも攻略していけると言う自由度のことである。

確かにこちらの「自由度の高さ」も上述したように感情移入や自分だけの攻略法を見つけた気になれるといったメリットは存在する。しかし私はそれよりも大きい二つのデメリットがあると考えた。

まずはその一つとして、「どこでも自由に進める」=「どこに行ってもいい」=「どこに行けばいいか分からない」という問題である。

ブレワイではチュートリアル終了後、厄災ガノンを討伐してゼルダを救出することが最終的なゴールであることだけはざっくりと示される。しかし「どこでも自由に進める」という「自由度の高さ」を尊重するあまり、最終目的までに達成するべき道程(四対の神獣を倒す・祠を攻略する、など)が明示されていない。

確かにプレイヤーは自由にマップを動き回り、自分で選んだ道程を進むことが出来る。しかしここで問題となるのは、その選択肢が正解であるかどうかが明示されないことにある。

「解法が複数ある」というミクロな視点においては、どんな手段を使ったとしても、敵を倒す・パズルをクリアして道が開くなど、正解であることがはっきりと示される。これによりプレイヤーは自分だけの攻略法を見つけることが出来たという成功体験をその場で得ることができ、それがゲームの「面白さ」へと結びついている。

しかし「どこでも自由に進める」という自由度についてはどうしてもマクロな視点で評価せざるを得ず、数時間、長ければ数十時間かけて自身の行動が正解だったかどうかを判断することになる。その間、プレイヤーは本当に正解かどうかも分からない行動を取ることになり、もしも不正解だった場合は大きな徒労感しか残らない。

これを仮にポケモンに例えてみる。主人公が最初の村を出てジムがある次の町へ向かうとき、三本の分かれ道があったとしよう。プレイヤーはその中から一本の道を選び、ポケモンを捕まえたりNPCとバトルを繰り返しながら時間をかけて道を進んでいく。しかしその結果はジムがない全く別の町であり、目的の町に行くには違う道が正解だったとすればどうだろうか。確かに一回一回のバトルは楽しいと感じられるかもしれないが、それよりも時間を無駄にしたという感覚の方が大きくなるのは容易に想像できるだろう。

確かに一本道で次の街へ辿りつくよりも、最初に三本の別れ道があった方が「自由度が高い」ゲームだと言うことはできる。しかし道を選択する上で、ジムのある次の町へ辿りつくという目的を達成するために必要な情報は全く知らされていない。これでは自分が能動的に選んだという感覚も薄れ、上述した「自由度が高い」ことのメリットすら失われているのではないだろうか。

これはブレワイでも同様である。チュートリアル後に何の情報も与えられないまま広大なマップに放り出され、非常に曖昧な判断基準でしか自身の行動を選択できない。確かにある意味では、どこに行けばいいのか分からないと主人公に感情移入していると考えることも出来るが、これは当然是とするものではない。

そして「どこでも自由に進める」という「自由度の高さ」におけるもう一つのデメリットが、タイトルにも挙げた通り「自由度の高さ」が「ゲームデザインの放棄」になっているという点である。

ブレワイでは厄災ガノンをラスボスとし、過程として中ボスである四体の神獣を倒しながら進んでいく。ここで問題なのは四体の神獣がどれからでも攻略できるという点である。

四体の神獣の強さは、初めてボス戦に挑むプレイヤーでもクリアできる程度に設定されている。一方で、プレイヤーはゲームを進めることで装備や体力などのステータスだけでなく、自身のプレイスキルを成長させている。即ち、最初に挑むボスに比べ、最後に挑むことになるボスは相対的に弱く感じられることになる(もしくは最初に挑むボスが強く感じられる)。

上述した通り、確かに誰に指示されたわけでもなく自分で進んだ道で敵に遭遇する、というのはプレイヤーと主人公の体験を近付けるかもしれない。

しかしブレワイはあくまでRPGである。世界観への没入と同様に、プレイヤーが自ら成長しながら徐々に強大になっていく敵を倒していくという成功体験に「面白さ」があるのではないだろうか。それを無視して「自由度の高さ」だけを目的に、中ボスを全て同じような強さに設定することは、即ち「ゲームデザインの放棄」であると私は考える。

これはあくまでRPGであるブレワイだからこそ生じた問題でもある。例えば「自由度が高い」ゲームの代表例であるマインクラフトのようなサンドボックスにおいては、そもそも達成するべき目的が最初から設定されていない(一応ボスであるエンダードラゴンは存在するが、チュートリアルやシナリオがあって明確に示されているわけではない)。

しかしブレワイにおいては、ゲームの「面白さ」という目的のために「自由度の高さ」という手段を用いたはずにもかかわらず、その手段が「自由度の高いゲームを作る」という目的へとすり替わってはいないだろうか。

■結論

このnoteでは、ゲームにおける「自由度の高さ」に関してブレワイを例に様々述べてきた。当然、全ての「自由度の高さ」が悪であると主張しているわけではなく、その目的とメリットデメリットを考えた上で取り入れるべきであると私は考える。

ブレワイについても「自由度の高さ」が良い意味で取り入れられた部分も非常に大きく、「当たり前を見直す」というコンセプトにおいて素晴らしい挑戦であったことは疑いようも無く評価されるべきだろう。

ブレワイの他にも「自由度の高さ」を売りにしているゲームは山ほど存在する。確かにそれらのゲームは一見「面白そう」であり、商業的な側面から見れば間違いなく正解と言えるのだろう。

しかし「面白そう」であることと「面白い」ことはやはり別軸のものである。「自由度の高さ」というキャッチーで表面的な要素ばかりを持て囃してゲームデザインを蔑ろにする態度に対し、私はやはり否定的でありたいと思う。

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