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ショートストーリー《もしたむっ!》Osamu.18:じょさむとプレゼント

 午後11時半。修の部屋に入ってきたのは「じょさむ」だった。
「なあ、おさむ。ちょっといいか?」
 少しおどおどした様子で、じょさむが言う。
「……いいぞ。こっち来い」
 少し考えた後、ベッドに座っていた修は隣をボンボンと叩き、じょさむに座るよううながす。
「……わりぃな」
 じょさむはそっと、修の隣に座る。
「……で、どうしたんだ? こんな時間に」
 修が尋ねる。じょさむは下を向いてしばらく黙った後、ポツリと口を開いた。
「お前……女房と子どもがいるんだな」
「……ああ」
「単身赴任……か」
「……ああ」
「会えなくて、寂しい……か?」
「……」
 長く続く沈黙。
「……ああ……」
 その沈黙を破った修の返事は、あまりにも弱々しすぎた。
「……だよ、な……」
 それに応えたじょさむの返事もまた、弱々しいものだった。
 
 *

 翌朝。早めに会社に出勤したじょさむ。
「おはようございます、修さん」
 そこへ、有希が出勤してきた。何やら綺麗な紙袋を持っている。
「ああ、有希か。おはよう」
 じょさむは頬杖をついたままあいさつをした。
「どうしたんですか修さん、うかない顔しちゃって」
「いや、何でもない……」
 力なく答えたじょさむ。
「修さん……これ」
 そう言って、有希は持っていた紙袋をじょさむに差し出した。
「これを、俺に?」
「今日……父の日ですよ」
「え?」
 不思議そうに、有希を見上げるじょさむ。
「外回りの修さんの背中をずっと見てきて、私、いろんなことを学んだ気がして……。飲み込もうとした言葉も、修さんの前なら素直に楽しく言えて……」
 微笑みを浮かべたまま少し下を向く有希。そして、こう続けた。
「この会社で、修さんは私のパパみたいな存在なんです。なんか、こんなこと言うのもちょっぴり照れくさいんですけどね……」
 照れ笑いを隠しきれず、有希は慌てたように紙袋をじょさむの手に持たせた。
「これからも、よろしくお願いします」
 ぴょこんと頭を下げ、有希は自分のデスクへ戻っていった。
「パパ……」
 じょさむはポツリとつぶやき、しばらく動けなかった。
 
 *

 その日の夜。修とじょさむは、昨日の夜と同じ場所──修の自室のベッドの上で隣同士座っていた。
「……今日、会社で有希からプレゼントもらったよ」
 じょさむが口を開く。
「今日は父の日だからって……おさむがパパみたいな存在だからって……わざわざくれたんだ。こんな素敵なネクタイを……」
「えっ?」
 修が驚いてじょさむの方を向く。じょさむの手には、えんじ色に白い斜めのラインが入ったネクタイ。
「父の日……」
 消え入りそうな声で、修がつぶやく。
 すると、修の机の上でポロン、と音がした。修の携帯電話にメールの着信が入ったのだ。
「何だ、仕事のことかな──」
 ベッドから立ち上がり、机に向かう修。携帯を手にし、そのメール画面を開いた修は、目を見開いて固まった。そして、メールの文章を何度も読み、添付されていた写真をずっと見つめ──
「……」
 じょさむは何も言わずにふわっと微笑んで、スッと部屋を出ていった。

 部屋に残された修は、静かに、しかし押し殺したような呼吸を繰り返していた。その頬には、あたたかい雫が次から次へとこぼれていた。

『あなた。体に気をつけて、お仕事頑張ってね。』
『パパ だいすき』

 妻からのメール。それに添付されていた、息子からのメッセージ入り似顔絵のプレゼント。
「……ありがとな……」
 声を詰まらせ、修は静かに泣き続けた。

 その頃、じょさむは修の部屋のドアに寄りかかっていた。
「おさむ……お前は……パパだもんな……」
 そしてふたたびふわっと微笑み、一筋の涙をこぼすのだった。

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