連載百合小説《とうこねくと!》はじめまして、東子さま!(2)
みなさん、こんにちは。北郷恵理子です。
前回のお話はこちらからどうぞ。
これから私が住むことになる2階のお部屋に荷物を置かせてもらい、私は1階の居間に通されました。フロアの真ん中に、4つの座布団が敷かれた大きめのテーブルがひとつ。テレビや戸棚があり、すぐそこには縁側もあります。
テーブルに向かいあわせで座る、東子さまと私。先程のこと──出会って数分での突然のキスもあり、私はさらに緊張しています。
「さっきはごめんね。びっくりしたかしら」
氷が入った冷たい麦茶を出しながら、東子さまは言いました。
「びっくり、しました……」
私は唇に手を当てながらそう答えます。東子さまのキスの感触が、まだ鮮明に残っています。
「ふふっ、素直な感想ね」
東子さまは微笑み、麦茶を一口飲みました。
「会った瞬間、感じたの。あなたは私と同じ匂いがする」
「えっ? 匂い?」
私は自分の身体の匂いをくんくん嗅ぎます。すると東子さまは「その匂いじゃなくって」とケタケタ笑いました。
「同じ系統の人間の匂いっていうのかしら……あなたは何か感じない?」
テーブルに肘をつき、右手に持った麦茶入りのグラスの氷をカランコロンと鳴らす東子さま。あのダークブラウンの瞳で、私をジッと見つめています。
「同じ系統……ですか?」
私はちょっと考えてみましたが、何が東子さまと同じものなのかまったく検討もつきません。
でも、たったひとつだけ、心当たりが見つかりました。私は少し戸惑いながらも口を開きます。
「女の人が好き……ということですか?」
「うん、正解」
もう一度グラスをカランと鳴らし、東子さまは微笑みました。
「さっき私が『名前で呼んで』ってあなたの顔を覗き込んだ時、顔と耳が真っ赤になってたわよ」
突然言われ、私は口にした麦茶をゴホッとむせます。
「ふふっ、自分では気づいてなかったでしょうけど」
いたずらっ子のように東子さまは微笑みました。私は思わず自分の両頬を触ります。さっきまで掴んでいた冷たいグラスのせいで冷えた両手が、火照った両頬をじんわりクールダウンさせていきます。
「私……そんなに顔に出てましたか……」
「うん、出てた出てた」
そう言って、東子さまは笑います。
そうです。初めてお会いしたその瞬間、私は東子さまに一目惚れしていました。
凛々しい佇まいも、おちゃめな一面も、そのすべてが私の胸を貫いていたのです。
初めてお会いした東子さまを、私は好きになっていたのです。
「すぐにわかったわよ。どうしてか、わかる?」
東子さまは頬杖をつきながら尋ねてきました。またいたずらっ子のような表情を浮かべています。
「えっ? 私の顔に全部出ていたからではないんですか?」
「ううん、それだけじゃないわよ」
「では、一体なぜ……」
「……うふふ、それはね」
東子さまはグラスを置き、テーブルの上で両手を組んで、私を見つめました。
「私も一目惚れしちゃったからよ。あなたに」
いたずらっ子の目から一転、どこかくすぐったそうに東子さまは言いました。
「ええっ!?」
まさかの回答に、私は驚いてしまいました。東子さまも、私のことを……!?
「こんなに綺麗で可愛らしいお嬢さんが目の前に現れて。しかも、反応はピュアで真っ直ぐで。はぁ……これが一目惚れなのね」
私はすっかり恐縮してしまいました。
「一目惚れで好きになった人が、私のことを好きでいてくれたらいいのに……そんなこと思っちゃうじゃない。だから……」
そこまで言うと東子さまは席を立ち、私の隣に座ります。そして私の方を向き、私をジッと見つめます。
「この予想は、半分私のエゴ。あなたが私のこと好きだったらいいのにな……ってね」
照れ隠しのように、東子さまは私を抱き寄せ、私の唇にキスをくださりました。
私には、それを拒む理由などありません。
私もまた、それを望んでいたのですから。
「……ふふっ。初対面なのに、いきなりごめんなさいね」
「いいえ……嬉しいです」
「一目惚れ同士、初対面でキスして、ここまで気持ちを打ち明けちゃうなんて……なんか笑っちゃうわね」
「……はい、私もそう思います」
「こんな私だけど、ついてきてくれる?」
「もちろんです」
おでことおでこをくっつけ合いながら、私たちはそんな会話をします。東子さまの体温が、おでこを通して伝わってきます。
「よろしくね、恵理子ちゃん」
「はい……東子さま」
そう言うと、今度は私から東子さまにキスをしました。東子さまは少しだけびっくりしていましたが、すぐに笑みを見せ、私を強く抱きしめてくださいました。私も強く東子さまを抱きしめ返します。
東子さまとの暮らしは、優しいキスから始まりました。
一目惚れ同士、これからどんな思い出が生まれるのか、今から楽しみです。