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ショートストーリー《もしたむっ!》Osamu.20:びょさむとチャリ

「おーい、おさむ。パソコンで何見てんだよ」
 夕方。修の部屋にやってきたのは「びょさむ」だった。
「ああ。新しいチャリでも買いてぇなと思っていろいろ調べてたんだ」
 修はびょさむにパソコン画面を見せる。いろんな種類、いろんな色の自転車が並んでいた。
「チャリか。天気のいい日に乗ったら、サイコーに気持ちいいんだろうな」
 びょさむは、自転車に乗って風を切っている自分を想像して思わず笑みがこぼれていた。それを見た修が口を開く。
「ならお前、明日チャリ乗って街を回ってこいよ。今度のイベントの資料として、街の風景を撮ってほしいんだ 」
「おっ! いいのか!?」
 目を輝かせたびょさむに、「ああ」と修が微笑む。
 その夜。遠足前の子供のように、びょさむはなかなか寝付けなかった。
 
 次の日。青空の下で気持ちよさそうに伸びをするびょさむは、自転車に跨って会社の前にいた。
「お待たせしましたー!」
 向こうから自転車に乗って颯爽とやってきたのは、恵理子だった。
「おお、おはよう。今日はよろしくな」
「おはようございます! こちらこそ、よろしくお願いしますね」
 挨拶を交わした後、「じゃあ行くか」とびょさむはペダルを踏み込む。「はい!」と恵理子もそれに続いた。
 
「自転車で風を切って走るのも、いいもんだな」
 全身で風を受けながらびょさむは言う。
「ほんと! すっごく気持ちいいです!」
 後ろを走る恵理子も同意見だ。ペダルを漕ぐ恵理子は自然と笑みがこぼれていた。
「運動不足だったが、こうやって自転車に乗るのもまたいい運動だしな」
「ね、本当に!」
 そんな会話をしながらふたりは自転車を漕ぎ、所々で停まっては街の風景をカメラにおさめていった。
 
「よし、そろそろいいだろ」
「ですね」
 資料となる写真を撮り終え、ふたりは河川敷に自転車を停め、ごろんと寝転んだ。
「はぁ……空が綺麗……」
 恵理子がひとりごとのように呟く。びょさむも空を見上げた。どこまでも青い空に、大きな白い雲が流れていく。どこまでも、どこまでも、吸い込まれそうな青空。
「最近、空を見てなかったかもしれないな」
 びょさむが呟く。ふたりが見上げる大きな空は、小さな悩みもイライラも吹き飛ばしてくれるようだ。それほどに空は大きくて、無条件に、しかし優しく、ふたりを包み込んでいる。
「たまには、空を見るのも大事ですね」
 びょさむの方を向いた恵理子は、ふわりと微笑んだ。
「だな」
 びょさむもニコリと微笑む。
 雲は時間など気にすることもなく、どこまでもふわふわと流れていった。すがすがしいほどに気持ちの良い、午後の昼下がりだった。

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