連載小説《Nagaki code》第2話─過去の闇
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高校卒業後、大学を中退して、その後実家に帰って近所のコンビニで約半年働いて、そこを辞めたその後の僕の職歴は白紙だ。今日も、ハローワークに行って帰ってきたところ。
加えて僕は、統合失調症という心の病を背負ってる。強いストレスがかかると、自分への悪口などの幻聴が聞こえてくる。
僕の場合、大学も、前の職場も、この病気のせいで辞めざるを得なかった。人が怖かった。誰かが僕の悪口を言っているような気がした。怖くて、怖くて、ろくに学校にも行けなかった。仕事中も震えていた。
過去には、この病気のせいで断られた仕事もある。やはり雇う側からすれば、健康な人を雇いたいだろう。仕方ない。そう思い諦めた。
「もう、やだなぁ……」
コーヒーの闇に呑まれた僕はそこから這い上がることもせず、ただ、ぼんやりと、時間と暗闇の中を泳いでいた。
一体どれほどの間そうしていただろう。黒い海で泳ぎ疲れた僕は、完全に冷めきったブラックコーヒーを啜った。口の中で広がる苦みが、僕を完全に現実へと引き戻す。
時計を見る。午後2時を過ぎたところ。店に入ったのが午後1時。そろそろ帰ろうかと重い腰を上げれば、軽く立ち眩みを起こした。座りっぱなしでくたびれたリュックを背負い、傘を持ち、レジの前であくびを押し殺している店員のもとに向かう。
会計を済ませて外に出れば、雪は雨に変わっていた。僕は一旦立ち止まる。気だるげに傘を開き、リュックを背負いなおす。傘を差し、ようやく歩き始めた。
人通りは減っていた。ちらほら人影が見える程度だ。もともとそんなに人通りが多いと言えるような場所じゃないからしょうがないのかもしれないけれど、今、こんな気分に浸っている僕にとって、この状況は周囲との溝をより一層深める為の余計なオプションにすぎない。
不意に、僕の左側を風が駆けていった。いや、風だと思ったら人だった。僕と同じリュックを背負った男性が、僕を追い越した。
幻聴の次は、幻覚か。あれは、リュックを背負い、未来へ向かってがむしゃらに走っていた、いつかの僕かな。
男性と、見慣れたリュックが遠ざかる。心なしか、肩が軽くなった気がする。いつかの僕に、ちょっと元気をもらえたからなのかな──
……いや、違う。肩が軽くなったのは、背負っていたはずのリュックが無くなっていたから。前を行く男性は幻覚ではなく、彼が背負っているボロボロのリュックこそ僕の物。
つまり──
「盗まれた!?」