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連載百合小説《とうこねくと!》東子さまの知らない恋物語(3)

 みなさん、こんにちは。北郷恵理子です。
 前回のお話に引き続き、今回のお話も私の高校時代の回想シーンです。


「北郷ちゃんは、アタシのこと友達って思ってたんだ」
「えっ?」
「アタシのこと、友達としか思ってなかったんだ」
「待って南武ちゃん、それどういうこと……」
 その言葉の意味がわからない私の前で、南武ちゃんは今にも泣き出しそうな顔で私を見つめ、震える声をしぼり出しました。
 
「アタシひとりでバカみたい……。こんなに北郷ちゃんのこと好きなのに……」
 
 それは、突然の告白でした。
 
「南武、ちゃん……?」
 目の前でポロポロと涙をこぼし始めた南武ちゃんを見て、私は戸惑いを隠せませんでした。
 
 南武ちゃんが、私のことを、好き……?
 
「あっ! 南武ちゃん!?」
 右手で顔をおおいながら、南武ちゃんは教室を飛び出してしまいました。
「南武ちゃん待って!」
 私は急いで南武ちゃんのあとを追います。南武ちゃんは廊下を走り、階段を駆け上がり、その先のドアをバンと開けて屋上へ飛び出しました。
 
「はぁ……はぁ……」
 青空の下、私たちは肩で息をしていました。ごうと吹いてきた夏風が、にじみ出した汗を一気に乾かしていきます。
「南武ちゃん……」
 私はその名を呼びます。胸のドキドキを抑えるように。
「……北郷ちゃん……」
 彼女もまた、私の名を呼びます。涙に震えた声で。

「好き、なんだよ……北郷ちゃんのこと……」

 涙にぬれたその瞳は、私をまっすぐ見つめていました。私はその瞳から目をそらせませんでした。目をそらしてしまったら、このまま南武ちゃんとの関係が終わってしまうような気がしたのです。

 そして、その真剣な瞳を見て思っていたのです。
 私も、南武ちゃんのことが好きなんだと。
 いつも一緒にいる、いつも私のそばで笑ってくれる南武ちゃんのことが、大好きなんだと。

「私……南武ちゃんのこと、友達として好きなんだと……ずっと思ってた」
 はやる気持ちを抑えながら、私は言葉を続けます。
「でも……違った。それは、今、南武ちゃんが教えてくれたんだよ」
 そこまで言って、私は大きな深呼吸をします。そして──

「私もっ……! 南武ちゃんのことが好き!」

 大好きな彼女へ向けた私の声は、大きな青空を駆け抜けていきました。
 
 *
 
 それから私たちは、人目を避けるように付き合い始めました。変わらず、ふたりきり、放課後の教室で過ごします。
「ふふっ……」
 微笑みながら、私は自分の生徒手帳の空白部分に、ピンク色のペンでハートを描きます。
「えへへ……」
 つられて笑いながら、南武ちゃんは私の描いたハートに重なるように、赤いペンでハートを描きます。
 
 生徒手帳に描かれたふたつのハート。
 高校3年間、私はこのハートを常に胸にしていました。

「北郷ちゃん」
 
 すぐ隣で、愛しい人の声がします。
 私はその髪をなで、その体を抱き寄せ、そっとキスをしました。
 
「南武ちゃん」
 
 ──私の愛しい人。


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