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ショートストーリー《もしたむっ!》Osamu.11:しょさむとストレッチ

 ある日の休日。黒のTシャツと紺のジャージに着替えた修は、部屋でなにやら準備運動を行っていた。
「ふっ、ふっ……」
 小さく息を吐きながら、膝の屈伸をし、アキレス腱を伸ばし、次は床に座り込んだ。
「柔軟は苦手なんだよな……」
 両足を開きながら修がそうつぶやくと、部屋に誰かが入ってきた。「しょさむ」だ。
「おい、おさむ。何やってんだよ」
 しょさむは不思議そうに尋ねる。
「最近体形が気になるからな。雪も溶けてきたからジョギングでもするかと思って準備運動してたんだよ。……いてて」
 伸ばした右足の先に向かって、体を倒して両手を伸ばす修は小さく声を上げる。
「お前、体固いなぁ」
 ちょっと呆れたように、しょさむは笑う。
「ほら。俺が手伝ってやるよ」
 そう言うとしょさむは座り込んだ修の背後に回り、いきなり修の背中をグッと押した。
「いてててててて!」
 体中に激痛が走った修は、思わず大きな悲鳴を上げる。
「お前何してくれてんだバカ!」
 勢いよく立ち上がり、ものすごい剣幕でしょさむを怒鳴る修。
「ほんと、お前は体が固すぎなんだよ」
 しょさむは悪気もなさそうにケタケタ笑う。
「もっと柔らかく生きろよ。体も心も」
 小馬鹿にしたように右手をひらひらさせながら、しょさむは修の部屋を出た。
「ちくしょう、あの野郎っ……!」
 しょさむが去った後も、部屋のドアを睨みつけていた修。
「今に見てろよ……!」
 修は怒りの表情から、何かを企んでいるように怪しくニヤリと笑った。

 翌日。会社に出勤したのはしょさむ。なぜかジャージ姿だ。
『今日はジャージで行け』
 修はしょさむにそう指示した。しょさむはその理由など考えることもなく、修の指示通り紺のジャージを着て会社へ向かった。
「おはよ──えっ?」
 オフィスに入ったしょさむは固まった。そこにいた社員全員、ジャージ姿だったのだ。
「あっ修さん! おはようございます!」
 スタイリッシュな黒のジャージを着た恵理子が、しょさむに気づきあいさつをして駆け寄ってくる。
「お、おい……なんでみんなジャージなんだ……」
 驚いた様子で恵理子に尋ねるしょさむ。
「えっ? やだなぁ忘れちゃったんですか? 今朝は会社のみんなでジョギングですよ!」
「はっ!?」
「あ、時間だ。さあ、修さん行きましょう!」
「えええっ!?」
 戸惑うしょさむの手を引き、恵理子は外へ向かった。

「はぁ……はぁ……ごほごほっ」
 マラソンを終えたしょさむは地面に座り込む。息も荒く、表情も険しく今にも倒れそうだ。
「修さん、お疲れさまです!」
 そう声をかけてきた恵理子。元陸上部の恵理子は、まだ余裕そうな表情でしょさむに笑いかける。
「や、やっと終わった……」
 絞り出すような声でしょさむがそう言うと……
「何言ってるんですか修さん! 走った後はストレッチしないと!」
「へっ!?」
 目を見開き、バッと恵理子を見上げるしょさむ。
「多目的ホールで、みんなでストレッチですよ! さっ、行きましょう!」
「えっ、ええっ……!」
 しょさむの表情が、みるみる絶望に染まっていく。そう。しょさむは修の分身。ということは──

「いててててててて!」
 両足を開いた状態で座り込み、右足の先を掴もうとするしょさむの背中を強く押す恵理子。
「やだ修さん、めちゃくちゃ体固いじゃないですか!」
「いててててっ! もうやめてくれぇ!」
「ダメですよ! ちゃんと体を伸ばさないと! ほらっ!」
 さらにしょさむの背中を押す、ドSな恵理子。しょさむの断末魔のような悲鳴が、会社の多目的ホールに響き渡った。

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