ショート百合小説《とうこねくと! ぷち》東子さま=鬼!?いけない心の鬼退治
みなさん、こんばんは。北郷恵理子です。
「あの……」
「どうしたの?」
「東子さま……本当によろしいんですか……?」
「何でそんなこと聞くのよ、恵理子ちゃん」
厚紙で出来た鬼の面を頭の上にセッティングし、両手を腰に当てて少し不服そうなお顔を浮かべる奥さま──神波東子さまの付き人をしています。
「いえ……。こういうのは、付き人である私が鬼役をするものではないかと……」
そうです。今日は節分。
私は、枡に入った落花生を持っています。
私たちの住む秋田では、節分の豆まきといえば落花生をまくのがポピュラーなスタイルなんです。
まく豆は、どうやら住む地域で違いがあるそうですね。
節分といえば2月3日のイベントとして認識していましたが、それは固定ではなく、立春の前日を『節分』と呼ぶそうです。
今年は2月2日。この日に節分があるのは、124年ぶりだそうですよ。
「何よぉ、別にいいじゃない。私こういう役回り好きなのよ。がおーっ!」
鬼の面を被り、両手を上げて襲いかかる仕草をする東子さま。
スーパーで買った豆菓子に付属している厚紙の鬼の面のチープ感が、東子さまの迫真の演技と上手い具合にマッチしていません。それがちょっとシュールです。
やっぱり、豆はでん六……ですね。
「東子さまがよろしければ、それでもいいんですけど……だけど……」
オドオドする私にしびれを切らしたのか、東子さまは鬼の面を頭の上にずらしてお顔を見せます。
「何よ」
不服そうに首をかしげて腕組みをする東子さまに、私は本音を話します。
「その……東子さまに豆をぶつけるのは、あまりにも気が引けます……」
いくら鬼役とはいえ、主人である東子さまに豆をぶつけるなど……付き人としていかがなものでしょうか?
「気にしないで投げなさい。豆まきってそういうものでしょうが」
「いや、でも……」
「私を鬼だと思って。ほら!」
「東子さまが鬼なんて、そんなの……うーん」
「もうっ、しょうがないわね! じゃあ……これならどう?」
どういうことかと思ったその時、東子さまが一言。
「あなたがとっておいた、限定プリンアラモード冬みかんスペシャル……私が昨日の夜食べちゃったわ」
その瞬間、私の右手からものすごいスピードで豆が飛んでいきました。
「いたっ!? いたたたっ!! ちょっと恵理子ちゃん強すぎるわよ!?」
「こんなのまだ弱いくらいですっ!! もう怒りましたよ!? 私が大切にとっておいた限定プリンアラモード冬みかんスペシャル……なんで食べちゃうんですかーっ!!」
「わーん!! ごめんってばぁぁぁ!!」
「東子さまの鬼っ!! 鬼は外ですーっ!!」
東子さまの中にも、鬼がいたんです。
私のデザートを勝手に食べちゃう、いけない鬼が。
これは……今日は徹底的に、東子さまの中の鬼を退治しなければなりませんね。
私は手にした落花生を強く握りしめ、大きく振りかぶりました。
(※その後、ちゃんと仲直りしました)