連載小説《魔法少女えりっこ×りょっこ》第4話:謎の思惑と新たな魔法少女(1)
《前回のあらすじ》
ノワールと戦う恐怖心を吐き出した恵璃子達。塔子はそれを温かく受け止めた上で、恵璃子達を鼓舞する。
夜の見回りを終えて楽しげに話し込む恵璃子達だったが、日々強くなるノワールの変化に、塔子だけは深刻な表情を浮かべていた。
恵璃子たちが戦い終わった頃の深夜0時。無駄なものが一切ない、青と白で統一されたシンプルなマンションの一室。その自室にいた、喫茶店『Charme -シャルム』の店長・絢子の携帯電話が鳴る。
「もしもし……お疲れ様」
椅子に座り、部屋の角にある机に向かって分厚い本を読んでいた絢子は電話に出た。
「あなたも遅くまで大変ね。残業手当も出ないでしょうし」
絢子がそう言うと、電話の向こうの相手は苦笑いした。つられて絢子も苦笑い。
「わかってる。あなたが課長になってから、おかしいと思うことがあったから……それを解決できるのは自分だけだと思ったから、あなたが自分の意思で調べてるだけなのよね?」
すると絢子はフッと微笑む。
「大丈夫、わかってるわよ。あなたは、おかしいと思うことがあったら徹底的にすべて調べ上げちゃう子……。女だからってバカにされたって、絶対に自分を曲げない……。その真っ直ぐさは、高校時代から変わってないわね」
絢子は電話の向こうの相手に笑いかけた。
「……私? あなたからもらった資料に目を通してたとこ」
本のページを開く絢子。なにやら細かい文字に、写真もついている。
「ええ……見つけたわよ、椿野恵璃子……」
絢子が口にしたのは、恵璃子の名前。本のページをなぞるように絢子が指差したその先には、恵璃子と塔子がふたり一緒に手をかざして炎の魔法を発動させ、ノワールを駆除する写真が載っている。
「あの子、何にもわかってないわ。ええ、うん……」
電話の向こうの相手と会話しながら本を1ページをめくる絢子。次のページをなぞって絢子が指差したのは、険しい顔で剣をふるう恵璃子の写真。
「私もまだ、あの子の事ちゃんとわからないから……」
また1ページめくる絢子。開いたページには何も書かれておらず、真っ白だ。
「これからいろいろ探ってみるわ」
そう言うと絢子はパタンと本を閉じた。
「とりあえず、あなたもこっちに来て。今日の夜10時、シャルムで待ってるから。うん……うん、それじゃ」
絢子は電話を切り、ため息をつく。
「椿野、恵璃子……」
頬杖をつき、呟くように、絢子はその名をふたたび口にした。
*
「りょーっこちゃーん……」
翌朝。眠そうな顔で、恵璃子は稜子の部屋の玄関の前に立っていた。
「ふわぁぁい……」
大きなあくびをして、稜子が玄関から出てきた。
「眠いねー……」
「眠いですねぇ……」
「あの後12時過ぎに家に帰って……疲れてそのままバタンって寝ちゃった」
「私もですー……。まだ疲れてます……」
「でも、私達がこの街を守らなきゃね……」
「そうですね……ふわぁぁ……」
稜子はふたたび大きなあくびをする。
「……あっ、宿題やってないや……」
「ああ……私もです……」
「ノワール駆除と学問、両立させなきゃだね……」
「うーん……頑張りましょう……」
ゴシゴシと目をこすりながら、のそのそと学校へ向かうふたりだった。